第38話 春風、今後の方針を決める
前回のあらすじ
春風君、リエラとの戦い(模擬試合のようなもの)に勝利する。
大変遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。1日遅れの投稿です。
(どどど、どうしてこうなった!?)
表情にこそ出てないが、内心ではかなりオロオロしている春風。するとそこへ、
「あのさ、ハル……」
「?」
「そろそろどいてくれると嬉しいんだけど」
「え……あっ! ご、ごめんリエラ!」
リエラのその言葉に我に返った春風は、慌てて彼女から退いた。リエラは自由になったのを確認すると、よっこらせと立ち上がった。
「いやー、負けちゃったよ。私これでも強い方なんだけど、自信なくすなぁ」
「ごめん」
「謝んないの。試合を望んだのは私なんだし、勝ったのはハルなんだから、堂々としてればいいの」
「う、うん、わかった」
「よろしい」
闘技台の上でそんなやり取りをする春風とリエラ。その時だった。
「なかなか素晴らしいものを見させてもらいましたよ」
と、パチパチと拍手をしながら、1人の初老の男性が闘技台に上がってきた。
見たところ、男性は綺麗に整った髪型に眼鏡をかけていて、ビシッとしたスーツに身を包み、丈の長い上着をマントのように羽織っていた。
リエラはその男性を見て、
「こんにちは、総本部長さん」
と、頭を下げて挨拶した。
「総本部長……さん?」
春風はリエラが何を言っているのかわからず首を傾げると、総本部長と呼ばれた男性が穏やかな口調で、
「はじめまして、私はこのギルド総本部の総本部長を勤めている、フレデリック・レンブルトンと申します。以後、お見知り置きを」
その言葉を聞いた瞬間、春風は目の前の男性がギルド総本部のトップであることを理解し、
「す、すいませんでした! あの、自分は今日ギルド登録しました、ハルと申します! よろしくお願いします!」
と、先程以上に大慌てで頭を下げて自己紹介した。
「ああ、これはご丁寧に。いろいろと聞きたいことがあるのですが、ここではなんですので、2人共、私の部屋で話をしましょうか」
そう言われて、春風とリエラは男性ーーフレデリックと共に小闘技場を後にし、彼の部屋まで案内された。
部屋の中に入ると、フレデリックは2人を部屋の中央に配置した2つのソファの一方に座らせて、フレデリック自身はその向かいのもう一方のソファに座った。
「さてと、それじゃあ君達……というか、ハル君だったかな? 君の話を聞かせてもらいましょうか」
フレデリックが穏やかな口調で話しかけると、春風は緊張しながらも、あらかじめリエラとの打ち合わせで決めた「設定」を話した。
「なるほど、君はリエラさんのお父上の友人の息子で、魔術の修行のためにリエラさんのところに送り込まれた、というわけかな?」
「はい。父は『世界を見てこい』と言って、転移の魔術を使って自分を故郷からここまで飛ばしたのです」
「ふむ。君のお父上はかなり優秀な魔術師のようですねぇ」
「ええ、俺の憧れなんです」
「で、君自身の職能も魔術師なんですよね?」
「はい」
しばらくの間、お互い沈黙していると、
「魔術師なのに、あれほどの接近戦が出来るのですか?」
「やろうと思えば誰でも出来るのではないですか?」
4秒の沈黙後、
「あー、そうですね」
これ以上はやめておこうと考えたフレデリックは、強引に納得した後、次の話題に移った。
「ところでハルさん」
「はい」
「あなたの今後の予定についてですが、何か考えてますか?」
「はい。すぐにでも仕事を始めたいと考えてます」
「とすると、どこのギルドで働くのかな?」
「『どこの』……とは?」
「このマイスターンにはここ総本部を中心に、魔物の討伐や要人の護衛を主とする『ハンターギルド』、武器や道具を製作を主とする『生産ギルド』、物資の商売を主とする「商業ギルド』、そしてその他の小さなギルドが多数存在しています。ちなみに、そちらのリエラさんはハンターギルドで働いています」
春風は「うーん」と考えて、フレデリックに1つの質問をした。
「あの、この総本部ではどのような仕事が受けられるのですか?」
「他も専門的なギルドには劣りますが、討伐、護衛、生産、収集、さらにちょっとしたお手伝いなど、様々な仕事が受けられます」
その答えを聞いて、春風は「うん」と決意したように頷くと、
「いろいろとやってみたいので、総本部で働かせて下さい」
と、フレデリックに頭を下げて頼んだ。
その姿を見て、フレデリックは少し驚いたが、すぐに優しい口調で言う。
「わかりました。ではしばらくの間はここの簡易宿泊施設を使って下さい」
「え、それってどういう意味ですか?」
「話を聞いてなんとなく感じたのですが、ハルさん、あなた所持金はあまり持っていないのではないですか?」
「うぐ! は、はい……実を言いますと……」
気まずそうに話す春風に、フレデリックは、
「やはりですか」
と、ため息を吐いた。その後、また優しい口調で、
「とりあえず、今日受けられる仕事はあまりありませんので、今夜はこちらに泊まって明日から仕事を始めて下さい」
「は、はい、わかりました」
春風はそう返事をすると、隣りにいるリエラの方を向いて、
「ごめん、勝手に決めちゃって……」
「あー、いいよいいよ。私も始めはここでのスタートからだったし、仕事だったらもしかしたら一緒に受けられることもあるから、気にしないで」
「あ、ありがとう」
明るく答えるリエラに、春風は申し訳なさそうにしながらお礼を言った。
その様子を見たフレデリックは、静かにソファから立ち上がって、
「それでは、ハルさん」
「?」
「改めて、ようこそマイスターンへ。私は、君を歓迎しますよ」
と言って、右手をスッと差し出した。
春風はそれを見て、
「こちらこそ、よろしくお願いします」
と、その手を掴んだ。
すると、フレデリックは顔を春風に近づけて、
「本当のことを話したくなったら、いつでもよろしいですので、聞かせてくださいね」
と、リエラに聞こえないように小声で言った。
それに対して、春風は困ったように笑うことしか出来なかった。
というわけで、なんだかんだの末にギルド登録を終えた春風君、果たして彼にどんな出来事が待ち受けているのか?
次回、初めての仕事に挑戦する……予定です。




