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片田舎のおっさん、剣聖になる ~ただの田舎の剣術師範だったのに、大成した弟子たちが俺を放ってくれない件~  作者: 佐賀崎しげる
第三章

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第91話 片田舎のおっさん、気付く

 翌日。

 昨日と同じように、俺たちは朝早く騎士団庁舎の広場へと集合していた。


「……以上が本日の予定となる。また、先日の御遊覧の際に、不穏な気配も散見された。何が起こるか分からない、各員一層の注意を払うように」

「はっ!」


 アリューシアから今日の予定が改めて伝えられた後、最後に俺が感じた気配についても触れながら、警戒を怠らないように注意のお達し。

 まあ皆警戒はしているだろうが、こうやって口に出すだけでも意識は改められるというものだ。昨日はそれ以外特に目立ったこともなかったもんだから、気を引き締めるには丁度いいだろう。


「では、移動開始!」


 さて、今日も今日とて王子様と王女様の護衛である。ただ俺は相変わらず馬車の中で待ちぼうけだけども。しかしてそれを皆の前で漏らすわけにもいかず。アリューシアの号令に合わせてすごすごと移動を開始するのであった。


「今日もよろしくお願いしますね」

「はっ。お任せください」


 で、昨日と同じく王宮前。相変わらず見目の美しいオーラが凄いサラキア王女とグレン王子を出迎え、馬車へと誘導する。

 昨日は北区から中央区、そして西区と結構移動が多かったが、今日は中央区のみを回る予定である。先日とはまた違ったいくつかの店に立ち寄り、昼食を挟んで午後には観劇なさる手筈だ。


 やはり初日と違って二日目だと俺も慣れてきているのか、昨日よりは幾分楽な気持ちで臨むことが出来ているようにも思う。

 無論、殺気を感じたことを無しにすることは出来ないし油断出来る状況でもないが、ことが起きていない以上は過剰に警戒していても仕方がない。初日に呟いたが、なるようにしかならんのである。


「また一人か……いやまあいいけどさ」


 そして俺も、昨日と同じ俺だけのために用意された馬車へと乗り込む。その際にちらりと本音が漏れてしまったこともまた、仕方がないのである。


「うふふ、先生~。私も一緒に乗りましょうか~?」

「ロゼはちゃんと護衛してなさい」

「は~い」


 そんな俺の呟きが聞こえたのか、ロゼがいつもの笑顔で変なことを言っていた。

 アリューシアの眼力がまた凄いことになっている。ていうか君も聞こえてたのかよ。これ下手に呟かない方が得策だな。


 ただまあ、これくらい軽口を叩ける方が余計な緊張もなくていいだろう、とも思う。ガチガチに固まっていては、有事の際に動けなくなったりするからね。その有事が起こらないことを祈るばかりだが。


「では、参ります」


 御者に促され、馬車が動き出す。

 街の賑わいは、昨日から変わらない。相変わらずお祭り騒ぎ、とまではいかないが、街全体が普段以上に活気に溢れている様が、馬車の中からでもよく分かる。


 人の数は昨日よりもさらに多い。二日目ということで、初日に比べ情報の伝搬もあったのだろう。流石に馬車の通行に支障が出るほどではないし、そうなる前に騎士たちが整理しているが、それにしたって凄い人だかりだ。


「皆物好き、とでも言えばいいのかな……」


 俺なんかは王族が来るってなっても特に何も感じないが、それはやっぱり片田舎でずっと過ごしていたからだろうか。立場が違い過ぎて、ありがたみのようなものも別に感じないのである。

 いや、確かに面と向かって話してみると物凄く上位者オーラはあるし、こういうのに触れておくのも経験の一つになるな、とは思うのだが。


 どうにも雲の上の人感が拭えない。だからこそ皆ありがたがるのだろうが、ここら辺は田舎に引っ込んでいた弊害かもしれんなあ。


 なんて思いながら過ごしていると、馬車が止まる。

 おっと、どうやら本日一つ目の往訪ポイントらしい。いそいそと馬車から降りれば、侍従に連れられて王子と王女も丁度馬車を出たところであった。


「うん、やはり素晴らしいですね」

「ふふ、そうでしょう?」


 二人が今見て回っているのは装飾品店である。先日王子が発見した髪飾りを置いていたアクセサリー屋もそうだが、バルトレーンにはこういう芸術品を扱っている店も数多くある。

 国全体としては農業が盛んなのが特徴だが、こういう品も豊富に取り揃えてあるんだな。魔装具ではないが、それでも見目煌びやかな装飾品の数々が目に入る。


 田舎には当然ながらこのような店はなかったもので、俺としても興味深く観察出来るというものだ。

 人の好さそうな店主が、緊張を露わに対応しているのが印象深い。そりゃ事前に知らされているとはいえ、国のトップが訪問となれば誰しもこうなるよね。


「……!」


 仲睦まじいお二人を見ている最中、一瞬身体が強張る。

 まただ。また昨日と同じ、あの視線。

 そして昨日よりも、強い。


「……アリューシア」

「はい? ……先生、もしや」

「ああ。注意した方がいい」


 店の軒先で警戒しているアリューシアへ、それとなく情報を共有しておく。

 視線をぐるりと回してみる。人の波は相変わらずなものの、じゃあ襲い掛かろうか、みたいな人は見当たらない。鋭い、それでいてじっとりとした攻撃的な気配が、微かに漂う限り。


 しかし、これもまた昨日と同じように、数瞬経つとその気配は立ち消えてしまった。

 うーん、不穏。何も起きなきゃいいが。


「……複数、居ますね」

「アリューシアも分かるかい」


 そう。

 昨日よりもいくらかはっきりした気配だったから分かったが、どうやらこの視線、単独の仕業ではない。いくつかの攻撃的な気配が漂っていた。


「では、移動します」


 これはガトガやロゼにも伝えておくべきかどうか。

 悩んでいるうちに、王子王女は馬車に乗り込んでいく。


 まあ、何度も言うが攻撃的な視線があるだけであれば、そうおかしいことではない。王族を快く思っていない国民もそりゃ居るだろうからだ。人でごった返しているからこそ、その中でばれないように不満を漏らしている、という線も考えられるだろう。


「……」


 御遊覧が恙なく続く以上は、俺の身勝手で中断させるわけにもいかない、か。

 とりあえずは俺も馬車に戻るとするか。こればっかりは考えるだけでは仕方がないわけだしな。


「――本日、こちらの劇場での公演を観覧なされます」


 不穏な気配を再び察知してから、いくらか時間が経った頃合。

 昼時に食事を挟み、今は少しばかり太陽が西に傾き始めようかといったところ。今日の締めでもある、観劇の舞台へと場所は移動していた。

 ちなみに飯は昨日と変わらず美味しかったです。やはり一線級の調理人が作る料理は違うな。実に美味であった。


「楽しみですね」

「ええ。是非楽しんでご覧くださいまし」


 馬車から降りてきた王子と王女は、昨日と変わらず微笑みを湛えながら和やかにお話をされている。

 一人で馬車に乗り続けるのもそれなりにしんどいが、王族同士という間柄で常にペアで立たされる、ってのも結構しんどい気がするな。話題とか持つんだろうか。


「――~~~~ッ!」

「……ん?」


 さて、それじゃあ劇場に入りましょうか、といったところ。

 なんだか外周が騒がしい。


 正直、今俺たちは真剣の帯剣を許されているから、抜剣してしまえば容易に相手を斬り伏せることが出来る。一般市民相手にこちらから手を上げることは勿論しないが、それが少しでも危険を孕む存在であれば話は別だ。


 ついにあの視線の正体が来たか、と、自ずと少しばかりの緊張が走る。


「貴様! 止まれ!!」

「――ッ!」


 どうやら俺の予想は当たっていたようで、不届き者どもの登場である。騎士たちの制止を振り切って、こちらに接近しようとしている黒ずくめの人影が、複数。


「グレン王子、お下がりください」


 ガトガとロゼが、手早く警護を固める。


 いきなりの事態に、しかし慌てる者はいない。

 王子の傍にはガトガとロゼが、王女の傍にはアリューシアとヘンブリッツがそれぞれ控えている。俺は彼らからほんの少し離れた、馬車に近い側。


 誰とも言わず、全員が既に抜剣を終えていた。


 黒ずくめの男たち――恐らく三人――は、騎士たちを上手く捌きながらこちらに接近しようとしていた。ぱっと見て凶器を手にしているとは思えないが、魔術師という線もある。とりあえず俺の身体を使って射線を塞いでおくか。


 しかし、妙だな。

 こんな場所でわざわざ突っ込んでくるくらいだ。明確な殺意があってもおかしくはないところだが、何故かそういった類の気配を感じない。

 昨日と今日、感じたはずの殺気を、どうにも突っ込んでくる黒ずくめの連中からは嗅ぎ取れなかった。


 ただの趣味で黒ずくめの格好をして、賑やかしのためだけに突っ込んできている、なんて的外れな予測が脳裏を過ってしまうくらいには、眼前に迫ろうとしている男たちの気配が薄い。



「……――ッ!」


 まあでも、来るなら止めなきゃならんよね、と。

 王子と王女を庇うように少し身体をずらした刹那。


 本来なら感じて然るべき、人が人に向ける激情を、やや遅れて感知する。


「――ッ! アリューシア! ロゼ!! 上だ!!」


 ――突っ込んでくる連中は囮か!


 声を張り上げた直後。

 屋根伝いに飛び降りてくる黒ずくめの集団を、俺の目は捉えていた。

エリック!上田!

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― 新着の感想 ―
[一言] 誰か妹いますかw
[一言] 人類のため華麗に戦ってくれたまえよ ( ; ゜Д゜)
[一言] 最後のやつ それ、防げてないやつじゃん
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