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片田舎のおっさん、剣聖になる ~ただの田舎の剣術師範だったのに、大成した弟子たちが俺を放ってくれない件~  作者: 佐賀崎しげる
第三章

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第84話 片田舎のおっさん、来訪を迎える

「アリューシア騎士団長はおられますか!」

「ん?」


 アリューシアとの立ち合いを終えて、さてそれじゃあ気を改めて皆の指南でもしようかと思ったところ。

 バタバタとした足音とともに、修練場の扉が派手に開いた。


「エヴァンス。どうしました」


 扉を開け放ったのは、レベリオ騎士団の若手騎士、エヴァンス・ジーン。

 年はクルニと同じくらい。高くも低くもない身長に悪くない肉付きを備えた、まあ一言で言っちゃうとこれからに期待、って感じの子である。

 やや垂れ目がちな目尻、短く刈り揃えられた髪が特徴的な、活発的な優良男児と言えるだろう。


 エヴァンスもそうだけど、皆騎士団に入団するくらいだから、筋は悪くないんだよな。

 こういう若手を鍛えることが出来る、というのも地元の道場では中々味わえなかった感覚だ。無論道場にもそういう子は居たが、うちは何故か子供が大半だったからなあ。それはそれで楽しいものだったけれど。


 で、そのエヴァンス君はどうやらかなり慌てている様子。いったい何があったのか、いやが上にも興味は湧いてくるね。


「スフェンドヤードバニア教会騎士団の方がお見えに……!」

「ふむ。相手の役職は分かりますか」

「き、騎士団長のお方だそうです……」

「……なるほど」


 おっとぉ、いきなり大物が出てきたぞ。

 その情報を齎されても、アリューシアは動じない。僅かな逡巡の後、溌溂(はつらつ)とした声で応じていた。


「今はどちらに?」

「せ、正門前でお待ち頂いております」

「分かりました。ヘンブリッツ」

「はっ!」


 どうやら騎士団長が直々に動くらしい。更に、お供に副団長を連れていくという盤石の構えだ。

 多分だけど、近々行われる使節団の来訪絡みなんだろうな、とは思う。レビオス司教についてのあれやこれやって線もなくはないだろうが、あれはもう言い方は悪いが、旬を過ぎた感もある。それに、そうそう表沙汰にも出来ない問題だろうから、こうやって公に動くことはないと思っている。


 いや、待てよ。おじさん閃いたぞ。


「アリューシア。それは俺も付いて行っても大丈夫なやつかな」

「はい。問題はないと思われます」


 その思い付きを実行に移すべくアリューシアに同行の許可を取ってみるが、難なく下りた。

 よし、多分だけどこれでなんとかなるはず。


「では行きましょうか。エヴァンス、ご苦労様でした」

「は、はい!」

「あ、ちょっと待って。お偉いさんを正門前で待たせるのも悪くないかい?」


 動き出そうとしているアリューシアを抑える。


 流石に相手が肩書を騙っている、ということはないだろう。

 となれば正門前で待っているのは、ほぼ間違いなく本物の教会騎士団の騎士団長だ。エヴァンス君、そんなお方を正門前で待ちぼうけさせるのはどうなの、と俺としては思ってしまう。


「……確かに。ではエヴァンス。応接室に案内してください」

「わ、分かりました!」


 俺の提言を受けたアリューシアはしばし考え込むが、程なくしてその顔をあげ、エヴァンスへ指示を出す。

 うん、俺もそれがいいと思う。短時間とはいえども、外で待たせるわけにもいかんし、外で話し込むわけにもいかない。


 騎士としてその対応に不備があったことは、平時なら叱責があってもおかしくはない場面。ただまあ、彼も突然のことで混乱と緊張があったのだと思う。

 それをアリューシアもヘンブリッツも分かっているのか、特にエヴァンスを罰しようという空気ではなかった。


「俺たちも汗をかいているし、軽く拭いてから行こう」

「そう、ですね。すみません先生、私としたことが」


 相手が他国の騎士団長ともなれば、いくらアポなしとはいえこちらも不格好過ぎてはいけない。

 今は訓練中だし、全員少なくない汗をかいている。このまま応対に入るのはちょっと不躾かなと思ってしまったのだ。なので、出来る限りは小奇麗にしていきましょうね、というお話である。


 そうして、アリューシア、ヘンブリッツ、俺という三人が修練場を後にし、教会騎士団の団長様が待っているであろう応接室へとやや急ぎ足で向かう。


「こういうことは、ちょくちょくあるのかい?」


 向かいながら、ふとした疑問をアリューシアにぶつけてみる。


「いえ、普通はありませんね。使節団の来訪も控えていますので、その時に顔を合わせるものかと」

「ふむ」


 どうやら普通ではないらしい。まあそりゃそうだよな。

 他国とはいえ騎士団長ともなれば、それなり以上のお偉いさんだ。そんな人がいきなりアポなしで突っ込んでくることがそう頻繁に起こってもらっても困る。


「そういえば、先生は何故?」

「ああ、いや、ちょっとね。挨拶だけでもしておこうかなと」


 アリューシアから疑問を返されるが、そこにはそれとなく答えておく。その挨拶こそが、俺の狙いでもあるからだ。


 彼女は、使節団が来訪する時に俺を紹介する場を設けると言っていた。こっちとしては、そんなのは出来れば遠慮したい。

 ので、今ここで繋がりを作っておけば、わざわざその空間を用意せずに済むのでは、と思ったのである。


 お偉いさん方が揃っている場で畏まってご挨拶、なんてやらないに越したことはないからな。

 仮にここで面識を持っていても、結局やらなきゃいけないのならやるつもりではあるんだが、その可能性は少しでも低くしておきたい所存。


 ただ、それを全部アリューシアに伝えたとしても、彼女はうんとは頷かんだろう。むしろ、積極的に俺を引きずり出そうという気概まで感じる。なので、とりあえず挨拶だけでもしておこうかなーみたいな言い方になってしまった。


「教会騎士団の騎士団長って、顔見知り?」

「そうですね、毎年会いますから。代替わりしていなければ、ですが」


 次いで面識の有無を聞いてみたところ、やっぱりあるらしい。

 そりゃまあ国事で会うんだから、面識があってもなんら不思議じゃないか。


 俺はそんな世界とは無縁の生活を送っていたはずなのになあ。いつの間にやら中心地に投げ込まれている。別に恨んでもいないしそう悪く思ってもいないが、それでもやっぱり心の収まりどころ、というものは、未だにちょっとつかないね。


 そんなことを考えつつ二言三言交わしながら足を進め、応接室へ。

 扉を開けたそこには、見るからに大きいシルエットが一つと、並のサイズのシルエットが一つ。どうやら来訪者は二人らしい。


「お待たせしました」

「ん? ……ようシトラス! 久しいな」


 代表してアリューシアが声を掛けると、そのシルエット二つが反応する。野太い声に釣られて見てみれば、その正体は正に大男であった。二人は俺たちの入室に合わせて席を立つ。

 声を発した男が、アリューシアの声に対して朗らかかつ大きな声でもって答えていた。


 大男と評した通り、とにかくデカい。バルデルよりも明らかに高い身長だ。下手したら二メートル近くあるかもしれん。

 どこかで見たことのある重厚なフルプレートに身を包み、後ろに結った焦げ茶色の長髪が目を引く。生え揃ったあご髭は清潔感もあり、ぱっと見の印象はそこまで悪くない男である。

 年齢はどうだろう。俺より年下にも見えるし、俺と同年代にも見える。精悍な顔付きと鍛え抜かれたであろう体格もあって、見た目の年齢を弾き出すのが難しいタイプだ。


「貴方も元気そうで何よりです、ラズオーン」

「ははは! 突然押しかけてすまん。ドラウトも久しいな」

「はっ。一年ぶりでありますかな」


 ラズオーンと呼ばれた男は、派手に笑いながらアリューシアと握手を交わす。

 イブロイからの依頼でスフェン教とことを構えた以上、どういう対応で来るのかちょっと読めないところもあったが、どうやら騎士団長同士の仲は悪くないようで何よりだ。


 そういえば、ヘンブリッツ君の姓ってドラウトだったね。誰からもそう呼ばれてないからちょっと新鮮。


「おたくは……初めましてかな? 俺はガトガ・ラズオーン。スフェンドヤードバニア教会騎士団長の座を預かっている」

「お初にお目にかかります。レベリオ騎士団にて特別指南役を預かっております、ベリル・ガーデナントです」


 挨拶は大事。 

 特に俺は今回これを目的にしていたので、しっかりと頭の中で準備していた口上を述べる。

 ギロリ、とも表現されようかという鋭い目付き。体格も相まって実に怖い。しかしここで怖気づいてはいかんのだ。別に戦うわけじゃないしね。


 ぴくり、と。

 俺の言葉に合わせて、ガトガの隣に立つ人物が反応を返した、ような気がした。


「ほう……特別指南役」

「ええ。強いですよ」

「はははは! それは結構!」


 アリューシア、そうやって四方八方に俺を売り込むのをやめなさい。おじさんつらいんだよ。

 

「ところで、ヒンニスは? 貴方が来るのなら同行していると思いましたが」


 アリューシアがガトガに疑問を投げかける。

 その問いを受けたガトガは、どこかばつが悪そうに視線を遊ばせると、意を決したように口を開いた。


「あー……ヒンニスはまあ、色々とあってな。今はこいつが副団長だ。俺の妹分だぜ」


 そう言って、隣に立つ女性の背中をバシッと叩く。


「もう~。団長、やめてください~」


 背を叩かれた女性は抗議の声と視線をガトガに飛ばすが、ややあって諦めたように小さな溜息を吐いた。


 透き通るような青髪。溜息を吐いてなお柔和な顔付きは、どこかお淑やかな雰囲気を感じさせる。

 身長はアリューシアと大体同じくらいか。年齢はアリューシアよりは上だろう。顔に皴があるわけじゃないが、この妖艶とも言える雰囲気は、そこらの少女が纏えるものじゃない。ついでに言えば、間延びしたかのような、独特な喋り方も特徴的だ。


 ガトガと同じフルプレートに身を包んではいるが、それ以上に左手に持っている純白のカイトシールドが大きく目を引く。盾持ちというのは中々珍しい。


 そして。

 純白の盾を除くすべての要素が。

 俺が知っている、スフェン教の唯一の知り合いと、極めて酷似していた。


 ヤバい。嫌な予感しかしねえ。


「紹介しよう。うちの新副団長、ロゼだ」

「うふふ。ご紹介に与りました、ロゼ・マーブルハートです~」


 ロゼは朗らかに挨拶を紡ぎながら、アリューシア、ヘンブリッツと順々に握手を交わしていく。

 そしてその後、俺の方に右手を伸ばしながら。


 彼女は、一層にこやかに微笑んだ。


「……ひ、久しいね、ロゼ」

「はい~。貴方の愛弟子、ロゼ・マーブルハートですよ~」


 ……か、帰りてえー。

新キャラ登場(ててーん

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― 新着の感想 ―
何気に片田舎のおっさんを題材にしながら、これってハーレム展開満開だよね。
[気になる点] う~ん…。 殊更に違和感の強い表現が多いな…。 騎士団長・副団長が気づかない客対応を、政治だの肩書きだのに拘らないはずのベリルが指摘する、のは無理矢理が過ぎる。 せめて、訓練後の…
[気になる点] キャラに魅力が感じられない
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