第十九話 報告会 其の三
兄貴(私の世界の創造主)からのメールに目を通したダンジョンマスター達は――
「……。嘘、でしょう……?」
全員、目が死んでいた。想定していた以上に大事だったと知り、何と言っていいのか判らないのかもしれないね。
そうですねー、創造主様の降臨方法なんてものまで書かれていますからねー。(棒)
武闘派創造主のお説教(物理)なんて、初めて知ったでしょうしねー。(棒)
縁も割とフレンドリーだと思っていたけど、あそこまで気安いのは私達に対してだけらしい。
私達への態度が『無邪気で健気なお子様』だとするなら、他のダンジョンマスター達への態度は『しっかり者のご子息』って感じなんだとか。
……。
確かに、そんな縁しか知らないと、『実録! 創造主様の真実!』とばかりにぶっちゃけられている言動の数々に、唖然とする他ないのかもしれない。私達だって、驚いたもの。
「うちの創造主様曰く『創造主ってのは、あんまりお前達と変わらねーぞ。普通に笑うし、当たり前のように怒る。勿論、自分達の役目や立場は忘れてねぇ。だから……今回みたいな場合は個人としても、創造主としても、許せないのさ。人の縄張りを荒らしておいて、謝罪の一つもないってのは駄目だろ』とのことでした。元凶の女神としては、各世界の人間のことなんて気にする必要はないとでも思っていたんでしょうけど、実際には創造主様方に喧嘩を売っていたらしいです」
それが女神の最大の敗因だと言っていた。創造主様の中には、規律や礼儀を重視する方もいるらしく、女神の所業にたいそうお怒りだったそうな。
まあ、普通に考えればその通りですね! だって、世界は其々の創造主様のものなんだから。
なお、その『規律や礼儀を重視する方』筆頭が、サージュおじいちゃんの世界の創造主様なんだって。
人に対しての礼儀を忘れず、努力して結果を出すことを尊ぶ創造主様(インテリ系)は、それらを忘れた奴に対して、メチャメチャ厳しいらしい。
つまり、あの女神は完全にアウト。
……そういえば、『馬鹿は嫌い』(意訳)とか言っていた気がする。
諦めることなく足掻き、『女神を捕らえる』ということにも協力した私達のことは好意的に見てくれているらしいので、真っ当に生きていれば怒られることなんてないのにね。
「詳細はそこに書かれているとおりなんですが、何か質問がありますか?」
一応とばかりに尋ねると、魔女なダンジョンマスターが首を傾げながらも手を上げた。
さすがだ、魔女様! 殆どのダンジョンマスター達がビビっている中、その姿勢は素晴らしい!
最初に質問した責任感と魔女としての探求心からなのか、さらに突っ込んだことまでお望みか。
「私が聞きたかったことは、ほぼここに書かれているわ。だからこそ、聞いていいかしら?」
「はい、何でしょう?」
「その……貴女は一時的とはいえ、体を創造主様に貸したのよね? それに直接、遣り取りさえしている。それほどに近くに居て、恐ろしくはなかったの?」
言い辛そうなのは、暗に『貴女の世界の創造主が怖い』と言う気持ちがあるからだろう。元々は私が存在していた世界の創造主なので、直球では言いにくいのかもしれない。
「ん~……特に怖いと思ったことはないですね。私の世界には魔法がないので……『これまで神の力を認識する機会がなかった』ってことも重要ですが、創造主様の人柄を知っているからでしょうか。言葉は多少粗いですけど、あの方、物凄く面倒見が良いんですよ。凪のことだって、心配してましたし。何て言うか、頼れるお兄ちゃんって感じです」
「お……お兄ちゃん!?」
ドン引きされた。何故だ。
「聖……普通は創造主を『お兄ちゃん』とは思わないよ」
縁が溜息を吐きながら、呆れたような視線を向けてくる。……が、私にとっては『今、言ったこと』が紛れもない事実なんだよねぇ。
「そう? 『兄貴』って呼び方が気に入ったらしく、そっちで呼ぶと嬉しそうだよ?」
「僕が知らない間に、何、親交を深めているのさ!?」
いいじゃん、縁。例の女神の一件に加え、兄貴(私の世界の創造主)は、私が戦闘能力皆無であることを知っている。
私や凪を『うちの子』として可愛がってくれている兄貴(私の世界の創造主)としては、どうしても心配になるんだよ。
ちなみに、メル友の始まりは兄貴からであ~る!
……あくまでも『私と凪が心配』と言っている――勿論、これも本当――兄貴(私の世界の創造主)だが、本音は縁のことも案じているのだと思う。
神の基準から見ると、縁は幼い。それに加えて、自分の影響を極力、世界に与えないようにしているから、世界に暮らす人々への干渉力も小さいのだろう。女神に対抗できなかったことで、それは知れた。
だから、縁に好意的な創造主達はあの子を案じているらしい。
『ガキのくせに、難しい道を選びやがったからなぁ……俺なんて、色々あって、今の形に落ち着いたのによ。苦労してでも世界を慈しむなんて、応援してやりたいじゃねぇか』
以上、兄貴(私の世界の創造主)のメールより抜粋。やはり、縁は大変な道を選んでいた模様。
だけど、最初からそういった選択ができる縁を、創造主達は高く評価すると共に、期待しているらしい。『世界に在る命と共に歩む』――それが創造主としての最良の形なのだと。
なお、現在、兄貴(私の世界の創造主)とはオンラインゲームで共闘する仲である。
暇を持て余している創造主と引き籠もりダンジョンマスターは日々、キャッキャとはしゃぎながら友好を深めております。
もう少しこちらの世界に余裕ができたら、縁を誘おうと話していたり。
素晴らしきかな、我が世界の文化! こんなことに役立つとは思わなかったけど!
「貴女って……確か、戦闘方面での能力強化は皆無なのよね」
「そうですよー。戦闘能力皆無の、紙装甲マスターです」
素直に答えると、魔女なダンジョンマスターは呆れたように溜息を吐いた。
「……。貴女、十分に大物だわ。確かに、戦闘能力は皆無ということだったし、そういった意味では、作り出した魔物達頼みなのでしょう。だけど、それ以外の面は誰にも真似できない。随分と大らかで、様々な物を受け入れる懐の広い創造主様だと思ったけれど、貴女は間違いなく『彼の方の影響を受けた、あちらの世界の子』なのね」
「あの、それはどういうことで?」
意味が判らず首を傾げると、魔女なダンジョンマスターは苦笑する。
「気負うことなく、様々なものを受け入れられるってことよ。それはとても単純だけど、誰もができるほど簡単なものじゃないの。無理をしたり、嘘を吐いても、相手からは判ってしまうものよ? 貴女は心の底からの言葉しか口にしないから、創造主様にも付き合えるのね」
「?」
意味が判らん。頭にクエスチョンマークが出ていることを察しただろうに、彼女は微笑ましそうに笑うばかり。
魔女なダンジョンマスターは、それ以上のことを言うつもりはないらしい。
「創造主様……いえ、巨大な魔力を持つ者への嘘は厳禁よ? 感情の揺れ、視線、鼓動……そういったもので判ってしまうもの。ふふ、貴女とは仲良くしたいわ。宜しくね? 新米ダンジョンマスターさん。私はルージュよ」
「こちらこそ、宜しくお願いします。私は聖といいます」
「ヒジリ、ね。うん、覚えたわ。私からの質問はこれで終わりよ」
頑張ったわね、と微笑んで、ルージュさんは席に着く。他のダンジョンマスター達も私達の遣り取りで聞きたいことがなくなったのか、新たに手が上がることはなかった。
「他の方、何かありませんか?」
一応聞いてみる。……ないようだ。
それでは、お楽しみ……もとい、異世界文化を楽しんでいただきましょうか!
「では、これ以降はご自由に我がダンジョンをお楽しみください。本日は閉鎖しておりますので、挑戦者の姿はございません。ダンジョンの構造を見るもよし、異世界の食を楽しむもよし、です! まずは、テーブルに置かれたお酒をお楽しみくださいませ!」
私の宣言と共に、一気に場が和む。どうやら、ダンジョンマスターさん達も気を張っていたようだ。
例の一件に唯一、関与したこのダンジョン……もっと言うなら、ダンジョンマスターである私を警戒する気落ちも当然、あっただろうしね。
「何とかなりましたね、聖」
「そだね、アスト。凪についても突かれなかったし、まずまずの結果かな」
そう答えると、アストが何とも言えない表情になった。
「聖の世界の創造主様はそれを見越して、貴女にメールを送ったのかもしれませんね。あれが配られた途端、皆様の興味は彼の創造主様と聖に傾きました。聖が矢面に立つことになるとはいえ、凪を守られたのでしょう」
……そうだね、アスト。私もそう思う。兄貴(私の世界の創造主)は凪が未だ、不安定になると知っているだろうから。
過保護と言われようとも、兄貴(私の世界の創造主)には『何もできなかった』という後悔が根付いている。そして……多分、私達以上に凪の過去を知っているはずだ。
「当たり前じゃない! 兄貴は自称『全ての命達の兄』だし、私は凪の『お姉ちゃん』だもん」
だから、私達が凪のことを守ろうとするのは当たり前なのだ。漸く、前向きになりかけている凪のためなら、話題の摩り替え先にだってなってみせようじゃないの!
……視界の端に、顔を赤らめている凪が見えるけど、気にしないでいてあげよう。
喜べ、凪。あんたが辿ってきた道があるからこそ、多くの人が君の味方だ。




