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『さあ予選Bブロック2回戦もいよいよ大詰め、最後に登場する小隊はこの方たち————」
着々と消化されていく。
出番は優に。
訪れる再三の戦い。
『まずは東からミズガル小隊、隊長はAA級ラジー・ミズガル。臨機応変に動くことのできる安定感が特徴です。そして西方からは————』
耳を通り過ぎていくアナウンス。
そよ風のように外へと過ぎ行く。
逆風起こす暴風の突入。
カツカツと鳴らす硬化版とクツ。
『圧倒的力でねじ伏せる超攻撃型! 隊長務めるはSS級エイラ・X・フォード! そしてなんと隊員はS級ユウ・ヨンミチ唯一人!—————』
さっきも通った長い回廊。
LEDの白色。
先には透明な光。
侵入してくる観衆熱狂。
陳述してくる拡大実況。
『セント・テレーネ学園歴史上初の二人組小隊! フォードの登場です!』
どんどん上がってく実況と歓声。
垣間見える外の景色。
俺たちを待っている期待と畏怖。
姿を世間へ晒す。
「「「「「うおおおおおおおおおおおおお」」」」」
登場、怒号にも感じる音量。
上昇気温と同時進行。
(ずいぶん盛り上がってるみたいだな)
人気バンドのライブでもやるのかってテンション。
謙遜してるわけじゃない。
理解してる物珍しさ。
未体験、新次元にいる俺たちの存在。
ここに観に来くるのは必然。
実現させた慄然させたパワー・オブ・ワンハンドレット。
「お前飯食ったばっかだけど動けるか?」
「問題ない。むしろ調子はいいぞ」
「あんだけ食べといて、相変わらずとんでもない胃袋だな」
定位置へと移動。
相手との邂逅。
(確かミズガル小隊って名前だったか?)
3対2
男と女。
紹介じゃ臨機応変が売りらしい。
ランクは平均してAプラスってとこか。
意外と遠い位置。
別に挨拶はしない。
ただ、目を合わせる。
相対するアイ・トゥ・アイ。
「イマイチだな」
「あんま声デカいと聞こえるぞ」
「なに私は真実を言ったまでだ」
「そうだとしても、要らん恨みを買う必要はないだろ?」
「恨みなあ……事実なのだがなあ……」
様子を見るに聞こえてない。
案外こういう一言二言でアクション起こすメンドクサイ人間がいるんだよな。
薙ぎ払えば済むが、大抵そういうのはねちっこく追随。
そして付随して次々と虫々。
(面倒ごとはもう懲り懲り、ストレスで髪抜ける可能性)
『ではBブロック2回戦、最終試合を始めます!』
だいぶ振るい落とされ小隊組々。
人数の多いこの学園でも、俺たち以外は全て5人体制、軽く言っても既に半分は沈んでる。
聞き慣れたカウントダウン。
刻々と迫る無の数。
それに合わせる無数の観客。
ふと目が行く会場の隅。
(うお! あんなにテレビ局来てるのかよ)
一回戦の時も確かにいた巨大カメラ。
午前までは片手で数えられる数字だった。
それがいまはどうだ?
俺の身体の指すべてを使っても数えきれない報道陣。
今か今かとぶ厚いレンズが見つめてくる。
黒械に貼った各国特有エンブレム。
(どうにもイタリアのテレビ局だけじゃないみたいだ。どこも手を回すのが早いことで————)
近づくカウント。
ゼロへの到達。
火蓋は約束の切り落としを終える。
(これじゃあやっぱ俺の能力は出来るだけ見せたくないな————)
既に敵方は動いている。
ムービングしてく前中後。
初戦とは違うすこしマシな出立。
「強化————」
大気に張り付く俺の身体。
動かざること山の如しという言葉がある。
ならばエイラの動きは烈火の如し。
唱えられる昇華のまじない。
世界に公開される生まれ変わった新星。
神聖のギャラクシーノヴァ。
「参る!」
神脚が大地を蹴る。
後方に飛び散る床の破片。
音が置き去りにされる。
形容しがたいカオスチック。
「……来るぞ!」
少し先の旗印。
エイラの消失への警告。
そうしてる間にもエイラは敵陣到達。
渦中への災禍の投げ入れ。
再述するが、相手は臨機応変が持ち味らしい。
果たして屈折ない本能にはどんな抗戦ができるのか————
「聖剣使いは俺が止める!」
ひとり前に出る。
緑の能力。
しかし途上、しっかり発現してから挑まないと————
「ふん!」
空気を分断する聖剣の横振り。
上下へ逃げた酸素と窒素。
四苦八苦。
対して緑能力者に退路はない。
「————マウロ!」
庇いに入る隊長さん。
ガツンと当たる聖剣と短剣。
AA級ながら、剣圧に押されながら、なんとか救出を達成する。
(もともとエイラが突っ込んでくるのがわかってて死角で仕込んでたな)
隊長務めるだけあってナイスな判断。
対してだ、他の仲間たちは動けてない。
フリーズしてる間にいくらでもやれることがあるだろうに。
それはネットを忘れたデジタル。
アナログやるんだったらエイラを見習うべきだぞ。
「ほう、私の一撃は防いだか」
「……っ」
「ならば強化」
「お、 重す————」
短剣が防いだ時は刹那。
次の弾丸は装填された。
尽きることのない火薬倉庫。
厄介な装甲を打ち砕く。
いや、 終わってみれば厄介どころか奇怪、メッキの下は砂の城。
ダムが決壊、 崩れていく。
「————終わりだ」
宙に浮く短剣使いミズガル。
足先は地を離れ天へと飛翔。
翼は必要。
エイラが与える一方通行のジェットウィング。
光のターボ、金色のガソリン満タン。
ブッ飛ばす特大ホームラン。
「やりすぎだな————」
動かざる待機者。
俺はそして観測者。
超フィート。
場外も場外、会場の空をボールにしては大きい、人間ロケットの弾丸がピカリと通過した。
「た、た、隊長が……」
「嘘でしょ」
「こんなんあり得るのかよ!」
軌跡描いた飛行機雲。
思考錯誤。
降下する少数モチベ。
対して上がっていく球会場。
『———ミズガル小隊長戦闘不能! 勝ったのはチームフォードです!』
熱気が増す。
こんなんで盛り上がってバカかと思う。
これは戦いじゃなくてある意味虐げ。
だが狂気は快楽と裏表。
オモテとウラは二言目。
最初は目につく分かりやすいまでの事象へ。
『これで2回戦は終了です。両者に拍手を、順次3回戦へと移って————』
降り注ぐ雨あられ。
ここじゃない。
雨が降って傘をさす。
「いやーよく飛んだな!」
「むしろ飛ばし過ぎだ」
「そうは言うがカメラが増えていたのでな、 サービスだ!」
「わかっててやったのかよ……」
まったくジャンキーなことで。
会場を後にする。
近づくゲート。
ふと一人の女と目が合う。
報道陣の中、黒い髪、マイクを持っている、ハッキリとは映るらないが、どこかで見たことあるような人。
ジャーナリスト? アナウンサー?
しかし鮮明になる前に目を逸らされる。
(エイラのせいで俺までビビられてんのかな……)
あとちょっとで思い出せそうだったのに。
これは喉元まで出かかっていて、それはモヤモヤするやつ。
そうこうして気づいたら再びの長い回廊へと到着。
先へと帰ってく。
「————エイラ、俺って怖いか?」
「なんだ突然に」
「いやちょっと気になってな、正直どうだ?」
「うーむそうだな……」
ふと気になる他人からの印象。
エイラは旅も共にした仲。
沈黙、考えている。
エイラにしては真剣。
真面目に考えてくれているように伺える。
「私には————」
「……」
「私にはわからん!」
「……」
はいはい。
エイラが真剣に考えていると思った俺がバカでした。
「ユウは優しい時もあるし、説教してきて怖い時もある。だが、私がユウを好きだということは確かだ!」
「エイラ……」
「この機会に、私がユウのご飯を食べたとしても説教するということは無し————」
「調子に乗るな」
まあエイラはこういうやつ。
エイラはバカとも読むし、正直者とも読む。
「気にし過ぎか……」
振り返ればどうせ魔王殺しの称号を冠ることになる。
期待とともに畏怖されるのも必然か。
(もしかしたら吸血王の件を知っていたとか? それだったら理由としても……)
暫定女子アナに目を逸らされたことが結構ハートに響いてる。
別に顔面凶器ってわけでもないし。
「ユウ試合までどこかで手合わせしよう」
「おう。俺も少し身体動かしときたい」
「確かにユウは『一歩』も動かなかったからな」
「含みのある言い方するなあ」
「私は二人で戦いたいというのに、ひとりの前線は寂しいぞ」
わかってる。
強烈な個性は混ざり合う。
生み出す色。
描き出すパレットはきっと現れる。
3回戦、4回戦。
着々とお披露目の舞台は近づいてきている。




