125.5 with Dinner time
「いやあ久しぶりに帰ってきて、まさか家がこんな華やかだなんてねえ」
今年もあと少し、
頬を赤く染め、これでもかと楽しんでいるのは我が父。
「お父様も優しい人で良かった!」
「お、お父様……、僕ももうそんな歳か……」
「早い! 早いよお父さん!」
エイラにお父様と呼ばれ昇天、しそうなのを妹の若葉が必死に引き留める。
まあ気持ちは分からないでもない。
そりゃ家に帰ってきて、こんだけキレイどころが居れば嫌でも嬉しいだろう。
それに前々から噂のエイラもいることだし。
「ユウの父親はぬしに似ていないのう」
「まあ……」
「なんだかフワフワしておる」
「酔ってるからじゃないか?」
「気概はそんなことで変わらんよ」
レネには父さんが気の小さい人に見えるらしい。
否定はしない
共に過ごす短い期間も母さんの尻に敷かれてる。
だからこうしてエイラに甘やかされる時間はさぞ楽しいだろう。
妹なんかも中学3年だけあって構ってくれないし。
父さんが甘やかされるというか、逆にエイラが甘えてくれる。
こいつは精神年齢だいぶ低いし、純粋な小学生が来る気分。
「ユウが小さい頃はねえ————」
「いいなぁ————」
卓上が端では母さんと師匠が2人で盛り上がっている。
絶えずに動かす口、片手にはグラスに入った黄金水。
ヨーゼフから貰ったもので間違いない。
内容はそんなに伝わってこないが、話が弾んでいるのは分かる。
(まあ案の定、師匠はだいぶきまってるな)
紫の瞳はグルグルと螺旋を描く。
高貴は崩れ、酔っ払いの登場。
ただ母さんとてそんなに強いわけではない。
共に泥酔街道まっしぐら。
(ただ話に割り込むと面倒そうだし、酔いつぶれるまで関わらないでおこう)
現状において侵入負荷、危険ゾーンは確認。
逆サイド、エイラは食べるのに夢中、父さんはその光景に心を癒されているよう。
「レネはあんまり暴れないよな」
「失礼なこと言うのう」
「案外一番マトモなのはレネなのかも」
「かもではなくそうじゃ」
連れてきた、住み着いた新参者で一番普通なのがレネだと思う。
自分からこれといって厄介ごとは起こさないし。
今日の朝は師匠と喧嘩して家を壊しかけたけど。
それは師匠が初めに吹っ掛けたからだし。
(あの銀神とまで恐れられた神が一番マトモだなんて、とんでもないな……)
俺はレネと駄弁って時間を過ごす。
だって両サイドは其々ゾーンに突入しているし。
仕方ない、内内には雪崩れこまない、ナイチンゲールもこの現場では立ち尽くす。
「じゃあさ————」
「そうじゃなあ————」
「……」
ただこんな渦中、未だに流れてない者も。
岸に立って見下ろす、恐れて飛び込めないイメージ。
それは妹の若葉。
俺に比べ社交性がそこそこ高いコイツでも、こんだけ豪奢、言い換えれば規格外に囲まれれば萎縮もする。
なんせ中学生、終着駅には向かわない、向かえない、始発もせずに無言で立ち止まっている。
「うーむ、そうじゃ妹」
「……」
「お前だよ若葉」
「は、はい!」
もはや現実には意識は半分とない。
腰から上のハーフ状、幽霊みたいに覚束ない。
レネと師匠にビビりまくりの毎日。
そんな恐れの対象から声がかかり眼を泳がす。
「ぬしは何の力を持っておるのだ?」
「わ、私の能力ですか……?」
「そうじゃ」
「返弾、です」
「ん?」
「まあ簡単に説明すると————」
名称については政府が付けたから気にしない。
内容としては、一定領域内において、事象と概念を弾き返すというものだ。
例えば自分に弾丸が迫ってきたとする。
それが能力の射程圏内に入っていれば、触れたり迎撃せずとも、自分の意思だけで何処かに弾き返せるのだ。
俺の同調も同じことが出来るわけで、系統では支配系に分類される。
「弾丸と例えたが、能力も含まれるのか?」
「ぶ、物質だけじゃなくて、能力も弾けます……」
「ほほう、つまりはユウの下位互換というわけじゃな」
「は、はい……」
「そんな酷いこと言わないでやってくれ」
「事実じゃからな。こればかりは仕方あるまいよ」
確かに俺の同調は支配系の能力の最高峰。
自分で言うのもなんだが支配系において出来ない技は存在しない。
しかも射程や威力についても勝っている自信がある。
若葉は物質も能力も対象に出来るが、その規模は非常に小さい。
それに弾けるものの重量質量も決まっているし。
ランクはBだっただろうか。
「しかし兄妹そろって似たような能力じゃな」
「遺伝子で結構左右されるらしい。父さんも母さんも支配系の能力だし」
「だとしてもユウのような異端が生まれたのは不思議よのう」
「異端って、酷いこと言うな……」
「かっかっか、さっき無礼を申した仕返しじゃ」
何故突然全ての人が能力というものを手にすることになったのか。
未だにそれは分かってない無い。
ただ絶対とは言わないものの、親の影響は大きいと言われる。
そんな中で、妹の能力を久しぶりに見て初心に戻る。
(そういえば最近は魔法やレネ、エイラの力を借りてたし、『弾く』なんて使い方してなかったなあ)
結構前までは相手の能力に同調を発動、消したり逆に操ったりしていた。
ただそれをする負担はゼロじゃない。
そのこともあり、最近は自前、脳筋スタイル故に火力のゴリ押しが多かった。
しかしよく考えてみればだ。
弾く、その意味はもっと深められるのではないか。
もう少しで閃きそうな頭脳、求めていたモノの影がチラつく。
ヒラリと落ちる葉を掴む、開きかかる扉、手を伸ばし————
「ユウゥゥゥゥ!」
「し、師匠!?」
点灯しかけた脳、そこに仕掛けてきたのは師匠の飛び込み。
腕を首に回されグワングワン揺らされる。
どうやら一番面倒くさいパターンに突入したらしい。
ダル絡みを越えた悪絡みである。
「ノリ悪いぞぉ」
「キャラ崩壊しすぎて若葉がひいてますよ」
「きゃらぁ? んなこと知らないー」
「はあ……」
爆発、ハツラツではっちゃけ師匠が我が家で初登場。
その勢いにひく、のは妹だけだ。
「私も久しぶりに夕と仲良くしよっかなあ」
「母さんは勘弁して」
「なんだか楽しそうだな! お酒! 私も飲んでみたいぞ!」
「……エイラ、あんだけあったのもう食べ終わったのか。あとお前に酒はまだ無理だ」
「そうだよエイラちゃん。まずは孫を————」
「父さんもだいぶ楽しそうだなオイ」
「そうじゃユウ、子の刻からのテレビを予約したかったんじゃが」
「せめて0時と言ってくれ。というか随分と馴染んだな」
「も、もういやああああ! 寝る!」
「「「「「おやすみー」」」」
「うわああああああああああああん」
ここまでの流れもだいぶ乱れてはいたが、怒涛のラッシュが炸裂。
まさに関ヶ原の大決戦。
若葉はもう耐えきれない様子、何故かおやすみの言葉だけは皆上手く決まり、退出に拍車をかける。
なんだかんだと不憫な妹である。
子供はさらば、ならばここからは第二ラウンド。
師匠もまだ酔いつぶれそうにない。
本番はステージを変えて仕切り直し。
(明日で今年も終わり、早いもんだな)
速い流れに乗るからこそ分かることもある。
やることはアルプスみたいに山積み、ミスって積まないよう全力で。
(年越しっていったら色々あるけど、この面子で初詣は厳しい、か?)
シルヴィなんかも誘って皆で軽く行けたら、そう考えていた。
今は夜だから酷いだけと限定解釈し、とりあえず保留にしておく。
遅れることは許されない高速化の時間帯、体感スピードは颯の如く。
この夜はあっという間に過ぎていく。




