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67 最終兵器、起動

 朧帝國の最強輝士といえば大半の者が焔レイと答えるだろう。

 しかし何事にも異説はある。

 焔レイが強いのは間違いないが、しかし容姿と年齢によって過剰に評価され、アイドル的に祭り上げられているという声も少なくなかった。


 そして焔レイの対抗馬としてあげられるのは、主に二人。


 ガヤルド王国駐留艦隊の総司令だった、五十嵐紋次郎大将。

 そして、朧帝國皇帝、賀琉である。


 特に賀琉は、灮輝力技術の研究者たちの間で評価が高かった。

 皇帝という格を抜きにして、データとしてハッキリと彼の強さが出ているのだ。


 賀琉自身、焔レイや五十嵐紋次郎にそれほど劣っているとは思っていなかった。

 実戦経験の少なさは否めないが、翡翠に気を取られているクライヴの目を盗み、脳味噌型装置に近づくくらいのことは出来るのだ。


 そして隙間から内部に入り込む。

 賀琉は帝國本土の遺跡で、この次元回廊機関にかんする記述を見たことがある。

 こことは別の次元へのゲートを開き、無尽蔵のエネルギーを取り出すという、荒唐無稽な理論が書いてあった。

 あまりの出鱈目さに今の今まで忘れていたが、こうして目の前に現われたのだ。

 賀琉は藁にすがるような思いで記憶をたぐり、その操作を試みる。


 複雑にうねるパイプの奥深くに進み、輝くパネルを発見した。

 そうだ。たしかこれに命を捧げればいいのだ。

 肉体を捨てて精神だけを装置に融合させる。

 それが次元回廊機関の操作方法。

 上手くいくという保障はない。失敗したらただ死ぬだけ。

 しかし、あのクライヴを敵に回しているのだ。

 躊躇など許されない。

 翡翠が気を引いているといっても、もっとあと十数秒。

 ここでやらねば、賀琉の全てが水泡に帰す。

 ゆえに右手に灮輝力を集中させ、己の心臓を貫いた。

 胸の傷と口から血が噴き出す。

 それが最後の感覚。

 賀琉の肉体は死に、そして――


 ふと気が付けば、次元回廊機関と同化していた。

 目は見える。音も聞こえる。温度も臭いも分かる。

 全てが装置のセンサーによってデジタル化され、明敏に流れ込んでくる。

 人ならざる感覚。

 自分が機械の一部になってしまったという実感。

 それでもなお自我は失われていなかった。


 クライヴがこちらを見た。

 なにやら察したらしい。だが、もう遅い。

 超次元からのエネルギーを制御し、クライヴにぶつける。

 すると、あの最強の男が容易く吹き飛んでいた。

 それでも灮輝力で見事に防御し、両脚で着地してみせたのはアッパレだ。

 賀琉だったら粉微塵に砕けていただろう。


「陛下。悲願のときだな。私はあなたの望む者ではなかったかもしれないが……せめて最後までそばにいさせてくれ」


 翡翠がゆっくりとこちらに歩いてくる。

 その表情はとても穏やかで、賀琉が超古代文明の中核を抑えたことを心から喜んでいるようだった。

 彼女は賀琉を本当に崇拝している。

 だから駄目なのだ。

 賀琉が蘇らせたかった〝あの人〟は、こんな顔をしなかった。

 もっと圧倒的な高みにいた。


 しかし、もう大丈夫だ。

 超古代文明の力なら、死者の復活すら出来るはず。


「よかろう。貴様は役に立った。余のそばにいる名誉を与える。来い」


 次元回廊機関の波動で翡翠の体を叩き潰す。

 巫女の再生力を以てしてもどうにもならないほどの完全なる破壊だ。

 そして翡翠の意識を吸い上げる。

 すると彼女は、形こそ見えないが、賀琉のそばに寄ってきた。


「陛下。私が感じている喜びを伝える方法はないのだろうか。私はあの五人の輝士のように使い捨てられる覚悟でいたのだ。もうこれ以上は何も望まぬよ」


 同じ機械の中に取り込まれても、意識や感情はリンクしなかった。

 しかし賀琉も人の子だ。

 翡翠には感謝しているし、愛着もある。だから捨てなかった。

 ただ、それ以上に大切なものがあるから、構ってやることは出来ない。

 それだけのこと。


 さて、まずは目の前の邪魔者を消す。

 それから、この最終兵器をスキャンして、超古代文明の技術全てを手に入れる。


「好きにさせると思うなよ――」


 クライヴはプラズマの刃と、更に百近い矢で同時攻撃を仕掛けてきた。

 人間の力とは思えない。纐纈城ですら耐えられぬだろうという威力だった。

 しかし、超次元のエネルギーは、その尽くは阻む。

 前代未聞の強度を持つシールドが、クライヴの進撃を止めてしまう。


「次元の狭間に飲み込まれ、永遠に漂うがいいッ!」


 超次元へのゲートを操作し、クライヴの体を飲み込む。

 彼は灮輝力で防御しようとしていたが、無駄だ。

 空間に干渉する技を前に、もはや灮輝力など何の役にも立たない。

 ゆえに消え去るのみ。


 あれだけ強かったクライヴ・ケーニッグゼグが、あっけなく。

 反撃も出来ず、捨て台詞を残す暇もなく、この世界からいなくなった。


「くくく……呆気なすぎて我ながら信じがたい。これが力というものか。癖になるな。どれ、次は白銀結晶を破壊するか。いや、その前にスティングレイか。目障りなものは全て滅ぼしてやるぞ」


 そして賀琉は円盤を飛ばす。

 一万年前にアークが人間と禍津を滅ぼすために設計した最終兵器が、時を超えて人間の手によって起動したのだ。

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