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48 AIの修業

 スティングレイは構造に余裕があるため、乗組員一人一人に個室を用意することが可能だった。

 

 もっとも、クライヴとコルベットさえいれば動いてしまうので、想定されている乗員数は十人程度。


 今回は急な出航だったので、部屋にはベッドや机といった最低限のものしかない。

 しかしミュウレアの部屋だけは例外で、クローゼットに大量の衣服。ベッドの上にはお気に入りのヌイグルミ。小型冷蔵庫の中にはチョコレート。床に積まれた暇つぶし用のマンガ本――と、妙に充実している。


 レイと琥珀がケーニッグゼグ領に来た時点で、スティングレイの出航が近いと睨んだミュウレアが、運び込んでおいたのだ。

 なにせミュウレアとて灮輝発動者の端くれ。

 体が小さくても、引っ越しを一人でやるくらいは可能である。


 今夜はそのミュウレアの部屋で、女の子だけのパジャマパーティーをやることになっていた。


「おーいクライヴ。お風呂空いたぞ」


 ミュウレアは風呂上がりのパジャマ姿でブリッジに行き、女子が大浴場から上がったことを告げる。


「分かりました。あとで適当なときに入ります。ところで姫様たちはこれから集まって遊ぶんですよね?」


「そうだぞ。男子禁制だから来ちゃダメだからな」


「行きませんよ。俺を何だと思ってるんですか」


「美少女だらけの花園に微塵も興味を抱かないというのもそれはそれでどうかと思うが……まあ、いい。そういうわけで、コルベットも借りていくからな!」


 ミュウレアはそう言って、自分の脇を通り過ぎてブリッジに入ろうとしたコルベットのパジャマの裾を掴んだ。


「何をするカ。我はこの船の制御デバイス。パジャマパーティーとやらに出ている場合ではなイ。そもそも本来、風呂に入る必要もないのダ」


 そう抗議するコルベットの髪は濡れていた。

 嫌がる彼女をミュウレアが大浴場まで引きずって、裸の付き合いに混ぜたのだ。

 もっとも、特に何かを語らったわけでもなく、それどころか本人が言うようにアンドロイドが体を洗う必要性もないので、浴槽の端で膝を抱えてジッとしているだけだった。


「全く必要がないわけではなかろう。アンドロイドだってホコリがたまるんだ。それに、風呂に入らない乙女などいてたまるか。妾と同じ顔でいながら風呂嫌いなどゆるさんぞ」


「なるほど、一理あル。しかしパジャマパーティーは不要なり」


「いやいや、必要だろう。むしろお前が一番の新参なんだから、その人となりを皆に教えるんだ」


「笑止。AIに人となりなどナイ」


 それこそ笑止。

 さっき戦術ミスをして落ち込んでいたではないか。


「主様。ミュウレア殿をなんとかして欲しイ」


「それはこちらの台詞だ。クライヴからもこの頑固者に言ってやれ」


 ミュウレアとコルベットは艦長席に座るクライヴを見つめる。

 するとクライヴは苦笑し、短く語った。


「姫様にお供しろ、コルベット」


 そう言われたコルベットは、まるで人間のように困り顔を浮かべた。


「な、なぜであるか。無論、主様の命なら何でもするが……我には船の制御という重大な任務がアル。なにゆえにパジャマパーティーを?」


「お前とスティングレイの各種センサーは常に同期している。別にブリッジにいなくても制御はできるだろう。それに俺は、他人との団らんを無意味とは思わない。AIの経験値を上げてこい。命令だ」


「……承知シタ。主様が言うのであれバ」


 コルベットはまだ釈然としていないらしいが、それでも抵抗をやめ、大人しくミュウレアに手を引かれて歩き出した。


 それにしても、コルベットは起動してからまだ三日と経っていないのに、急速に人間くさくなっている。

 クライヴの設計が優秀だからか、それともベースになった玄武参式がそうだったのか、あるいは両方か。


 なんにせよ同じ船で暮らすなら、無愛想な奴よりも、面白い奴がいいに決まっている。

 そしてミュウレア的に、コルベットは既に面白くなりつつある。


 弄りまくってやれば、もっと面白くなるはずだ。

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