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【書籍化&コミカライズ】悪役令嬢なので、溺愛なんていりません!  作者: 美依
第三章

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 まずはすでに周知されているルールを含めて説明がある。追加分としては、デートの約束のように決められた場所で待つ候補者の元へ女生徒が訪れ、薔薇を彼らの色に染めて渡す。その際ひと言ふた言声をかけるのはいいが、お触りは厳禁だ。


 侍従のように控えている係員が、候補者が薔薇を受け取ると同時に一輪一票で集計。終了時刻を知らせる鐘の音が鳴った後、結果発表がこの大講堂で行われる。


 順位予想の正解者については後日掲示板で知らせ、景品が個別に渡されることになっていた。


「皆様、お待たせしました。花の貴公子たちの登場です!」


 司会が掌で示すステージに、ウサギ耳と仮面をつけた男子生徒が現れる。瞬間的にざわめきが広がっていき、特に女生徒から歓喜の声が上がった。


 さりげなくアレクシアが周囲を窺うと、興奮を隠しきれずに友人同士で話している。王族、そして高位貴族の面々に、仮面はまだしもウサギ耳をつけさせようなどと普通は考えもしない。驚くのは当然だ。


(掴みは完璧よ!)


 候補者全員が並ぶと圧巻だ。全生徒の中から選ばれるだけはある。

 誰もが足が長く、スタイルがいい。うさ耳仮面だけれど。


「投票により選ばれた花の貴公子を順に紹介していきますので、どうぞステージにご注目ください。さあ! 気になる仮面の下の素顔はこの方から。誰もが知るこの国の王太子、ジェフリー・ヘネシー殿下!」


 一歩前に出たジェフリーが、すっと仮面を外す。

 人前に立つのは慣れているはずなのに勝手が違うからか、頭につけたウサギ耳のせいか、少し照れているのがわかった。


 けれど可愛さが演出され、女生徒のテンションは一気に上がる。こういう催しは、世界が違っても盛り上がるようだ。


「続いて、こんな姿は二度とは見られないであろうイアン・キャフリー公爵令息」


 名を呼ばれ、無造作に仮面を外したイアンの顔は無だった。

 よくよく見れば眉間にシワが刻まれているかもしれない。清々しいほどに愛想のかけらがなく、内心を思うとアレクシアは笑いたくなる。愛らしい垂れたウサギ耳とのギャップがすごい。司会者の言うとおりに、今しか見られない姿だった。


「続いて、ウサギ耳が案外馴染むステファノ・ガラッシ侯爵令息」


 軽やかに前に出ると、さっと仮面を外す。

 会場に向けてにかっと明るく笑いかけ、口を開いた。


「君の薔薇、俺にくれる?」


 提案した台詞とは違うが、会場が一気に沸く。

 仮面を取るだけよりも、やはり盛り上がりが違った。嫌がっていたのに何の心境の変化だと、アレクシアは不思議だったけれど。


「すごく盛り上がっていますね」


 圧倒されたようにこぼすアリアーナの表情も緩んでいる。すごいですわね、とジェイニーも感嘆の声を洩らした。


「楽しんでいただけてます?」


 企画の発案者としては気になるところで、アレクシアが尋ねると二人が笑んで頷く。周囲の反応は上々ではあるが、改めてほっとした。


「お相手が決まっていない方々も楽しめるように考案される、さすがですわ」


 ジェイニーの賞賛に、アリアーナも同意を示す。


 普段近寄りがたい人たちに堂々と向き合い花を渡せる。ある意味、推しに応援していますと直接伝えるイベントだ。


 娯楽に溢れた前世の知識を活用しているのだが、褒められれば嬉しい。この世界に合わせアレンジして、滞りなく進められるように考え動いた労力が報われた気がした。


 三人で話している間にも紹介は続き、今はもう上級生へと移っている。ステファノのように一言添えたのは数人で、直後だったルイジは表情を消して無言。ただ仮面から眼鏡に替える仕草に、黄色い声が上がっていた。


「続いて、将来の夢は一文官、レイモンド・ロシェット公爵令息」


 それアピールポイント? と首を傾げたくなる主張を掲げるレイモンドは、優雅な足取りで前に出る。


 候補者の紹介文は、アレクシアが担当していない。自他共に認める妹至上主義と紹介されないだけいいのかと、仮面を取る仕草を見つめた。


「君から薔薇をもらえるなら、私は他に何も要らない」


 しっかりアレクシアと視線を合わせて、レイモンドが甘く微笑む。


(きゃああ! お兄様!)


 ずきゅんと、胸を打ち抜かれた。

 神ファンサだ。


 ペンライトを振りたくなる。脳内では全力で振っていて、歓喜の声をアレクシアは上げていた。


 ときめきすぎて、最後のヘルベルトの紹介は耳を素通りしていく。

 前世で『確定ファンサ』と耳にしたことはあったが、経験したことはなかった。これがそうなのかと、尊さを転生後にアレクシアは理解した。


「貴公子の方々には、待ち合わせ場所に移動してもらいます。しばしお待ちを」


 候補者が退場していくと、そわそわとした空気が広がっていく。


 移動が完了するまでの間に、投票時間中の案内がある。生徒たちが思い思いに過ごす時間でもあるので、軽食やお茶を楽しめる場所が校内に何カ所か用意されていた。


「それではどうぞ素敵なひとときをお過ごしください。皆様に花の祝福があらんことを!」


 司会の生徒が帽子を取り、挨拶で場を締める。小さなざわめきが徐々に大きくなり、人々が移動していく。この日にかける女生徒たちの戦いが始まっていた。


 間違いなく、どの候補者のところも激混みだ。

 当然想定されることなので、列の形成方法もアレクシアが指示し、誘導する係員を配置している。並ぶ際わかりやすいように、最後尾札も用意してみた。


 もちろん係員が持つための物であり、決して並ぶ生徒自身が代わりますと声をかけ持つことなど想定していない。


 できる限り現場の混乱を回避する策は講じてあるが、待ち時間が長くなるのだけはどうしようもなかった。


「ジェイニー様、アリアーナ様、私たちも移動しましょう」


 頷く二人と、鬼気迫る空気が落ち着き始めた講堂を後にする。その足で、庭園へと向かった。


 投票を急ぐ必要はないので、喧騒とは無縁の臨時カフェでスイーツとお茶を楽しむ。空くであろう終了間際に行くことにしていた。


 他の女生徒のような熱量はないけれど、話題は自然と祝祭日に関することになる。サヴェリオの見合い騒動に気を取られていて、二人が誰に渡すか窺う余裕がアレクシアにはなかった。


「実は、ガラッシ様に友人なのだからと、票が欲しいとねだられましたの」

「なので、ジェイニー様と私はガラッシ様に渡すことにしました」

「まあ!」


 裏取引を持ちかけるなど、案外策士なステファノにアレクシアは感心する。謀りに向かない性格なのに――と考えたところで、その場の思いつきなのだろうと察した。


「私は、ガラッシ様に何も言われませんでしたわ」

「アレクシア様に頼むのは無粋だと考えたのではないかしら」


 ジェイニーの台詞にアリアーナも頷いている。候補に選ばれた顔ぶれを見れば、アレクシアに頼むだけ無駄だと判断してもおかしくなかった。


「アレクシア様は、どなたへお渡しになるのですか?」


 どことなく煌めく眼差しを、ジェイニーに向けられる。テーブルには白い薔薇が置かれていた。



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