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12.乗り気になれない呉越同舟

 あたしは後輩を送り届けると、すぐにタイムカードを押した。

 あたしは交代したバイトのレジに、金を払う。

 そう、そのまま自分の店でカラオケをするのだ。

 どの部屋にいるのかは既に聴いている。

 あたしは一応部屋をノックしてから入ると、コトン、とジュースの入ったグラスを卓に置く。

「……ふう」

 そこには先客が三人いた。独りは呑気そうにデンモクを慣れた手つきで操っていて、映画のcmなんかを視聴していた。残りの二人は立ったまま待ってくれていたらしい。主従関係を重んじているようだが、落ち着かない。

 特に、奥側に立っている銀髪の美人は騎士の鏡といったような人物なので圧が凄い。

 立っているだけで、生まれてきた世界が違うのが分かる。

 まるで凍りつけになったかのように、微動だにしていない。

「話を聴かせてもらえるかな?」

「ええ、もちろんです。――水沢先輩」

 入室してきたというのに、ひたすら画面を見て笑っていた後輩妹がようやく本題を切りだしてくれた。実はあの夜。初めて会った時に、後輩が寝た時に私達は交流していたのだ。あたしに興味がないことは丸わかりだし、それがお互い様であることもあちらは気がついているだろう。

 むしろ大嫌いで関わり合いになりたくないまである。

 だが、そうも言っていられない。

 私達には共通点がある。

 そして、彼女の話を聴くと、大罪人である愛音という少女が後輩につきまとっているらしい。それをどうにか引き剥がすために協力して欲しいという話だった。

「それで? 水沢先輩、どうですか? あなたにとって決して悪い話じゃないと思うんですけどね」

「……あんまりこういう汚いことはしたくないんだけどなあ」

 不意打ちをする。

 しかも四対一で、愛音を追いつめようという計画らしい。

「私だってあなたと話すらしたくないんです。ただ敵の敵は味方。ここは協力し合いませんか?」

「協力ねえ」

 後輩妹からの話をあたしは一方的に聴いただけで、愛音とやらの事情は分からない。

 あたしはなるべくフェアでありたい。

 愛音が本当に大罪人であるかも分からない。話したことすらないのだ。他の二人も後輩妹と同意見らしいが、もっと吟味したい。今のところ後輩には危険がないようにも思える。

「せめてもう少し話し合ってからじゃだめなの?」

「だめですよ。あなただって分かっているんじゃないんですか? 賢兄様は強い。自分から決して弱音を吐いてくれない。だから無理やり引き剥がすしかない。賢兄様のことを思うのなら、今の内に邪魔者は排除した方がいいと私は思いますけどね」

「……あたしは、それでも賛成できないな。『色欲』がどうしてもって言うからあなたの話を聴いたけど、やっぱりあたしは何もしたくない。どうしてもっていうなら、あとは御三方で勝手にやっていいよ」

「邪魔だけはしないでくださいね」

「…………分かっている」

 あたしは答えたけれど、邪魔をするかもしれない。正直、後輩と愛音が同居している話を聴いて憤慨はした。あたしに相談の一つもしてくれないことに、嫉妬もした。だから、積極的に後輩妹に協力したかった。

 でも、あまりにも後輩妹は危うかった。

 大切なものを手に入れるためなら、大切なものを壊してしまってもいとわないような人間のように思える。もしも、後輩妹が自分の兄に危害を加えるようなことがあれば、彼女はあたしにとって最大の敵になり得るだろう。

 あたしはただただ後輩に何もないことだけを祈った。


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