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望んだのは、私ではなくあなたです  作者: 灰銀猫


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番外編~レニエ③

 二十六になった時、両親が亡くなった。領地から王都に向かう途中大雨に遭い、ぬかるみに車輪を取られて横転し、運悪く道沿いの川に落ちてしまったのだ。幸い遺体が流されることはなかったが、突然の事故死。クロエが亡くなってから五年が経っていたが王家の関与を疑わざるを得なかった。それでも証拠がないし、状況からしても誰かが介入した痕跡は見られない。単なる事故だったのだろう、そう納得した。


 突然当主になったことでそこからの生活は一変した。文官としての仕事の上に侯爵としての仕事が追加されたのだ。ただでさえ忙しい文官生活の上にのしかかった当主業で多忙を極めた。三月ほどその生活を送ったが宰相閣下から無理をし過ぎだと案じられ、異動を提案された。宰相府の仕事は国の中枢に関わることだ。色んな情報が集まるし、何よりも王家の動向が伝わってくる。王家に対しての叛意を捨て切れなかった俺は躊躇した。そんな俺に声をかけたのがドルレアク公爵だった。


「ミオット君、無理はいけないよ」

「ですが閣下、私は今の仕事にやり甲斐を感じていますから」


 それに気が紛れるのだと言って異動を固辞した俺に、ドルレアク公爵は苦笑しながら言った。


「だったら、ルイ殿下の文官室はどうだい?」

「ルイ殿下の?」


 ルイ殿下は第三王子で当時十四歳。王族は十五歳になると少しずつ公務を割り当てられるが、ちょうどルイ殿下の文官室を立ち上げる話が出ているのだという。まだ学生の殿下には公務は少なく仕事は多くない。文官室を立ち上げる際は王族の公務に精通している宰相府の者が選ばれるのが通例で、室長は伯爵以上の爵位を持つ者と決まっていた。侯爵位を継いだばかりの俺を推薦してくれるという。


「それは願ってもないことですが……」

「君の仕事ぶりは聞いているよ。丁寧で卒なく部下の評判もいい。ルイ殿下はまだお若く心優しい方だ。他にも何人か候補者はいるが、年の離れた居丈高な者では務まらないだろう」


 確かにルイ殿下は小さい頃から聡明でしっかりしていて、侍女や侍従にも穏やかに接する方だと言われている。末っ子だから甘えた部分もおありだろう。候補者の名前を聞いて納得した。彼らではルイ殿下を軽んじるか利用しようとしていつかはトラブルになるだろう。


 悩んでいる時に声をかけてきたのはジョセフ君だった。良好な関係を築けていると思っていた私は彼を屋敷に誘った。応接室に案内して、家令に酒や軽食を頼んだ。一通り腹ごなしが終わった頃、彼は異動のことを話題にあげた。


「先輩、ルイ殿下の元に行かれたらどうですか?」


 まさか彼が知っているとは思わなかった俺は、思わず彼をまじまじと見てしまった。まだ内々の話で知っているのは上司と当事者くらいなのに。


「それくらいの情報は俺にも集められますよ」


 酒のグラスを揺らし苦笑しながらそう言った。


「よく知っていたね」

「情報は剣にも盾にもなりますからね。俺も一応は伯爵家の次期当主ですから」


 どうやら情報を仕入れる先を幾つか持っているらしい。俺も何人か情報を買う相手がいるが、彼もそういうことをしているとは思いもしなかった。


「意外だと思われていますね?」

「そうだね。君の場合は女性がそうなのかな?」


 そう言うと彼は「さすがは先輩、よくわかっていらっしゃる」と手を叩いて笑った。なるほど、浮名を流しているのはそのためだったのかと合点がいく。


「情報など集めて、君は何をしようと言うんだ?」


 次期当主、しかも伯爵くらいの家格では必要ないだろうに。


「そうですねぇ、まずは家の存続のためですね。我が家は父の代で負債を増やしました。それを解消するためにも旨味のある事業を探しているんですよ」

「なるほど」

「後は……趣味ですね」

「趣味?」

「はい。人の秘密を知るのは楽しいんですよ」


 あっけらかんとそう告げた彼にはいつもの荒んだ様子はなく、子どものような目をしていた。


「別に得た情報で何かをしようとは思いません。でも、知っていることがいずれ役に立つかもしれないし、裏を知ればいざという時に慌てることもありません。先輩もそうでしょう?」


 返事はしなかったが彼はそれを是と捉えた。表面は華々しく軽薄だがそれは擬態なのだと確信する。


「もう一つ。俺はドルレアク公爵の配下に入ったんです」

「ドルレアク公爵の?」


 ドルレアク公爵は国内でも一、二を争う名家だ。王家とは一線を引いていると言われていて、国王が長女をルイ殿下の妃にと打診したが断ったと聞く。嫡男が病弱で長女が後継者になる可能性があるからというのが理由だったが、だったら分家から養子を取ればいいだけだ。その公爵の配下ということは……


「公爵に頼まれたのかな?」


 そう尋ねると、ジョセフがにやっとした笑みを浮かべた。


「さすが先輩、話が早いですね」

「そんなことを話して大丈夫なのか? いや、俺に断らせないためか?」


 今更聞かなかったでは済まされないだろう。仲間に引き入れるために打ち明けたのだ。


「先輩も王家に思うところがあるのでしょう? 理由は十分にありますから」


 確かにあるがずっと隠してきた。もちろん隠し切れるとは思っていなかったが、そう見られないように気を付けていただけに悔しい思いが過る。


「次期伯爵がやることじゃないだろう」


 配下に入ったということは公爵に忠誠を誓い、時には汚れ仕事も引き受ける可能性もある。当主になる者がやることではない。


「本気で弟を当主にするのか? まだ確定ではないだろうに」

「いいんですよ。今の生活が楽しいですし、弟の方が当主に向いていますから」


 自分に種がないと判断した彼は今、後継の地位を弟に譲るために手を尽くしていると言った。既に後継者として王家に認められている彼がその座を降りるのは簡単ではないが、両親のために自分に種がないことは知られたくないという。


「公爵は何を望んでいるのかな?」


 何となく予想はつくが、本気なのか疑わしい。


「それ、聞いたら断れませんよ?」

「今更だろう?」

「ははっ! さすがは先輩です」


 いつも気だるそうな彼の目が今は熱を持って輝いていた。ああ、こういう目も出来たのかと認識を改める。


「我々の願いは、フォルジュ公爵の排除です」





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