江戸城陥落
江古田原沼袋での合戦は道灌の本陣が壊滅し、武石信康の兵と鉄砲隊が後方から攻撃を加えた事で完全に劣勢だった豊嶋軍が息を吹き返し、混乱する道灌軍を押し返し始めた。
まさか後ろから攻撃されるとは思ってもおらず、また道灌を討ち取ったと叫びながら突撃をした事で瞬く間に動揺が広がり兵達が散り散りとなり戦場から逃げ出し始める。
だが押し返し始めたとはいえ豊嶋軍も既に満身創痍ともいえる状態の為、追撃はしたものの多くの兵が暫くしたら戻って来た。
流石に倍近い兵を相手に戦ってさっきまで劣勢だったのがひっくり返ったとは言え、奥深くまで追撃をする余力は残っていなかったようだ。
信康が逃げるのを諦め、武器を捨てて降伏した兵を一か所に集めている間、豊嶋軍の諸将は自身の手勢を集め被害状況を確認している。
恐らく江戸城に向け進軍を開始出来るようになるまで1時間ぐらいはかかるだろうと思う。
降伏した兵の監視を副将達に任せ信康が泰経の元へ向かって行く。
信康にはこれから父である泰経に江戸城へ向け進軍するように伝える役目があるからだ。
その江戸城はと言うと、時を戻し丁度泰経達が江古田原沼袋に向け進軍を開始した頃、風間元重、間宮秀信、そして照が城門の前に居た。
江戸城に残った留守居の兵達は道灌の娘である照の顔を知るはずもなく訝しむだけで当然、門を開こうとしない。
だが照姫が道真の助けを得て石神井城から江戸城に逃げて来たと言う事が留守居を任された道灌の客将である木戸孝範の耳に入るに至り、城門が開かれ照たちは江戸城に足を踏み入れた。
城門をくぐり、兵が江戸城へ入ったのを確認した照が「かかれ~!!」と言おうとした瞬間、元重が素早く「抵抗するものは斬れ!!! 将は捕えよ!!」と叫び即座に木戸孝範を押さえつける。
自分が号令を掛けようとしていた所を横取りされた照は半分涙目になりながら顔を真っ赤にしているが元重も秀信も江戸城制圧は時間との勝負と照の護衛に数人の兵を残し向かって来る城兵を斬り、将らしき者を捕えていく。
数人が城門から逃げ出そうとしたが門の所に待機していた風魔衆に討ち取られていった。
兵数は150人と少ないものの、江戸城に残った兵も少ない事が幸いし、1時間もしないうちに江戸城は元重たちの手に落ちた。
捕えた将は木戸孝範と組頭が数人だけだったが、50人程を討ち取り100人程が降伏した。
風魔衆が城内にある長屋を押さえこれ以上抵抗すれば城内の女子共に至るまで撫で斬りにすると口々に叫んだのが効いたようだ。
自分達の家族が居る長屋を抑えられた兵の多くは降伏し家族の命乞いをしている。
元重も撫で斬りなんてしたら恨みを買う為、後で俺に叱責される事は間違いないのでするつもりは無かっただろうが、効果は覿面だった。
その後、降伏した兵の武装を解除し、長屋に押し込めたうえで風魔衆の見張りを付けて、残った兵達は死体を片付けそのまま城兵の振りをして道灌達が戻って来るのを待つ。
そして城に居た女衆には巨釜で戻って来た兵達の為に粥を作るように命じ、城にあった野菜に加え持って来たバイケイ草の根茎を粥に入れ、水瓶には抽出液を入れて戻って来た兵に振舞う準備を始める。
万が一道灌が兵を率い戻ってきた際、兵達に振舞う為だ。
豊嶋軍が敗れれば恐らくそのまま石神井城攻めに向かうと聞かされている為、その際は降伏した者を数名解き放ち道灌に江戸城が陥落し家臣や兵の妻子が囚われていると伝えさせる事になっている。
因みにバイケイ草の根茎とその抽出液を何故持って来て粥や水に入れたのかと言うと、根茎には毒性があり、催吐作用に加え、血圧を低下させ意識喪失や最悪死亡する毒草だからだ。
道灌軍が無傷で戻って来たらバイケイ草の根茎を入れた粥や、抽出液を入れた水を飲ませ中毒症状を起こした隙に道灌を捕えるか逃げるかが出来るはずだ。
苦みがあるので口にすれば違和感があるだろうけど行軍で疲れていれば味は二の次だろうから。
ただそんな努力も城を制圧し2時間程経過した頃には無駄となった。
風魔衆の知らせで道灌を含め2~30人程が江戸城に逃げ込もうとこちらに向かっているとの報告が来たからだ。
知らせを受け、道灌達を捕える準備を始め、20分程が経過した頃、江戸城に向かって来る騎馬の一団が見えて来た。
戦場から鎧を着た人間を乗せ馬を走らせた為か馬脚は遅いものの真っすぐ江戸城の城門を目指している。
「照姫様、恐らくあの一団の中に道灌がおります。 幸い足軽は居ないようですので城門を開き、城の中に入れた後、全員を生け捕ります」
「わかりました。 では私が…」
照の言葉を遮り元重がやんわりと捕え終わるまであちらの指揮を執ってくださいと粥を作る女たちを監視する兵を指さす。
不満そうな顔をしつつ照は渋々粥づくりを眺め出した。
元重としても照に手柄を立てさせてあげたい所ではあるが万が一逆に囚われでもしたら一大事の為、ある意味心を鬼にして城門から遠ざけた感じだ。
気持ちを切り替えた元重は秀信と共に100人程の兵で江戸城の城門をくぐる一団を迎え入れ、馬の轡を取る。
「無事のお戻り祝着至極に存します」
「何が祝着至極だ!! 豊嶋の兵が追って来ている! すぐに城門を閉め籠城の支度を整えよ!! 木戸はどうした!! 木戸を呼んでまいれ!!!」
祝着至極と言う言葉が癇に障ったのか道灌が元重を怒鳴りつけるも、元重は涼しい顔をしながら馬から降りた道灌を抑え込む。
「木戸殿は今動く事が出来ませぬ故、木戸殿の元にお連れ致す」
「無礼者!!! 貴様何をする!!」
喚き散らす道灌とその一団を押さえつけ縄で縛りあげた後、元重が大きく息を吸い込んだ。
「我こそは豊嶋家嫡男虎千代様の家臣、風間小太郎元重!! 太田道灌を生け捕ったり~~!!!!」
その名乗りを聞いた瞬間、道灌の顔が一気に青ざめた。
既に江戸城は豊嶋の、それもあの虎千代の手の者に落ち、自らも囚われの身となったのだから…。
名乗りを聞き様子を見に来た照を見て道灌は「年端もいかない女子を戦場に出すとは豊嶋家も落ちぶれたものよ」と言いそのまま元重達に連れていかれた。
道灌は気づいて居なかった。
目の前に居た女が自分の娘、照である事を。
もし道灌が気付いて優しい言葉や4歳の時嫁と言う名の人質に出した事を悔やむ言葉を発していたら照も情に流されたかもしれないが、照は道灌の発した言葉に怒り完全に道灌を親と認めぬと心に誓っていた。
道灌が自ら状況を変えられる可能性を無くした瞬間である。
「照は虎千代様の室であり、肉親は道真の爺様だけです…」
冷めた目で道灌を見る照の言葉は喚き散らす道灌の耳に届く事はなく風に流されていった。
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