奇襲と追撃
道灌を含め諸将が江戸城に向かって逃げ出す前、虎千代率いる部隊と、武石信康率いる部隊は風魔衆よりの知らせを受け悩んでいた。
道灌軍の本陣に向かうルート上に500人程の伏兵が待機しているとの報告を受けたからだ。
合戦の様子を知らせて来た風魔衆の話では父である泰経率いる豊嶋軍は既に劣勢となり、総攻めとなれば崩れるのも時間の問題との事だった。
迂回して本陣を襲撃するとなると時間がかかる、だが目の前に居る500人程の兵を蹴散らして進むにしても時間がかかる可能性がある。
何より攻撃を受けたと本陣に伝えられたら本陣の守りが固くなり奇襲の効果が薄れる。
武石信康には銃声が聞こえたら攻撃を開始するように言ってあるが報告では左右に伏兵が配置されていて恐らく信康の部隊も伏兵に道を塞がれていると思われる。
幸いな事に、伏兵に俺達の存在は気づかれていないがそれも俺達が攻撃を仕掛けるまでの事、攻撃を受ければ当然俺達の存在に気付き本陣に伝令を送るはずだ。
「殿、恐れながらここは一気に敵を蹴散らし本陣へ攻め込むのがよろしいかと」
副将である馬淵家定が言うには鉄砲の音で確実に敵が混乱し、第2射までの間、矢を放ち、第2射が終わったら騎馬隊を突入させれば恐らく逃げ出すであろうとの事だ。
「確かにここで悩んでいても仕方ない。 鉄砲隊を前に出し一斉射を行い足軽は持って来た弓を放ち続けろ、その間に鉄砲に弾込めを行い第2射が終わった直後騎馬隊を先頭に全軍突撃だ」
俺がそう指示を出していた頃、信康も目の前の敵兵をどうするか考えていた。
銃声が聞こえたら攻撃開始となっているが、時間的に間もなく銃声が聞こえて来てもおかしくない。
だが風魔衆の報告では左右に伏兵がおり、恐らく虎千代様率いる部隊の前にも伏兵が居るはず。
迂回を選ぶか、伏兵を蹴散らせて本陣を攻撃するか…。
ドドッーン!!!!
信康が悩んでいる最中、その思考を止める音が聞こえて来た。
虎千代様が敵に攻めかかった。
本陣に攻めかかったのか、伏兵に攻めかかったのか、どちらかは分からないが最早考えている余裕などない!
我らがここで止まっている間に虎千代様の部隊のみで敵陣に突入する事になれば数の少ない虎千代様が不利となり最悪お命まで危うい。
「鉄砲隊!! その後大鉄砲隊、順番に目の前の敵を撃て!! その後騎馬を先頭に突撃だ!! 一気に蹴散らしそのまま道灌の本陣へ向かうぞ!!」
最早考える必要はない。
既に虎千代様は戦端を開いている以上、我らも道灌の本陣を目指すのみ、その為には目の前の部隊に一撃を加え、そのまま突き抜けるようにして本陣へ行くしかない。
信康の命令で、大泉虎吉が鉄砲隊を率い、大関力正が大鉄砲隊を率いて敵に接近し発砲する。
一気に接近した為、敵もこちらに気付いて慌てて迎撃態勢を整え攻めかかって来ようとした瞬間、虎吉の号令のもと50丁の鉄砲が火を噴いた。
初めて聞く轟音、直後に倒れ込む兵士、中には頭部に当たり脳髄をまき散らし倒れ込む兵もおり敵の足が止まる。
その中でも虎吉は兵達に指示を出していた武者を狙い発砲し撃ち取っていた為、兵達は混乱し始める。
直後、鉄砲隊を追い越して前に出た大関力正の大鉄砲隊が一斉に発砲する。
先程の発砲音より更に大きな音に加え、今回は親指大の鉄球を20以上詰め込んで撃った為、先程よりも多くの兵が倒れ込み、また致命傷にならなくても手足に当たったりし悲鳴を上げるもの、横に居た足軽が胸から血を流しこと切れるさまを見て腰を抜かす者、未知の恐怖によりその場に座り込み祈りだす者など、完全に敵が動揺し混乱している。
「懸れぇ~~!!!」
信康の号令のもと、騎馬が突入しその後足軽が続き混乱する敵軍を蹂躙する。
そして突撃で空いた道を通り鉄砲隊と大鉄砲隊が走りそのまま道灌の本陣を目指す。
同時刻、虎千代率いる部隊も混乱する敵に一撃を加え蹂躙する。
とは言え道灌本陣に突入する際には鉄砲の一斉射をする為に、一撃を入れている隙に鉄砲隊を先に行かせ弾込めを命じ、鉄砲隊の後を追うような形で道灌の本陣を目指す。
幸い、鉄砲と言う未知の武器で攻撃を受けた為か、本陣に向かって進んでも追って来る敵はおらず苦も無く道灌の本陣の見える場所まで進めた。
道灌の本陣は左右後方を各300人程の兵に囲まれ守られてはいるが多くの兵は主戦場での合戦に気を取られ既に戦勝気分に湧いており奇襲をされるとは思っても居ない感じだ。
「多々良一鉄! 一斉射をした後は豊嶋軍を攻める敵軍の背後から鉄砲を撃ちまくれ! 矢野元信は訓練兵を率い鉄砲隊の援護だ、鉄砲に続き矢を射かけ、その後は鉄砲隊と共に行動し弓で鉄砲隊に敵を近づけさせるな、他の者は俺に続け!!」
「お待ちください、虎千代様は先頭に立たないでくだされ。 突入するのは馬場勇馬率いる騎馬隊、その後、某が率いる足軽隊と共に行動して頂きます。 万が一があっては某どころか一族が腹を斬って詫びても足りませぬ故」
川上屋彦左衛門が仕入れて来た青毛の巨馬、黒帝と名付けた愛馬に跨り道灌の本陣に斬り込もうとしたら馬淵家定に思いっきり止められた。
ここは兵の士気を盛り立てる為に先頭に立って突撃すべき時だと思ったんだけど、元服前の13歳を戦闘に参加させたくないらしい。
というか無断で出陣しているから俺に何かあったら家臣の責任問題だもんね。
ドドッーン!!!
そんなやり取りをしている間に鉄砲隊が一斉射を行い、直後足軽が弓を放つ。
俺の所の足軽は通常の弓の半分ぐらいの大きさで撃ち終わったら肩から袈裟懸けにして携帯できるようにしているので、足軽全員が弓兵状態だったりする。
鉄砲の一斉射による攻撃で本陣を守る兵が倒れ、運よく弾に当たらなかった兵も何が起きたのか分からず右往左往している所に矢が降り注ぐ。
そして矢が止んだ所に騎馬隊が突撃し本陣を守る兵を蹂躙する。
「引くな!! 相手は少数、固まって本陣を守れ!!!」
誰が叫んだのかは分からないが敵兵の中から怒号が飛び、直後我に返った兵達が慌てて固まり槍を構える。
流石道灌の本陣を守る兵だけあって精鋭と言うべきなのか、本陣の周辺は乱戦状態になる。
ドドッーン!!!
本陣の反対側から腹の底に響くような轟音が聞こえ、喊声が聞こえ怒号が飛び交いだした。
恐らく信康隊が突撃を開始したと思われ、本陣を守る兵も動揺の色が見えだした。
本陣後方に居た兵が左右に分かれ援軍として参戦して来たものの、勢いに任せて攻めかかる俺の手勢に押され気味になり、その後堰を切ったように江戸城方面に逃げ出し始めた。
さっき本陣から複数の鎧武者が馬に乗って江戸城方面に向かったのを皮切りに崩れ出したので恐らくあの中に道灌がいたと思われる。
死体だけが転がる本陣で武石信康を見かけると、即座に馬を寄せ、信康の部隊は本陣にある旗を全部倒した後、道灌を討ち取ったと叫びながら豊嶋軍を包囲しつつある道灌軍の後方に突撃するように指示を出し、俺は騎馬隊100人と足軽300人を率いて江戸城方面に逃げた敵を追撃する。
追撃をするには若干間が空いてしまったが、騎馬隊を先頭にし逃げる敵の背を討つ。
ネット情報でも合戦で一番多く人が死ぬのは追撃戦と言われるだけあって、背を見せて走る足軽を騎馬隊が後ろから勢いよく槍で刺し、後から続く足軽がトドメを刺していく。
恐らく真っ先に逃げた道灌達は捕捉出来ないだろうけど、そこそこ追撃戦で兵力を削れるはずだから江戸城に戻った時は殆ど兵はいないだろうな。
江戸城攻略隊はどうなっているだろう?
上手くやってくれてると良いんだが。
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