深みに嵌る思考
「豊嶋が合戦の支度をし始めたのだ! 今更隠し立てする必要もあるまい。 合戦の支度を始めよ! 公方であるワシの力を見せつけるのだ!!」
古河御所の広間に集まった家臣達を前に古河公方である足利成氏が、今まで密かに行っていた合戦の支度を隠す事無く堂々と行うように命じる。
「権六! 何処から情報が漏れた! 心当たりはあるか?」
庭に控えて居た伊賀者の百地権六は、成氏の問いに対し、少なくとも古河より漏れたのでは無く、関東管領、または扇谷上杉や駿河の伊勢より漏れた可能性が高いと答える。
「伊勢盛時め! 駿河館を強襲し、小鹿範満を討ち取ったうえで今川家を纏め、伊豆へ兵を進めると申しておったが、未だ駿河を纏めきれておらぬ! それどころか豊嶋に我々の動きを察知されるとは使えぬ!!」
「恐れながら申し上げます。 伊勢から情報が漏れたとは言い切れませぬ」
権六は情報が漏れたのは、伊勢が原因とは限らないと成氏に伝えようとするも「分かっておる!!」と一喝され黙り込む。
「出陣は刈入れが終わる10月だ! 出せるだけの兵を率いて出陣せよと、各所に触れを出せ!!」
成氏の命で、足利成氏に従う、常陸、下野、下総、上総の国人衆達の元へ、上野に拠点を置く関東管領上杉顕定の元へ、武蔵の鉢形城を居城とする長尾景春の元へ、糟屋館の扇谷上杉定正の元へ、成氏の言葉を伝えるべく、使者が向かう。
当然の如く、成氏が動き出した事で、各地に散り情報を集めていた風魔衆の目に留まり、即座に報告がもたらされた事で、豊嶋家のみならず、成田家、太田家、里見家、三浦家も合戦支度に拍車がかかる。
江戸城に居る俺の元にも風魔衆が報告にやって来た。
「申し上げます。 関東管領の元に身を寄せている吉良成高が調略に応じ、旧領復帰と引き換えに豊嶋家に味方するとの事にございます」
上杉顕定の元に潜り込ませている風魔衆より、吉良を調略したとの報告がもたらされる。
「して? 吉良は何か申しておったか?」
「はっ、 此度の事は、長尾景春が成氏に話を持ち掛け、時間をかけて準備をしたとの事、伊勢が今川を纏め伊豆へ攻め上がり、それと呼応するように相模で扇谷上杉定正が兵を挙げるとの事。 その上で上杉顕定と長尾景春が忍城を落とし川越へ向かい、足利成氏も利根川を越え岩槻城を落とし、川越で関東管領の兵と合流し江戸を攻め落とすとの事にございまする」
「下総、上総は攻めぬのか?」
「下総は岩橋が、上総は真里谷が兵を挙げ、下総、上総の兵を動かせぬようにするとの事にございまする」
「吉良成高の言葉が本当なら、予想通りの進路だ。 芸が無いな…。 忍城、川越城を上杉顕定に攻めさせ、成氏は直接江戸を突くと思ったんだが、三浦家と小山城の矢野兵庫達に睨まれている、扇谷上杉家を当てにしているのか? だとしたら楽だが…」
報告を聞く限り、足利成氏と上杉顕定の主力は川越で合流し、その後、江戸を攻めるという流れとなる。
武蔵に引き籠る構えを見せている豊嶋家の息の根を確実に止めるのであれば、川越城を落とした後で、川越方面、下総方面、相模方面の3方向から江戸を攻めなければ意味が無い。
もっとも、下総から江戸城を攻めるには、入間川(隅田川)と利根川を越えねばならず、利根川沿いには国府台城が、利根川と入間川の間には葛西城がある為、大軍で渡河をするのは難しい。
しかも伊豆海賊の一部は江戸に来ており、下総、上総の海賊衆も豊嶋の傘下にある。
船の徴発も困難を極めるうえ、例え船を手に入れても海賊衆の襲撃を受ける。
しかも、増水で流されるので、川に数か所に土台を築き跳ね橋を設置し船が通れるようにし、他の部分は船橋で繋いでいるので、敵が来たら船をつないでいる綱を切れば川には跳ね橋部分しか残らないようになっている。
これなら渡河をする為には船を調達するか、泳いで渡るしかない。
なので、成氏、顕定軍が、川越で軍を一つにし攻めて来たとして、万が一江戸城が落ちても、下総か相模へ逃れて立て直す事も出来なくはない。
「再度、上杉顕定、上杉定正の周辺を探れ。 それと長尾景春の動きもだ!」
俺の命を受け、報告に来た風魔衆の組頭が、音もなくその場を去る。
吉良成高が調略に応じた振りをし、偽情報を流したのか…、それとも関東管領である上杉顕定がそもそも本当の事を知らされていない?
前者、後者ともあり得るから質が悪い。
江戸城に控えて居る風魔衆の組頭を呼び出すと、駿河の太田道灌へ俺の指示を伝えに行くように命じる。
道灌へは、万が一にも伊勢、斯波連合軍の兵が多く、駿東郡を守り切るのは無理と判断したら、無駄な血を流すような事はせず、伊豆の堀越御所があった場所に建てた堀越城へ籠るように、そして放棄した城の米蔵は焼き払うように、との指示を出す。
堀越城は伊豆の統治拠点として、1万の兵が籠れるだけの大きさにしてあるうえ、豊嶋家と三浦家の兵が詰めている。
如何に伊勢と斯波が大軍で攻め寄せて来たとしてもそう簡単には落とせないはずだ。
堀越城に籠る道灌達と同数の兵を抑えとして残し、箱根を越えて相模に向かったとしても、同数の相手なら道灌は勝てるはずだ。
抑えの兵を蹴散らせば、その後、箱根を越えようとしている軍の背後を襲う事も出来る。
その上、遠江を伊豆海賊衆が襲うのだ。
斯波家に従って兵を出している国人衆は、自分達の所領が荒らされることを恐れて撤退を言い出し、最悪、軍が瓦解する可能性もある。
伊勢盛時がどうやって斯波義寛を取り込んだのかは分からないが、斯波家にとって今回の合戦は得る物が少ないはず。
まあ、実際の所、伊勢盛時が動くかは分からないが、関東で豊嶋攻めが始まれば好機とみて動く可能性が高い以上、万が一の備えはしておく。
甲斐の武田も動けなくした。
穴山信懸、大井信達を唆して同盟を結ばせて、武田家からの独立を宣言させた事で、それを認めない武田信昌と一触即発の状態らしい。
刈入れが終われば甲斐でも合戦が始まると思われる。
そうなれば伊勢盛時の元に兵を送る事は出来ないはずだ。
迎え討つ準備は整っている。
だが想定外の事が起きるのがこの時代だ。
予測をし、それへの対処法を考えれば考える程に深みに嵌っている気がするが、出来る限りの事をし、可能なら完勝したい。
いや、完勝を目指すよりも確実に勝つよう考えるべきだな。
忍城にも川越城にも追加の武器を送り届けたから、簡単には落城しない。
時間をかけて豊かにした武蔵の豊嶋領を荒らされるのが癪に障るが今回は致し方ない。
後は、出来る限り情報を集める事で優位に立つしかないな…。
誤字脱字のご指摘誠にありがとうございます。
稚拙な文章ではございますがお読み頂ければ幸いでございます。
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