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理想の小妖精 ♯.1

 迷宮を攻略するイベントが終わり三週間。そして今朝、まる一日を要した超大型アップデートが終了すると今日も今日とて俺はログインしてきていた。

 休日でもないただの平日の午後八時。

 夕食を済ませた俺は自室に戻りそのままゲームを始めることにした。

 超大型アップデートによって追加されたものは様々なれど、その最たるものが目の前に広がっている大型都市。正式名称を『王都ソフィア』

 これまでプレイヤーのほとんどが拠点としていたのは最初に訪れた町。なんといっても最初の町で全ての主要なNPCショップが揃っていたり生産職のプレイヤーが開いた店があったりとわざわざ近隣の小さな村に移ろうとしなくても事足りていたのだ。

 けれど新たな町はそれまでの町と転送ポータルを使えば即座に移動することができるらしく、王都に拠点を移すような人もちらほらとあらわれはじめていた。


「王都にあればいいんだけど」


 ログインしてきた俺がこの王都に来た理由は二つ。新たに追加された街がどのようなところなのか気になったのと左手にある二つのアクセサリの完成を目論んでのこと。

 マオと(そういえばまだ名前も教えてもらっていない)露天商のプレイヤーから貰った二つのアクセサリは未だ完成の目途がたっていないのだ。何度も試行錯誤繰り返したにもかかわらず完成の気配すらないのはどうも自分のアクセサリ製作の腕に自信がなくなってきてしまう。

 新たに追加された街ならば知らないアイテムを売っているNPCショップがあるかもしれないし、そもそも追加されたのは街だけではない。その周囲にあるエリアもまた新しいものが追加されているはず。確認のためにマップを見てみると想像通り、最初の町と同じような感じで王都の周りにも四つのエリアが展開されているようだ。

 王都の中を散策するか、それともエリアに出てみるか。


「やっぱり、俺に合っているのはこっちだよな」


 漠然とあるかどうかも分からないNPCショップを王都の中から探し出すよりも、エリアに出てあるかどうかも分からないアイテムを探していたほうが性に合っている。あわよくば新たなアイテムを採取できるかもしれないのだから。

 とはいえアイテムを得るためにはエリアに向かう必要があるのだが、その時に一人でもある程度は安全な散策ができるレベルのエリアを選ばなければならない。だとすれば最初の町の近くにあるエリアと似た雰囲気を持っていそうな場所を探した方がいいだろう。具体的に言えば草原か森か岩山か洞窟か。マップで見るだけではそこがどんなエリアなのかは解らない。実際にその場に立ってみる必要があるのだ。

 まず向かったのは王都から北のエリア。そこは大きな川が流れるエリアだった。水場の近くに行ったことはあれど水の中で戦ったことはない。現時点の俺ではこのエリアが散策に向いているとは考え難い。

 次に向かったのは東側。そこはなにげに見覚えのある森のエリア。見覚えのある景色とは裏腹に見覚えのないモンスターが闊歩している。

 そしてそのモンスターと戦っているプレイヤーの姿。明らかに初心者装備ではない装備を身に纏ったプレイヤーたちは新たなエリアの出現に喜び、新たなモンスターとの戦闘を楽しんでいるようにも見えた。

 自分も彼らのようにモンスターとの戦闘に興じたい。そんな衝動に駆られつつも俺は森の奥へと歩を進ませる。この森に生息するモンスターも他のエリアのモンスター同様、こちらから攻撃を仕掛けなければ攻撃してくることはない。わざわざ潜むように進まなくてもそれなりに安全に進むことができるのは助かる。途中で見つけた採掘ポイントではピッケルを使い鉱石を取り、地面から生えた薬草は摘んでストレージへと収める。見慣れた鉄鉱石や薬草なども取れはしたが、それ以外の見たことのない鉱石やどんな効果があるのか解らない薬草もそれなりの数を確保することができた。


「だいたいこんなもんかな」


 狙っていた、というよりも自分が欲していたアイテムは手に入りはしなかったもののそれでも十分な戦果といえよう。


「そろそろ戻ろうかな」


 空きの少なくなってきたストレージを見て、王都へと帰ろうとした俺の目にとある光景が飛び込んできた。それは知らないプレイヤーがモンスターと戦っているという光景。これだけならよくある光景なのだが、どういうわけかそのプレイヤーは持っている武器を使って応戦しようとしていない。むしろ武器を体で隠し必死で逃げ回っているという印象だ。

 何故逃げるのだろう。

 そう思って注意深く見つめていると、そのプレイヤーが持っている武器に微かな違和感を抱いた。


「もしかして、壊れているのか?」


 エリアでの戦闘の果てに武器の耐久度が落ちてしまうことはよくあること。それを元の状態に戻すために鍛冶師がいるのだ。しかし戦闘中に耐久度が危険域にまで陥ってしまった場合、それを回復する手立ては現状確立されてない。町に戻るかどこか安全な場所で修理を行うのが基本。それは≪鍛冶≫のスキルを持っている俺でも同様だ。


「危ないっ」


 逃げているプレイヤーを追い詰めるかのように、さらに数体のモンスターが物陰から姿を現した。

 身を縮こまらせて、体を丸めるプレイヤーはもはや反撃の意思などないかのよう。数秒後に襲いくる衝撃に身を委ね、HPを全損させて町まで死に戻りさせられるのを覚悟しているかのようだ。

 ホルダーから剣銃を引き抜き駆け出す俺は咄嗟に剣銃を剣形態へと変形させる。

 たった二発の銃撃を繰り返したところで突破できる戦力差ではない。それならば戦闘の中心をあのプレイヤーから俺へと変更させさえすればいい。それでどうにか切り抜けられるはず。


「―――誰?」


 モンスターの爪と俺の剣銃の刃がぶつかった音が響き渡る。

 甲高い金属音の奥で弱々しい声が聞こえてきた。


「無事か?」

「え? あ……はい」


 状況を理解できないようだが、それでもまだHPは残っている。それならいい。後は、


「隠れてろ、すぐに片付ける」


 我ながら随分と格好つけたものだ。

 剣形態の剣銃で攻撃を繰り出したからだろう。モンスターの頭上に名前とHPバーが表示された。

 『リトル・リザード』

 その名前の通り小型のトカゲのような外見をしたモンスターが十数体、俺ともう一人のプレイヤーを取り囲んでいる。

 互いに命中したわけではないとはいえど先程の衝突でリトル・リザードのHPは無傷ではいられなかったようだ。全体の一割分の減少をみせていた。

 新たなエリアといれど出てくる雑魚モンスターが極端に強化されたというわけではないようで、一割ほどHPを減らしていたリトル・リザードは二度斬り付けただけで消滅した。

 これなら問題なく勝てる。

 確信を感じることのできる手応えに喜びながらも俺は残るリトル・リザードを睨み付けた。

 プレイヤーではないのだからどれだけ睨んだところで意味など無いのだけども不思議と睨みを利かせた時とそうでない時とではモンスターの反応が違っているような気がする。


(来るか?)


 瞬く間に一体のリトル・リザードを葬った俺に他の個体が一斉に襲い掛かってきた。近くにいる個体から離れている個体まで一斉に。これがもっと強いモンスターだったのなら俺はなす術なくやられていたことだろう。けれどアーツも何も発動していない通常攻撃を二発当てただけで消滅させられる程にダメージを与えることができるのであれば一斉に襲ってくるというのはむしろ好都合だ。


「《アクセル・スラッシュ》!!」


 何故なら、こうしてたった一度のアーツを発動させただけで全ての個体を同時に攻撃できるのだから。元々範囲攻撃を持たない俺でも速度を強化させた攻撃を用いれば一度の攻撃で一定範囲内のモンスター相手ならば一撃で掃討することができる。

 円を描くように生じた緑色の剣閃に巻き込まれた全てのリトル・リザードが同時に消滅した。


「ふぃ。こんな感じかな」


 仄かに残った緑色の光を掃うように剣を振り、刃の背を使い肩を叩く。

 一応倒し損ねたリトル・リザードを警戒したが、どうやら攻撃を仕掛けてくる気配はない。


「あの……」

「怪我はしなかったみたいだな」

「はい。その……」

「どうかしたか?」


 近くの木陰に隠れていたプレイヤーがゆっくりと姿を現した。

 突然現れて相対していたモンスターを横から奪い取ってしまったのだ。俺に対してそれほどいい印象を抱かなかったとしても仕方のないこと。なんと言われても文句を言うつもりはなかったのだけど、それにしては何かが違うような。


「あの……助けて下さってありがとうございます」


 ぺこっとお辞儀するその姿は可愛らしい子供のような印象を受けた。

 その原因は目の前のプレイヤーが他のプレイヤーよりも背が低く作られているからだろう。身長から何から何まで自分で決めることのできるのがこのゲームのキャラクターエディットなのだからあのキャラクターを操作しているプレイヤーは好き好んでその身長にしているということ。顔もユウに比べて幼く、薄い水色の髪をショートカットにしているのと相まって更に子供っぽさを助長させているように思えた。


「え、ちょ、ちょっと……なんなんですか!」


 じっと見つめていただけのつもりだったが思わず近付いていてしまったらしい。キャラクターを操作するのは現実の身体と同じように無意識の思考だとしてもゲーム空間ではより自分の思考が直接的な動きをみせる。表情一つとっても泣いたり笑ったりという感情表現が若干オーバーになりがちなのもこれのせいだ。


「それ、俺に見せててくれるか?」

「それって、この短剣ですか?」

「ああ。その短剣だ」


 指差したのは大事そうに抱えられた短剣。

 リトル・リザードと戦わなかったのはこの短剣に原因があるのは明確。≪鍛冶≫スキルを持っているからだろうか、どのような状態になっているのか気になって仕方ないのだ。


「いいですけど――」


 壊さないでくださいねと付け加えて、そっと短剣を手渡してきた。

 ≪鍛冶≫スキルを有し自分の剣銃の強化や修理を自分で行うからこそ、ある程度は見ただけでその武器の耐久度を測ることができるようになっていた。


「これは――」


 思わず驚愕の声が漏れた。

 実物を手にしてみてはっきりしたのだが、短剣の現状は俺が≪鍛冶≫スキルを持っていないとしても直ぐに理解出来ただろう。刀身の全体に行き渡るようなひびはもはやこの短剣が斬るという目的で使うことができなくなってしまっていることを物語っている。


「アンタは懇意にしているプレイヤーの鍛冶屋はいるのか?」

「なんです? いきなり」

「この短剣はNPCの鍛冶屋では直すのにかなりの時間と費用がいるだろうからな。プレイヤーなら少しは早く修理できるはずだから、できるならプレイヤーの鍛冶屋に頼んだ方がいいと思う」


 短剣を返し告げると目の前のプレイヤーは落ち込んだように顔を伏せてしまった。


「いつもはNPCショップに頼んでいましたから」


 小さな声でいったその言葉に俺はどうして顔を伏せたのかを理解した。


「とりあえず。王都までは送るから」


 いくら攻撃しなければ襲ってこないとはいえ、破損している武器を頼りに町まで戻るのは不安だろう。どっちみち王都まで戻る予定なのだから一緒に行っても問題はない。


「大丈夫です。一人で戻れますし、これも自分でなんとかしますから」


 そういったプレイヤーが大袈裟に首を振った。

 目的も何も解らない相手に警戒するのも大事だとは思うけど、ここまで必死にならなくても。


「そうはいってもな。いつモンスターが復活するかわからないし、俺も王都に戻る道中だったから、結局同じ道をいくことになるんだけど」

「そうなんですか?」

「まあな。アンタを見つけたのだってただの偶然だったし、正直敵わないモンスターが相手だったら見捨ててたかもしれない。だからそんなに気負わなくていいよ」

「はあ」


 歩き出した俺の後についてくるのだから少しは警戒心を解いてくれたのかな。


「あのっ……」

「なんだ?」

「私の名前はヒカルです」


 リトル・リザードと戦っていた場所から離れ、安全そうな道に出た時に後ろからついて来てるプレイヤーが名乗った。

 突然の自己紹介に驚き立ち止まってしまうと、同じようにヒカルも立ち止まる。


「その……自己紹介。まだだったから」

「ああ」


 うつ向き気味でいったヒカルに納得するように頷く。これまで短剣に関しては話したけれど、その前に、一番最初にするべきことを俺は忘れてしまっていたようだ。


「俺はユウ。ここには、そうだな。ちょっとした探しものをしにきたんだ」

「探しものですか?」

「まあな。俺は生産職だからな。こうして新しいエリアに新しいアイテムが無いか見に来たんだ」


 ストレージからこの森で手に入れた鉄鉱石以外の鉱石を取り出し見せてみた。

 生産職以外のプレイヤーが見ればただの石でしかないのだろう。ヒカルは俺が見せた鉱石にたいしてはあまり興味が無さそうな雰囲気だ。


「そろそろ行こうか? ここにいるとまたモンスターが復活するだろうし、他のプレイヤーも近付いて来ているみたいだからな」


 いきなりプレイヤーが襲ってくることはないのだろうが、それでも戦闘ができない状態で見知らぬプレイヤーにあうことは避けたい。そんな俺の思いを知ってか知らずかヒカルは小さく頷いて歩く速度を速めていた。

 それから王都の入り口が見えてくるまで、俺とヒカルは会話らしい会話をしなかった。途中、モンスターが草木を揺らす度にヒカルがビクッと体を強張らせ、離れていくモンスターの姿に安堵したみたいにほっと肩を撫で下ろしているみたいだ。


「これからユウ、さんはどうするつもりなんですか?」


 王都とエリアを隔てる門の前でヒカルが話し掛けてきた。

 これまでにない様子に見えるのは緊張しているから、だろうか。


「さんはいらない。ユウでいいよ」

「あ、はい」

「えっと、これからだったっけ? そうだな、余ったアイテムを売りにいくのもいいけど、街のどこに何があるか知らないからなぁ」

「だったら、一緒に街の中を見て回りませんか?」

「ん? 別にいいけど」

「ありがとうございます。あの、できれば一緒に鍛冶屋を探して貰えませんか?」


 ヒカルのお願いを聞いて、なるほどと納得した。

 生産職であるのなら鍛冶屋の良し悪しを判別できるかもしれない、と考えたのだろう。俺がヒカルの立場でも同じように考えてしまうのだろうと思ってしまうと無下に断ることなどできやしない。


「わかった。街中を見て回りたいと思っていたからな。いい機会だよ」

「よかった」


 緊張が少しだけ解けたようで、表情に俺が出会った時と同じくらいの元気な感じが戻ってきた。


「まずはどこの鍛冶屋に行ってみる?}


 マップを出現させてさっと見渡してみると王都には三軒もNPCの鍛冶屋があるようだ。ヒカルの目的に適した店がどの鍛冶屋なのか分からないがために、下手をすると全ての鍛冶屋を周らなければならなくなる可能性がある。

 俺からすれば全ての鍛冶屋を周ること自体はそう面倒なことではないのだけど、目的があるヒカルからすればできるだけ早く目的を果たしたいと考えるのは普通のことだった。


「そうですね。この一番近い鍛冶屋にしませんか?」

「とするとこの道を真っ直ぐいけば着くな」


 コンソールに出現させたマップを頼りに進むと屋根の上に見える煙突から空へと伸びる白い煙が見えてきた。

 王都といれどその広さは現実の都市よりは狭い。街の端から端へ歩いたとしても数十分で着くことができるだろう。大きな通りを挟むようにいくつもの店舗が建ち並び、その奥にNPCたちが生活している居住区がある。最初の町のようにプレイヤーが建物を購入しようとするのならこの居住区が一般的なのだろう。店舗が建ち並ぶ通りには既にプレイヤーショップが割りこめる隙間などないようにも見える。


「いらっしゃい」


 一軒目の鍛冶屋のドアを開けると同時に、店舗の奥から仄かにしゃがれた女性の声が聞こえてきた。


「なにが要り用かね?」


 店舗の奥にあるカウンターに腰掛けたNPCが話し掛けてくる。

 見た目初老の女性NPCはまるで昔話に出てくる魔女のよう。


「武器の修理を頼みたい」


 壁の棚に並べられた武器や防具の数々を眺めていたい気持ちを抑え、鍛冶屋に来た本来の目的を遂げることにした。


「見せてみな」

「そのこの短剣なんですけど……」

「……ふむ」


 俺がヒカルの短剣を初めて見た時を同じようにNPCもじっと短剣を見つめている。それはどこか骨董品の値踏みをしているみたいに見えた。


「これは無理だね」

「え!?」

「どういうことなんだ?」

「この短剣はすでに使用限界に達しているみたいだからね。修理は出来ないのさ」


 聞き慣れない言葉に首を傾げていると、ヒカルも同じように感じたらしく思わず顔を見合わせてしまった。


「そうか、わかった。なあヒカル、別の鍛冶屋にも行ってみないか?」

「そう、ですね」


 一軒目の鍛冶屋の店主に別れを告げ、俺たちは再びマップを頼りに二軒目の鍛冶屋を目指した。

 俺がヒカルの短剣を見た時には直せないという印象は抱かなかったのだが、NPCは、それもこの王都の鍛冶屋は違うのだろうか。違うのだとしたら何が違うのかを知りたい。≪鍛冶≫のスキルレベルを上げることで俺も同じようになれるのだとしたら次にレベルが上がった時にはそうしてみるのも一興かもしれない。


「次は……あそこか」


 なんだろう、探していた二軒目の鍛冶屋を見つけたというのに不穏な感じがしてならない。およそ鍛冶屋に似つかわしくない外見がそんな印象を与えているのか、それとも胡散臭いこの看板のせいか。


「いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませ」


 ドアの前に立つ二人のNPCは姿形がそっくりな双子の男。タキシードを纏い凛と立つその姿は高級ホテルの従業員を彷彿とさせる。


「今日は何をお探しで?」


 右側に立つNPCが話し掛けてきたが、不思議とその目が捉えているのは俺だけなのは気のせいだろうか。


「あー、先に店の中に入れてくれ。いいだろ?」


 俺とヒカルの顔を見比べるような素振りの後、


「かしこまりました。こちらへどうぞ」


 左側に立つ男がドアを開け手で促した。

 二軒目の鍛冶屋の棚に並ぶ装備品は豪華絢爛、宝石や金が過度に施された剣や鎧が並んでいる。

 正直俺の趣味ではないが、この剣一つ作るのにどれ程の金と宝石が使われたのか知りたいような、知りたくないような。


「今日は何をお求めで?」

「武器の修理を頼みたい」

「修理ですか? それはどのような武器を?」

「これです」


 ずっと俺を見続けている二人の男に、俺の後ろから出てきたヒカルが持っている短剣を手渡した。


「申し訳ないですが、このような粗悪品を私共では取り扱っていませんので」


 短剣を一瞥しただけで直ぐにヒカルの手へを戻して言った。

 NPCの言葉に愕然としているヒカルを後目に俺はこの二人のNPCの言い放った台詞に納得ができないでいる。基本的に店を営んでいるNPCはプレイヤーに協力的だ。なのに、こうも一人のプレイヤーを侮蔑するような言い回しは聞いたことがない。

 もしかするとこのNPCたちの振る舞いに異を唱える声も上がっているのかもしれないが、それはまだ俺の耳まで届いてはいない。ここはこういうものだと割り切っている人が多いのか、それともまだこの店に来たプレイヤーが少ないのか。どっちにしても来てよかったと思えるような店ではないことだけは確かだ。


「行こう。ヒカル」


 自分が感じていたよりも腹を立てていたのか、俺の口調はそれまでに無いほどきついものになってしまっていた。


「あ、お待ちを。貴方様に相応しい武器はこちらに――」

「必要無い」


 店から出て行こうとする俺を呼び止めるNPCの顔は見ないようにして、そのままドアを乱暴に開け二軒目の鍛冶屋から出ていった。

 できるだけ遠くこの鍛冶屋から離れたい。そんな感情が抑えきれず、俺は早足で王都の中心部まで来ていた。

 中心部にあるのは他の町と繋がっている転送ポータル。

 今もそれを使いこの街に来る人が絶えないが、その人たちに言いたい。あそこの鍛冶屋は最悪の店だったと。


「……ユウ?」


 俺がそんな衝動に駆られている頃、ヒカルはようやく追い付いてきたようで息を切らしながら駆け寄ってきた。


「悪かったな。変な店に連れていったみたいで。嫌な思いさせただろ」

「あ、いえ。ユウのせいじゃないですし」

「そうか?」

「はい」


 息を整え、隣に並ぶと、ヒカルはそっと腰のベルトに下げられている鞘から短剣を引き抜き小さな溜め息を漏らした。


「これ、もう直らないんでしょうか?」

「そうだな……」


 ここでそんなことはないと言い切れれば良かったのだが、俺も知らない使用限界がきているという一言にどうしても尻込みしてしまう。


「……どうするかな」


 三度マップを出して三軒目の鍛冶屋を探すが、ふと手を止めてしまった。


「どうかしたんですか?」

「なんか、このまま三軒目に行っても無駄になるような気がする」


 どうもこの街の鍛冶屋は良い印象がない。

 なんかプレイヤー相手の商売など初めからするつもりがないような。


「ヒカルはいつもNPCの鍛冶屋を使っているだったよな」

「そうですよ」

「それはプレイヤーの鍛冶屋は嫌だとかそういうことなのか?」

「ち、違いますよ。単純にそれで十分だっただけで」

「そっか。だったらもう一つ。ヒカルはまだこの街で行きたい場所はあるか?」

「ないですけど」

「それなら最初の町に戻らないか?」


 ここにいても事態は好転しない。ならば俺が行き慣れている町で模索した方が賢明だ。


「最初の町。というとウィザースターですか?」

「そんな名前だっけか?」

「書いてありますよ。ほら」


 今度はヒカルが手元のマップをみせてくる。そこには慣れ親しんだ町並みが記されており、上部にはしっかりとウィザースターという名前まで刻まれていた。


「知らなかったんですか?」

「し、知らないわけないじゃないかあ。……憶えてなかっただけで」

「それを知らないっていうんじゃ……」

「いいから。どうするのさ。行くのか、行かないのか」


 誤魔化すように咳払いをして、ワザとらしく空を見上げ訊ねる。


「えっと、はい。行きます」

「よーし。じゃあそのポータルで一気に戻ろうじゃないか」




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