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ガン・ブレイズ-ARMS・ONLINE-  作者: いつみ
第二十一章
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境界事変篇 25『検証と確保。その先に』


 異常課の研究室へと戻って来た榊の隣にはゲスト用のパスを首に掛けた悠斗がいた。


「こっちに来て」


 悠斗が示した影響を受けていたのは建機ではなくそれを捉えていた映像の方であると言う可能性を検証するのが目的だ。


「あれ? 榊さん。進藤さんと一緒に現場にいたんじゃ」

「ちょっとやることがあって戻って来たの。そこを代わってくれる?」

「え? あ、はい。わかりました」


 戻ってきた榊に声を掛けた篠原はその指示に従い席を譲った。


「現場の映像は、これね」


 同時にいくつもの映像をモニターに出した。そこにあるのはブルドーザーが工事途中のビルに突っ込んだ事故現場の映像。同じ場所を異なるカメラで捉えたもの。映像を戻して事故直後を確認してみるもそこにあったのは誰も運転していないブルドーザーが独りでにビルに突っ込んでいるだけだった。


「どうしたんですか? この映像は何度も見たじゃないですか」

「これを見て何か気付いたことはある?」


 榊がしようとしていることの意味が分からないと問い掛ける篠原を無視して榊が聞き返した。


「気付いたことですか? 特に何もないですけど」

「そう」

「これに何があるって言うんですか?」

「どうかしらね。ただこの映像の方に問題がある可能性が出てきたの」

「ええ!?」


 驚く篠原はガッと体を乗り出してモニターに顔を近づけた。


「変なとこなんてどこにもないと思いますけど」

「そうよね。それにどれか一つが細工されていたとしたら、あきらかに目立つはずだし」

「細工って、どう見てもなにもおかしなところはないでしょう? 誰なんです、そんなことを言い出したのって?」


 椅子に体を預けてモニターから離れた榊とは違い篠原はモニターを凝視したまま訊ねている。

 榊は声に出さず視線だけでその人物が誰であるのかを伝えた。


「ちょっとちょっと、まさか素人の言ったことを真に受けたんですか? 榊さんらしくもない」


 提示した人物が人物だけに篠原はその可能性を早々に唾棄してゲストパスを下げた悠斗を訝しむ視線を向けた。


「ほらわかっただろう。映像が細工されたなんてことはないの。これは建機が遠隔操作されて起こった事件ってわけ」


 上司でも部下でもない。それどころか警察組織に属してもいない悠斗を相手に篠原は若干強気な口調で告げた。

 しかし悠斗は釈然としない表情を浮かべ、二人が視線を逸らした映像をじっと見つめている。


「君は何か気付いたの?」


 諦めていないのか、納得していないのか。どんな些細な異変であっても見逃さないぞと見続けている悠斗に榊が問い掛ける。

 すると疲れた目を閉じて眉間をぎゅっと押しながら悠斗は残念そうに首を振るのだった。


「あの、事件が起こる前と後の映像ってありますか?」


 ほらぁと声に出したも同然なくらいの表情を浮かべる篠原を一瞥することもなく、悠斗は異なる提案をした。


「まだ諦めてないんですか? どうせ何も出てきませんよ」

「それに私たちも確認済みよ?」

「わかってますけど、念のために」

「そう。いいわ。ちょっと待って」


 キーボードを叩き悠斗が求めた映像が表示される。

 そこにあるのは事故の前の人気のない工事現場と事故後の捜査員が大勢いる現場の映像だった。

 じっと見つめて疑わしい処は何もない。そう判断するしかないかと思ったその時、事故が起こる前の映像に微かな違和感を覚えた。


「すみません。自分で操作してみても良いですか?」

「ええ。どうぞ」


 断りを入れて事故前の映像を拡大表示する。

 同じポイントを映した異なるカメラの映像。それらをじっと見ている悠斗の後ろで榊でも篠原でもない異常課の職員の一人である門脇(かどわき)という名が記されたネームプレートを白衣に付けた女性がハッとした顔をした。


「門脇さん?」

「何か気付いたのなら教えて」

「あそこ。何か映っていませんか?」


 門脇が指さした映像を篠原がさらに拡大させる。


「これって」

「鳥、よね?」

「はい。ですか、こっちの映像では」


 と異なる映像を門脇が指をさす。そこには、


「何も映っていない?」


 そこにあったのは綺麗な雲一つない青空。事故が起こる直前、ほんのわずかな時間にだけ現れた晴天の空だった。


「まさか、そんなこと」

「全員で映像を再検証。どんな小さな違和感でも構わない。見つけ出して」


 信じられないと自分の目を疑う篠原を余所に榊はすぐさま異常課の面々に指示を送った。

 異常課が忙しくなる。

 誰もが自身のPCを操作して微かな異常でさえも見逃さないようにとモニターを睨んでいる。

 すると堰を切ったように見つかりだすいくつもの違和感。それが特に多く見られたのは事故の前であり、事故の後は数えられるほどしか発見されなかった。


「決まりね」


 報告に上がるいくつもの異常を検証した結果、榊は悠斗が言っていた映像が細工された可能性を認めた。

 そして試みられたのは映像の復元。しかしそれは成功することはなかった。

 まるで最初から異常が無いことが正常であるかのように、人の感覚で掴み取った異常をかき消さんとする映像に誰もが思うのはただ一つ”自分の見間違い”。しかしそれは違うと明言された状況だからこそより浮き彫りになるピースを繋ぎ合わせていく。


「映像だけではこれ以上何もわからないか」


 バラバラだった映像を繋ぎ合わせるもできあがったのは大量の虫食い状態。

 それでは何もわからない。

 であれば別の角度からの検証が必要となる。

 腕を組み思考を巡らせている榊はそもそもどうやって映像に細工を施したのかを考えた。

 誰がも重要だが、いま大事なのはどうやって。

 一つのカメラを細工するのは簡単だが、周辺一帯を同時にとなると普通はできない。


「まさか。このカメラの設置されている施設でクローズネットが試用されているのは?」

「はい?」

「すぐに調べて」

「はい!」


 榊の指示を受けて篠原は実証実験が行われているリストを確認した。


「わかりました。でもクローズネットが搭載されている施設のカメラは一つだけみたいですよ」

「だったら、それと繋がっているのは?」

「繋がっているのは……えっ」


 篠原が驚いた顔で手を止めた。


「ここにある全部が繋がってます。どうやら同じ警備会社が設置したカメラのようで、全て同機種、全て同じ場所から管理されています」

「もう一つの現場も調べてみて」

「はい」


 自身のモニターに映る映像を一度全て消して篠原はもう一つの事故現場を調べる。

 同じ条件となるものをリストから探してそれが繋がっているものを探る。


「ありました」


 報告する篠原が該当のカメラを表示してそこにある違和感の写真を拡大させた。


「やっぱりここも同じ状況だったみたいです」

「そう。だとすればこれらの他にも同じ状況にあるカメラがあるか調べられる?」

「やってみます」


 この条件に当てはまる場所はそう多くないという榊の予想通り、篠原が調べて発見できた中で、まだ何も起こっていない場所は三つ。どれも工事途中の現場であり様々な事情があり現状工事が滞っている場所だった。


「ここでも何か起こる可能性があるというんですか?」

「あるいは既に起こっている可能性もな」

「そんな」

「現在の映像を確認することはできる?」

「やってみます」


 ここに部外者の悠斗が居ることなど既に忘れ去られて、本来見ることのできない映像が異常課のモニターに表示された。


「映像を少し前に戻して今回の映像と同じ細工が施されていないか確かめてみて」

「クローズネットと繋がっているカメラならなんとかできるかも知れませんけど、全体の映像を確かめるのなら映像を取り寄せた方が確実ですよ?」

「はっきりと説明できる理由がないわ。私たちが探しているのは映っていない映像なのだから」

「あの、今更ですけど、こんなことして良いんですか? 映像の検証までならわかるんですけど、今の映像を勝手に見るなんて」

「気にしないで。これも大事なことよ」

「いや、そういう問題(こと)じゃなくて」

「大丈夫、とは断言できませんが、重要なことなのは理解しています。ですが、ここまで来て調べないなんてことはできません。責任は私が取ります。確認を急いでください」

「はい」


 そう言って現れた三雲はそのまま部下に指示を出した。

 指示を受けて篠原は該当のカメラから異常を探し出す。無論一人では手が足りず異常課の力を総動員してのことだった。

 結果、映像に細工が施されている可能性があるのは三つの内の二つ。それ以上は映像だけでは絞り込むことができなかった。


「どうしましょう」


 手を止めた篠原が助けを求めるように榊の顔を見た。


「二つに一つ。こうなれば同時に現場に捜査員を向かわせるしかなさそうですね」

「ちょっと待ってください」


 三雲がそう指示を出そうとするのを悠斗が止めた。


「カメラに映っていなかった理由はわかりましたけど、それよりも気になるのが」

「何ですか?」

「どうして誰も見ていなかったんでしょう? 中断されている工事現場だったとしても誰も近くを通らないなんて変じゃないですか?」


 悠斗の疑問に異常課の面々は口々に確かにと呟いた。


「だとすれば人がいない時間を見計らって事故を起こしたとか?」

「いや、そうなのだとしても、二件とも同じようなタイミングがあったとは考え難い。それこそ夜中ならあり得るかもしれないが、事故が起きたのはどちらも日中だ」

「まさか犯人が自分で人がいない状況を作り出したって言うんですか?」


 ありえないだろうと言う篠原に榊たちは神妙な顔と無言の沈黙で答えた。

 まさか自分の発言が的を射ていたなどと信じられない篠原は尚も「嘘でしょ?」と問い掛けている。


「そうね」

「今回の犯人というのが実行犯のことではなく、この状況を作り出した人のことを指すのなら、絶好の状況を作り出すこともありえるというわけですか」


 神妙な面持ちの榊と三雲が深く息を吸い込んだ。


「しかしそうなら逆に現在(いま)も事故が起こりうる可能性がある場所を推測することができるかもしれません。対象の周辺の交通情報を調べてください。普段にはない交通量の低下がみられるのなら…」

「事前に通知の無い道が通行止めされているという通報の記録があります」

「そこが次の事故現場です」


 部下の報告を受けて三雲がそう結論付けた。


「出ている進藤君にすぐに該当の場所に向かうようにと連絡を取ってください」


 この指示が出てから程なくして異常課にとある知らせが届けられる。

 それは大沢と共に進藤が建機に乗り込み工事現場で事故を起こそうとしていた実行犯を確保したという報告だった。

 時は少し巻き戻る。

 榊から連絡があり進藤が向かったのは工事が中断されている場所。どうやら一軒家が建てられる予定だったらしいが、何やら問題が起こり建設が途中で中座してしまったらしい。

 基礎が作られ、次は柱を建てるという段階で止まったそれはこれから先どうなるのかと近隣住人の注目の的となっていた。

 しかしこの日近隣住人は町内会の行事によって近くにある公民館に集まっていた。今時珍しくも町内会の活動が活発な区域だったために一時的ではあるが人の目というものが消えたのだ。

 加えてその場所に至るまでの道で奇妙なことが起こる。

 度重なる赤信号に見舞われて回り道を行く者もいれば、工事中に付き通行止めという立て看板が置かれている道もあった。

 申請の無い通行止めだと一度は警察によって除去されたものの、どういうわけかそれらはすぐに再度設置された。

 誰かの悪戯とするにはあまりにも悪質。

 何らかの目的を以って設置されたと考えられていた付近の警察は異常課からの情報提供を受けてその意味を知るのだった。

 そこで事故を起こすことを諦めてくれればよかったのだが、実行犯と状況を作り出した犯人が別となれば関係がないのか、想定していた通り、建設途中の現場に向けて一台の軽トラックが近づいていた。

 が、既に事故が起こる可能性を考慮していた警察は建設現場を囲むように簡易壁を設置していた。これにより事故を起こそうとした軽トラックは建設途中の家屋に被害を与えられず、事故はギリギリの段階で防がれていたのだ。

 軽トラックから降りて来た実行犯を現場に急行していた警察官と協力して確保した進藤たちはその素性を後に知ることになった。

 実行犯は家を建てようとしていた夫婦の上司の女。動機はこの夫婦の夫に勝手に思いを寄せて幸せの象徴である家が完成するのを妨害したかったかららしい。ちなみに建設を中断せざる得なかった理由というのもこの女上司による嫌がらせであり、奇しくもこうして逮捕できたお陰でこれから工事は滞りなく進むことになるだろう。


「にしても、あの女はやっぱりただの実行犯って感じだな」

「そうですね」


 連行されていった女を見送って周辺の調査をしながら大沢が進藤に声を掛けた。


「カメラはあれか」

「他にもあるみたいですね」

「ああ。そうだな」


 真っ先に目に入ったのが近隣住宅の軒先に設置された防犯カメラ。一つ見つければそのまま別のカメラも発見できた。


「どれが例のカメラなのか、分かるか?」

「情報によればこの機種みたいですけど」

「さすがにここからじゃわからないな。とはいえカメラを探して近づくのも危険か」

「かもしれませんね」


 警察の介入は工事中の現場に壁を設置した時にバレているだろう。それでも犯行を中止しなかったのは実行犯は捕まっても構わないと考えていたからか。


「あ、榊さんからです。クローズネットに繋がっているカメラはこの近くの会計事務所に設置されているらしいです」


 電話ではなくメッセージとして地図と共に送られてきた情報を大沢に伝えた。


「わかった。おれたちもそこに行ってみるとするか」

「はい」

「その前にだ」

「はい?」

「進藤は車で向かえ。その意味は分かるよな?」

「は、はい」


 直接歩いて会計事務所に向かう大沢と別れて進藤は自身の車に乗り込んだ。

 そして目的地に着くと車から降りることなく座席を倒して軽く横になった。


「ここからなら繋がるはず」


 元来スタンドアローンであるクローズネットだが、それをメンテナンスするためにもログインする手段は用意されている。

 進藤はそれを使い自らかの世界へと赴いていく。

 想定通り進藤が足を踏み入れたのはクローズネットの世界。

 そしてその様相はまるで病院のような建物の中だった。


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