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ガン・ブレイズ-ARMS・ONLINE-  作者: いつみ
第二十一章
679/683

境界事変篇 22『事件現場』

申し訳ありません。

予約投稿日時を一日間違えて土曜日になってました。

次回はいつも通り金曜の夜八時になります。


「おぉぉ、ここが現場ですか」


 などと場違いなほど軽薄な口調で呟いたのは先程までは榊と言い争っていた間宮だった。

 その隣には内田が疲労を隠すことができていない顔で並んでいる。


「あの、どうしてこの二人がここにいるんです?」


 声を潜めて進藤に問いかけたのは篠原。普段は現場に出ない彼も今回に限っては進藤に同行するようにと三雲に命じられていたためにこの場にいるのである。


「事件の情報はこちらにも入ってきているんです。それに今回の事件は事によってはそちらよりも我々の領域になるかもしれませんよ」


 聞こえないように言ったつもりが聞こえていたらしく、間宮は好奇心に満ちた目で周囲を見回しながらも篠原に耳打ちするように告げる。

 驚き仰け反る篠原を無視して間宮は内田を引き連れて歩き出す。近くにいる捜査員たちの奇異の視線を受けながらも平然と歩く内田は自身が気になる端から首を突っ込みに行ってるようだ。

 慌てて二人の後を追う進藤たちだったが、間宮の後を付いて歩く内田の目はどこか虚ろな印象が残り、長い距離を走った後のマラソンランナーの如く重い足取りだった。


「あれ? 進藤さん、あの人の手…」

「わかってます」


 小声で話しかけてきた篠原が見つめているのは片手をズボンのポケットに入れたままの内田。癖やかっこつけではないその所作の意味に想像がついている進藤は苦い顔をして頷いていた。

 模擬戦闘を終えて現実に戻り異常課の研究所にいる間宮たちの元へと向かった時に進藤が真っ先に視線を送ったのは内田の右手だった。仮想世界で自身が切り飛ばしたそれは従来の機器ならば影響を及ぼさないはずだが、クローズネットを模している異常課の仮想世界では感覚、特に痛覚という点において現実に匹敵する。そのためにどんな影響が出ているのか気になった進藤が真っ先に目をやったのは自身が切り飛ばした内田の右手だった。椅子に座っていた時は何でもないように見えた。しかし彼らが異常課から出ていくときには今と同じようにポケットに手を入れていた。それが何かを隠すためだったとしたら。

 素直に聞けば答えてくれるかわからないとはいえ一人で悶々と悩んでしまっている自分がそこにいた。

 自分がしたことの責任は自分が取る。いつもそう考えている進藤だったがもしあの戦いが元で彼に消えない傷跡を刻んでしまったとしたら、そう考えるだけで訊ねる勇気がでなかった。

 格闘技であっても、武術の試合であったとしても、それが合意の上だったとしても後遺症の残る行為を自分がしたのならば無視していいことじゃない。

 しかし、今は事件の方が優先だ。

 不安と心配を振り払うように頭を振って目の前の惨状へと目を向ける。


「うっ」


 ブルーシートに覆われていて離れた場所からでは何もわからないそれも、規制線の内側に入り近づくとその奥にあるものが薄ぼんやりとわかってくる。

 口に手を当てて惨状から目を背ける篠原は現場に慣れていないからこそだと理解できる分だけ、目を爛々と輝かせて覗き込もうとしている間宮が奇妙なものに映った。


「ささ、まずはお二人から」

「あ、ちょっと」


 身を乗り出して覗き込もうとしていた間宮がわざとらしく後ろに下がり進藤と篠原の背中を押して強引に前に向かわせる。

 現場を直視することに抵抗のある篠原とは違い現場に慣れている進藤は素直にブルーシートの元へと近づいていく。


「こういう時は警察からというのがお決まりですからね」


 確かに進藤たちを先頭にしていれば自分たちの身分を明かす必要はないかもしれない。

 間宮が浮かべている胡散臭い笑みは幾ばくかの警戒心を抱かせるものの先頭にいる進藤の身元が明らかであるために近くにいる捜査員たちはあえて何かを訪ねてくることはなかった。

 いよいよブルーシートに覆われた場所が近づいてくる。

 ついには顔を背け足取りを重くする篠原を間宮が追い越した。


「篠原さんはここで待っていてもらっても」

「い、いえ。僕も行きます。僕だって警察の一員なんですから」

「わかりました」


 間宮には聞かずとも構わない。内田は今何を聞いたところで上の空の返事しか返ってこない気がする。


「失礼します」


 仕方ないと大きなため息を吐いて進藤は張られたブルーシートを潜る。

 途端に漂ってくる不快な鉄臭さ。

 まず目についたのは工事現場にある重機ブルドーザーが壁にめり込むように停まっていること。

 そして視界の端に映る赤黒い何か。


「おぉおお」

「あ、ちょっと!?」


 場違いな声を上げる間宮が進藤の制止を聞く間もなくブルドーザーの元へと駆け出す。


「僕たちも急ぎましょう」

「は、はい」


 進藤が慌てて追いかけてその後に篠原が渋々といった様子で続く。最後に残った内田は変わらぬ重い足取りでその後を付いてきていた。

 間近で見た現場は想像していたよりも綺麗だった。

 ブルドーザーがぶつかった壁が崩れていることとその端に見える赤黒い染みは気になるが、ここが倉庫の建設途中現場であるために資材や機材はある程度整頓されていた。


「死人が出る可能性、か」

「どうしました?」

「あ、いや、何でも」


 不意に三雲の口から伝えられたその一言が思い出される。

 これまでの事件でも怪我人はいた。機械の誤作動のような事件ならまだしも、爆発事件のようなものまで起きていたのだ。被害者が出なかったなどということがありえないことはわかる。しかし、今回の件は巻き込まれた被害者が出たのではなく、被害者が始めから狙われていた可能性が高いというのだ。

 そのことを聞いた瞬間に進藤は刑事の血が騒いだのか表情を険しくし、榊は深刻そうな顔をして異常課を飛び出してしまった。

 この現場を目の当たりにしてもまだ事件であるという確信は持てなかったのか捜査員たちは必死に何かを探し、それに合わせて鑑識の人たちも目を皿のようにして調査している。

 明確に邪魔だと言われたわけではないものの、ある意味で部外者な自分たちが現場を歩き回ることが邪魔でしかないことくらいは解かる。

 居心地の悪さを感じてる進藤とは違い、間宮は平然とした様子でブルドーザーへと近付いて行き触れそうになったのを近くの鑑識さんに注意されていた。


「僕たちこれからどうするんですか?」

「とりあえずは現場(ここ)が落ち着くまでは待って…あっ」


 邪魔をするのは本意ではないとある程度の調査が終わるまで待とうと言おうとして何かに気付いた。事前の連携があまり取れていないのか突然の乱入者である進藤たちを一瞥しただけでここにいる捜査員が話しかけてくることはなかったからこそ一人の男性が近づいてきたのが目立ったのだ。


「大沢さん」

「おう。来たか」


 くたびれたコートを着た大沢が片手を上げて応える。


「早速で悪いんですけど、いいですか?」

「ああ。何でも聞いてくれ。言えることは言うからよ」

「言えないことは?」

「それは、それってやつだ」


 明言を避ける大沢に進藤は肩を竦める。

 既に分かれて行動している間宮たちを呼び戻すことはしないで進藤と篠原は大沢に手招きされて現場の端へと移動するのだった。


「何があったんですか?」

「簡単に言えばブルドーザーに作業員の一人が轢かれた。病院に運び込まれて治療中って話だが、正直どうなるかは分らんな」


 顔を顰める大沢の言葉に進藤たちは赤黒い染みの正体が予想通りだったことを知る。


「これ、事故じゃないって聞いてるんですけど」

「っても事件と判断されたわけでもない。何せ、あのブルドーザーは無人の状態だったって話だからな」

「どういうことですか?」


 ブルドーザーから離れたことで落ち着きを取り戻したのか顔色が平時に戻った篠原が聞き返した。


「そもそも今日ここは休みだったらしい」

「では被害者はどうしてここに?」

「最近現場に侵入者があったらしくてな。それそのものは近隣の不良学生が度胸試し的なものだったらしいが、念のためにってことで注意喚起の見回りをしていたところで間が悪くってことみたいだが、どうだかわからんな」

「どうだかって、それってただの偶然なんじゃないんですか?」

「偶然誰も乗っていないブルドーザーに轢かれたってか? ありえないだろ」


 それが本当ならば不運だなどという言葉では片付けられない。


「それこそ自動運転機能の誤作動とかじゃないんですか?」

「こんな事故が起きたとなればメーカーにとっては死活問題だ。第一ここにある重機にはそんな御大層なものは搭載されていなかったって話だ。なんでも開業当時に中古市場から購入したもので、自動運転機能も駐車時以外は機能しないくらい旧型だったらしい」

「だったら、遠隔操作、とか?」


 篠原の言葉に大沢は違うと首を横に振った。


「電子制御はあるが、それも旧型の代物だ。勿論”あれ”が搭載されているわけじゃない。遠隔操作は無理だな」

「するとブレーキの故障ですか?」

「鑑識によれば整備は問題なかったらしい」


 思いつくままに可能性を提示するもそれらは全て否定されてしまった。

 意味が分からないと互いの顔を見合わす進藤と篠原。


「何も分かっていないってことですか?」

「嫌な言い方をすれば何も分からないことが分かったってことだな」


 再び顔を見合わせる二人。


「おれらとは違う視点で見た時に気付いたことがあれば何でもいい、言ってほしい」

「それは別にいいですけど」


 と篠原の視線はブルドーザーの周りをうろちょろしている間宮に向けられた。


「まあ下手なとこに触らなきゃ問題ない。一応上の方からお達しはあったからな。何かあれば上が責任を取るだろうさ」


 まともに上層部がいち職員がしでかしたことの責任を取るとは思えずに篠原は怪訝そうな顔をした。


「ああ。何がともあれだ。おれはこれはお前さんら向けの事件だと思ってな」

「刑事の勘ってやつですか?」

「まあな」

「では大沢さんが僕たちを呼んだんですか?」

「いや、進藤(おまえ)らを呼んだのは上だ。彼らが現場に入る条件としてこの件を担当するっていうお偉いさんが半ば独断で呼んだらしい。おまえらの上司がしたってわけじゃなかったのか?」

「いえ、僕は何も聞いていないですけど」


 確認するように進藤を見てくる篠原に、進藤は同意だと頷く。


「何がともあれおまえらも捜査に参加できるってわけだ。頼りにしてるぞ」

「は、はい」


 バンっと進藤の肩を叩いて大沢がいう。

 そこで突然現場が騒がしくなった。

 何事かと思っていると駆け寄ってきた警察官の一人が大沢に耳打ちした。


「わかった」


 重い口調で頷く大沢に若い警察官は敬礼をして持ち場に戻って行く。


「どうしたんですか?」

「被害者が息を引き取ったらしい」

「えっ?」


 ぎょっと目を丸くする篠原が引き寄せられるようにブルドーザーを見た。

 事故現場だったそれが死亡事故現場に変わった瞬間だった。


 時を同じくして別の場所。

 異常課を飛び出した榊が向かったのは百市(ももし)大学の麴町研究室だった。

 複数の学生がいる研究室を突っ切って教授である麹町の部屋を訪れた榊は神妙な面持ちで用意してきたノートPCを開いて見せた。


「これは?」


 画面を一瞥して麹町が問い掛ける。


「いきなりで申し訳ないのですが、教授(せんせい)の力を貸していただけませんか?」


 真剣な顔で榊が頭を下げた。



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