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ガン・ブレイズ-ARMS・ONLINE-  作者: いつみ
第二十一章
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境界事変篇 21『嫌な手応え』


「は、はは。はぁーーーはっはっはっ」


 高揚心が抑えきれず高らかに笑うコーダーから聞こえてくる声はどこかそれまでと違うノイズのようなものが混じっていた。

 見た目は全く変わっていないというのにどういうわけかそれまでとは異なる雰囲気を纏ってじっと身構える進藤を見つめてくる。


『内田さん。調子はどうですか?』

「悪くない気分です」

『ですが気を付けてください。その剣はまだ試作段階のものなのですから』

「わかっています。けど、私が勝つにはこれが必要なんです」

『健闘を祈ります』


 本来コーダーにだけ届く間宮の声だが、同じ場所にいる榊が身に着けているイヤモニが拾った音声が進藤の元にも届けられていた。さらに二人の人物が言い争う声。声を荒らげている話の内容が気になりつつもコーダーから受ける言い表せない独特な威圧感を前に目の前の状況に集中せざるを得なかった。


「あの剣から何か嫌な感じがする」


 榊から早く倒すようにと言われても正直なところ一撃でコーダーを停止させられるような攻撃手段に心当たりを付けることができずにいた。

 それでもやると答えたのはそうしなければ内田の方が危険であるとひしひしと感じ取っていたからだ。


「そぉら」

「はぁっ」


 語気荒く抜身の剣を手に襲い掛かってくるコーダー。進藤はその攻撃を余裕を持って避けると剣を持つ方の手首に向けて手刀を放ち武器を手放させようとするも固く握られていた拳は開くことはない。


「何かしましたか?」


 まるでその形で固定されているかのような状態に戸惑い顔を顰めてからGM05は大きく後ろに跳んで距離を取った。


「そんな、効いていない!?」


 武器を持つ相手と戦うのならば自分も武器を使うべき。GM05の装備を思い浮かべてみるも、用意されているそれら全ては軒並みシャドーマンや化けなんとかというイレギュラーな存在を倒すことを目的に特化して作られているせいもあって、できるだけ傷付けず相手を制することを目的とした時に使えるものはない。

 仮にコーダーがGM05と同じようなもので高い防御力を持っている。それこそ数回攻撃されたくらいならば無傷でいられるものだとしても、自分が使う武器の攻撃まで耐えられるかはわからない。

 などと考えつつ、攻勢に出られないままでは防御一辺倒になってしまう。進藤が人に向けるべきではない武器を使うことを躊躇している間もコーダーは遠慮なく攻撃を繰り出してくるからだ。

 振り下ろされる剣を避けて、突き出される一撃も避ける。

 問題なく回避できているといえば聞こえはいいが、結局は積極的に攻められてないだけにすぎない。


「ははっ、逃げないでくださいよ!」

「そんなわけには」

「だったら反撃してみますか? 私は構いませんよ。全く効きませんからねえ!」


 コーダーの大振りの一撃をGM05は床を転がりながら回避する。

 自分も武器を使わなければ有効な攻撃はできない可能性が高い。けれど武器を使えば過剰なダメージを与えてしまう恐れもある。

 手をこまねいている間に圧倒的に不利な状況に追い込まれ、戸惑い思考を鈍らせている間に対処が遅れてしまう。

 そうして次第にそれまで余裕を持って回避できていたコーダーの振るう刃が徐々にGM05の体を掠め始めた。


「はっ。当たったぁ」

「くっ」


 小さく舌打ちをしてさらにそれまでよりも大きく後退する。


「このままじゃ……えっ」


 軽く拳を握り構えを取り相手の出方を窺っていると不意にコーダーが何か痙攣したように体を震わせた。


「あっ、がががっがががっががっががが」


 大きく体を震わせるコーダーはそれでも倒れないことそのものが奇妙であり強い違和感を覚える。


「榊さん。彼は急にどうしたんですか?」


 声を低く問い掛ける。しかし返答はない。


「くそっ。どうして何も答えてくれないんですか!?」


 痙攣を続けるコーダーを見守ることしかできないことが歯痒く、拳を床に打ち付けることで苛立ちを押さえつける。

 進藤は動き出せないまま見つめ続けていたコーダーが程なくしてガクリと大きく項垂れた。

 足は支柱が入っているかのように床を離れずビクともしない。だがその上半身は糸の切れたマリオネットのように力なく倒れてしまっている。


「お、おい。大丈夫か?」


 心配になり声を掛けてみる。

 進藤の声に反応したのか急に上体が起きて仰け反るように立ったのだ。


「は、ははっ」


 乾いた笑い声が響く。

 虚ろに見える瞳がGM05を捉えゆらりと頭を揺らしながら近付いてきた。


「どうしました? まだ戦いは続いているのですよ?」


 声に混ざるノイズが増えた。

 コーダーから感じる独特な威圧感に怯むものかと前に出ようとするも、進藤の足は地面に縫い付けられたように動かない。

 仕事柄進藤はそこに敵意や害意のようなものが含まれていれば慣れているが、コーダーから感じるそれにはそういうものが一切感じられず、まるで無垢な子供がもつ無邪気な残虐性に晒されているような気分になった。


「くっ、何で」


 動かない自分の足を叩く。


「動け、動けよ!」


 自分を鼓舞するように声を出すと足に力が戻った。

 すかさず眼前に振り下ろされる刃を大きく転がるように前転することで回避してみせた。

 ごろごろと床を転がり起き上がって視線をコーダーへと戻す。

 剣を床を強く打ち付けた様を見てふとコーダーに感じていた違和感の正体が分かったような気がした。

 仮にこの状況を現実に当て嵌めてみる。

 進藤が使用しているGM05を人が着る鎧のようなものと仮定すれば、コーダーはその逆。強引な言い方をすれば鎧が纏う人を自らの骨格として動いているのだ。

 つまり主導権は人ではなく鎧の方。

 だからこそコーダーはそれを使う人の状態は関係ない。

 それこそ、生きていようが、死んでいようが。

 浮かぶ考えを否定するように進藤は強く頭を振った。事実死んでいても問題ないなんてことはありえない。死んでいては仮想世界に繋がることさえも不可能だからだ。

 ならば内田の現状はどうなっているのか。外部から切羽詰まった報告がないことからも大きな問題は起きていないはず。しかし先程の榊の言葉から察するに彼女はコーダーの何かに危機感を抱いているのは間違いない。

 会話ができていることがまだ彼の無事なことの証明だとすればまだいいが、それすら関係ないのだとすれば。あまり時間は残されていない。そう思わずにはいられなかった。


「シャドーマンみたいに倒す必要はない。ただ機能停止に追い込めばいいだけなのに」


 仮想世界との接続が切れれば内田の意識は現実に戻される。

 唯一にして確実な解決策は提示されているというのに、それを現実に手繰り寄せるための手札がない。


「あ、ががっ」


 程なくしてコーダーの痙攣が収まった。


「はぁぁぁぁぁ」


 首がだらりと垂れて、両腕から力が抜ける。それでも手放さない剣は握られたまま脱力したコーダーはゆっくりとその顔を上げた。

 頭部にある真っ黒なゴーグルの奥に金色に輝く二つの光が浮かび上がる。


「随分と体が軽いですね」

「なっ!?」


 途端コーダーはそれまでよりも速く動く。

 まるで体にかかる負荷のことなど微塵も考慮しないかのような動きに回避が間に合わず進藤は咄嗟に両腕を体の前にクロスさせることで身を護った。

 ガリガリガリと嫌な音がする。

 振り下ろされた剣の刃の向きがズレてしまっていたことでGM05の腕は切り落とされずに済んでいたが、腕に取り付けられた装甲の表面に蜘蛛の巣のような亀裂が広がっていた。


「腕が…」


 この攻撃を行ったことでコーダーが持っている剣は大きく歪んでしまっている。さながら蛇行しながら進む蛇のようだったそれも次の瞬間には修復されて元の綺麗な状態に戻っていた。


「もう一度です」


 痺れが残る両腕を無理矢理動かして体の前で構えるとまたしてもコーダーはその上から強く剣を打ち付けてきた。

 武器の使い方を知らない素人のように振るわれる剣。

 刃物ではなく鈍器のように使われるそれはいつ本来の使い方がされるのかわからない。運が悪く剣が当たる直前に刃が向けられることだってあるだろうからいつまでも防御してはいられない。

 だが後ろに飛び退いて回避しようにもコーダーの動きが速すぎて間に合わない。


「おや?」


 剣を振り抜いてしこたま強く床を叩きつけたせいだろうか、剣を持つ方の肩が外れてしまったみたいにだらりと腕が垂れた。


「ふむ?」


 小首を傾げて反対側の手を肩に当てて肩を嵌めて変わらぬ感じで剣を振るう。まるで痛みを感じていないような仕草に進藤は強く怪訝そうな視線を向けた。

 その後、数回攻撃を防御することで進藤はようやく間合いを掴み、次第に回避することができるようになっていった。

 しかしコーダーの攻撃を避けているだけでは好転しない。

 拳を握り自ら攻撃に出ようとしてもそれが有効なのかどうかさえ自信が持てないでいた。


『進藤君。ちゃんどしなさい! 彼を止められるのは貴方だけなのよ』


 ひたすら防御に徹して好機を待ち続けることしかできない進藤に榊の檄が飛ぶ。


「でも、こちらの攻撃が」

『だったらどれでもいいから貴方も武器を使いなさい。使い方さえ間違えなければ彼に大きなダメージを残すことはないはずよ』

「わかりました」


 榊の言葉を信じて進藤はGM05の装備の一つである剣武器GM05Bを取り出した。


「ハッ」


 体に沁みついた剣道の構えを取りがむしゃらに振り回されるコーダーの剣を打ち払い、すかさずにコーダーの手首を狙って強く打ち込む。

 剣を手放せようと自らの手刀で打ち込んだ時よりもGM05Bを用いた時の方が威力が高いのは明白。この一撃でコーダーの手首から先を切り飛ばしてしまわないかと危惧していたがそれもどうやら杞憂に終わりそうだ。


「ぐぐっ、何を――!?」

「これだけじゃ手放さないのか」


 熟練者のそれがまともに命中すれば剣を握ってなどいられない。それは剣道の鍛錬の時に自分の身をもって知ったことだ。ましてクローズネットと同じように痛覚が現実と同等かそれ以上に残る訓練場では堪えることなどできるはずもない。

 だというのにコーダーの手にはまだ剣がある。

 GM05Bの一撃が直撃した瞬間に手が開かれたのは見た。しかしその手から剣が落ちることなく張り付いたままであることもまた目撃していたのだ。

 最初に手刀を食らわせた時にチラリと見た時には見間違いだろうとしか思わなかったことも、あれだけの強さで打ち込まれたのに関わらず握られたままであることからあながち見間違いではなかったことに気付いた。


「止むを得ない」


 この場所に立った以上は多少の痛みは覚悟の上だろうと自分も相手を傷付ける覚悟を決める。強く打ち付けても武器を手放さないのならば今度こそ切り飛ばさなければならないだろう。

 深く息を吸い込んで意識を研ぎ澄ます。

 兜の奥に隠れた内田の顔を想像してみる。自分の意志とは関係なく体が動くのはどういう感覚なのだろうかわからないが、軽く考えてみたとて決して気分の良いものではなかった。

 であれば彼を解き放ちたい。助けるべきだと自分に言い聞かせてから溜め込んだ息を吐き出して体重を乗せて踏み込む。


「ハァッ」


 先程と同じ場所に狙いを定めて剣を持つコーダーの腕を切り飛ばすべくより勢いを付けてGM05Bを振り抜いた。


「どうだ?」


 すれ違うように通り抜けた進藤が振り返ると目論見通り剣を握るコーダーの片手が宙を舞った。


「あぁっ」


 普通片腕を切り飛ばされれば尋常じゃない痛みに蹲るものだ。だというのにどういうわけかコーダーには微塵も動揺した様子はない。それどころか痛みなど一切感じていないように変然と進藤のほうを見つめている。


「小賢しい奴め」


 やっぱりおかしい。

 どう考えても普通じゃないコーダーの様子に進藤は抑えきれない忌避感を覚えた。

 できることなら対峙したくない。逃げ出せないのならば、一刻も早くコーダーの方を自分の前から消してしまいたい。そう強く思わずにはいられないほど。

 自分の戦いを見ているであろう榊たちはこれを見てどう感じているのだろうか。自分と同じように感じているのか、それとも。


「それを拾うのか」


 現実逃避をするように別の事を考えている進藤の目の前でコーダーは自身の手が張り付いたままの剣を拾いその切っ先を向けてきた。


「腕一本だけじゃ止まらないってことなのか?」


 残るもう片方の腕も切り飛ばさなければ止まらないのならば止むを得ない。構わず向かってくることに戦慄しながらも冷静になるように努めて再び前に踏み込んだ。

 が、一度見た攻撃は現在(いま)のコーダーであっても対処が可能なようで刃が当たる直前に防がれてしまった。


「どうですか?」

「まだ!」


 そこで活きたのがこれまでの経験。素早くGM05Bから右手を放し、空いた手の中に銃武器であるGM05Sを出現させると躊躇わずにトリガーを引いた。

 タタタタタっと断続する発砲音が轟く。


「あああああぁぁぁ」


 撃ち出された弾丸がコーダーの腹を幾度となく打ち付けることで堪らずにコーダーは後ずさる。

 積み重ねたダメージがようやく表面化したのかコーダーはがくっと膝から崩れ落ちた。


「あ、あれ? どうして?」

「ようやく止まったのか」


 片腕を切り飛ばした以外目立った傷はない、しかし与えたダメージは間違いなく存在する。それが積み重なった結果停止に追い込むことができたのかと安堵の息を吐きつつ警戒は残す。

 右手に持ったGM05Sの銃口を向けたまま一定の距離を保ち続けてコーダーの次の動きを待つことにした。

 どれくらいの時間こうしていたのか。

 長いようで短い静寂の中、突然コーダーの体が光に包まれて消えた。


「えっ?」

『やっと彼はこちらから強制的なログアウトさせられたわ。進藤君も一度こっちに戻ってきなさい』

「わかりました」


 聞こえてきた榊の声に従って自分も現実へと戻っていく。

 ログアウトした瞬間に感じる現実の肉体の重さ。

 仮想の世界にはない現実の臭い。

 覚醒した意識がよりはっきりしたことで椅子から起き上がった進藤は非常に騒がしくなっている異常課の研究所でどうしたのだろうかと眉を顰めた。


「何かあったんですか?」

「進藤さん。その…」


 人が集まっている場所の外側にいる戦いをモニターしていた篠原を見つけて声を掛ける。

 振り返った篠原の顔に見られる不安を感じ取り、人だかりに視線を送ると激高した様子の榊が間宮に詰め寄っている姿があった。


「これが貴方のしたことよ!」

「ええ。ですが彼も覚悟の上ですし、何より有用なデータを得ることができました。違いますか?」


 今にも掴み掛りそうな榊を異常課の職員が羽交い絞めにして抑え込んでいる。

 間宮は何故か薄ら笑いを浮かべて問題はないと言い切っていた。


「そういう事じゃないでしょう」


 さらに声を荒らげる榊が見たのは椅子に腰かけてぐったりとしている内田だった。


「それこそ余計なお世話というやつです。こちらのことには口を出さないでいただきたい」

「私は技術者として警告しているの!」

「何事にもトライアンドエラーは必要ですよ。それくらいわかっているでしょう」

「最低限の良識があるでしょう?」

「それでは何も守れないとしても?」


 二人の主張は平行線を辿り、何を言っても無駄だと言葉を榊が飲み込んだことで騒動は収まった。


「何?」


 苛立ちを隠そうともしないで部屋を出ていこうとする榊の前に三雲が立ち塞がる。


「こんな時に言うことではないと思いますが」


 三雲がチラリと振り返り進藤たちを見た。


「新しい事件です」



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