境界事変篇 12『電脳図書館』
常に稼働しているサーバが複数置かれているためにこの部屋はかなり涼しくなるように空調が設定されているようだ。
奥の部屋に足を踏み入れた瞬間に感じる肌寒さに一瞬震えながらも悠斗は麴町の案内を受け続ける。
「ここにあるサーバ群は私達が作成した電脳空間を維持するために必要不可欠なものでして、今も増設され続けているのですよ」
「増設ってことは足りていないんですか?」
「圧縮したりして容量は減らそうと日々努力しているのですが、新しいプログラムを作ったりしては稼働実験を繰り返したりしますし、他に影響が出ないようにスタンドアロンのサーバを使ったりしますから、足りなくなることはあっても余ることは滅多にないんです」
一通りサーバ部屋を見回した悠斗たちは再度研究室へと戻る。
「次はここで作っているものを実際に見てもらいましょうか」
麴町の私室とは違い研究室では大量の本が積まれていても問題なく座れる椅子が置けるスペースが確保されている。さらにここに設置されている椅子は普通の椅子ではなく大型のゲーミングチェアばかりということもあって余計な物が無ければどれだけ広い部屋なのだろうかと思ってしまうほど。大型のゲーミングチェアは従来のPC作業に使うものというだけではなく、仮想空間にダイブして行うVR技術が普及した昨今の事情に合わせて作られた椅子のようだが、ここにあるものはそのなかでも高級品が多く見られる。
部屋の大きさだけではなく設備にも十分なお金を投じられるということらしい。
「こちらをどうぞ」
麹町が自身の机の引き出しから取り出して手渡してきたのはこの研究室で使われているであろうレヴシステム。個々人のレヴシステムを使うわけではないのはセキュリティに配慮した措置ということだろう。
「ほらほら。そろそろ皆さんも自身の研究の準備を始めてください」
「はーい」
「はい」
麹町の指示を受けて伊豆と井瀬はそれぞれのレヴシステムを装着する。
「榊君も彼と同じようにゲスト用のものを使ってもらいますがよろしいですね?」
「わかりました」
受け取ったレヴシステムを見つめて榊はふと物憂げな瞳を浮かべる。
以前はこの研究室で使っていた自身のレヴシステムがあったのだろうが卒業と共に別の学生が使う用に設定が変えられたのだろう。個人の機器ではなく大学所有の機器を使うのだから仕方ないといえばその通りとはいえ内側にいた人間が次に訪れた時にはゲストになっていたという事実に幾許かの物悲しさを感じてしまうのかもしれない。
「アクセス先は自動的に研究室のサーバになっていますので、ただログインするだけで大丈夫ですよ」
自身の椅子に座り物腰柔らかい口調で麹町が告げる。
そのまま普段通りの手順でログインを行う麹町を見て悠斗は榊と互いに顔を見合わせた。
「仕方ない。教授はいつも一言足りないのだから」
「え?」
「さて、あちらの椅子が空いているはずだ。私達はそちらでログインするとしようか」
窓際にある大量の本に埋もれている机を指して榊が言う。
よくよく目を凝らして見れば本の陰に隠れて麹町らが使っている椅子に比べて若干簡素な椅子が二つ並んでいるのを見つけた。
歩いて行き並ぶ二つの椅子の上にも積まれた本を退けると榊はそのうちの一つに腰掛けた。
簡素な椅子といってもしっかりとしたクッションと背もたれがあり使うには何も問題はない。それどころかこの椅子ですら一般家庭であれば十分な代物と言えなくもない。
先んじて椅子に腰かけた榊に続き悠斗は隣の椅子に座る。
手渡されたレヴシステムは装着すると自動的にログインの手順に入った。
「ログインできたらその場で待っていてくれ。まあ、おそらく教授が先に待っていてくれるとは思うが」
「わかりました」
目を閉じてレヴシステムに身を任せる。
ほんの一瞬の暗転の後、悠斗は見知らぬ空間に立っていた。
「お待ちしていました」
悠斗を迎い入れたのは現実の姿と変わらない容姿をした麹町。それに比べて今の悠斗の容姿はどう形容したものかと悩んでしまうほどだ。
「相変わらず”これ”を使っているんですね」
どこか辟易した様子で声を掛けてきたのがおそらく榊なのだろう。確信を持てないのは彼女の姿が今の悠斗と同様、およそ人というにはあまりにも要素が足りていない姿をしているから。
「客人に合わせてアバターを作るのも手間ですからね。ゲスト用はこれで統一しています。あ、一応男女の区別くらいはしていますよ?」
それで十分だろうという麹町に榊は大きなため息で返した。
何気なく自身の手を見てみるとうっすらと青く発光しているシルエットでしかない。そこに指の皺や爪に該当するものはなく、男女の違いはあると言っていたが指や腕のような四肢の端々はある程度共有のデザインとなっているようだ。
「せめてもう少し人間っぽくすればいいと昔から言っていたはずですが」
「いやいや、それでも十分に使えますからね」
「使えるだけでは色々と不便だと言っているでしょう」
「そうですか?」
まるで暖簾に腕押しの問答に諦めたように榊はガクリと肩を落とす。
鏡が無いこの場所では自分の全身というものは確認することができないが、麹町と話す榊の様子を慮るにその姿は今の自分も同じなのだろうと悠斗は一人結論付けた。
麹町が言う男女の違いというのは大まかな身体のシルエットだけ。頭部には髪に該当するものはなく、顔には目も口もない。服も着てはおらず、それこそ自分自身がマネキンに入ってしまったかと思ってしまうほど。
「君は何か使い辛さを感じていますか?」
「あ、いえ、別に」
「そうでしょう、そうでしょう」
突然話を振られて咄嗟に問題ないと答えた悠斗に麹町はどこか満足そうに、榊はその表情のない顔で睨みつけるような視線を向けてくる。
「さて、余計な話はこのくらいにして今はここの案内をしましょうかね。榊君にとっては周知の事実だとは思いますが、今は相馬君がいますから基本的な所から、ね」
お願いしますと頭を下げて、歩き出した麹町に続く。
ログインして最初に訪れたのは何もない小さな空間だったが、その奥にある扉を潜ると一気に別空間が広がった。
見渡す限りの本、本、本。
天井にまで到達するかと思えるほどの本棚が見渡す限り壁一面に敷き詰められており、室内には何処かの図書館を彷彿とさせるほど背の高い本棚が並んでいる。
天井からは真夏の昼間かというほどの光が降り注いでいて、室内をこれでもかと照らしている。
「おお!」
思わず感嘆の声を上げる悠斗の隣で榊がどこか懐かしそうに辺りを見渡している。
「相も変わらず凄いですね。私がいた時よりも増えているんじゃないですか?」
「それは当然、日々研究は進んでいますからね」
「どういうことですか?」
「ん? どうかしましたか?」
二人の会話に口を挟むのは憚られて黙っているつもりだった悠斗だったが、二人の間だけで通じている話の中に気になったことがあり思わず問い掛けていた。
「いや、増えているのがどうとか…」
「ああ、それはここにある本はどれもこの研究室で生み出された研究の成果なのよ」
「これ全部がですか!?」
「凄いでしょう。勿論私一人の成果というわけではないのですが。あの辺りには榊君の研究成果も残っていますよ。見てみますか?」
「教授!?」
「ははは。そうでした。すいませんね。一応は部外秘となっているので」
「いいえ、俺は別に」
「では、見学可能な区域にまで移動しましょうか」
広大な図書館を歩き進めていると程なくして円形に設置された本棚が目立つオープンスペースへと到着した。
「ここにあるものは既に公開されたものばかりですので、ご自由に見て貰っても構いませんよ」
悠斗が詳しく事情を尋ねると既に論文や大学の講演などで公になっているものだと榊が答えていた。
「麹町さんが研究しているのは電脳空間について、でしたよね?」
「ここの空間も教授が作ったものですからね。趣味全開でしょ」
「はぁ」
「それで、榊君がここに来た理由を聞いていませんでしたね」
「私は…」
ちらりと悠斗の方を見て榊が悩む素振りを見せる。まったくの部外者である悠斗に聞かせていいものかと考えているようだ。
榊は顔のない悠斗をまるで値踏みするかのように見ている。その視線はアバターの奥にある現実の悠斗を見据えているかのようで、思わず身震いしてしまう。
数秒後、晴れ晴れとした笑顔を浮かべる榊に悠斗は意図が掴めず小首を傾げた。
「教授。これを見てくれませんか?」
「構いませんよ」
所持していたデータを実物化するとそれは一冊の本として現れた。装丁は青く、どこかの図鑑かと思わんばかりに厚い本。
受け取った本を開くと程なくして麴町はそれを閉じた。
まるで見てはならない物を見せつけられたと言わんばかりに顔を顰めて、視線だけでどういうことかと聞き返している。
「つい先日実戦があったのですが、それが全く通用しなかったんです」
どうにかひねり出した言葉には悔しさが滲み出している。その中に少しだけ誰かを心配しているようなニュアンスが含まれていたことにこの場にいる悠斗も麹町さえも気づくことはなかった。
「これはその時のデータを纏めたものです」
さらにもう一つ。今度は本ではなくひと世代前のディスクメディアとして実体化する。浮かぶディスクを掴むと榊はそれを近くの再生機へとセットした。
悠斗は自分が見てもいいのか分からずに自ら進んで視線を外してそっぽを向いている。
「再生します」
麹町の了承を得ずに榊はディスクを再生した。
榊の手元に浮かぶ映像を渋々と言った様子で見ることにした麹町は敢えて目線を外している悠斗には触れず、真剣な眼差しで映像を見ている。
この映像。映し出されているのは先日のGM05と化け蜘蛛の戦いの様子。音声は極小にまで細められているが、所々苦悶に満ちた息遣いと断続する爆発音が漏れ聞こえてくる。
「随分と一方的ですね」
映像が終わる前に麹町の口から出た感想はかなり淡々としたものだった。
完全な第三者という立場からの言葉だろうが、それを耳にした榊は口を噤んだままじっと映像を見つめ続けている。
「なるほど。こちらの攻撃が一切通用していない、と」
こくりと頷く榊に応じて麹町は一層真剣な目つきに変わった。
「つまりはこちらの攻撃が通用するようにしたいということですか」
「はい。でもそれだけじゃないんです」
「というと?」
「この続きです」
そのまま見るようにと促した榊の言う通りに見ていた映像にさらなる登場人物が現れた。GM05のように装甲を纏った人物。違うのは化け蜘蛛に対する攻撃が効いているということ。
「これは誰なのですか?」
「わかりません」
神妙な面持ちで首を横に振る榊。
「ですが、この人物は倒してみせた」
映像の中でその人物は化け蜘蛛を一刀のもと切り伏せた。
漏れ聞こえてくる音にひときわ大きな爆発音が混じりふと気になった悠斗はつい頭だけ振り返ってしまう。ちらりと見たそれに思わず驚いて目を見開いてしまうが、この時表情のない身体だったことがこれほどまでに功を奏するとは想像もしていなかった。映像の中で戦っている人物。それは見紛うこともない自分自身だったのだから。
榊と麹町が正体不明の人物として自分の事を話していることを知りながら名乗り出る決心が付かないのは前に円から当分は正体を隠そうと提案を受けていたからだ。
悠斗がそんな迷いを抱いていることなど露知らず映像は化け蜘蛛が爆発四散した所で停止した。
「私が知らなければならないはこちらの攻撃が通用する方法」
「この人物の正体については良いのですか?」
「いずれはそれも調べなければならないとは思いますが、現状何よりも重要視されるべきなのは、こちらも通用する対抗手段を持つことです。違いますか?」
強い口調でそう宣言する榊は映像を消し、取り出したディスクを再度元のデータとして仕舞った。
そんな榊に麹町は一瞬逡巡するような素振りを見せて訊ねる。
「榊君が何も策を講じていないということはないのでしょう?」
「アバターに与えられるパラメータは最大に、武装もアップデートしました。ただ…」
自信がないなどとは口が裂けても言えないというように俯く榊に麴町はどこか懐かしいものを見るような視線を向けていた。
「わかりました。私の方でも少し検証してみます」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げる榊。
「おっと、相馬君には意味が分からずに退屈な話をしてしまいましたね」
「あ、いえ。大丈夫です」
「少し待っていてください。高坏君が君に見せておいたほうがいいと言っていたものを持ってきましょう」
麹町が奥の本棚の方へと行ってしまった。
「確か相馬君だったわね」
「はい。相馬悠斗です」
「君はどうしてここに来たの?」
二人きりになったことで榊は何気ない世間話に興じることにしたようだ。先程までとは違い彼女から醸し出されている雰囲気が柔和なものへと変化している。
「俺は仕事で。届け物があったのでここに来たんですけど、どういうわけかこうしてここに」
状況を理解していないというわけではなく、何故という思いが拭えない悠斗は何気なく適当に近くの本に手を伸ばした。
開いた本に記されているのは何かの論文だろうか。
日本語で記されているものの、何が書かれているのか知識の無い悠斗にはさっぱりわからない。
数ページ捲っただけで諦めて閉じた本を元の場所に戻して悠斗は榊との他愛のない会話を繰り広げる。
「お待たせしました」
暫くして戻ってきた麹町の手には複数の本が抱えられている。
装丁も本の厚さも大きささえも違うそれらを近くの床に置いて一番上の本を取り開く。
「見てください」
開かれた本を覗き込む悠斗と榊。
書かれているものは悠斗にとっては初見となるものばかりだが、榊にとっては違うらしい。はっとしたように目を見開いて驚きを表した。
「ちょっと教授。これは見せたらいけないものじゃ」
「大丈夫です。確かに一般に公開はされていませんが、関係者には公開されているものですから」
「いや、だから」
「彼も、というよりは彼の上司である高坏君は関係者ですし、その彼女が見せるようにと言ってきたのならば彼も他言しないはずです。そうですよね?」
「それは勿論。誰にも言いません」
「でしたら大丈夫でしょう」
開かれたままの本を悠斗に押し付けて、麹町は次なる本を開く。
「その本とこの本。これらに書かれているのはネットワーク内のエリア構築に関する論文です。そしてこれが…」
手元の本を今度は榊に渡して三冊目の本を開いた。
「完成したネットワークの初期の状態を記したもの。これならば見覚えがあるのではないですか?」
その本に強く興味を惹きつけられたのは悠斗ではなく榊の方だった。それも当然、榊にとってここに記されているものは現状何よりも優先して詳細を把握しておくべきと考えていた事柄に関連しているのだから。
「まさか初期のクローズネットの画像」
「流石に君にはわかるか」
「待って、君は見ないで。これは一般人が見たら駄目なものだから」
勢いよく本を奪い取って即座に閉じた榊が責めるような視線で麹町を見るも、すぐに麹町は手振りだけで制して言葉を続ける。
「彼は完全な一般人というわけじゃない。そうだね。あえて言うのならこれを見るべき人でしょうか」
「見るべき人?」
麹町の言葉を反芻して榊は悠斗を見た。
悠斗という人物に関する情報が欲しい。ここで異常課との連絡が付けられるのならばすぐにでも調べてもらうのに。声には出さずただ胸の内でそう呟いた彼女を置いて麹町は別の本を広げてそこに記された情報を読むように悠斗に促した。
それすら止めようと本を奪おうと手を伸ばす榊であったが、今度は麹町によって事前に止められてしまう。
この時榊が使っているアバターに人間然とした顔のパーツがあれば麹町に対する不信感がありありと表現されていたことだろう。近くに立つ悠斗ですら顔がなくとも醸し出す空気感だけですらそれが伝わってくるのだから、より関係性の高い麴町ならばもっと確実にそれを感じているはず。
一瞬躊躇するような視線を向けた悠斗に麹町は構わないからと開いたページを見せてきた。
「いまは理解できなくとも覚えておくといいでしょう。これはこの世界の基本的な造りなのですから」
平面的に描かれた地図をまじまじと見つめる悠斗。
その意図が掴めずになんと言えばいいのか悩んでいる榊。
高坏の依頼を受けて本を見せてその反応を確かめる素振りのある麹町。
「せんせーい! 大変でーす!!」
三者三様の反応を見せる三人の元にアバター姿の伊豆千尋が慌てた様子で駆け込んできた。
「伊豆君どうかしたのですか? それに君一人なのは何故? 井瀬君と一緒にいたはずでは?」
「それは――あっ」
「危ない」
転びかけた伊豆を受けとめた榊の腕の中で伊豆が声を荒らげる。
「と、突然、入ってきて――」
「入ってきたって誰がです?」
「わかりません。なんか真っ黒で、その、なんというか、彼みたいな感じで」
「俺じゃないですよ」
「それは勿論わかっていますとも」
伊豆が見たのは悠斗。しかし悠斗が侵入者というわけはなく、それならば。
「榊君。貴女は心当たりがあるのではないですか?」
「はい。ですが、それは――」
榊が何かを言おうとした瞬間、奥の方から何かが崩れるような大きな音が轟いた。
「あっちにはくろこが!?」
悲鳴混じりに叫ぶ伊豆が走り出した。
「追い駆けましょう」
先んじて飛び出してしまった伊豆を追って麹町が駆け出す。この図書館の構造に詳しくない悠斗と榊はその後を追い駆けることしかできないが、自分たち以外いないことからも程なくして音のしていた方へと辿り着いた。
「あれは?」
「まさか、本当にここにいるなんて――」
愕然とする榊を悠斗と麹町が見る。
「くろこ!」
傾いた本棚から雪崩のように零れ落ちた本に埋もれた井瀬を発見して伊豆が一目散に駆け寄っていく。
「危険だ。不用意に近づくな」
榊が制止するも間に合わず、伊豆は井瀬の元に辿り着く直前、自身の目の前に立ち塞がった黒い影に足を止めた。
「榊君。教えてください。”あれ”は一体何なのですか?」
「あれはシャドーマン。私達が普段対峙している存在です」
「なるほど。あれが…」
すぐにでも伊豆と井瀬を助け出したいと思いながらもここで自分が動くのが正解か決めかねている麹町の問いに榊が答えていた。
「教授と君はすぐにでもログアウトをして退避してください」
「しかし、彼女たちが」
「私が責任をもって救出します。ですから――」
素人は手を出すなと暗に伝える榊だったが、彼女が実働要員でないことは麹町にさえバレている。そんな彼女を残して逃げた所で二人が無事に助かるかなどという保証はない。
「いいえ。彼女たちは私の生徒です。そんな彼女たちを残して私が逃げるわけにはいきません」
「ですが!?」
「俺も手を貸しますから」
悠斗までもがそう申し出ると観念したように榊は意を決して思考を巡らせる。
「私が囮になってシャドーマンの気を引きますからその間に教授達はあの二人を救出してログアウトしてください」
「わかりました」
即座に了承する麹町に対して悠斗は何か思案した後、
「囮役は俺がやります。大丈夫。こう見えてアバターを動かすのは得意なんですよ俺」
そう言って返事を待たずシャドーマンに向かって飛び出していく悠斗。
今更先んじて飛び出した悠斗を呼び止めたとて間に合わないと判断した榊はやむを得ず自身の作戦を変更することにした。
「教授行きますよ」
「いつでも」
悠斗がシャドーマンの正面に立ったその瞬間、榊と麴町はタイミングを合わせて駆け出した。
この時、人知れず榊は本来与えられていない権限を研究室の図書館のシステムを弄ることで一つ獲得することができていた。
獲得した権利とは外と連絡を取ること。
増援が到着が間に合うかどうかわからない。だからこそ増援が到着するまでの間に自分たちが動かなければならない。
覚悟を決めて行動に出た榊は延々と同じことを考えずにはいられなかった。
何故シャドーマンが”クローズネット”ではなくこの百市大学の研究室が作り上げた電脳空間に現れたのか。




