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迷宮突破 ♯.31

 暗闇は第十三階層を抜けるまで続いた。


 道中モンスターとの戦闘は出来うる限り避けて進むことにした。それはグリモアと一緒に戦った時に暗闇の中では思うように戦えないことを痛感していたからだ。光源になる何かを持っていれば別なのかもしれないが、グリモアの話では光に導かれるように他のモンスターも集まって来てしまうこともあるらしい。


 ナイト・ゴブリンとの戦闘で他のモンスターが来なかったのは単純に運が良かっただけなのだろう。


 マップを見ながら進みモンスターがいる場所を避け、安全な道を選んでいたせいで俺たちがこの第十三階層を抜けるのにかかった時間は前の第十二階層の倍近くにもなっていた。


 今日の残り迷宮攻略可能時間は二時間弱。最後のボスがいる第十五階層まではあと一つ分の階層を超えればいいだけ。


 よほど面倒な事態にならない限りこの残り時間でも第十四階層を抜けられるはずだ。


「準備はいい? 降りるよ」


 一応転送ポータルを使用可能な状態にしておいて、俺たちは次なる階層へと足を踏み入れた。


 最後の階層である第十五階層の一つ手前になる第十四階層はこれまで以上に入り組んだ構造をしているものの、暗闇に覆われているなどということもなく明るい道を行くことが出来た。問題なのはこれまで表示されていたマップが全く表示されなくなったということ。手元にマップを出してみてもそこにはnodataと書かれた真っ黒の地図があるだけで、自分たちの位置も確認することすらできない。


 壁に印をつけようとしても壁自体が破壊不能オブジェクトに設定されているのか、剣銃で斬りつけても傷一つつかない。進んで来た道順を記憶出来ればいいのだろうが、こうも入り組んでしまって、数メートル進むたびに曲がらされていては途中で解らなくなったとしても不思議はないだろう。


「右側から来るよ!」


 さらに問題になっているのはモンスターの襲撃を予想出来ないということ。

 これまでマップを見ながらモンスターの居場所を先に見つけていた癖が吐いてしまっているようで、初めて第十四階層での戦闘になった際に突然襲いかかられて対処に手間取ってしまった。


 それからというもの、四人で固まって移動して常に周囲に警戒することにして、そのおかげで今も少し離れた場所から襲いかかってくるモンスターを先に発見することができていた。


「俺に任せろ」


 銃形態の剣銃を腰のホルダーから引き抜き、近付いてくるモンスターに照準を定める。

 連続して撃ち出される弾丸がモンスターのスピードを殺し、そこにできた隙を突いてハルが斧を振り抜いていた。


 二人の連続攻撃によって襲いかかって来たモンスターのHPが瞬時に削られ、俺たちに攻撃を仕掛ける前に光の粒となって霧散する。


「他には……いないみたいだな」


 第十四階層になってモンスターにもある変化が見られていた。

 小人型モンスターは常に集団で襲いかかって来ていたにもかかわらず今は単独で襲いかかってくることが多かった。その代わりなのだろうか、モンスターの強さはこれまで以上になっているようだが、それでも雑魚モンスターであることには変わりない。俺とハルの連携攻撃で容易く葬ることができていた。


「どれくらい進んだんだろ?」


 戦闘を終え立ち止まった俺たちにマオが問い掛けてきた。


「どうだろう。マップが無いから分からないけど、半分くらいは進めたんじゃないのか?」

「だといいけどな」


 ハルが確認しているのはマップではなく砂時計とコンソールにある時計。残っている時間とこの階層に足を踏み入れてから経過した時間、そしてこれまでの踏破速度を考慮すると階層自体が予想よりも大きく作られていない限り大体半分は進めている頃だろう。


「マップが無いと解り難いよな、やっぱり」

「だねー。実際ゴールに向かって進められているかすらあやふやだからね」


 そうなのだ。初めに選んだ別れ道から今に至るまで曲がり道は無数に存在したが行き止まりは一度たりとで出くわさなかった。

 考えられるのは途中で別のルートと合流しているか、全て正解の道を選んで進めているのかのどちらか。後者であることを切に願うが、確かめる術がない以上不安は拭い去れない。


「とりあえず、進むしかないだろうな。一応、開催期間はまだ三日あるから、最悪今日この階層を抜けられなくても明日またチャレンジすることは出来る」

「そうなると時間切れの強制転送で町に戻ることになるの?」

「多分な」

「その場合どこから再スタートすることになるんだ?」

「俺は聞いた話じゃ最後に立ち寄った迷宮内の転送ポータルからだそうだ」

「じゃあ、また同じ道を通って時間切れになる可能性もあるってことね」


 考え込む素振りを見せてから告げられたリタの一言に俺たちは戦慄した。


 マップにこれまで進んできた道程が刻まれていた前階層までとは違いこの階層では自分たちの足跡を追うことも困難で、日にちを跨ぎあやふやになった道順を避け、新たな道を完璧に進むことは至難の業となるだろう。


「急ごう」


 ハルの一言に従うように俺たちは歩くスピードを速めた。


 階段も無く、行き止まりも無い。ただ曲がり角と直線が続くこの第十四階層はまるで小さい頃にノートの片隅に書いた迷路のよう。それを立体的に作り、実際に挑むとすればこのような感じなのだろうか。


 迷路の行き止まりを作らないようにするならば常に別の道との合流と分散を繰り返し、ときには回廊のように元の位置に戻すような道も作らなければならないのだろう。進んでいるように見えて同じ道をグルグル進まされている可能性も考慮しなければならない。


 たまには来た道を戻ることも必要なのかもしれないと思いながらもそれを口に出すこと阻まれた。ただでさえ不安の残る道を進むしかない俺たちは今以上の可能性を増やすことはより迷宮に迷い込むことにだってなりかねないのだ。どう足掻いても今進んでいる道が正解なのだと信じて進む以外に方法はない。


 時折り襲い掛かってくるモンスターとの戦闘がなければ変わり映えしない景色にやる気が削がれてしまっていたことだろう。簡単に倒すことができるからこそ単調な探索の中にある嬉しい変化だと感じることができていた。もし、この先これらよりも強力なモンスターが現れれば戦闘を避けるという選択肢を選ぶ必要だって出てくる。


 今以上の緊張感は時間に追われて進む俺たちにとっては全くといっていいほど歓迎できるものではなかった。


「皆、あそこを見て」

「人が集まってるの?」

「みたいだな。やっとゴールに着いたのか」


 突然立ち止まったリタが指を指す場所は俺たちが目指していたゴールなのかもしれない。

 ゴールとは違った場合に落胆することを避けているのかハルはまだ懐疑的に見ているようだが、遠目から見る限りはあそこに何かがあることだけは間違いないはずだ。


「行ってみよう」


 それにしてもプレイヤーが集まっている理由は何なのだろう。

 次に進むための階段を見つけたのならばそれを下りればいい。何かの戦闘が起きているのだとしたらこの静けさは異様だとしか思えない。


「な、何だ、あれは」


 俺の目に飛び込んで来た光景はそれまでの階層のゴールとは全く違っていた。


 天井に届くかと思うほどの巨大な扉。


 周囲を照らすために燃え続ける減らないロウソクが立てられた燭台。


 扉の前にある見慣れぬ装置。


 いくつもの異様な物体が物言わぬ迫力を纏いながら俺たちプレイヤーを威圧してきている。


「みんな何をしてるんだろ?」


 俺の隣に立つリタが目の前の異様な光景を目の当たりにして呟いていた。


「さあ?」


 何故誰一人として扉を開けて進もうとしないのだろう。


 何故、こんなにも悲壮感を漂わせて地面に座り込んでいるのだろう。


「待っていたよ」


 重苦しい雰囲気の中、俺たちに近づいてくる一つの人影があった。


 壁際にある火が当らない影の中から現れたのはこのイベントで出会ったムラマサだった。


「ムラマサ?」

「待ってたって、どうしてさ?」

「それは……」

「まって、それよりも教えてくれない? どうしてこんなことになっているの?」

「ん? 簡単さ。彼らはこの先に挑むことを躊躇しているんだよ」

「……この先」


 と俺は目の前の扉を見上げた。


 第十一階層以降、壁に見られるようになった壁画に似た彫刻が施されている。遥か上まで続いているようで全容を確かめることは出来ないが、そこに彫られている画は巨大な椅子に座ったモンスターのように見える。


「この先が第十五階層に続く階段になっているんだよ」


 ムラマサの一言で俺たちは時間内にゴールに辿りつけたことを確信し、それと同時にこの雰囲気の理由がより分からなくなってしまった。


 強いレイドボスがいることは先の二体のレイド戦からも想像出来ていることだろう。それなりの準備をして挑めばいいだけ、勝てそうになくてもその時は戦闘区域から離脱すればいい。


「この階層から出るためのポータルはあそこにあるよ」


 そう言って指差す先には仄かに光っている台座があった。

 これは今までの階層間の階段にあった転送ポータルと同型のようで、使い方も変わりはしないだろう。


「そうじゃなくて! 何でみんながここで止まっているのか知ってるんでしょ?」


 マオがムラマサに詰め寄った。


「ああ。オレ達がこの先に進むには鍵が必要なんだ」

「鍵? そんなのどこにも無かったぞ」

「大丈夫。鍵は皆最初に渡されているよ」

「最初?」


 首を掲げるマオの横で俺はストレージから一つのアイテムを取り出した。


「そう、それが鍵だよ」


 取り出したアイテムを見つめる俺をムラマサが肯定してきた。


「……砂時計」

「正確にはその中の砂が鍵なのさ」


 意味が解からず俺は手の中にある砂時計を凝視していた。


 砂時計というのは器の中に砂が入っていて初めて機能する。扉を開けるために必要なのが砂だけというのなら、それを取り出してしまったらこれ以降砂時計として機能することはあり得なくなってしまう。


「っと、そろそろ時間のようだね。一緒に町に戻ろうか? 話はそこでしようじゃないか」


 迷宮の中にいる間はずっとそれを横に持とうが逆さまに持とうが砂は常に一定方向に落ち続ける。残された時間があと僅かになったということとレイドボスに挑む時にはライラ達と一緒にという約束をしたこともあって俺たちはムラマサの後に続いて転送ポータルを使用して町に戻っていった。



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