極大迷宮篇 Ep.18『映し鏡の竜』
ドラグーンの口から吐き出されたごうっと燃え上がる灼熱の炎が俺とイナミナを分断する。
左右に分かれた俺たちを隔てる炎の壁は深紅に輝いていて、鏡面の床に同様の色を映し出している。
巨大な竜の体を持つドラグーンの全身を覆っている鱗に反射している炎によってその色がオレンジ色に染められている。それでいて虚空を切り取ったかのような瞳が見据えるのは竜化した俺という存在。
「うおっと」
リィンと鈴の音がして突然自分を影が覆った。
全体の戦闘開始を告げる号砲がドラグーンの息吹であるのならば、俺とドラグーンの戦いの始まりを告げるのもまたドラグーンの一撃。
本来の長さよりも伸びた尾による叩き付けが襲い掛かってきた。
鋭く速いその一撃はさながら達人が放つ面のよう。
剣銃を剣形態に変えるよりも早く防御を求められる状況に俺は魔導手甲を装着した手で硬く拳を握って自身の頭上に【フォースシールド】を発生させた。
ドンっと大きな激突音が轟き、自分の体が僅かに沈む。
一撃を耐えたと気を緩めかけたその瞬間にパリンっとガラスが割れるような音がして、自分を守っていた不可視の盾が砕けて散った。
「嘘だろっ」
耐えているだけではダメージを負ってしまうとすかさずに横に飛ぶ。
それまで自分が立っていた場所にはドラグーンの尾によって表面に大きな罅が入った床ができていた。
足元にうっすらと広がっている水が大きな飛沫となって舞い上がりごくごく小規模な波を作り出す。それは回避した先の俺の下にまで届いて瞬く間に元の状態へと復元される。この時、床にできた罅を覆った水が床を最初の綺麗な状態へと修復しているのが見えた。
どうやらプレイヤーやドラグーンがどんなに荒く場を荒らす勢いで戦っても問題ないということらしい。
それならばと戦場の破壊も戦術の一つとして組み込むことを考えてみるも明確な障害物として身を隠せるようなものがないこと、それ以前にドラグーンのように周囲を破壊できるような攻撃が自分にできるとは思えないからと、それは自分の戦術の中から消えていた。
素直に正面から戦うしかない。
剣形態から銃形態に変えた剣銃で長い首を動かすことなく目線だけで俺を追いかけているドラグーンへと攻撃を仕掛けた。
銃口から放たれた光弾がドラグーンの顔に当たって弾ける。
手慣れた射撃によって命中したそれはドラグーンの顔の表面を焦がすこともない。
純粋に自分の攻撃の威力が低すぎたというよりは、ドラグーンの全身を覆っている鏡のような鱗が望外の防御力をその身に与えているようだ。
「となるとやっぱり斬り合うしかないってことか」
あの巨体と接近戦をするのには勇気がいる。
鋭く尖った爪と牙からは近づいたモノは何であろうと切裂いてやるという意思が一切隠されることもなく伝わってくる。それに増してあの翼と尻尾。先が鋭く尖ったまさに抜身の刀のような印象があるそれらを合わせると全身凶器という言葉が浮かんできた。
翼が広がりその巨体をわずかに宙に浮かせる。
ドラグーンの両足が地面を離れた直後にその尾が連続して槍のように突き出された。
今度は防御など間に合わない。尻尾の腹で打ち付けてきた先程の一撃とは違い、今は鋭く尖った尾先による突きの連撃。
全力で駆け回って、攻撃が止むまで回避し続けた。
通算九度の突きが終わり、ドラグーンはゆっくりと降下してくる。
ドシンっと床を揺らしながら着地してまたしても床に満ちた水に波紋が広がった。
「今だ!」
攻撃直後こそ反撃のチャンス。狙いすましたように駆け出した俺を妨害するかのように床に広がった波紋が走ろうとする俺の足を押し返してくる。
それでもとがに股になりながらも必死に前進するとすぐにドラグーンの足元にまで辿り着いた。
「はあっ」
ドラグーンの右足に狙いを付けて切り掛かる。
射撃の時とは違い、今度はしっかりとした手応えを感じられた。
剣銃の刃が鏡の鱗を削り、砕き、切り裂く。
その巨体からすれば小動物に付けられた小さなひっかき傷と大差ない。受けたダメージもその頭上に浮かぶ二本のHPゲージの総量からすれば微々たるものでしかないだろう。
自分が≪竜化≫しているという事実が無ければ喜んだかもしれないが、現状を思えば決して楽観視できない状況だった。
「これならどうだ! <セイヴァー>!!」
強く剣銃のグリップを握りしめて勢い良く振り抜く。
光を宿した刀身が流星のごとく瞬いてより強くドラグーンの足を切り裂いていた。
当然、通常攻撃よりはアーツを発動させていた方がダメージ量が上がる。が、消費したMPと近付いて切り付けなければならないという条件付きの費用対効果を思えば、明らかに効率が悪い。
斬撃アーツならばこの程度の威力。であれば射撃アーツはどうだろうかとバックステップをしてドラグーンとの距離を取っている最中に剣銃を銃形態に変えてすかさずに<カノン>を放ってみることにした。
威力が高まった光弾がドラグーンの胴体に当たる。巻き起こる爆発の向こうには傷一つ付いていない綺麗な状態のドラグーンがいた。
「射撃が効かないみたいだな」
見た目にノーダメージでもHPゲージは減っている。しかし斬撃アーツで攻撃した時に比べれば半分以下のダメージ量でしかない。
大丈夫。こういうモンスターは珍しくない。すべての攻撃が無効というわけでもないのだから割り切ればいいだけのこと。
再度剣形態に変えてドラグーンと向かい合い、攻撃のチャンスを探す。
そんな俺の思惑を嘲笑うようにドラグーンは翼を広げて上昇し、こちらの刃が届かない位置にまで移動してしまった。
「また尻尾か? いや、あの距離だと届かないか。それなら――」
目を凝らしてドラグーンの挙動を探る。
これまでに見せた攻撃、その姿から推測できる攻撃、素早く一つ一つ可能性を潰していき辿り着いたのは一つの攻撃。
自分の推察が正解だと言わんばかりにドラグーンの口に光が集約し始めた。
思い浮かぶのは号砲となって吐き出された炎。しかしその時に見せた挙動よりも今の方が明らかに”溜め”が長い。
「何だ?」
何が来てもいいように身構えて、すぐに防御でも回避でもできるように心の準備をする。
リィンとまたしても聞こえてきた鈴の音の直後、ドラグーンの口から放たれたのは炎ではなく超高温の熱線だった。
炎よりも濃く赤い光は自分が放つ射撃の必殺技を彷彿とさせる。
逃げるように走る俺を追いかけてくる熱線は床に満ちた水を瞬く間に蒸発させて白い水蒸気に変貌させていく。
密閉された部屋に水蒸気が満たされる程度の温度ならまだいいが、これ以上熱線の温度が上がってしまえば次に巻き起こるのはその着弾点に満ちている水と触れたことによる水蒸気爆発。
このまま逃げていてはいられない、どうにかその攻撃を中断させられないだろうかと辺りを見渡すも使えそうなものは何もない。
「やれるか? いや、やるしかない!」
急停止をして引き返す。
自分を追い越してからUターンした熱戦が水蒸気の中へと飛び込んだ俺を追いかけてくる。
これは賭け。
すでに背後から水が蒸発するときに聞くジュッという音が大きく激しくなってきている。それはすなわちドラグーンの熱線の温度が上昇している証。
蒸発した水が消えたままだったのならば逃げ続けることも考えただろう。しかし床に広がっている水は一向に減る気配すらない。
爆発を巻き起こすほどの温度に達するまでにドラグーンの攻撃を止めると強い意志を持って、俺は上記の中から急上昇してみせた。
左手を広げたまま返ってきた手応えにすぐさま掴み、思いっきり引っ張って自分の体を飛び上がらせる。魔導手甲による【アンカーショット】を利用した高速移動方法だ。
アンカーと付いた名の通りそれを使うのならば打ち込む場所がいる。だがそれは壁や天井のように動かない場所に限られているわけでもない。
この時俺が利用したのはドラグーン自身。
その巨体、その鱗のどこかにでも引っかかったのならば十分な強度があるはずと狙いを付けて打ち出した【アンカーショット】は違わずに俺を舞い上がらせる。
急上昇の勢いをそのままにドラグーンを超えて飛んだ俺はそのまま剣銃を振り下ろした。
「<セイヴァー>」
無論斬撃アーツの発動は忘れてはならない。
急落下の勢いと自分の体重、それに加えてアーツ自体が持つ特性。それらすべてを兼ね合わせた一撃がドラグーンの首の根本を斬り付けた。
一度外れた【アンカーショット】を再度ドラグーンに打ち込んで落下の勢いを相殺して着地する。
感じた確かな手応えに期待を込めて見上げてみるが、ドラグーンの体にはっきりとわかる傷は一切付けられていなかった。
駄目だったか。
歯痒く顔を顰めたその先でドラグーンの頭部の方に爆発が起こった。
「やった!」
水蒸気爆発が起こる前に止めるという賭けに勝った。
そして、攻撃を止めるために切り付けた際にドラグーンは受けた衝撃の反動で口を閉ざしてしまい、放たれるはずの熱線が口の中で滞留して誘爆してしまったようだ。
視認できるHPゲージが大きく削れていく。
頭から白煙を漂わせているドラグーンの翼から力が抜けて、その巨体を浮かせることができずに自重と重力に負けて落ちてきた。
着地した時から離れるようにと駆けていた背後でドラグーンが地面と激突した轟音が衝撃波と共に一気に押し寄せてくる。
「うわっ」
吹き飛ばされまいとしようとも掴まれる場所はなく、俺の体はいとも簡単に吹き飛ばされてしまう。
床を転がり、顔に水が掛かり、それでもと見開いた先でドラグーンが床に沈んでいる。
素早く身を起こして追撃をと駆け出す。
「<インパクトノーツ>」
うつ伏せになって動かないドラグーンの首元に立つ直前に威力強化のアーツを発動させる。
「<セイヴァー>」
ぐっと両足で地面を掴み踏ん張って上から下へ、全身全霊で剣銃を振り下ろした。
三日月の如く描かれる剣閃。
ドラグーンの鱗に移る俺の姿。それは攻撃を行ったままの体制で止まっていた。
頭を覆う兜の向こうにある素顔の表情は見えない。
だが、この時の自分の顔を自分で確かめることができたとしたら、かなり間抜けな表情をしていたことだろう。
何故なら。
『ふぅぅ。危ない危ない』
突然言葉を発したドラグーンがまるで≪竜化≫した”ユウ”を生き写しにした姿に変貌を遂げていたのだから。
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レベル【7】ランク【4】
HP【B】
MP【C】
攻撃力【D】
防御力【F】
魔攻力【E】
魔防力【F】
速度 【C】
専用武器
剣銃
↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】
魔導手甲
↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】
防具
頭防具――【イヴァターレ・H】
胴防具――【イヴァターレ・B】
腕防具――【イヴァターレ・A】
脚防具――【イヴァターレ・L】
足防具――【イヴァターレ・S】
一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】
アクセサリ【6/10】
↳【生命の指輪】
↳【精神のお守り】
↳【攻撃の腕輪】
↳【魔攻の腕輪】
↳【魔防の腕輪】
↳【速度の腕輪】
↳【変化の指輪】
↳【隠匿の指輪】
↳【変化のピアス】
↳【―】
所持スキル
≪剣銃≫【Lv132】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。
↳<セイヴァー>――“威力”、“攻撃範囲”が強化された斬撃を放つ。
↳<カノン>――“威力”、“射程”、“弾速”、が強化された砲撃を放つ。
↳<インパクトノーツ>――次に発動する全てのアーツの威力を増加させる。
↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。
↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。
≪魔導手甲≫【Lv20】――武器種“魔導手甲”のアーツを使用できる。
↳<ブロウ>――“威力”を高めた打撃を放つ。
≪錬成強化≫【Lv110】――武器を錬成強化することができる。
≪竜化≫【Lv―】――竜の力をその身に宿す。
≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。
≪自動回復・HP≫【Lv―】――常時発動。一秒毎に生命力が回復する。
≪自動回復・MP≫【Lv―】――常時発動。一秒毎に精神力が回復する。
≪状態異常無効≫【Lv―】――状態異常にならない。(特定の状態異常を除く)
≪全能力強化≫【Lv100】――全ての能力値が上昇する。
残スキルポイント【7】
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