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極大迷宮篇 Ep.15『泥人形』


 ガルゴイフの石の体に余計な装飾はない。まるで小さな子供が作った粘土細工を彷彿させる雑に伸ばされた四肢。背中にある皮膜がバサッと広げられた大きな翼は本来の役割を果たしていないように見える。どんなに大きな翼でもそれが浮力を掴むことはなく、決してガルゴイフの体を浮かせたりしないみたいだ。

 人の顔を象っている頭部は精巧な石像などではなく製作途中で投げ出されてしまったかのようにぼやけた印象があった。

 ガルゴイフは武器を持たず、攻撃をするのは己の手足。かといって獣のような鋭い爪があるわけでもなく、格闘技能を持つプレイヤーというわけでもない。ただ乱雑にその両腕が振り回されるだけというシンプルな攻撃が俺たちを襲う脅威となり得るのだった。


「やあっ」


 腕を振り回すという単調な攻撃ではその一撃がどんなに強力なものであっても当たることはない。数回ガルゴイフの攻撃を見ただけでイナミナはすぐに順応して見切り、反撃を繰り出していた。

 イナミナの細剣がガルゴイフを腕を斬り裂く。

 粘土細工みたいな腕から流れるのは血でもポリゴンの欠片でもなく、ドロドロとした汚泥のような液体。ツンっと鼻をつく嫌な臭いが辺りに満ちて、至近距離から攻撃を行っていた俺とイナミナは思わず顔を顰めていた。


「何だこの臭い?」


 つい攻撃の手を止めてしまいそうなる臭いだ。ガルゴイフの腕を伝って流れていた泥はいつしか乾いて傷を覆う瘡蓋のようになっていたが、斬り付けて傷を付ければまた泥が流れ出して嫌な臭いを撒き散らすことだろう。

 自己防衛の手段として臭いは自然界では有効かもしれないが、プレイヤーを相手にするモンスターの特性としてはあまりにも効果が弱い。

 戦いの最中に鼻を摘まむことはできないが、集中すれば気にならなくなるはず。

 ダンッと強く地面を叩き付けた腕を跳んで避けて返す刀で斬り付ける。薄皮一枚を斬り裂いただけでは血は、この場合だと泥は流れない。ぐっと踏み込んでより深く斬り付けることでようやくダメージが入り泥が流れ出す。

 ガルゴイフの叩き付け。腕の振り回し。地団駄を踏むかの如くその場で繰り返されるストンプ。

 攻撃の度に炎を撒き散らすわけでもなく、体のあちこちから流れている泥が降り注ぐわけでもない。正確には小雨のように降り注いでいるが、攻撃力を持つわけでもなくただ嫌な臭いを撒き散らしているだけ。


「<セイヴァー>!」


 今の自分とガルゴイフの立ち位置を考慮すれば最適な攻撃は魔導手甲(ガントレット)を装備した左腕で放つ打撃アーツ<ブロウ>。しかしガルゴイフの体に流れる泥が俺に直接触れることを忌避させて、代わりに一拍間を開けた斬撃アーツを放つ。

 ズバッと勢いよくガルゴイフの腕が斬り裂かれてその中にある骨代わりとなっている極太の針金のようなものが剥き出しになった。

 大量の泥が傷口から溢れ出す。

 石とは思えないほど柔軟な腕にできた大きな傷口から出た泥は次々とガルゴイフの腕を伝い地面へと流れて落ちる。溜まった泥が水溜まりのようになり、初めてその泥が持つ特別な効果を目の当たりにすることになった。

 嫌な臭いの正体。それは泥が触れたものを溶かす時に発生する腐敗臭のようなものだったらしい。小さな雨粒くらいの大きさと量ならば大抵の物は溶けたりしない。精々微かに積もった砂や埃を溶かすくらいのものだ。つまり攻撃の度に微量降り注いだ程度では泥の攻撃力が低くダメージにならなかったのだが、仮に水溜まりになるくらいまでに積もった泥の量があれば触れただけでも確かなダメージを受けてしまうだろう。


「うわぁ」


 どろどろに溶けた地面から白い煙が立ち上がる。ぶくぶくと泡立っている水溜まりは決して触れたくないと思わせてくる見た目をしていた。

 これが増えていったとしたらこの戦場に自分たちの行動を阻害する障害物が大量発生することになる。

 攻撃の度に足場が亡くなる。それがガルゴイフ戦に隠されたプレイヤーを追い込むためのギミックであるようだ。


「まだガルゴイフのHPが六割以上残ってる」


 剣銃(ガンブレイズ)を銃形態に変えて撃ちながら後ろに下がりつつ攻撃の機会を窺う。

 光弾が命中するたびに少しずつダメージが入っていく。

 時間を掛ければ確実に倒すことができると思うが、悠長に時間を掛けられる戦闘ではないのは言うまでもない。

 引き金を引きながら動き回り、タイミングを見計らって前に出る。


「大丈夫。わたしたちなら倒せるはずです!」


 細剣を携えて駆け巡っているイナミナが鋭い突きを放つことでガルゴイフの体勢を崩して、膝から崩れて投げ出すように両腕をだらりと伸ばしたガルゴイフの背後に素早く回り込み、更なる追撃を行った。

 細い剣先で突き刺すはずの刺突は意外にも刺さるのでなく大きくガルゴイフの背中に大きな窪みを作り出していた。

 まるで強打のような一撃を受けて前のめりに倒れ伏せるガルゴイフ。

 ジタバタと不格好に両腕を振り回すも既にそこにイナミナの姿はなく、離れた場所で次なる攻撃を繰り出す姿勢を取っていた。


「<シル・ファード>」


 超高速の突きアーツを放つ。

 自身を流星のように走らせるその一撃は驚いたことに俺が先程斬り付けたことで骨格が剥き出しとなり大量の泥を流しているガルゴイフの腕を吹き飛ばしていた。

 グルグルと回転しながら宙を舞うガルゴイフの長い腕。

 ビタンッと大きな音を立てて地面に落下したそれが形を保っていたのは一瞬。瞬く間に溶けて大量の泥となった腕の中から溶けない骨格だげが浮かび上がってきた。


「うわぁ」


 自分が行った攻撃が引き起こしたことだというのに、随分と気味の悪い光景を目の当たりにしてイナミナは顔を引き攣らせている。


「<カノン>!!」


 腕を吹き飛ばされたことに痛みを感じていないのか流れる泥が乾いたことでできた瘡蓋が傷口を塞ぎ、ゆっくりと体を起こしたガルゴイフに向けて射撃アーツを放つ。

 直線に放たれる光線がガルゴイフの体に当たって爆発を引き起こした。

 光弾よりも大きく広がった着弾の痕。

 焼け焦げた胴体からパラパラと乾いた土が剥がれて落ちて地面に触れることもなく視認できないほど微細な砂粒となって消えていく。


「ん?」


 イナミナが腕を吹き飛ばしたことで大ダメージが入ったのかと思えば、それは普通にアーツ攻撃を命中させた時と変わらない。それよりも<カノン>が与えたダメージの方が多いくらいだ。


「どうしてだ?」


 腕を吹き飛ばした一撃よりも体表を剥がした程度の攻撃の方がダメージが大きくなる理屈が分からなかった。

 弱点属性の攻撃を行ったようなものだとしても俺は属性攻撃は使えない。

 リキャストタイムを待つ間も攻撃は続ける。

 斬るよりも撃つ方がダメージを与えられるかもと考えて引き金を引き続けてみるも、残念なことに特別効果的だったとは言えなかった。

 結局射撃アーツだけが特別効果があっただけに過ぎないようだ。だとすればリキャストタイムが終わる度に<カノン>を使いダメージを稼ぐことを念頭に攻撃を組み立てていけばいい。

 こちらの意図が伝わったのか、イナミナは一定のタイミングでガルゴイフの動きを止めるように立ち回り始めた。

 言うまでも無くそのタイミングは<カノン>のリキャストタイムが終了する瞬間だ。


「<カノン>」


 先程の攻撃から十数秒が経ち再度射撃アーツを発動させる。

 今回も光線がガルゴイフの体に当たり爆発を引き起こすと先程よりも広範囲で乾いた土が体から剥がれて落ちた。


「気を付けて! 倒れてきます!」


 イナミナの注意を受けて斜め後ろに向かって跳ぶ。

 顔から目の前に倒れ込んでくるガルゴイフに向かって再度イナミナが<シル・ファード>を放った。

 バンッと大きな炸裂音を立ててガルゴイフの片翼が根元から千切れ飛んだ。

 ボタボタボタと流れる泥を巻き散らかせて地面に落ちた翼は先程の腕と同じようにドロドロに溶けて、翼の骨格を担う謎素材の骨組みが浮かび上がった。


「どうせならこっちも斬り飛ばしてやるよ! <セイヴァー>」


 残る翼を勢いよく斬り裂く。

 刀身に光を宿した剣銃(ガンブレイズ)が堅い骨組みをも両断してみせると体から切り離された翼は中を舞うこともなくそのまま下に落ちていった。

 翼が変化した泥がガルゴイフの体に降りかかる。

 異臭を放ち白煙を漂わせるそれもガルゴイフの体を溶かすことはなくすぐに乾いて固まった。

 当初滑らかだったガルゴイフの体も今や溶けて固まった泥のせいであらゆるところがデコボコと歪になってしまっている。

 集中して攻撃していた結果、いつしかガルゴイフのHPゲージは赤色になっており、吹き飛ばされた片腕と両翼が痛々しい満身創痍の出で立ちになっていた。


「<カノン>!」


 ここで押し切ると意気込んで射撃アーツを放つ。

 もう何度目になるだろうか。何度も何度もガルゴイフの体で巻き起こった爆発がその体表を焦がして剥がしていったことで内部にある骨組みが露出した。


「任せて下さい。腕を断ち切ります! <シル・ファード>」


 細くも太くもない骨組みの一点を目掛けてイナミナが突きを放つと今度は石の体の内側で骨組みの一部が砕かれて残る腕が肩からだらりと垂れた。


「これでトドメだ」


 骨組みが砕かれたことで腕を動かすことができなくなったガルゴイフは防御も反撃も咄嗟に行うことができない。


「<インパクトノーツ>」


 無防備を晒しているその頭を狙い駆け寄って攻撃を放つ直前に威力増加の補助アーツを発動させる。


「<セイヴァー>」


 威力だけじゃなく剣閃までもが増大した一撃がガルゴイフの頭を斬り飛ばした。

 首から離れた頭がぐらりと落ちる。

 どしゃっと音を立てて広がった泥の中から現われたのは人ではなく馬のような動物の頭蓋骨だった。


「ふぃ」

「お疲れさまでした」

「イナミナさんこそ。ナイスファイトです」

「えっと先に進む道はどこに?」

「あっちみたいですよ」


 さっと見渡して見つけた扉は部屋の隅。外から差し込んだ謎の光源によって、まるで光の扉が突然現われたかのようにも思えた。


「あの、これは放っておいていいんでしょうか?」

「っても、どうすることもできなさそうですし」

「そう…ですよね」


 動かなくなったガルゴイフを見てイナミナが聞いてきた。

 ガルゴイフのHPゲージはゼロ。すでに消失してしまっている。イナミナが気にしているように本来ならば光に包まれて粒子となって霧散するはずのその肢体が残っていることに違和感は覚えるが、自分たちにどうにかできるものでもないとも思う。


「先に進みましょう。多分、ここに残っても良いことはない気がします」

「そうですね」


 部屋の隅に現われた扉を潜って次なる階層に向かう事にした。

 二人がこの部屋から出てすぐのこと。ガルゴイフの死体は一気に溶けて大量の泥が部屋を埋め尽くして戦闘中に拡散されていた周辺の泥も含めて飲み込んで、部屋の床に敷き詰められている床石の隙間に流れるように吸い込まれていった。

 そして、まるで最初から泥など無かったかというように綺麗な状態の部屋が現われた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


レベル【7】ランク【4】


HP【B】

MP【C】

攻撃力【D】

防御力【F】

魔攻力【E】

魔防力【F】

速度 【C】


専用武器


剣銃(ガンブレイズ)

↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】

魔導手甲(ガントレット)

↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】


防具


頭防具――【イヴァターレ・H】

胴防具――【イヴァターレ・B】

腕防具――【イヴァターレ・A】

脚防具――【イヴァターレ・L】

足防具――【イヴァターレ・S】

一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】


アクセサリ【6/10】

↳【生命の指輪】

↳【精神のお守り】

↳【攻撃の腕輪】

↳【魔攻の腕輪】

↳【魔防の腕輪】

↳【速度の腕輪】

↳【変化の指輪】

↳【隠匿の指輪】

↳【変化のピアス】

↳【―】


所持スキル


≪剣銃≫【Lv132】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。

↳<セイヴァー>――“威力”、“攻撃範囲”が強化された斬撃を放つ。

↳<カノン>――“威力”、“射程”、“弾速”、が強化された砲撃を放つ。

↳<インパクトノーツ>――次に発動する全てのアーツの威力を増加させる。

↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技(エスペシャル・アーツ)

↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技(エスペシャル・アーツ)

≪魔導手甲≫【Lv20】――武器種“魔導手甲”のアーツを使用できる。

↳<ブロウ>――“威力”を高めた打撃を放つ。

≪錬成強化≫【Lv110】――武器を錬成強化することができる。

≪竜化≫【Lv―】――竜の力をその身に宿す。

≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。

≪自動回復・HP≫【Lv―】――常時発動。一秒毎に生命力が回復する。

≪自動回復・MP≫【Lv―】――常時発動。一秒毎に精神力が回復する。

≪状態異常無効≫【Lv―】――状態異常にならない。(特定の状態異常を除く)

≪全能力強化≫【Lv100】――全ての能力値が上昇する。


残スキルポイント【7】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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