大変な改変は異変!? 30『オルヴァス』
闘技場から全速力で逃げ出した俺はオルヴァスと呼ばれていた正体不明の人物の先導で裏通りを抜けて町の外まで来ていた。
周りには瓦礫の山。
最近出来たばかりという感じではなく、寧ろ先程までいた町よりも昔からあったように見える。
「えっと、貴方は?」
瓦礫の一つに腰掛けているオルヴァスに声を掛ける。
全身をボロボロのローブで包み、顔を隠すためか目深に布を巻き付け、口元には長めの布が巻かれている。剥き出しになっているのは鼻と目だけ。これではオルヴァスという人物が男か女かすらも分からない。
「確か、オルヴァスって呼ばれてましたよね?」
「……」
「それに、あそこにいた人のことをリーリスって呼んでいた。知り合いですか?」
無言のまま俺のことを一瞥する。
「答えたくはないってことですか」
物言わぬ人形に話しかけているような気分になり俺も適当に近くの瓦礫に腰を下ろす。
決して居心地の良くない沈黙を感じながらもこの場から動くことは得策ではないような気がして移動できずにいた。
既に戦闘で受けたダメージや減少したMPは完全回復している。
手持ち無沙汰になってぼんやりと空を見上げていると意外にも沈黙に耐えられなくなったのかオルヴァスがトントンと指で瓦礫を叩き初めていた。
「暇なら俺と話してくれませんか?」
「……」
駄目で元々だと話しかけた俺に冷たい視線を向けてくるオルヴァス。
また無視されるのだろうと思っていたが驚いたことに小声で、
「…何だ」
と返してきた。
「えっと、どうして俺を助けてくれたんですか?」
「助けない方が良かったのか?」
「あ、いや、そういうわけじゃないけど」
オルヴァスの声は低くかなり落ち着いた声色をしている。
男性であることは間違いなさそうだがそれ以外の詳細は分からない。
じっと観察するようにオルヴァスを見つめていると俺の視線が気に障ったのかフード代わりにしている布をより深く被り目元を隠した。
「お前こそ。何故奴らと敵対している?」
「えっと、俺はなりゆきで?」
「…なんだそれは」
呆れたように呟くオルヴァスが腕を組むと異様なその左腕が露わになった。
「その左手…あ、左脚も」
「ああ、これか。そうだな。私にとってはこれが奴らとの因縁の証だ」
「因縁の…証」
黒い皮の手袋と長袖の上着の間から覗く手首は人のそれとは異なっている。くすんだ銀色とでも言えばいいのだろうか、使い古された鉄のような色がそこに見えた。
「人族じゃない?」
「いや。私は普通の人族さ。これはただの義手と義足さ」
「そんなアイテムがあったんだ」
「珍しいだろうね。今はどんな傷でも魔法で治せる時代だからな」
「それなら」
「残念だが、これは治せないのさ。いや、治してはならないとでも言うべきか」
「どういう意味?」
「私のこれは傷であって、傷ではないということさ」
自身の左腕、そして左脚を右手で擦りながらオルヴァスが微笑む。
場違いなほどに穏やかな笑みを浮かべているオルヴァスに俺はその意味を訊ねることができずにいた。
「それよりも、お前はこれからどうするんだ?」
「どうって、俺は――」
「奴らと戦うのか?」
「ああ。そのつもりだけど」
「止めておけ」
はっきりと告げるオルヴァスに思わず返す言葉を失ってしまう。
「言われていただろう。お前では力不足だと」
「それは…」
ジルバたちの先程の様子を鑑みればなまじ適当なことを言って退けたというわけではないだろう。となればやはり今の自分の力はジルバたちよりも劣っていると見るべきだ。
「奴らがお前を弱いというのなら、強くなればいい」
「えっ!?」
「できるのだろう?」
強くなることが純粋なレベルアップを指しているとすれば、それはプレイヤーができる当たり前のことでしかない。
力強く頷くとオルヴァスは躊躇なく「すればいい」と告げた。
「…無理だ」
「何故」
「時間がない。レベルはただじっとしていて上がるようなものじゃないんです。何体ものモンスターを討伐することで得られる経験値を積み重ねてようやく上げられるものなんです。それにこの近くの何処に大量のモンスターが出現するような場所があるというんですか?」
「ふむ。それには一つ心当りがある」
「何だって!?」
ここに来たばかりの俺よりも遙かに土地勘があるであろうオルヴァスが言うなら嘘ではないはず。
オルヴァスが懐から取り出した日焼けした古い地図を広げながらとある地点を指差した。
「わかるな。ここが今、私達がいる場所だ」
「はい」
「そして、ここ。ここならば大量のモンスターが生息しているはずだ」
最初に指差した地点から少し離れた場所。地図を見た限りどこかの山であることは間違いなさそうだが。
「ここには使われなくなった坑道がある。そこがモンスターの巣となっているらしい」
「討伐はしなかったんですか?」
「何度か討伐隊が組まれたことがあるらしいが、全てのモンスターを討伐することはできなかったみたいだな。そもそも使い道がなくなった坑道だ。本格的に掃討作戦が行われることもなく、いつしかお前のような人たちがモンスターを狩るための狩り場として使われるようになったと聞く」
「今も誰かがそこに?」
「どうだかな。少し前に立ち入り禁止区域になったらしいが、無断で侵入するような輩は何処にだっているものだ」
ふっと嘲笑するような笑みを浮かべてオルヴァスが言った。
「さて。どうする? そこに行けば強くなれるのではないか?」
「だとしても時間はどうにもならない」
苦々しげに呟く。
「ジルバたちはこの国、ノルアを支配すると言った。それを実行に移すまでそれほど時間は残されていないはず」
「なるほど。お前に因縁があるのはリーリスではなくジルバとかいう奴の方というわけか」
「…かもな。あ、でも確か奴らにはもう一人仲間がいたはず」
「もう一人、か」
「アンタはそれがどんな奴なのか知っているのか?」
「残念だが、私も詳しくは知らない。私が知っているのは“ルシード”という奴の名前だけだ」
「…ルシード」
と口の中で小さくその名前を復唱する。
脳裏に浮かんできた最後の一人の姿は未だに謎に包まれたまま。
「とりあえず今お前が考えるべきはジルバという者をどうするかだ」
「それだとリーリスは残るけど」
「構わないさ。奴は私の因縁の相手だからな」
立ち上がるオルヴァスが持っている地図を手渡してくる。
「使うといい」
「え、でも……」
「私にはもう必要の無いものだ」
「ありがとうございます」
紙が古く若干硬くなっている地図を受け取った。
「必ず強くなって、必ず間に合わせますから」
ジルバたちに支配される前にと言外に付け加えて告げる。すると何故かオルヴァスは目を瞑り大きく頭を振った。
「残念だが奴らがノルアを支配することを止めることはできないだろう」
「そんなこと――っ」
「冷静になって考えてみろ。奴らが支配するということはそこで暮らす人をフェイスレスに変えるということと同義だ。初めの頃こそ緩やかにしか数が増えなくともその数はどこかで爆発的に増加することになる。そもそもからして単純な力で侵略して支配しようとしているのとは訳が違うのだ。必ずしも相手を殺す必要はなく、トップ陣の誰かでもフェイスレスにしてしまえば、後はなし崩し的に支配されていくことだろう。それを止めるには今すぐにでも奴らを倒す以外に方法はない。だが、戦力が違いすぎる私達にそれは不可能だ」
「だからノルアを見捨てるということですか?」
「そうだ」
狼狽えることなくはっきりと答えたオルヴァスを前に俺は思わずその襟元を掴みかかりそうになる。
すんでの所で踏み止まったのはオルヴァスがすぐに「だが…それでも……」と言葉を続けたから。
「人は逃がすことができる」
「どういうこと?」
「今、この瞬間もノルアでは私の仲間が住人達を外に逃がしていることだろう」
「逃がしてって…ばれてないんですか?」
「いや、既にばれてはいるだろう。だが、奴らにとって人が減ることは何も問題はないはずだ。奴らが積極的にフェイスレスに変えたいのはどこにでも居るような平凡な住人達ではなく、国の実権を握っているような人達だろうからな」
冷静に分析をするオルヴァスに釈然としないものを感じながらも、彼を否定できる材料を何も持たない俺は表情を曇らせたまま黙ることしかできない。
「忘れるな。長い時の中、国というものは形を変えることがある。所詮国は入れ物に過ぎないからだ。重要なのはそこで生きる人たちの命。心配するな、脱出した人達を受け入れる体勢は整っている。お前がノルアをどうにかしたいと考えているのならば、まずはお前はお前の出来ることをするべきだ」
「わかりました」
しぶしぶ納得して俺は手渡された地図に視線を落とした。
古い地図は普段使っているマップよりも見辛く、縮尺が曖昧なのか近隣の施設と施設の間隔がかなり適当なものになっているようだ。これならば目的地を坑道にマークしてマップを見た方が移動しやすいのは間違いなさそうだ。
「さて。それでは私は行くとするよ」
思わず何処にと訊ねそうになるも俺は口を閉ざした。
オルヴァスの目的地は聞くまでもなく、ジルバたちによって支配されつつあるノルアだ。
戦火に飛び込むことを厭わないオルヴァスはどこか儚げな印象が残る。
「無理はしないでくださいね」
話をしたのはこの時が初めて。今も布で覆われてその素顔すら見ていない。そんな相手であるというのに俺はオルヴァスに仲間に向けるものと同じような感情を抱き始めていた。
「どうかな。無理無謀は強大な存在を相手取るときには必須条件みたいなものだろうからね」
「それでも……」
「少なくともお前が駆け付けてくるまでの時間稼ぎくらいは熟してみせるさ」
決して「分かった」とは言わずにオルヴァスは逃げ出してきた闘技場がある町へと戻り歩き出していた。
その背中が見えなくなるまで見送って、俺はオルヴァスとは真逆の進行方向へと歩き出す。
手渡された地図を手元に呼び出したマップに登録したことで曖昧だった道が浮かび上がる。坑道と町の距離は思っていたよりも離れているようで、最速で辿り着くために三輪魔導車のウォーグを取り出して一気に舗装されていない土が固められた道を駆け抜けていった。
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レベル【22】ランク【3】
HP【9960】(+320)
MP【8850】(+770)
ATK【276】(+1810)
DEF【238】(+1880)
INT【271】(+900)
MND【194】(+1110)
AGI【304】(+1130)
【火耐性】(+10)
【水耐性】(+50)
【土耐性】(+50)
【氷耐性】(+150)
【雷耐性】(+100)
【毒耐性】(+100)
【麻痺耐性】(+200)
【暗闇耐性】(+150)
【裂傷耐性】(+40)
専用武器
剣銃――ガンブレイズ【Rank1】【Lv1】(ATK+600 INT+600)
↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】
魔導手甲――ガントレット【Lv67】(ATK+460 DEF+460 MND+420)
↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】
防具
頭――【イヴァターレ・ネックウォーマ】(MP+270 INT+210 MND+210 氷耐性+30 毒耐性+70 麻痺耐性+70 暗闇耐性+50)【打撃耐性】【衝撃耐性】
胴――【イヴァターレ・ジャケット】(HP+210 DEF+410 MND+380 雷耐性+30 氷耐性+60)【反動軽減】
腕――【イヴァターレ・グローブ】(ATK+330 DEF+240 AGI+160 火耐性+10 氷耐性+10 雷耐性+30 毒耐性+30)【命中率上昇】【会心率上昇】
脚――【イヴァターレ・ボトム】(HP+110 ATK+210 DEF+320 AGI+410 氷耐性+30 裂傷耐性+40)【命中率上昇】【会心率上昇】
足――【イヴァターレ・グリーブ】(ATK+110 DEF+370 AGI+460 氷耐性+20 雷耐性+40 麻痺耐性+30)【気絶無効】【落下ダメージ軽減】
一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】
アクセサリ【10/10】
↳【大命のリング】(HP+500)
↳【魔力のお守り】(MP+500)
↳【強力の腕輪】(ATK+100)
↳【知恵の腕輪】(INT+100)
↳【精神の腕輪】(MND+100)
↳【健脚の腕輪】(AGI+100)
↳【地の護石】(地耐性+50)
↳【水の護石】(水耐性+50)
↳【暗視の護符】(暗闇耐性+100)
↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)
所持スキル
≪剣銃≫【Lv98】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。
↳<セイヴァー>――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。
↳<カノン>――威力、射程が強化された砲撃を放つ。
↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。
↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。
≪錬成強化≫【Lv100】――武器レベル“100”までの武器を錬成強化することができる。
≪錬成突破≫【Lv1】――規定のレベルに到達した武器をRank“1”に錬成突破することができる。
≪竜化≫【Lv―】――竜の力をその身に宿す。
≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。
≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。
≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。
≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。
≪全能力強化≫【Lv90】――全ての能力値が上昇する。
残スキルポイント【8】
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