大変な改変は異変!? 20『狼』
眼前に聳える巨大な神像。
獣の顔に、巨人の体。
神像の背中には燃え盛る劫火を象った後輪が何の支えもなく浮かんでいる。
座禅を組むような格好で鎮座している神像の手の中にあるのは開かれた三枚の花弁を持つ薄紅色の花。
出入り口が一つしかないせいで空気が澱んでいるようでこの最奥の一室はとても埃臭く、かび臭い。
常に宙を舞っている砂埃が壁の亀裂から差し込んでくる光に照らされてキラキラと煌めいている。
だというのに不思議と居心地が良く思えているのは神像が持つ神々しさと薄紅色の花が発する清廉な雰囲気を感じ取っているからか。
ゆっくりと歩いて神像に近付ていく。
これが現実の神社仏閣だったのならば御神体である神像に触れることは気安くできないことだが、この世界では少しだけ心理的な壁が低い。そもそもからして自分が手を伸ばすのは神像そのものではなくその手の中にある薄紅色の花のほうなのだ。
重なっている神像の掌に溜まっている透明な水に浮かぶ薄紅色の花には根は見当たらず、茎の根元には水と同化して見えている水晶のような塊があった。
不用意に花に触れると痛めてしまいそうな気がして水晶をそっと掬い上げる。
薄紅色の花が水を離れて俺の手の中に移ったその直後、薄紅色の花はストレージの中へと自動的に移動した。
「これが【桃華】。まさか、本当にあったなんて」
ムラマサたちと別れ、一人で“イルマ”と目指して出発した俺が何故【桃華】などというアイテムを探すことになったのか。
それはこの神像がある神殿の外で待っている精霊猫の【リリィ】が関係している。
地図を片手にウォーグという三輪魔導車でイルマに向かっている道中、何かに誘われるようにリリィがどうしてもと行きたがったのが人々の行き来が盛んな大通りを左に外れて真っ直ぐ進んだ先にある名も知らぬ山だった。そして山の中にあったのがこの神殿。祀っている神の名も、この神殿の名前すら歴史から消されてしまっているようで、俺の目に表示されている名称は“廃神殿”というもので、そこは今や小さなダンジョンと化しているようだった。
廃神殿の奥で見つけた【桃華】というアイテムの詳細を確認してみる。“薬の原料として使えばどんな病気でも治してしまうと云われている”と記されていた。
思い出されるのは白銀の毛皮を持つ一匹の狼が廃神殿へと入ろうとして何故か入れず、いつしか全身が傷つき出し、程なくしてパタリと倒れてしまったその姿。
あの狼は何かのモンスターだろうと無視して通り過ぎようとしていた俺をリリィが止めて、すかさず狼の元へと駆け出しながら俺に助けて欲しいと訴えてきた。
ただのモンスターならばプレイヤーを襲ってくる。そう思って警戒しながら近付く俺に構わずに飛び出したリリィは、すぐに俺に狼を抱えて神殿から離れるように言ってきたのだ。
リリィに言われるがまま狼を抱えて移動した俺は傷ついて息も絶え絶えになっている姿を見かねて手持ちの回復薬を狼に使用することにした。
アンデッド系ならば逆効果のそれも狼には正しく効果を発揮してたちまちに狼の傷を癒やしていく。しかし疲弊した体力までは回復できないようで、こちらを見て何かを訴えるような瞳を向けるとすぐに気を失うように眠ってしまった。
このまま放り出すことは憚れる。
かといってここでじっと目を覚ますのを待っているのも退屈だ。
さてどうしたものかと考えていた俺にリリィはこの廃神殿の最奥を目指すように告げてきたのだ。そしてそこにあるはずのアイテムを取ってくるように、と。
この時にはまだそのアイテムが【桃華】であることは判明してなかったが、あまりにもリリィが真剣な表情で訴えてくるので何かしらの理由があるのだろうと訊ねるも、リリィはただ「勘!」と言ってくるだけだった。
仕方なく俺は廃神殿に挑むことを決めた。
結果は意外と呆気ないものだった。
襲ってくるモンスターは弱くはなかったものの、決して“強い”とは言えない程度だった。
廃神殿は自分がソロで挑んでも問題なく踏破することができる難度で、比較的スムーズに最奥の部屋にある神像の前までやってくることができたのだ。
【桃華】も問題なく回収することができた。
来た道を歩いて戻るのは若干面倒に思えたが廃神殿の通路の幅は広く、迷宮といえどそれほど入り組んだ構造はしていないことからウォーグを使って一気に駆け抜けることにした。
魔導車の独特なエンジン音が響き渡り、道中に出現するモンスターを置き去って走ることで不要な戦闘は避けられる。
暫く走っていると廃神殿の出口に繋がっている一本道に出た。
加速させて廃神殿から飛び出す。
すると驚いたことに俺が廃神殿の外に出た途端。たった今まで存在感を放っていた廃神殿は霞となって消え去ってしまったのだ。
「ユウ!」
ウォーグに跨がる俺を見つけてリリィが駆け寄ってくる。
どことなく不安そうなのは廃神殿が消えるさまを目の当たりにしたからか。
「あの狼はどう? 目を覚ました?」
「ううん、まだ」
「そっか。【桃華】は手に入れたし、一度起こしてみた方がいいかもな」
回復薬によって傷は癒えているはず。できることなら自然と目を覚ますのを待って上げたい気持ちもあるが、ここで何もしないでじっとしているのは時間の無駄だ。
別のモンスターの襲撃に遭う危険もある。
それならば多少強引であっても狼を起こして、目的のアイテムであろう【桃華】を渡して安全な場所に移動した方がいいだろう。
「それが、あの子が探していたモノなの?」
俺の背中に飛び乗ったリリィが聞いてきた。
その問いに反応するように【桃華】が独りでにストレージから飛び出して実体化して俺の胸の前に浮かんでいる。
「あ、ああ。そうだよ」
「綺麗だね」
「そうだな」
廃神殿の外で【桃華】は太陽の光を十全に浴びてそれ自体が宝石であるかのように輝いている。
「ね、ねえ」
微かに子供のような声がする。
俺とリリィは顔を見合わせて声のする方に視線を向けるといつの間にか目を覚ましていた狼がよろよろと立ち上がろうとしているのが見えた。
「それ、僕のなの……僕、僕が……」
声の主はあの白銀の狼。
しかし目を覚ましたばかりで記憶が混乱しているのか何を言いたいのか今ひとつ伝わってこない。
無言のままじっと見つめていると狼は何かを言おうと口を開いた瞬間、糸が切れたマリオネットのようにガクンとその場に倒れ込んだ。
慌てて駆け寄るリリィ。
その後ろを歩く俺も倒れて気を失っている狼を注意深く観察してみることにした。
白銀の毛には土や泥が至るところに付いている。仮に血がそのまま表現されるのだとすればそこに乾いて固まった血も混ざっていることだろう。
狼の大きさは中型犬ほど。
種類にもよるのだろうがこの狼はまだ顔つきが幼く子供であるようにさえ思える。
「とりあえず、この子を連れて安全そうな場所に移動するか?」
「うん」
ゆっくり揺らさないように気を配りながら狼を抱え上げる。
「で、リリィ。安全そうな場所は何処だ?」
土地勘のない俺にはマップを見てもそのような場所は分からない。だとすればばリリィの精霊猫としての感覚と勘に頼った方が間違いないだろう。そんな俺の思惑を察してリリィは首の後ろから顔を出して辺りをキョロキョロと見回していた。
「あっち!」
リリィが一点を見つめて告げる。
「わかった」
リリィによって指し示された行き先。
そこは本来の進路を外れた山のさらに奥の方。
人の手が全く入っていない天然の自然が色濃く残るそこに俺は迷うことなく足を踏み入れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
レベル【22】ランク【3】
HP【9960】(+320)
MP【8850】(+770)
ATK【276】(+1810)
DEF【238】(+1880)
INT【271】(+900)
MND【194】(+1110)
AGI【304】(+1130)
【火耐性】(+10)
【水耐性】(+50)
【土耐性】(+50)
【氷耐性】(+150)
【雷耐性】(+100)
【毒耐性】(+100)
【麻痺耐性】(+200)
【暗闇耐性】(+150)
【裂傷耐性】(+40)
専用武器
剣銃――ガンブレイズ【Rank1】【Lv1】(ATK+600 INT+600)
↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】
魔導手甲――ガントレット【Lv67】(ATK+460 DEF+460 MND+420)
↳アビリティ――【フォースシールド】【アンカーショット】
防具
頭――【イヴァターレ・ネックウォーマ】(MP+270 INT+210 MND+210 氷耐性+30 毒耐性+70 麻痺耐性+70 暗闇耐性+50)【打撃耐性】【衝撃耐性】
胴――【イヴァターレ・ジャケット】(HP+210 DEF+410 MND+380 雷耐性+30 氷耐性+60)【反動軽減】
腕――【イヴァターレ・グローブ】(ATK+330 DEF+240 AGI+160 火耐性+10 氷耐性+10 雷耐性+30 毒耐性+30)【命中率上昇】【会心率上昇】
脚――【イヴァターレ・ボトム】(HP+110 ATK+210 DEF+320 AGI+410 氷耐性+30 裂傷耐性+40)【命中率上昇】【会心率上昇】
足――【イヴァターレ・グリーブ】(ATK+110 DEF+370 AGI+460 氷耐性+20 雷耐性+40 麻痺耐性+30)【気絶無効】【落下ダメージ軽減】
一式装備追加効果【5/5】――【物理ダメージ上昇】【魔法ダメージ上昇】
アクセサリ【10/10】
↳【大命のリング】(HP+500)
↳【魔力のお守り】(MP+500)
↳【強力の腕輪】(ATK+100)
↳【知恵の腕輪】(INT+100)
↳【精神の腕輪】(MND+100)
↳【健脚の腕輪】(AGI+100)
↳【地の護石】(地耐性+50)
↳【水の護石】(水耐性+50)
↳【暗視の護符】(暗闇耐性+100)
↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)
所持スキル
≪剣銃≫【Lv98】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。
↳<セイヴァー>――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。
↳<カノン>――威力、射程が強化された砲撃を放つ。
↳<ブレイジング・エッジ>――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。
↳<ブレイジング・ノヴァ>――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。
≪錬成強化≫【Lv100】――武器レベル“100”までの武器を錬成強化することができる。
≪錬成突破≫【Lv1】――規定のレベルに到達した武器をRank“1”に錬成突破することができる。
≪竜化≫【Lv―】――竜の力をその身に宿す。
≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。
≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。
≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。
≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。
≪全能力強化≫【Lv90】――全ての能力値が上昇する。
残スキルポイント【8】
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