大変な改変は異変!? 07『交渉成立?』
ルミナに代わって説明をするムラマサ曰く、テレス王国というのは今自分たちがいる町のある国の隣国の一つであるらしい。
古びた羊皮紙のように黄変している一枚の紙に記されているのはこの周辺の地図。どうやら長い年月この辺りは国の勢力図が変わっていないようで毎年のように地図は新しく作られているものの古い物でもある程度信憑性の高い地図となっているようだ。
そもそもからしてルミナが取り出したこの地図はルミナが自国から持ち出したものであり、どんなに必要だと説明しても最新のものは持ち出すことが禁じられ、どうにか持ち出せたのが数十年も前に作られたこの古地図だけだったということらしい。
「多少は今と地形が変わっていますが、大まかな説明をするのならばこれでも問題ない……そうでしたよね?」
「まあね。オレ達に必要だったのは正確な地図ではなくて周辺の国々を知ることのできる情報なのだからね」
心細そうに確認するルミナに合っていると頷くムラマサ。そんな二人の様子は立場の違いなどない、対等な友人同士の会話のように見えた。
気になるのはルミナの正体が判明してからというものホーラの態度がどこか緊張しているというか、心ここにあらずというか。何となくそれまでとは異なる様子になったことだ。
「どうしました?」
声を潜めて無事だった椅子を引っ張り出して座っているホーラに声を掛けた。
こちらを見たホーラの顔はどこか青ざめており、小刻みに体を震わせている。
「な、なあ。ワシ大丈夫なのか? ルミナス様にあんな口を利いて……ほら、あるだろ。不敬罪とかがよ」
「えっと、大丈夫なんじゃないですか。何と言っても本人が正体隠していたくらいですし、自分が隠していたことで不敬罪だーとかは言わないはずですよ……たぶん」
「多分かよっ」
「あ、その、やっぱり本人に聞いてみないと何とも言えないですし」
「だったら聞いてみてくれよ!」
「俺がですか?」
「頼む!」
「まあ、別にいいですけど」
この世界に生きるNPCと自分とでは立場も違えば常識も違う。
俺からすればなんてことも無いように思える事柄ですら、当人からすれば大事であることもままあることだ。
とはいえ、一つのテーブルを挟んで座っている状況だ。どんなに声を潜めているとしてもこちらの話す声は向こうにも聞こえていることだろう。
ちらりとルミナの顔を見る。
すると穏やかそうな微笑みが返ってきた。
「不敬罪は気にしなくても大丈夫ですよ。彼の、ユウさんの言うとおり、隠しているのはこちらですし、今はそれどころじゃありませんからね」
「さっきのフェイスレスとかいう連中のことですね」
「はい」
纏う雰囲気が一変して重々しく神妙な面持ちで頷くルミナ。
「あの者達が確認されたのは今からおよそ三ヶ月前のことです」
「確認されたってことは、実際にフェイスレスが現われたのはもっと前からだって言うんですか?」
「わかりません。ただ、最初に確認された時に起きた事件というのが国境付近の一つの村が複数のフェイスレスによる襲撃事件なのです。その時には偶然にも近くで演習をしていたテレス王国の騎士団によって討伐することができましたが、村と騎士団に大きな被害が出てしまったのです。以降テレス王国の国境付近では繰り返しフェイスレスの襲撃事件が起きました。ムラマサさんと出会ったのは彼女が襲撃現場でフェイスレスと戦闘をしているところに偶然鉢合わせたのが切っ掛けです」
「えっ?」
思わず声が出た。
俺たちプレイヤーがこの大陸に来たのは今日。しかしルミナの口振りではそれよりも早くムラマサがここに来ていたことになる。
「一応言っておくけど、オレがこの大陸に来たのは今日が最初だよ。ルミナと出会ったのは今朝、というか深夜だね。アップデートと新大陸の実装は日付が変わってすぐに行われるから昨日の夜からずっとプレイしている人もいるってわけさ。何を隠そうオレもその口なのさ」
「あ、ああ。なるほど?」
それにしては随分とルミナからの信頼を得ているように見えるが、先程の調子でムラマサは率先して戦い守ることで信頼を獲得していったのだろう。
「つまり、ムラマサが最初に戦った時点で最初の襲撃から三ヶ月が経過していたってことか」
「そうなるね」
「まあ、既に事件は起きていたっていうのも珍しくはないか」
一人納得して再びルミナに視線を向ける。
「ルミナさんがしているのは今回の事件の調査ってことですか?」
「いいえ。私が目指しているのはこの襲撃事件を解決することです」
確認のための質問にルミナははっきりとした口調で答えた。
「解決?」
「フェイスレスやスカル・スパイダーのような存在は本来この世界には存在していません。自然の摂理に反して、何らかの力を得たのだろうとグレイス・ブラッドが言っていましたし」
「確か、第二騎士団副団長で研究部隊隊長でしたっけ?」
「はい。国王である父が深い信頼を寄せている人物です」
「オレも一度会わせてもらったけどね、ちょっと軽薄そうに見えたけど人の良さそうな人物だったよ。加えて実力は折り紙付き。少なくとも一人であったとしても数体のフェイスレスくらいならば確実に圧倒してみせるだろうね」
「そんなに?」
「ああ。そんなに、だ」
NPCの中でも指折りの実力者だということのようだ。
だとしても一人で全ての襲撃から人々を守り切ることができるわけじゃない。だからこそムラマサはルミナに協力しているのだろう。
「ってか、それを俺に話すってことは」
「ああ。ユウに手を貸してもらいたい」
「でもさ、これってムラマサが受けた“クエスト”何じゃないのか?」
「んー、それがだね。さっきはああ言ったけど、この一連のことは正確に言うと“クエスト”ではないんさ。クエストとして進める物語というよりは過去に行われたイベントのみたいな感じが近しいと思う。だからさ」
「これから先に俺たち以外の人も参加してくる可能性があるってこと?」
「誰でもというわけじゃ無いと思うけれどね」
「どういう意味?」
「参加するにしても条件があるかもしれないってことさ」
「条件?」
「オレとユウに共通していること。というか正確にはオレとユウ、そしてフェイスレスやスカル・スパイダーと共通していることがあるだろう?」
ムラマサに問われて考えてみるとすぐに一つの可能性に行き当たった。
「まさか!?」
「そのまさかじゃないかな。オレの予想が間違っていないのならば、この件に関わるには何かしら“変身”に近しい能力を持っている必要があるはずさ」
ムラマサが自身の予想を口にし、俺たちの会話をルミナが黙って聞いている。一人取り残されているホーラが咳払いをして申し訳なさそうに手を上げた。
「あの、その・・・なんでワシはまだここに残されているんですかね?」
「貴方が唯一、明確な目的をもってフェイスレスに襲われたのです」
「はあ・・・」
「ですので、私は貴方を保護したいと思っているのですが、どうでしょう」
「どうでしょうかって・・・またワシが狙われるっていうんですか?」
「可能性が無いわけではないはずです」
「だけど、ワシを襲っていた奴らは全員お前さんらが倒したんじゃなかったのか?」
「はい。そのはずですけど」
流れで話を振られて咄嗟に肯定した。
「んー、こう言ってはなんだけどね。襲ってきていた連中が関係している全員とは限らないからね」
「た、確かに」
「心当たりがあるのですか?」
「俺にはありませんけど、ホーラさんはどうなんです?」
「いや、ワシにいちゃもんを付けてきていたのは今日来た連中だけだったはずだ」
首を横に振ってホーラが否定するも、実際に襲ってきた人に指示を送っていた人がいることは簡単に想像することができた。ホーラがその可能性に気付いていないはずがない。ここで敢えて言及しないのは俺たちに指摘されるまで話さないというNPCの特性だからだろうか。
「指示をしていたのは誰なんです?」
「・・・すまないが、それはわからんのだ。最初にワシに絡んできた男はあの中の一人だったからな」
「そうですか」
代表して訪ねたのはムラマサだった。
しかし回答は芳しくない。とはいえ僅かながらも危険が及ぶ可能性があるのならば相手に何か有利にならないように手を打たなければならないのだ。
「どうでしょう? 改めて訊ねますが、私達の保護を受けてはもらえないでしょうか?」
なおもルミナがホーラに言う。
暫し悩む素振りを見せたものの、結局ホーラは目を伏せて頭を振った。
「いや、そう言ってくれるのは嬉しいが、ワシ一人が逃げたところでこの町にいるワシの家族に被害が及ばないとも限らないだろう。それならばワシが引き付ける方が安心できるというものだ」
しっかりとした強い意思でそう答えたホーラにルミナは仕方ないというように頷いた。
「わかりました。その代わりですが、貴方に護衛を付けることを了承してもらいます」
「護衛、ですか?」
「姿を隠して護衛することも可能ですが、今回は敢えて護衛の存在をアピールすることで更なる襲撃を牽制しましょう」
「え、でも・・・」
「申し訳ありませんが、譲歩できるのはここまでです」
キッと睨むようなルミナの視線にホーラは気圧されて受け入れるしかなかった。
「それから、ユウさん」
「は、はい」
「改めてお願いします。私達に力を貸してもらえませんか?」
真っ直ぐこちらの目を見てくるルミナの真剣な思いが伝わってくる。
「報酬は貴方が今、欲しているものを」
「俺が欲しているもの?」
「そちら……」
とルミナが指差したのはホーラが俺に譲ってくれた“エンジン”。
「貴方が何を作るのかはわかりませんが、私に手を貸してくれるというのでしたら、私はそれに必要となるであろう素材の全てをお渡ししましょう」
「ええっ、全て!?」
「はい。“全て”です」
ルミナは威圧的な視線は和らぎ消えて穏やかな笑みを浮かべた。
「んー、一言付け加えると、ルミナが言っていることは可能だと思うよ。何といっても一国の姫なのは間違いないのだからね。限度はあると思うけど大抵の素材なら簡単に用意できるはずさ」
「マジか」
「マジだね」
誇張するでもなく淡々と事実だけを伝えてくるムラマサの言葉を疑うつもりはない。
つまりこの話を受けることでこれから行う必要があった素材集めを一気に短縮することができるということだ。
「何が目的ですか?」
「フェイスレスなどといった懸念材料の排除」
「ん?」
「この大陸は現在のパワーバランスで長い時を過ごしてきました。ありとあらゆる種族、国家、それらが曲がりなりにも纏まっていられるのは現状が維持されているからこそ。しかしフェイスレスの力は容易くそれを崩してしまう怖れがある」
「それは、誰の言葉ですか?」
微塵も疑うことなく信じていることを語っているルミナに思わず訊ねてしまっていた。
ピリッと張り詰める空気のなかで虚を突かれたようなルミナの視線と思わず顔を顰めるムラマサの視線が突き刺さる。
「ユウ?」
「これは国王である父とグレイス・ブラッドの共通見解です」
「ルミナさんは違うんですか?」
「私は……」
どういうわけか言い淀んだルミナにムラマサは心配そうな視線を、ホーラは少しだけ訝しむような視線を向けている。
「フェイスレスになった人は本来そのような力を持つ人ではない」
緊張感漂う空気を打破するためにムラマサが言った。
「敢えて言うのなら何の力も持たない人たちだ。精々暴力的な一般人程度、それが突然フェイスレスになる力を得た。違うかい?」
「あ、ああ。この前に来た時はあんな風にはならなかったぞ」
ムラマサの問い掛けに戸惑いつつもホーラが答えた。
「だとすればその時から今日までの間に彼らの身に何かが起こったということになる。フェイスレスの力を得るような何かがね」
「手掛かりはあるの?」
「どうかな。今のところオレたちにできていることは襲撃をいち早く察知して解決することだけで、原因の特定にまでは至っていないんだ。なにせ手が足りなくてね」
ニヤリと笑みを浮かべてムラマサが俺を見てくる。
「わかった。わかったよ。俺も手を貸す。それでいいんだよな」
「話が早くて助かるよ」
「さっきの報酬、忘れないでくださいね」
「わかっています」
俺が受け入れたことで喜んだのか、それともムラマサによって先程の問いが有耶無耶になったことに安心しているのか、ほっと胸を撫下ろしながらルミナが頷いていた。
「ユウの目的は自分の魔導車を作ることだったね」
「あ、うん。そうだけど」
「んー、決めた。オレも自分の魔導車を持つことにするよ」
「え? どうしていきなり?」
「移動が楽になるのは間違いないし、そうした方が良いとオレの勘が告げているのさ」
突拍子も無いことを言い出したわけではないだろうが、ムラマサのこの提案は俺からすれば意外なことだった。
驚き良いのかと視線で訊ねるとルミナは変わらぬ笑顔で頷いた。
「ではまずは隣町にあるテレス王国が保有している工場に向かいましょうか。そこならば機材も素材も揃っているはずですので」
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レベル【21】ランク【3】
HP【9950】(+500)
MP【8840】(+620)
ATK【266】(+465)
DEF【235】(+745)
INT【261】(+540)
MND【188】(+500)
AGI【294】(+390)
専用武器
剣銃――ガンブレイズ【Lv73】(ATK+360 INT+360)
↳アビリティ――【魔力銃】【不壊特性】
魔導手甲――ガントレット【Lv1】(ATK+5 DEF+5)
↳アビリティ――【なし】
防具
頭――【黒曜石のカフス】(MP+120 INT+80 MND+200)
胴――【ディーブルーワイバーンレザーコート】(DEF+200 MND+200 火耐性+30 雷耐性+20)
腕――【ディーブルーワイバーンレザーグローブ】(DEF+140 火耐性+30 雷耐性+20)
脚――【ディーブルーコンバットボトム】(DEF+120 AGI+130 火耐性+30 雷耐性+20)
足――【ダークメタルグリーブブーツ】(DEF+200 AGI+160 水耐性+20)
アクセサリ
↳【大命のリング】(HP+500)
↳【魔力のお守り】(MP+500)
↳【強力の腕輪】(ATK+100)
↳【知恵の腕輪】(INT+100)
↳【精神の腕輪】(MND+100)
↳【健脚の腕輪】(AGI+100)
↳【地の護石】(地耐性+50)
↳【水の護石】(水耐性+50)
↳【暗視の護符】(暗視耐性+100)
↳【麻痺の護符】(麻痺耐性+100)
所持スキル
≪剣銃≫【Lv98】――武器種“剣銃”のアーツを使用できる。
↳〈セイヴァー〉――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。
↳〈カノン〉――威力、射程が強化された砲撃を放つ。
↳〈ブレイジング・エッジ〉――剣形態で極大の斬撃を放つ必殺技。
↳〈ブレイジング・ノヴァ〉――銃形態で極大の砲撃を放つ必殺技。
≪錬成強化≫【Lv80】――武器レベル“80”までの武器を錬成強化することができる。
≪竜化≫【Lv―】――竜の力をその身に宿す。
≪友精の刻印≫【Lv―】――妖精猫との友情の証。
≪自動回復・HP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にHPが少量回復する。
≪自動回復・MP≫【Lv20】――常時発動。一秒毎にMPが少量回復する。
≪全状態異常耐性≫【Lv40】――状態異常になる確率をかなり下げる。
≪全能力強化≫【Lv90】――全ての能力値が上昇する。
残スキルポイント【28】
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