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闘争の世界 ep.13 『予選~第二回戦③~』



 実際に自分が鬼と対峙してみて始めて分かることがある。それは自分が想像していたほどその二つに大きな違いというものはないのかも知れないということ。

 鬼はこの予選二回戦における参加者(プレイヤー)以外の敵として登場した存在。鬼に追いかけられてそれから逃げ延びるという内容であるからこそプレイヤーがそれに対してできる行動は逃げの一沢であると考えてしまっていた。が、この勘違いは多くのプレイヤーのなかで割と早い段階で解消されることとなった。それもそのはず、予選二回戦に参加しているプレイヤーの目的は戦うこと。襲い掛かってくる存在が他者であろうと鬼であろうとも最終的な手段が戦うことしか残されていないのであれば、迷わずその選択肢を取っていたことだろう。

 最初はどうせやられるならと、一矢報いるべく反撃したのかもしれない。反撃に成功したこと自体が偶然だったのかもしれない。

 しかし、鬼に攻撃が通用すると判明した瞬間から、プレイヤーはただ追われるだけの存在ではなくなった。

 勝利条件は生き延びること。

 その方法は問われていない。

 故に、こう考える人も出てくるのは自明の理。

 予選二回戦が終わる前に鬼を倒しきることができるとしたら。

 その上で他のプレイヤーを敗北にまで追い込むことができるのだとすれば。

 鬼という障害が現われたとしても変わることのない人という変わらぬ相手。



「そっちに行ったぞ!」

「隠れてるってんなら炙り出せ!」

「くそっ、鬼も来やがった!?」



 騒がしくなった予選二回戦の舞台に数多の怒号が飛び交う。

 途切れることのない戦いの音。

 高層ビルの明かりによって照らされている街の中に明滅する破壊の光。

 戦いはまさに自分達のすぐ隣で起きている。



「くそっ、きりがない」



 悪態を吐きながらハルバートを振り下ろしたハルの前にいたもの。それは鬼ではなく自分達を襲ってきた別のプレイヤー。

 数回ハルバートで切り払われたことでHPを全損して消滅する瞬間だった。



「直ぐに別の誰かが音を聞きつけてやってくるはずだ。早くここから移動しよう」

「ああ」

「わかった」



 抜いていた刀を鞘に収めて告げるムラマサに俺とハルは揃って頷いていた。

 息を殺し隠れるようにして移動を始める。

 これまでのようにビルの陰に隠れながら移動することは大して意味を成さない。鬼も他のプレイヤーも逃げ回っているプレイヤーの意図を読み追いかけてくるようになっているからだ。

 防御に回避、時には反撃がやりやすいように、それでいて不用意に戦闘にならないように気を配りながら自分達が逃走に選んだのは程よい道幅のある通り。

 ビルの中から漏れ出てくる光の他にも街灯の明かりが道を照らしていることが周囲から死角というものを減らすことに一役買っていたのだった。



「何か来る!」



 一番前を歩いているハルが告げる。

 通りの向こうで微かに見えた何かが動く影。四方から光を送っている街灯によって影がいくつにも分かたれているそれに確かなことはただ一つ。その向こうに何者かがいるという事実。

 各々が自らの武器に手を伸ばしてそれが現われるのを待ち構える。

 後光のように街灯の光を背負いながら姿を現わしたそれの顔にあるのは鬼の面。いち早くその正体に気付いたハルがさらに告げた。



「鬼だっ!」

「だったら近くに他にも鬼がいるはずだ。警戒を怠るな!」



 素早く狼牙刀を抜いてムラマサが指示を送る。

 その声に続くように左右の脇道から異なる鬼が姿を現わした。

 体躯以外全てが同じである鬼達。その手に持たれている棍棒を振りかざして俺達に襲い掛かってきた。

 自分達が取れる選択肢はいくつもある。逃げること。戦うこと。戦うとしても一人で鬼と退治するのか。あるいは全員で一体の鬼と戦うのか。

 普段の戦闘ならば自分達と相手の武器の特性を考慮して誰がどの鬼と戦うか決めてから戦う。しかし鬼が相手ならば誰がどの鬼と戦おうとしても武器による有利不利は存在しない。

 集団戦とはいえ俺達は全員で一人の鬼を相手取ることには慣れていない。まだ相手が巨大なモンスターだったのならば話は違っただろうが、生憎と相手は鬼といえど人の大きさと形をしている。そんな相手とリーチの異なる武器を持った自分達が戦うには一対一で戦うことに比べると無駄に難易度が上がってしまう。

 だからこそ俺達はそれぞれの鬼と自分一人で戦うことを選んだ。

 俺は右から現われた鬼に向かって走り出す。

 手には精錬された片手剣。

 切っ先を近付いてくる鬼に向ける。



「<シーン・ボルト>!」



 切っ先から放たれる稲妻の軌跡を描く(やじり)

 棍棒の攻撃範囲に入る前に俺の攻撃が鬼に命中した。



「っても、普通に攻撃した方がダメージ入るんだよな……」



 遠距離攻撃となるアーツよりも付けられたのが例えかすり傷だったとしても直接攻撃を仕掛けた方がダメージは大きい。いや、正確に言うならば直接当てた攻撃の方がダメージが大きくなるように補正が施されているというべきか。

 鬼は棍棒という近距離武器しか与えられていないために、遠距離攻撃を可能とするプレイヤーの有利を軽減するためなのかどうかは知らないが、このダメージ量の差異は決して無視ができる数値ではなかった。



「けど、一瞬とはいえ怯みさえすれば」



 ダメージ量は低くとも遠距離攻撃には鬼を僅かに怯ませる効果がある。それはこれまでの鬼との戦闘で確認済みだ。それは以前のプレイヤーとの戦闘では見られなかったことであるために、この予選二回戦限定の効果なのだろう。

 上半身を仰け反らせて足を止めた鬼に速度を上げて接近する。

 斬り下ろすのでも斬り上げるのでもなく、高速の突きを放った。

 深く突き刺さる必要はない。その切っ先が僅かでも鬼に命中して攻撃が入ったとシステムが認識すればいいだけだ。

 硬い壁を突いたような感触が返ってくる。

 同時に生じた目に見える衝撃波のようなエフェクト。

 鬼にしっかりとしたダメージが入った証だ。



「一気に畳み掛ける!」



 これまでの経験では鬼は多くても近距離攻撃を五回命中させれば倒すことができる。

 最初の<シーン・ボルト>は除けば今の一撃が最初の一発。棍棒がない側から追撃を加えて二発目。残るはあと三回。

 再び横に跳んで水平に剣を振り抜く。

 鬼の二の腕辺りを斬り付けたことで三回目の攻撃を命中させた。



「あと二発!」



 鬼を相手取るならば一発一発の威力よりも攻撃を繋げることに意識を向けた方が効率的だ。

 故に俺が繰り出した攻撃は全て次に繋がるように動いている。最初に<シーン・ボルト>で動きを止めて、突きを放ちダメージと衝撃を与えてから素早く精錬された片手剣を戻し鬼の隣を駆け抜けるように動いてすれ違い様に斬り付ける。そのまま鬼の背後に立つように横に跳び水平斬りを。そして反撃が来ることを想定してバックステップで距離を開ける。



「……ここっ!」



 予想通りに目の前に振り下ろされる鬼が持つ棍棒。その先が地面に向けられた瞬間を狙って二度目の突きを放った。

 当たったのは棍棒を持っている右腕。マントで覆われている腕の表面を撫でるように通り過ぎた剣閃は確実にその腕に切り傷を刻み付けていた。



「次で……ラストっ!!」



 攻撃を当てたのは四回。

 これまでの通りならば目の前の鬼を倒すにはあと一度の攻撃が必要となる。

 突きの勢いに乗って最初に立っていた位置に戻ると俺はそこから繋がる次の攻撃に集中することにした。

 結果として出来てしまった二者の間隔。

 俺と鬼は近距離武器を使っているからこそ、この距離は自分と相手の攻撃が届かない距離だと分かる。だからだろう。無理に攻勢にでることはなく、互いに動きを止めて相手の出方を窺っていた。

 戦闘の真っ只中に訪れた一拍の空白に俺は呼吸を整える。溜め込んでいた空気を静かに吐き出して、新鮮な空気を吸い込む。

 精錬された片手剣を構えずに自然体で立つ。

 僅か数十秒だというのに痺れを切らした鬼が棍棒を振り上げて襲いかかって来た。

 既に何度も見た光景。

 俺の反撃を誘っているのか、あるいは鬼が追い込まれているのか。そのどちらだったとしても俺が行うのは一つだ。



「<ラサレイト>!」



 アーツによる威力強化は意味が無い。けれど刀身が光を放つ攻撃エフェクトは意思を持つ相手を怯ませるには十分な効果を発揮してくれる。

 鬼にも意思がある。

 俺がそう思うようになったのは少し前に自分達ではない別のプレイヤーと鬼との戦闘を目撃した時だった。突然の鬼の襲撃によって一気に劣勢に追い込まれていたプレイヤー達が襲い来る鬼の中から一体を狙い撃ちするように攻撃を仕掛けていたからだ。依然として全体の戦闘は鬼が有利。しかしこと集中砲火を浴びている鬼一体に関してはプレイヤー側の方が有利になっていた。その時、鬼の一体が攻撃に晒されている鬼を庇うように戦闘に介入したのだ。身を固めて防御している鬼の前に立ち塞がったもう一体の鬼。まるで守るように立つそれは反撃することもなく攻撃を受け続けている。この戦闘の結果は鬼側の勝利。プレイヤーは全て倒されていたが、そこに至るまでの間に攻撃を一身に受けていた二体の鬼もまた倒されてしまっていた。

 この時の鬼の行動を目の当たりにして俺は鬼が完全なNPCなどではなく、何処かの誰かが操っているキャラクターである可能性を密かに信じるようになっていたのだ。

 俺の攻撃の意思を反映しているかのように精錬された片手剣の刀身に光が満ちていく。

 襲い掛かってくる鬼が一瞬その光に気を取られたのを見逃さない。アーツが発動してから効力を失うまでの僅かな時間で的確な攻撃を繰り出した。

 正面に立ち、鬼の体を斬り裂く。

 ピシッと鬼の体に亀裂が走り、光の粒となって砕け散った。



「ふぃ」



 体から無駄な力を抜いて、ハルとムラマサが戦っている方を見る。奇しくも自分と同じく相対していた鬼を倒したところだった。

 自然と道の中心に集まった俺達は互いの労をねぎらっていた。



「勝ったみたいだな」

「まあな」

「ダメージはどうだい?」

「おれは受けていないさ。ユウはどうよ?」

「俺も大丈夫」

「んー、だったら直ぐにまた移動した方がいいかも――いや、遅かったか」



 鋭い眼光を道の奥へと向けるムラマサ。

 その視線の先では新たな人影がこちらに近付いて来ていた。



「こっちからも来るぞっ!」



 振り返ったハルが叫んでいた。



「挟み撃ちにされた?!」

「違う! 囲まれている!!!」



 二人が見ているのとは異なる方向から近付いてくる足音が聞こえてきた。



「おれたちが狙われたってのかよ」

「んー、いや、さすがに偶然じゃないかな。それに――」



 ムラマサが目を細め微かな足音の違いを聞き分けている。



「近付いて来ているのが鬼だけとも限らないようだ」



 逃げ出すことなどせずに俺達はこの場所に留まり、近付いてくる足音の主を待ち続けた。

 程なくして現れる複数の人影。

 数にしておよそ二十人ほど。内、鬼の数は僅か半分ほどでしかなかった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ユウ レベル【12】


武器


精錬された片手剣――一人前の鍛冶職人が作り出した片手用直剣。かなり頑丈に作られている。


外装防具


【竜玉の鎧】――ドラグライトアーマー。剛性と柔軟性を兼ね揃えた鎧。


内部防具


幼竜の鎧――幼き竜が身を守るための鱗の如き鎧。


習得スキル


≪片手剣・3≫――<ラサレイト>発動の速い中威力の斬撃を放つ。

≪砲撃・7≫――<シーン・ボルト>弾丸と銃を使わずに放つことができる無属性射撃技。

≪格闘・1≫――<マグナ>発動後一度だけ武器を用いらない攻撃の威力を上げる。


残スキルポイント【1】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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