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闘争の世界 ep.06 『初日~その⑥~』



 地底路のダンジョンを出て都会的な街並みのなかに戻って来た俺達は時間と共に変化した街の様相に一瞬言葉を失ってしまっていた。

 人が増えたと言えばそうなのだろう。しかしこのただならぬ雰囲気はただそれが原因だとは思えない。



「それにしても一体なにがあったんだ?」



 訳が分からないと呟くハルに俺とムラマサは返すべき適切な言葉を持っていなかった。

 無言のまま視線を送ったその先、例えば自分達が立っているこの通りだけでも感じられるピリピリとした嫌な空気。



「まるで戦闘中みたいだね」

「え?」



 表情一つ変えずに言ったムラマサに驚いたように返す俺。

 言葉を受けて自覚したことで理解した。安全を確保されているはずの街の中にいるはずなのにまるでダンジョンの、それもモンスターを前にしている時のようだと。



「うるさいっ!!!!!」



 不意に聞こえて来た誰かの荒らげられた声。

 自分だけじゃない。近くにいる多くの人の視線がそこに集まった。



「それはわたしたちが集めたものだ。どうしてお前なんかに渡さなきゃならないんだよっ」



 出来上がっていく人集(ひとだか)りの中心にあったのは男一人女二人のパーティと一人の男が言い争っている場面。

 三人組の方は比較的普通だと思った。それは纏っている装備や携えている武器から受けた印象だ。それに比べて男の方は何かが異質に見えたのだ。何処がどうとはっきりとしたことは言えないが、自分が対峙しているわけではないのに自ずと警戒心が高まっていくのを感じていた。



「それが返事か?」



 男がにたにたと笑いながら訊ねる。それに対して三人組にいる男が強気に「そうだ」と返していた。



「そうか……」



 男が気怠げに首を回すと、ニヤリと嗤った。



「うわっ」

「なにっ!?」

「きゃあっ」



 悲鳴のような声を出した三人組の目の前を何かが通り過ぎた。しかし、当事者である三人は見えていないとなにが起こったのか分からずに戸惑い、後ずさっていた。



「見えたか?」

「ここに居たからかな。なんとか」



 神妙な面持ちで黙っているムラマサの横でハルが俺に問い掛けて、俺はそれに答える。



「けどさ、街中は戦闘ができないんじゃないの?」

「そのはずなんだけど……ムラマサは何か知ってるか?」

「んー、確証はないけれど、彼らはあの男との決闘を受けたんじゃないかな」

「決闘?」

「そんなもん受けたようには見えなかっただろ」

「まあね。だけどオレ達が来る前に受けていたのかもしれないよ」

「それは…そうなんだけどさ」



 考え込むような素振りを見せるムラマサ。俺もハルも、それどころか此処に集まって来ている他のプレイヤーも真剣に事の成り行きを見守っている。



「何してるんだよ!」



 それは突然現われた。

 真紅の甲冑を身に纏い、背中に巨大な剣を携えた人物。顔を完全に隠す兜を被り向けた視線は三人組と対峙している男一人に向けられている。



「ぁあ?」

「こんな街の中で何してるって聞いてるんだよ!」

「オマエに関係あるのか」

「あるに決まってんだろ。俺はこのパーティのリーダーなんだぞ」

「だからなんだ?」

「はあっ!?」

「おれはただここで遊べるって聞いたから参加しただけだ。そうだろ?」

「――ぐっ」

「別にオマエが遊んでくれるってんなら構わないが」

「止めておけ」

「あ?」



 二人の言い争いにもう一人別の人物が介入した。

 漆黒のコートを翻し、腰から一振りの剣を提げているいる男。

 厳しい顔をして二人に睨みを利かせて威圧している男に怯んだのは甲冑を纏っている男だけ。もう一人はそんな威圧など何処吹く風と平然と薄ら笑いを浮かべている。



「わざわざ大勢に見られている中で戦う必要はないだろ」

「おれには関係ないな」

「パーティを組んでいる以上はそんなことは言わせない」

「はっ」



 納得などしていないのだろう。男は苛立ちを隠そうともしないままにそっぽを向いた。



「ごめんなぁ。大丈夫だった?」

「あ、その……」



 真紅の甲冑の男が三人組に声を掛ける。こちらにまで聞こえてくる声色はどこか誠実でいようとしているように感じられた。



「アイツ乱暴だったろ。何が原因でこうなったのかはわからないんだけどさ」

「原因!? それはその人がわたし達が手に入れたあれを奪おうとしたからでしょう!」

「あれって何よ?」

「それは――」

「見せるつもりはない。少なくともあれの仲間になんかは」



 語気を強める男に真紅の甲冑の男は怯んだように伸ばした手を下ろしていた。

 漆黒のコートの男は言葉を発することなく事の成り行きを見守っている。



「そっか、そうだよな。うん。わかってる。俺らには言えないよな」



 わかっていると自分に言い聞かすようにカラカラと笑う真紅の甲冑の男は一歩三人組から下がり離れた。



「行くぞ」

「あ、ちょっと待ってくれよ」

「これ以上余計なゴタゴタは避けるべきだ」



 漆黒のコートを翻し男がこの場から移動しようとする。真紅の甲冑の男はその後を追おうとして体の向きを変えるが、どういうわけか問題を起こした件の男だけがここから動こうとはしていない。



「おい! 行くぞ!」

「あ?」

「な、なんだよ。文句があるってのか!?」

「さあな」



 もはや三人組には興味が無くなったというように男は薄ら笑いを浮かべながら違う方向へと歩き出していた。

 淀みなく進む足取りが向かう先は意外なことに俺達がいる方向だった。大勢の見物人が居るなかから何故そこを選び取ったのか。その理由は俺には全く分からなかった。



「オマエ、おれと戦るか」

「――なっ!?」



 新しい男の矛先。それは紛うことなき俺だ。



「いいだろ。前哨戦ってやつだ」

「どういう意味だ?」

「あ? 知らないのか」

「まあいい。どうだ? 戦るのか、戦らないのか、どっちだ?」

「ちょっと待てって! いい加減どういうつもりなんだよ、ヴァイバー!」

「五月蠅いな。黙ってろ。赤矢(あかや)

「なっ!?」



 ヴァイバーと呼ばれた男は自分を止めようとその肩を掴んだ真紅の甲冑の男――赤矢の手を軽々と振り払う。



「おまえは止めないよな。ヨグス」

「……」



 漆黒のコートの男――ヨグスは何か思案するように口を閉じたまま答えない。その代わりとでもいうように俺がヴァイバーに疑問を投げかけてみることにした。



「どうして俺がアンタと戦わなきゃいけないんだ?」

「そっちは分かっているみたいだな」

「んー、予想は付いているよ。けど、だとするのならば、それは今日じゃないはずだ。違うかい?」

「だから前哨戦っていっているだろう」

「ならオレ達に受けるメリットはないよね」

「チッ」



 舌戦はムラマサが勝利したようだ。

 自分の望む展開にならなかった苛立ちを赤矢にぶつけるように肩を殴り付けたヴァイバーは一人勝手にこの場から離れていってしまった。その後ろ姿を見届けてヨグスもまた移動しようとして体の向きを変えるも、何故か立ち止まっていた。



「アンタ達が最初の相手なのか」



 ヨグスが一箇所に固まって立っている俺達三人を見ることなく訊ねて来た。



「あ、え?」

「何故、赤矢が戸惑っているんだ? 運営からのメッセージが来ていただろう」

「えっ、嘘だろ!?」

「バカが。見ていなかったのか?」

「いや、見たよ、見たさ」

「やはり、ただのバカか」

「なんだとっ!」

「アンタ達も分かっていないようだな」

「んー、さっきまでダンジョンに潜っていたからね。システムメッセージは戦闘中だと通知がないみたいだよ」

「だったら教えておいてやるよ。そこのバカの復習も兼ねてな」

「おいっ!!」



 ヨグスが振り返る。



「明日から予選が始まる。俺達の初戦の相手がアンタ達だ」



 戦意が込められた視線が俺達を射貫く。

 話の流れで蚊帳の外に追いやられてしまっていた三人組はあからさまに不満気な様子だ。その様子に気付いたヨグスはすっと三人組に頭を下げた。



「改めて、謝らせて貰いたい。パーティメンバーが迷惑を掛けて悪かった」

「えっ」

「あ、あの…」

「加えて言うがヴァイバーがアンタ達の手に入れたものを欲しがっていたらしいが、それは恐らくただ単に戦いを行うための理由付けだ。俺が言うようなことではないだろうが気にしないでくれると有り難い」

「ふざけるなっ!!」



 三人組のうち女性二人は突然殊勝な物言いをするヨグスに戸惑っているが残る一人の男はあまりにも自分勝手なヨグスの物言いに激昂しているようだった。



「現状アンタ達の気分を害したということ以外実害は出ていないはずだ」

「そういう問題じゃ無いだろ!」

「わかってはいるが、俺には謝罪する以外できることがない」

「ぐっ」

「それに予選が始まるのは俺達だけではない、アンタ達も同じだろう」

「そう…だな」



 不満を飲み込んで男が握り絞めていた拳を解く。



「俺達とアンタ達の試合は明日。時間は夜の九時」

「んー、今確認したよ。どうやら嘘じゃ無いみたいだね」

「嘘なんて言わないって」

「コイツならそうだろうな」

「何だよ」

「気にするな」



 渋々ながら去って行く三人組を見送ってヨグスと赤矢が俺達に向かい合う。



「準備は万全にしておくことだ。それならば負けても納得出来るだろう」

「言ってくれるね」

「勝つのはオレ達だからな」

「ふっ」



 自信があってなのか、それとも元々そういう物言いをする人なのか。ヨグスは淡々とした様子で俺達に告げてきた。

 不敵に笑うムラマサと睨み合うこと数秒。ヨグスと赤矢とはそれ以上何も言葉を交わすことなく別れることになった。



「さて、どうやらこの大会はオレが思っていたよりも早く始まってしまうらしい」



 人集りが解散することで無くなりいつも通りの人の数に戻った街で未だに歩き出さない俺達。地底路のダンジョンをクリアしたことで休憩を挟むつもりだったのだが思ったほど残された時間は少ないようだ。



「限られた時間で全ての準備を終えるにはオレ達はこのゲームのことを知らなさすぎる。効率的なレベルの上げ方とか装備の集め方、アイテムの集め方すら分かってはいない」

「そう言われるとそうだよな」

「だから現時点ではどれかに集中した方が良いと思うんだ」

「おれはムラマサの言うことに賛成だ」

「ああ。俺も」

「問題は何を重点的に上げていくかだけど」

「レベル上げと装備集めはダンジョンに行くのが一番なんだよな」

「んー、他にも何か方法はあるとは思うけれど、現時点ではそのはずさ」

「アイテムも同じだよな」

「ああ。その通りさ」

「だったらさ、もう一度どこかのダンジョンに行ってみるのが一番なんじゃないか」

「スキルはいいのかい?」

「正直欲しい所ではあるけどさ、スキルとかアーツに関してはまだ手探りな感が拭えないからさ」

「成る程」



 明日の夜に至るまでの方針は決まった。

 時間的な問題から潜れるダンジョンの数は決まっている。ならば無闇矢鱈と潜ったとしても得られるものは多くないだろう。



「とはいえ全員一度ログアウトすべきだね」

「え?」

「んー、忘れてるみたいだけどさ、もう直ぐお昼になるよ。何も食べずにゲームするのは良くないよ」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ユウ レベル【6】


武器


量産された片手用直剣


外装防具


【竜玉の鎧】――ドラグライトアーマー。剛性と柔軟性を兼ね揃えた鎧。


内部防具


簡素な服・上下


習得スキル


≪片手剣・3≫――<ラサレイト>発動の速い中威力の斬撃を放つ。


残スキルポイント【3】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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