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ep.05 『忘れ去られし街の聲⑤』



「わたしに渡してくれるかい」



 澄んだ声でそう告げるシャムロックら滑らかな動作で手を伸ばしてきた。

 ハルはその手にあった一枚の絵画を素直にシャムロックに手渡す。



「それで合っていたよな」

「ああ。間違ってはいないともさ。これこそが正真正銘、真作の【豊穣】さ」



 納得したように微笑むとシャムロックは受け取った【豊穣】に熱い視線を送っている。

 シャムロックの気が済むまで数分間、俺達はただじっと待つことにした。



「二人も見るかい?」



 優しい眼差しをこちらに向けてくる。

 俺とハルはいいと顔を横に振って断った。するとシャムロックは残念そうに「そうか」と言ってゆっくりとした足取りで歩き出した。



「どこに行く気なんだ?」

「ついて行ってみれば分かるさ」

「そうだな」



 シャムロックに代わりハルが答えた。

 会話もなく煌めく光が差し込む道を進む。

 幻想的な景色に彩られた道の果て、シャムロックが立ち止まったのは揺れる水面が美しい壁の前だった。

 無言のまま、シャムロックがその手にある【豊穣】を壁に近づける。すると一枚の絵画は一人でに浮かび上がり、すぅと吸い込まれるように壁の中に入っていった。



「うわぁ」



 思わず感嘆の声が出た。

 壁に【豊穣】が吸い込まれた瞬間に一面の水面が緑色の光を放った。



「これで、全てが揃った。ようやく……四季が戻ってくる」



 安堵か、喜びか、それとも別の何かか。見惚れてしまいそうになる微笑みを浮かべているシャムロックに俺は分からないといった視線を向ける。



「【豊穣】は四季のひとつ。美しいだろう。移りゆく季節の色彩は」



 シャムロックの言葉を現すように揺らぐ水面の色がゆっくりと、そして微かながらも確実に変化していく。水の青から夕暮れのようなオレンジ色へ。オレンジ色から煌めく銀に近しい白に。そして、白から緑へと。



「そっと顔を近付けて」

「壁に?」

「ええ。壁に」



 促されて今よりも少しだけ壁に近寄ってみることにした。ぐっと身を乗り出して見つめてみる。



「どう感じる?」



 あまりの光景に言葉が出てこない。

 緑色をした水面に映っているのは生命の息吹が溢れる草花が生い茂る草原。見えてはいるがそこにはない草や花が風に揺れる。自然の匂いまでしてきそうなほど。

 変わって青色。それはこの場所の壁や天井とさほど変わらない景色が映し出されていた。ただしそれはここと違うということだけはわかる。まるでどこかの観光地のようであり、漂っている潮の香りまで錯覚しそうになる。

 そこからオレンジ色。どこか郷愁を感じるその景色は赤い落ち葉や実った稲穂が特徴的だ。先の二つとは異なりイメージとして浮かんでくる匂いは感じない。その代わりとでもいうのかこれに感じられたのは風の肌寒さ、それから風の音。吹き荒むわけではなく穏やかな風の音だ。

 最後は白色。ここまでくると俺にも見えてくる景色にも想像ができるようになっていた。音も匂いもしない一面の白。それは果てまで雪に覆われた銀世界。ただ静寂に包まれ、全ての命が息を潜めているかのよう。



「まさに四季だな」



 壁から身を離してハルがいった。


「ああ。綺麗だ」



 鮮明にその瞬間を切り取った絵画は自分が直接その景色の中に立ち、五感で四季の移り変わりを体感したような気分になれる。



「春の【豊穣】夏の【夕凪】秋の【夜寒】冬の【樹氷】」



 シャムロックが水面の壁の奥にある四枚の絵画の銘を呼ぶ。



「豊穣だけ季節はずれな気がするけど」

「それも作者の意図なのかも」

「作者?」

「絵画だから当然。ただ、もう何十年も前のことだけれど」



 過去を慈しむようにシャムロックが答えた。



「この街は人の想いを反映する街。そしてそれは美術品として現れる。この四枚の絵画もそのひとつ」



 水面を撫でるように絵画に手を伸ばすシャムロック。



「四枚で一つ。一枚でも欠ければそれは本来の意味と役割を失ってしまう。だからこそ、集めなければならない。例え永劫の時間の中に忘れさられていようとも」

「成る程ね。それがこのクエストってわけか」

「どうだ。これはおつかいクエストだろ」

「ある意味、ね」



 シャムロックの独白を聞きながら俺はやっとハルが受けたクエストの大枠を掴んだような気がした。



「どうしてそれを俺達、いや、ハルに頼んだんだ?」

「それがミュージアムの意思だから」

「意思? それにミュージアムって何のことだ?」

「この場所。そして、美術品を集める者の役目のこと」



 キッパリと言い切るとシャムロックはゆっくりと壁から離れて歩き出した。



「ついて来て」



 戸惑い立ち止まっていた俺達を呼ぶ。

 目配せをしてシャムロックの後を追いかける。



「ここにある美術品は全てに意味がある。例えばそれ。その絵画にはこの街の営みが描かれている」



 営み。その言葉が示すように描かれているのはどこかの街、おそらくはシャムロックの街だろう。その商店街が賑わっている様子。一番大きく描かれているのは瑞々しい果物や野菜を売っている露店とそこで買い物をしている親子。子供は嬉しそうに手を伸ばし、親はその様子を楽し気に眺めている。



「これにはどんな意味がある?」

「街の平穏。穏やかな日々」

「こっちもか?」

「夜の闇と月。意味は安寧と静寂」



 夜の闇に窓に明かりのついた家と空に浮かぶ月が描かれた版画があった。



「この彫刻は?」



 鎧を纏った騎士、ドレスを着た淑女、そして狼のような獣。それら三体が寄り添うように座っている木の彫刻だ。



「人々の繁栄、協調。そして友愛」

「この彫刻がここから無くなればどうなる?」

「争いが起こるだろう」

「それは……どこで」

「街の内、あるいは外で」



 美術品と実際の日々にどんな因果が生まれるというのか。自分にはわからないことだとしても、それはおそらく真実なのだろう。

 だからシャムロックは真剣なのだ。それを集めること、それを取り戻すことに。



「こちらを」

「何もないみたいだけど」

「ええ。だから取り戻して貰いたい。ここに収まるべき物を」



 自分達を見つめるシャムロックが告げる。



「何を手に入れればいい?」



 ハルは詳細を聞かずともシャムロックの頼みを聞き入れるつもりらしい。

 クエストが正しく進行していると考えているのだろう。



「【夜翼やよく】」



 何も飾られていない石造りの台座に掲げられたプレートにシャムロックが告げた銘が刻まれた。



「時間の波に飲まれ、失われてしまったとされている美術品さ」







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


レベル【17】ランク【3】


HP【9600】

MP【2680】

ATK【D】

DEF【F】

INT【F】

MIND【G】

DEX【E】

AGI【D】

SPEED【C】


所持スキル

≪ガンブレイズ≫ーー武器種・ガンブレイズのアーツを使用できる。

〈光刃〉ーー威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。

〈琰砲〉ーー威力、射程が強化された砲撃を放つ。

〈ブレイジング・エッジ〉ーー極大の斬撃を放つ必殺技。

〈ブレイジング・ノヴァ〉ーー極大の砲撃を放つ必殺技。

≪錬成≫ーー錬成強化を行うことができる。

≪竜精の刻印≫ーー妖精猫との友誼の証。

≪自動回復・HP≫ーー戦闘中一秒毎にHPが少量回復する。

≪自動回復・MP≫ーー戦闘中一秒毎にMPが少量回復する。

≪全状態異常耐性≫ーー状態異常になる確率をかなり下げる。

≪憧憬≫ーー全パラメータが上昇する。


残スキルポイント【7】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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