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R:ep.22『剣士、二週目の戦闘を開始する』



 二度目となる土曜日の朝。全てのプレイヤーを巻き込む同時転移が始まった。

 足元から頭のてっぺんまで包み込む光に誘われて転移した先は今や見慣れたも同然の光景。廃墟となり放棄された町一つを戦場に宛がったエリアとなっている。

 既に準備は万端。回復用のアイテムも自身を強化するアクセサリも十全に揃えている。

 意気揚々と始まる戦闘に臨もうとするユートの隣でフォラスもまた気合い十分といった表情を浮かべていた。



「あれ?」

「今回は一緒に始められるんですね」



 一度目の戦闘では単独で始めたということもあってユートは驚いた表情を浮かべている。



「あ、今回のルールが発表されたみたいですよ」



 手慣れた様子でコンソールを操作して一つのページに目を通しているフォラスが呟く。

 それに促されるようにユートも今回の戦闘のルールを確認したのだった。



「えっと、競うのは討伐数。つまり他のプレイヤーを倒した数が大事ってわけか」



 息を呑むように呟くユートにフォラスは神妙な顔を向けて、



「これだと逃げ回ったってあまり意味は無さそうですね」

「確かに。自分一人が生き残っても結局討伐数が少なければ勝利には繋がらない、どこかで相手に挑むしか無くなる。けど、それは……」



 ユートは今回の戦闘は荒れると直感していた。

 生き残ることよりも倒した数が評価されるのだとしたら、前回以上に戦闘に積極的になるプレイヤーが多いはず。おそらく戦闘に不慣れなプレイヤーは早々に、そう考えた矢先、遠くで微かな戦闘音が聞こえてきた。

 二週目の戦闘が開始されて僅か数分。それが最初の戦闘が始まるまでに要した時間だ。



「どうします?」

「ここからじゃ何も判らない、とはいえ、無策に突っ込むのも無謀か。一度どこかに身を潜めて――」



 様子を見よう、そう提案しようとした瞬間、自分達の頭上に一瞬の閃光が迸るのを見た。



「フォラスさん。避けてッ」



 トンッとフォラスを押し退けて跳ぶユートが叫ぶ。

 刹那それまで自分達が立っていた場所に落ちる雷。地面を焦がし、白い煙を立ち込ませたそれは自然現象なんかではなく、明らかにプレイヤーが使用する魔法の類だ。



「まさかもう見つけられた!?」



 驚き言い放つフォラスは咄嗟に弓を構えて周囲に人影を探した。



「どうやって……?」

「考えるのは後です。今は出来るだけ魔法の射程から外れないと」



 フォラスの思考を遮るように言ったユートはいち早くその場から逃れようと駆け出していた。

 魔法を使ってくるプレイヤーが見当たらないのならばこちらはいい的でしかない。ならば少しだけでも狙いが外れるようにと動き回ることを選んだのだ。

 二人がバラバラに逃げ回る。それもお互いを見失ってしまわないように一定の距離を保ちながら。

 案の定というべきか。走り回る二人の足跡を追うように断続的に雷が落ちた。



「あれは――見つけた。あそこです!」



 地面にいくつもの焦げた跡が付けられるさなかフォラスが一つの建物の上部を指差した。

 廃墟が多いとはいえ今回のエリアはそれまでとは違い未だに原型が残っているものが多い。すなわち崩れたビルばかりではなく、使われなくなったまま放置されているというような建物が数多く見受けられるのだ。

 自分達が立っている場所に高さがあればそれだけで有利になる場合が多い。例えば他のプレイヤーの動向を探ることも、例えば狙撃を行うことに対しても、幾分かのアドバンテージが得られることが常とされていた。

 だがそれは裏を返せば狙われたほうからすれば相手を探す手掛かりにも成り得る。加えて移動しながら狙撃する必要のある武器種ではなく、狙った地点に直接攻撃できる魔法という手段を用いているのならば一箇所に留まり隠れながら攻撃をし続けることも可能かつ安全であるとすらされていたのだ。



「わかりました。俺が行きます」

「えっ!?」

「弓だと建物の中は厳しいでしょう」

「それくらい、私が出来ないとでも?」

「思ってはいませんよ。ただ、ここから狙うのなら俺よりもフォラスさんの方が適している。そうでしょう?」

「なるほど。わかりました。ではこちらから狙っていますので、射線を開けておいてくださいね」



 フォラスに指差されて咄嗟に身を隠した人影が見えた。

 普段取らない行動というのは存外目立ってしまうものだ。正確にその場所を捉えたユートが方向を変え駆け出すとそれを妨害するかのように雷が落とされる。

 真っ直ぐより速く辿り着くようにと走るユート。

 タイミングを見計らい先んじて雷を落とす地点を選ぼうとしているのか、ユートの目の前に落ちたものも少なくはない。

 これがただの自然現象の雷だったのならばその衝撃をまともに受けてしまっていたことだろう。しかし魔法という特異な力によってもたらされる雷は純粋な攻撃としてしか世界には顕現することはない。地面を焦がすということはできようともそこで生み出される衝撃波は極めて小さなものでしかなかった。



「はあっ」



 勢いよく半ば崩れた扉を蹴破る。

 ガシャンっと大きな音を立てて開かれたそこに飛び込んでいくと、ビルという遮蔽物に守られて雷による攻撃を阻んでいたのだった。

 手頃な階段を見つけると一気に駆け上っていく。

 現実の自分に比べて体力面でも勝るユートというキャラクターは大して疲弊することもなく外から見つけた魔法を使ってくるプレイヤーがいる階層に辿り着いたのだ。

 ドアのない部屋と、扉が閉められている部屋がある。その違いは単純に劣化具合の違いだけだろう。ただしその中に潜むとなればどちらの方が好都合なのかは明白。外から見た位置取りと内側から見た印象を考慮して一つの部屋に当たりを付ける。



「ここだぁ」



 再び思いっきり扉を蹴破る。

 大小様々な破片を撒き散らしながら砕け散る扉。



「……つっ!?」



 舞い上がる破片の向こう側にいたのは灰色のローブを纏ったプレイヤー。手に持たれているのは先の曲がった木製の杖。まさに魔法使い然とした格好をしている。

 ユートは即座にガンブレイズを構えた。

 銃口を向けた途端、魔法使いの体の上に浮かび上がるターゲットマーカーに反射的に引き金を引こうとするユートにあらぬ方向から攻撃が飛んでくる。



「フンッ」

「危なッ――」



 鼻息荒く襲ってきたのは魔法使いとは別のプレイヤー。思いっきり振り下ろされたのはモンスターが使っているものかと見紛うような大斧だった。

 その場でバックステップして回避したユートの目に、大斧によって砕かれたことで巨大な亀裂の入り穴を開けた地面が映る。

 魔法使いのプレイヤーを庇うように立ち塞がった男は一般的なプレイヤーの倍近い体躯を誇り、ただでさえ線の細い印象を与えてくる魔法使いをすっぽりと体の陰に隠してしまっているようだった。



「二人組……みたいだな」



 視線を巡らせて他に仲間が居ないかを探るユートは敢えて声に出して呟いていた。それを聞いた目の前の二人の反応を見るためだ。

 ローブに隠れてポーカーフェイスを保っている魔法使いのプレイヤーは別として、大きな体で立ち塞がっている男はあまり腹芸が特異ではないらしい。ユートが言った二人組という単語に反応を見せ、その後に言い切ったのを聞いて僅かに眉を顰めたのだ。



(三人目がいないと考えて間違いなさそうだな。そして前衛と後衛の二人組パーティ。俺が言うことではないが、バランスが良い分特色はない)



 じりじりと間合いを計りながら出方を窺うユートの頭上で不意に閃光が迸った。



「当たらない!」

「フンヌッ」



 魔法の雷が落とされるのと同時に大斧が振り下ろされる。

 大斧によって開けられた穴に落ちた雷。

 雷を纏って威力を増した大斧の一撃が耐久度を落としている地面を破壊する。既に開けられた穴の奥に新たに穴が開けられた。そしてそこに続け様に雷が落ちると二つの穴が繋がりさらに巨大な穴へと変わっていた。

 とはいえその穴が行く道を遮るかと問われれば答えは否。文字通りゲーム的な身体能力を有する現状、それを跳び越えるのはさほど難しくはない。

 大して助走を付けることなく真新しい穴を跳び越えるユートを大斧が待ち構えていた。



「残念、それは予測済みってヤツだ」



 迎撃されることは想定内。更に言えばここで雷が落とされることさえも。

 目の前に大斧が振り上げられることに身構えてしまえば雷の直撃を免れない。しかし空宙で容易く回避行動を取れる人は稀である。ユートも空宙では自在に動き回ることはできず二人の攻撃から逃れることはできないかと思われた。しかしユートは先程大斧によって砕かれた地面の欠片を自分の遙か頭上へと投げることで雷を止め、迫る大斧を足場にすることで二人のプレイヤーの間に着地してみせたのだ。



「何っ!?」

「ひっ」



 驚きよろめく二人のプレイヤーの様子を冷静に見る。どちらから先に攻撃するべきか。瞬時に思考を巡らせて判断したのは大斧を持つプレイヤーの方だった。

 目に見えて攻撃力の高い方を選び先に対処することを選んだわけだが、結果としてはあまり賢い判断とは言えなかった。

 倒した数が多い方が勝つというルールが定められただけで、戦闘は基本的に普段となにも変わらない。HPも僅か二つだけということもなく。自分が鍛えたキャラクターのHPがそのまま。魔法を使うプレイヤーよりも接近戦を行うプレイヤーの方がHPが高い場合が多いのだ。



「くっ、やっぱ簡単に倒させてはくれないってか」



 大斧とガンブレイズが繰り広げる剣戟の合間合間を縫って雷がユートを襲う。大斧のプレイヤーに当たらないように配慮しているためか雷の狙いは甘い。

 一発すら掠っていないというのに魔法使いが変に冷静なのは自分の役割を理解しているからだろう。事実立ち会っているユートは自分が思うような位置取りを取ることができていない。絶えず大斧のプレイヤーが有利になるような位置取りを強いられてしまっているのだった。



「フンッフンッ、フンッ」



 リズムを変えつつ繰り出される大斧の攻撃をユートはときに回避しながら、またときにはガンブレイズで受け止めながら直撃を避けている。

 互いに致命傷を与えることができないまま硬直するかと思われた瞬間、ユートはガンブレイズを銃形態へと変えて銃口をあらぬ方向へと向けたのだ。



「<琰砲(カノン)>!」



 銃口から放たれる閃光が二人のプレイヤーを外れて建物の外壁を貫き大きな穴を開けた。外から差し込む光が舞い散る埃を照らして室内にダイヤモンドダストのような煌めきを与えている。



「は、手元が狂ったのか」



 相手を嘲笑するかのような大斧を持つプレイヤーの物言いにユートは不敵な笑みを浮かべ、



「いや、これでいいんだ」



 余裕のある口振りで答えると刹那、穴の向こうから複数の矢が降り注いだ。



「ぐっ、おおおおおおおおおお」

「うあああああ」



 がむしゃらに放たれたような矢はユート以外の二人に突き刺さる。

 よりダメージが大きいのは魔法使いのプレイヤー。大斧のプレイヤーは最初こそ矢を受けたとはいえ、途中からは盾のように構えた大斧でそれを防いでみせた。



「俺を忘れるなよ」



 矢が降り注ぐのは常に一方から。すなわちユートが射撃アーツによって開けた穴からだ。

 フォラスが放つそれは狙いを付けて一点集中するものではなく、広範囲に向けて放つ攻撃ばかり。味方に命中しないのは純粋に運が良かっただけ。

 二人が矢に対応している間に位置を変えて当たらない場所に立ったユートはまず魔法使いに銃口を向けた。



「<琰砲(カノン)>!」



 どれだけ威力を増すといっても僅か一回のアーツ攻撃でHPを全損させることはできない。たとえ放たれた光線をまともに受けたとしてもだ。

 それを理解しているからこそ、ユートはそれほどインターバルを開けずに二射目を放った。無論今度も魔法使いを狙って。



「う、うわあああああああ」



 再び絶叫しながら光線を受けた魔法使いはそのHPの大半を失ってしまっていた。ここで追撃すれば倒すことが出来る。そう判断したユートはガンブレイズを剣形態へと変えると全力で前に出たのだった。



「させるかァ」



 立ち塞がろうとする大斧のプレイヤーの背後から今度は素早い矢が降り注いだ。今度は広く雨のようにではなく完全にこのプレイヤー個人を狙った一撃だ。



「ぐうっ」



 矢を受けた背中に触れて虚空を睨み付けたその遙か先にはおそらくフォラスが弓を構えて立っていることだろう。

 だがこの動きを止めた僅かなタイムラグが魔法使いのプレイヤーにとっては致命傷となってしまっていた。ユートは最接近を果たすとその場でガンブレイズを突き出すように攻撃を繰り出したのだ。<光刃(セイヴァー)>という斬撃アーツを伴って。



「す、すいません……トニートさん」

「オオタカー!」



 トニートと呼ばれた大斧を持つプレイヤーが魔法使いのプレイヤーの名前を叫ぶ。しかしその叫びも虚しくオオタカーはHPを全損させて瞬時に消滅してしまっていた。



「…っ、このっ、よくも……」



 今度はトニートがユートを睨み付ける。

 一見すれば凄まじい圧があると感じたことだろう。しかし圧倒的に有利な状況に立つ今、ユートは平然とした様子で自ら大斧の射程内へと飛び込んでいった。



「さて、ここで勝負を決めさせてもらうぞ!」



 数的有利だけじゃない。精神的にも有利に立つユートは敢えてそう宣言するとトニートに接近してガンブレイズを振るい始めた。

 縦横無尽に繰り出される斬撃は次第に両手で使うことが定められた大斧では対処しきれなくなっていく。徐々に攻撃を受けダメージを負い、それが積み重なっていくことでHPを着実に減らしてしまう。威力の高い攻撃アーツを使われなくともゆっくりと危機に追い込まれていった。



「こ、この……ぐ、おおお」



 どうにか大斧を持ち構えることは出来ているものの、既に反撃に出ることは出来なくなっていた。ここまで来ると既に勝敗は決しているとも言える。これ以上無駄に戦闘を長引かせるのは得策ではないと判断したユートはここで斬撃アーツを発動させた。

 強化された威力を誇る一撃がトニートに大ダメージを与える。

 膝を付き痛みを堪えるかのような動きをするトニートを訝しむユートは冷酷なまでに冷静に追撃を加えた。



「ぐあっ」



 短い悲鳴を残してトニートが消滅する。

 彼が消えた場所には一本の矢が落ちている。穂先が黄色に染められた特別な矢。それは相手に状態異常を付与することを目的に作成されたフォラスが使う一本だった。

 地面に落ちた矢は程なくして砕け散る。まるで役目を終えたからだと言わんばかりの現象に苦笑を漏らしつつも、ユートは穴から身を乗り出して、



「もう大丈夫ですよ」



 と手を振ってみせたのだ。

 しかしながらそれは明らかな悪手。参加しているプレイヤーの半数が敵である今、不用意に身を晒したり仲間の居場所を教えるような真似は決してするべきではないのだ。

 既に今の戦闘音を聞きつけて近付いて来ていた別のプレイヤーがいたのだろう。明後日の方向から放たれた火球はユートのいる場所に飛来して突然の爆発を巻き起こした。





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