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R:ep.18『剣士、突入する』



 改めてソーンスライムと正面から対峙した時、そこで感じられたのはただただ圧倒的な威圧感だけだった。わざわざ自分の数値を思い出す必要など無いほどの実力差を肌から感じ取っているのだ。

 竦みそうになる体と気持ちを鼓舞しながら駆けるユートの目に映る光景はそれまでとはほんの僅かな違いを含んだものとなっている。

 ユート達が戦闘に加入する直前に発せられたフォラスの言葉と意図を汲み上げて攻撃を変化させていたのだ。



「ほんとに、このなかを、行くの、ですか!?」



 息も絶え絶えに叫ぶ城石は武器を持たずに右往左往しながら懸命にソーンスライムへと近付こうとしている。



「これでも皆に攻撃を惹き付けて貰っているからなんとかなっているんです。そうじゃなかったら城石さんやユートさん、それに私だって無事ではすみませんよ」

「そ、それはそうでしょうけど……」



 弓を引くのを中断してフォラスもまたユートや城石と共にソーンスライムの攻撃を必死に回避しているのだが、思ったように近付くことができていないようだ。



「……ッ!」



 無言のまま集中しているユートに鞭のようにしなるソーンスライムの触手が迫る。

 地面すれすれを横一文字に薙ぎ払われる触手は直撃どころか、ほんの少しかすっただけでも簡単にユートのHPを奪っていくだろう。それがわかっているからこそ、ユートは思わず足を止めてしまったのだ。

 それが失敗だったのは誰の目にも明らか。

 自らの失敗を悔やむよりも早くユートを庇うようにパロックが立ち塞がる。



「ぐぅうう……無事、か」

「あ、ああ。助かりました」

「構わない。それよりも、本当にどうにかできるのか?」



 訝しむようなパロックの視線が突き刺さる。

 戦闘中でもなけければユートは曖昧な返事をしただろう。しかし、今は絶賛戦闘中だ。何一つ憂いは無いのだと伝える為にも自信があるように力強く頷いてみせた。



「その方法を聞いてみたい気もするが、それは後にするとしよう――ふんっ」



 またしても振り抜かれたソーンスライムの触手を体で受け止めた。



「回復は?」

「問題無い」



 回復アイテムを使う素振りが無いパロックに思わず訊ねたが、返ってきたのは取り繕った先程のユートの自信のある振る舞いとは違う真に自信に裏付けられた声だった。

 言い切ったパロックの攻撃を受け止めたことによるダメージは僅か数秒で回復されていた。≪自動回復・HP≫というスキル。ユートも習得しているそれの効果は戦闘中であろうと一定の間隔で一定量のHPが回復するというもの。その回復量はHP最大値と≪自動回復・HP≫のスキルレベル、そして自身のレベルとランクによって決められ、プレイヤー当人の能力値が高ければ高いほど回復量が増加するがその分HPの最大値も高く、HPゲージを見ただけでは回復量はそれほど変化がないとも思われてしまうほど。


 ランクもレベルも高いパロックがユートの盾となってソーンスライムの攻撃を受け止めた時に受けたダメージは彼のHPゲージを見た限りほんの一割以下といった所。それもたちまち回復してしまっている。しかし、その高い能力値で一割以下なのだとすれば、ユートや城石が受けた場合はそれなりどこりか瀕死にまで追い込まれてしまうだろう。

 息を呑みやはり直撃は避けるべきだと再認識したユートは手振りだけでパロックに送り出された。



「も、もう少しで触れる位置にまで――うわあっ」



 先んじてソーンスライムに接近していた城石が叫んだ。

 見ればマキトに護衛される形で存外の接近を成功させようとしていた。



「くっ、一度こっちまで戻ってください!」

「は、はいぃ」

「にしても、思ったよりも元気なヤツだな」



 城石を近付けさせるためにマキトは迫ってくる以外の触手も積極的に斬り飛ばしていた。

 本体に傷をつけずともダメージを与えられるだろうと行っていた攻撃であり迎撃だが、思ったほどの効果が無かったことに落胆しそうになるもマキトはこんな戦闘は慣れたものだというように、頭を振ると相手を見据えるように武器を構えた。



「あ、あの――」

「黙って。もう少し安全な道を作りますから、城石さんが突っ込むのはその後で――って、なんで彼が突っ込んで行っているんですか!」



 驚愕するマキトの目に映ったのは果敢に攻め続けているセイグウの姿。

 どういうわけかセイグウはシアンドッグをテイムする必要があるという前提条件を無視したように苛烈な攻撃を繰り返していたのだ。



「彼は一体なにをしているんですっ。あんなに攻撃したらシアンドッグが巻き添えになってしまう」



 目を丸くして戸惑いながら声を荒らげる城石。

 今にも飛び出してしまいそうな城石を視線だけで制止するマキトは厳しい視線を向けながら必死に思考を巡らせているようだ。



「どっちにしても多少弱らせないと城石さん達が近付くことすら困難なんです。このまま彼には攻勢に出て貰っても……」



 大丈夫とは口が裂けても言えそうもなかった。

 それほどまでにセイグウはソーンスライムに攻撃を与えているのだ。



「あっ――」



 悲壮感漂う声が城石の口から漏れる。

 ソーンスライムの体に不気味な光が駆け巡る。光の元を辿ればそれは腹部に捉えた二体のモンスターから発せられているようだった。



「シアンドッグの体力を吸い取っている?」



 見た限りの印象を口にするマキトに城石はギョッとした顔を向けた。

 直ぐに表情を暗くしてパクパクと口を開閉するも、マキトに制止されたままで動き出すことが出来ずにいた。歯痒そうに下唇を噛み締める城石を見てマキトは、



「多少強引になってもいいですか?」



 と確認したのだった。

 迷い決めかねている間にもセイグウはソーンスライムにダメージを与え続けていく。

 ソーンスライムの頭上に浮かぶHPゲージは五つ重なるように存在している。驚いたことにセイグウの攻撃でその最上段のゲージが消滅させられていた。



「お、お願いしますっ!」



 意を決したように城石が叫ぶ。

 するとマキトは城石の服を掴み持ち上げた。



「うわわっ」

「ちょっと我慢してください。無理矢理ソーンスライムまで近付きます」



 肩に城石を担いでマキトは走り出した。

 二人に向けられたソーンスライムの触手は全てマキトが迎撃してみせる。

 その反対側ではセイグウが変わらぬ攻勢を続けていて、二人がソーンスライムに接近した時には二段目のHPゲージが消え去っていた。



「くっ、セイグウっ! 強引な攻撃は止めるんだっ」



 叫ぶマキトだったが、その声は届いていないのか、あるいは元からそのつもりがないのかセイグウは攻撃を止める素振りを見せない。

 何故と疑問符がマキトの脳裏を駆け巡る。しかし、その答えを得るよりも状況が変化することを怖れたマキトは一段声を低くして告げる。



「城石さん。行きますよ」



 自分に対する多少の被弾は覚悟してマキトは駆け出した。

 迫る触手は城石に当たりそうなやつだけ迎撃して、残りはある程度無視している。

 武器を持つ右手を、足を、腹をソーンスライムの触手が打ち付ける。その度に感じる痛みに違和感を覚えながらもマキトは必死になって前に出た。



「ひいっ」



 顔の前に迫る触手に城石が悲鳴を上げた。

 マキトはそれを斬り上げて吹き飛ばしてみせる。



「もう少しっ、……今ッ!」

「へっ!?」



 担いでいた城石を投げ飛ばす。

 城石が着地したのはソーンスライムの直ぐ傍。身を乗り出して手を伸ばせばそのブルンっとした体に触れる距離だった。



「早くっ、テイムを試みてください!」

「は、はいっ」



 マキトが声を荒らげて指示を出す。

 その声に促されるように城石は右手を伸ばし、



「て、<テイム>!」



 そう宣言したのだった。

 眩いばかりの閃光が迸る。

 光は城石の右手から放たれ一本の糸のように伸びていくとソーンスライムに囚われているシアンドッグを包み込んだ。

 一瞬の静寂が流れる。



「あっ」



 けれど次の瞬間にはシアンドッグを包んでいた光は弾かれ霧散してしまう。



「失敗だっ」

「まだ! もう一度」



 光が弾かれた衝撃で仰け反った城石にその背後でソーンスライムの攻撃を捌いていたマキトが告げた。



「は、はい――<テイム>」



 再びスキルを使用する。そうすることで再び光がシアンドッグを包み込んだ。が、それもすぐに弾かれて霧散してしまう。

 普通ならば続けて二度テイムに失敗しただけで消沈する必要など無い。そのはずなのに城石は殊の外落胆しているように見えた。



「もう一度です。城石さん」

「で、ですが」

「大丈夫です。何度でも試してください」



 自信を無くしたかのようなか細い声にマキトは力強く答える。

 背中越しに感じる光が消えて、輝いて、また消える。

 テイムの成否を確認するよりも先に、三段目のソーンスライムのHPゲージが吹き飛んだ。



「セイグウっ!」



 マキトが叫ぶ。

 なおも変わらぬセイグウは一人、全力でソーンスライムに攻撃を加えている。



「何を考えているんだ?」



 城石の傍から離れられないがためにその真意を確かめることが出来ず、マキトはどこか悔しさを滲ませていた。

 ソーンスライムに向かってセイグウが攻撃を続けているその後方でその瞬間を待ち構えているのはユート。そしてフォラスだった。

 パロックに送り出されたユートは自分がするべきこと考えた時、それは城石のテイムのサポートとは違うのだろうと考えていたのだ。

 マキトと城石になんの相談も無く決めたこととはいえ、一箇所に固まって護衛するだけでは足りないこともまた事実。

 パロックは二組に分かれたパーティの中間で適宜攻撃と防御を熟している。



「ユートさん、どうですか?」



 耳に届いていたマキトの言葉を意図的に無視していたセイグウは後ろにいるユートに訊ねた。



「これ以上はシアンドッグの体力が持たないかもしれませんよ。ユートさん、いつまでも様子を窺っていてもどうしようもないでしょう」

「解っています。けれど、最低でも城石さんがテイムを成功して貰わないと――」



 シアンドッグと仔猫のモンスターの体力をソーンスライムが吸い上げる様子が見えた。

 前のめりになりそうな自分を必死に抑え、ユートは厳しい目で戦況を見極めようとしている。



「それに、ソーンスライムを倒してしまったら――」



 失敗すると言外に告げたセイグウにユートは何も答えられなかった。

 それでも動き出すわけにはいかない。そもそもこの考えがこの状況に沿っているのかどうかすら確証はないのだ。今すぐにも行った方が良いと言われたからといってそれを否定する証拠も何も持っていないのだ。



「<テイム>!!!!!!」



 一際大きな城石の声が聞こえてくる。

 そしてそれまでとは違う色をした光が視界の全てを埋め尽くし、また消えていった。



「まさかっ」

「――成功したっ!?」



 光が収まり数秒後、城石がソーンスライムの傍から逃げるように離れて行ったのが見えた。

 テイムに成功すればテイムしたモンスターはプレイヤー個人が有する特殊な場所にモンスターを送還することが出来る。それを使うことでソーンスライムからシアンドッグを助け出すことが城石の役目だったというわけだ。



「ユートさん!」

「ユートさん」



 セイグウとフォラスの声が重なる。

 ユートはその声がするよりも早くソーンスライムに近付いて行ったのだ。



「セイグウさん! 護衛お願いします」

「任せてください」

「フォラスさん、俺が失敗したと判断したときは直ぐに」

「分かっています」



 駆け出したユートの近くをセイグウが走る。

 迫る触手の攻撃は近付くに連れて苛烈さを増していく。しかし、それもセイグウによって全て打ち払われていく。



「そこだァ!」



 シアンドッグが送還されて生まれた隙間。そこを狙ってユートは自らソーンスライムの体内に飛び込んで行った。




ユート

レベル【12】ランク【0】

所持スキル

≪直刀・Ⅹ≫

≪錬成≫

≪始原の紋章≫

≪自動回復・HP≫

≪自動回復・MP≫

≪HP上昇≫

≪MP上昇≫

≪ATK上昇≫

≪DEF上昇≫

≪INT上昇≫

≪MIND上昇≫

≪DEX上昇≫

≪AGI上昇≫

≪SPEED上昇≫

≪LUCK上昇≫

残スキルポイント【0】



――――――――――



【作者からのお願い】

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