表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
432/683

R:ep.16『剣士、蚊帳の外から』



 原因不明ながらも本来の能力値(ちから)を取り戻したプレイヤーはソーンスライムという突然の相手に対しても果敢に攻め込んでいた。

 粘性の高い水が集まった不定形の体。そこから伸びている鞭のような触手には不揃いな間隔と大きさをした無数の棘。

 触手を掻い潜りながら至近距離で攻撃を加えていくマキト、セイグウ、パロックの三名。それから少し離れた場所で弓を構えたフォラスが狙いを定め、さらにその後方では眼前の戦いを漠然と見つめているユートと城石がいる。

 ソーンスライムは戦闘が始まる直前、ゆっくりと肥大したことでその姿を巨大なものへと変化させていた。



「このスライム、やはりザコ種とは違うみたいですねっ」



 矢を放ちながらフォラスが呟く。

 戦力外通告されたユートと城石を除いた戦っているプレイヤーの中で最もランクが低いのがフォラスだった。全員のランクとレベルが一定化されていた先程までとは違い彼女の攻撃は想定していた程のダメージを与えることが出来ていないようだった。

 スライムという種のモンスターはこのゲームにおいて二つの顔を持っている。一つは序盤から少しだけ進んだエリアに出てくる、所謂雑魚モンスターとしての顔。もう一つが今回戦っているような強力なモンスターとしての顔。前者は昨今のゲームによるイメージから来るもののようで、後者はファンタジーものの物語に当初からあるイメージが元になっているようだ。



「物理攻撃は効果が薄いっ。全員、属性を付与した攻撃に切り替えるんだ」

「でしたら、属性を一つ一つ試してみませんか」

「では最初は炎から」



 パロックの提案にマキトが応え再びパロックが指示を出す。

 当たり前のように前線に出ている三名はそれぞれの武器のそれぞれの刀身に轟ッと燃え盛る炎を纏わせ始める。

 各々の武器を使ってソーンスライムに攻撃を加えていく。

 ソーンスライムの体につけられていく切り傷。それは攻撃が加わった直後から傷を燃やす。

 じゅうぅぅっと蒸気が立ち込め、ソーンスライムの体の水分が蒸発していく様が窺えた。しかし、それだけ。見た目ではちゃんとしたダメージを与えられているように見える光景だが、その実ソーンスライムに有効打にはなっていなかった。



「炎は効果が無いみたいです」

「なら、次は水……は効果がなさそうだから、氷は使えるか?」



 今度はマキトが言い、再びパロックがそれに答えた。

 純粋な水ではなくともスライムの体を構成している物質の大半は水分。水の属性の攻撃のイメージは強水圧の放射やウォーターカッターのようなものをモチーフにした攻撃が多い。剣や槍のような武器に水を纏わせたものは後者である場合が多い。

 水の体を持つ相手に水を纏わせた攻撃の効果が薄いことは容易に想像がついた。

 そうして次に候補に挙がったのが『氷』。今回の場合、正確に言えば冷気を纏わせるのほうが近いだろう。


 高ランク帯のプレイヤーであるからなのか、三人は誰一人としてそれが使えないとは言わなかった。

 炎の時と同じようにそれぞれの武器に冷気を纏わせていく。刀身が凍りその周りには微かな靄が漂い始める。

 先程与えた炎を纏った攻撃の痕は既に消えてしまっている。

 頭上に浮かぶソーンスライムのHPゲージは未だその殆どが残されている。無傷とまでは言わないが三人の攻撃が意味を成していないのは火を見るより明らかだ。


 とはいえ誰もそのことに不満は漏らさずに次なる属性の攻撃を試していた。

 斬り裂かれた傍から凍り付いていくソーンスライム。しかし、飲み込まれるように氷は消えると炎の時よりも早くその傷は消えてしまっていた。



「次は――」



 と、次々異なる属性を付与した攻撃を試していく。

 中には使えない属性になることもあったが、それでも高ランク帯のプレイヤーが三人もいるために、最低二人は同じ属性の攻撃を使うことが出来ているみたいだった。



「あれでも駄目なのか……」



 ソーンスライムの体に白い閃光が迸るのを目の当たりにしながらユートが呟いていた。

 この戦闘において自分は蚊帳の外。それを悔しく思いながらも、反面当然であるとも感じていたのだ。

 なによりユートにとって三人の戦い方というものは珍しく思えていた。

 ユートが知る過去の高ランク帯プレイヤーの多くは一芸を極めたような印象をもたらす人が多かった。それに比べて今戦っている三人はありとあらゆる状況に対応することを目的としたようなオールマイティな戦い方をしているのだ。

 多少の得意不得意はあるようだが、それも同じくらいの人数で同じくらいの力量を持ったプレイヤーが集まれば全てに対応できるということなのだろう。


 属性を変えながら攻撃を繰り出していく三人。

 本来であれば程なくして効果的な攻撃を見つけ出すことができるはず。しかしこの戦闘では何時まで経ってもその効果的な攻撃というものを炙り出すことが出来ずにいた。



「どうやら皆さん全力で攻撃することができないみたいですね」



 徐に城石が呟いた。



「どういうことですか?」

「多分、シアンドッグを傷付けまいとして強攻撃を行うことができていないように見えるんです」

「えっ」



 ユートは目を凝らしシアンドッグが居た方を見る。

 ソーンスライムの腹の下。自身の体を檻のようにして抱え込んでいるそこには眠っているように横たわるシアンドッグともう一体、仔猫のようなモンスターがいる。城石の言うとおりならば三人はこの二体を傷付けないでおこうと全力の攻撃を行うことができていないということらしいが。



「どどど、どうすれば?」

「シアンドッグを諦めることは?」

「それは、その…ここまで来た目的ですし、次に何時テイムの機会があるか解りませんし、できれば……」



 歯切れの悪い言い方をしながらも決して諦めるつもりはないと言外に告げる城石の意思は堅そうだ。

 それならばとユートは思考を巡らせ始めた。

 ソーンスライムに手間取っている理由がシアンドッグが囚われているためであるのなら、それを解消する手段はただ一つ。問題はそれができるか否か。

 一瞬縋るような視線を巡らせたユートはすぐに頭を振って気を引き締めた。そして、



「テイムは城石さんが自らの手で行わなければならない。そうですね?」

「は、はい。そうですけど……」

「わかりました。どっちにしてもこのままでは事態が好転することは難しそうですし」



 離れた場所で冷静に戦況を見ていたからこそ解る。

 三人も、そこから少し引いた場所でチャンスを狙っているフォラスも決して弱くない。それどころか今の自分よりは強いだろう。そう確信しているからこそユートは自分にできることを考え続けていた。



「ユートさん?」



 考え込むユートに城石が心配したような声を掛ける。



「城石さん」

「何でしょう?」

「お互い、覚悟を決めましょう」

「はい?」

「状況を打破するためにはシアンドッグを解放するしかありません」

「そうですね」



 ユートが冷静に告げる。



「だから、一緒にシアンドッグを助け出すんです!」



 力強いその一言に城石は固まり、



「えぇぇぇぇえええええええええ!!!!!」



 と叫んだのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ