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R:ep,02『剣士、買い物をする』


 レベルが10に到達するまで一時間を超える狩りを終えたユートは再びコブ・ソエルの町に戻って来ていた。

 真っ先に向かったのは手に入れた素材アイテムを売るための場所。NPCが運営しているアイテムショップならばどこでも買い取りをしてくれているのだが、ここでユートが選んだのは多くのプレイヤーが冒険の拠点の一つにしている『クラン』と呼ばれている組織でありその名を冠した施設。

 ギルドがプレイヤー手動の組織ならばクランは運営手動の組織である。

 クランの施設は五階建てのホテルみたいな形をしていて、一階の扉は常に開かれたまま大勢のプレイヤーとNPCが行き交っている。



「素材の買い取りをお願いします」



 受け付けの職員がいるカウンターの前で告げる。施設内の人数の割にはすんなりとカウンターのひとつに着いたユートに受け付けの職員NPCが「はい」と笑顔を返してきた。

 直ぐさまユートが呼び出したコンソールを操作する。

 コンソールのなかでも所持しているアイテムが羅列されているそれはストレージと呼ばれ、その収容量は適当な鞄を持ち歩くよりもずっと多い。加えて中のアイテムの劣化を防ぐ機能付きアイテムボックスの役割があるそれに不便な所があるとすれば、今回のようにいちいちコンソールを呼び出して操作しなければならないこと。

 この一手間があるだけで回復アイテムなどすぐに使いたいアイテムがある場合は専用の別の袋などの道具を用意することが推奨されるほど。もっともそれを得るためのクエストは殆どの町のクランで常時開示されていて適正レベルになれば誰でも行うことができる。

 キャラクターを作り終えて戦闘に慣れてきたプレイヤーの最初の目標はまさにこの【アイテム袋の作成】クエストとなっていた。


 ストレージで選択した素材を実体化して取り出してカウンターに並べていくなんてことをする必要はなく、コンソールを操作して直接該当のアイテムを売却の項目に宛がっていくだけで取り引きは行える。

 獲得した素材を一通り売却の項目に並べ終えたユートはそのまま終了のボタンを押した。



「『ボアの毛皮』が6個、『ボアの牙』が2個、『ボアの肉』が12個。で、宜しいですか?」

「はい」

「では、総額2400(コイン)になります。宜しいですか?」



 再び「はい」と答えるとユートのストレージからそれらが消えて代わりに所持金が2400C増えた。ゲームを始めたときに配られている初期資金である3000Cと合わせて5400Cが現在のユートの所持金となった。

 Cの一文字に略されるコインはこのゲーム内の通貨であり、一般的な品質のHP回復アイテムの値段が一つ平均300Cなことを考えるとこの金額では新しく何かを始めるにしても潤沢であるとは到底言えない金額ではあった。それでも、



「この辺で取れる素材だとこのくらいになるよな」



 売却した金額を受け取ったユートはカウンターを離れて壁一面に張り出されたクエストの確認に向かう。

 数多の討伐クエストや採集クエストが並んでいるが、それらのクリア報酬である金額はお世辞にも高いとは言えない。一番高くとも一万が精々。獲得出来るアイテムもまた特別目を惹くものは何もなかった。

 レベルの低いプレイヤーが多い町だからこその難易度と報酬なのだろうが、ユートには見劣りするものばかりに思えてしまっていた。

 それでも幾人ものプレイヤーがそれらのクエストを意気揚々という感じで受注して町の外に向かっていっているのを見るとユートは自分の現在の状況と感覚がズレているのを自覚してしまう。かといって直ぐにそのズレを修正できるかと言われればそれもまた否であるのだが。



「もっと稼ごうとするのならもう少し遠くまで行かないと駄目ってことか」



 クエストの一覧を見ているとある区画を境に報酬額が一気に増した。比例して討伐目標のモンスターも強力なものになり収集する素材も希少度が増したり数が増したりと、より遠い場所での戦闘やより収集が困難な場所に向かうことが必須となっているようだ。

 しかし、ユートがこれらを難なくクリアするには現在の実力足りないこともまた自覚していた。報酬が低くともクリアできそうなクエストを選び実力を高めていくことことが定石であるのだと言われているような気になり、



「なら、クエストはまた今度だな」



 と足早にクエストが表示されている壁から離れて行った。

 クエストを諦めた代わりというわけではないがユートは別のものを探すことにした。それは≪錬成≫スキルで武器を強化するときに必要となる素材アイテム。とはいえ調べ物をするのならここよりも現実(リアル)の方が簡単で確実だろうと考えて施設の隅に置かれた簡素な椅子に腰掛けた。基本的な情報ならばそれなりの規模がある攻略サイトならば載っているはず。

 一度ログアウトして現実に戻った悠斗は手早く枕元に置いてある端末で検索を掛けて調べると、僅か数分で再びこの世界へと戻って来るのだった。


 ここでユートは一つうっかりを起こしてしまう。

 淡い光に包まれて再度ユートが現われた場所は先程までいたクランの施設内と異なっていた。それもそのはず、ユート本人は失念していたが基本的にプレイヤーのリスポーン地点は最後に訪れた町の入り口付近に設置されている『転移石』となっている。基本的にとなっているのは個人が持つ拠点やそれぞれの町にある宿屋のような場所、それら以外の安全地帯に設定されている場所に限りリスポーン地点を変更、更新することができるからだ。

 寧ろ小さな町や村に来た場合は『転移石』が無いことも多く、宿でのリスポーン地点の更新は必須作業となっていた。



「それにしても『魔石』か」



 うっかり町の入り口に戻って来てしまったユートはそのまま町の外に行くのでも町の中に向かうのでもなく適当な場所で立ち尽くし腕を組み呟いていた。

 様々な鉱石を扱う≪鍛冶≫スキルで武器を強化する時とは違っていて≪錬成≫で必要となる素材はその大半が予め定められていた。専用武器の能力が一定の基準を超えるまでは『魔石』を用い、次に必要となるのが『魔石晶』、その次が『魔石結晶』というように、あくまでも魔石の系譜の素材ばかりが必要となるのだ。

 また、魔石系のアイテムの獲得の仕方も他の鉱石とは違って採掘で得るのではなく、モンスターを倒した時に確率でドロップする仕様となっている。それもカル・ソエルに出現する普通の動物の延長線上でしかないモンスターではなく、魔物然としたモンスターからしかドロップしないらしい。

 そうなってくると自ずとユートはより遠い場所へ向かうことが求められる。



「とりあえずの方針は決まったな」



 即座に町の外に向かうことも出来たが、それよりも先にすることがあるとユートは町の中へと歩き出した。

 多くの人で賑わう町中を歩いて目的の店を探す。

 コブ・ソエルに限らず、この世界では何でも売っているコンビニのような店はない。回復アイテムが欲しければそれを売っている店に向かう必要があるし、それ以外の道具が欲しければ言わずもがなだ。

 この時のユートが欲しているのは道具ではなく回復アイテムの方。他の道具に比べてそれを扱っている店の数は多く容易に探し出せると踏んでいたユートが店先に掲げられた看板を確認しながら進んでいると目論見通りに目的の店を見つけることができた。



「いらっしゃいませ。『(みかづき)の薬屋』へようこそ」



 ドアを開けるとカランっと扉に取り付けられている鐘が鳴って店主に来客を知らせる。

 最初に見つけたのがこの店だった為に何も考えずに入ってみたのだが、デパートの化粧品専門店のような内装に思わず躊躇しまう。商品が陳列されている棚もさることながら内装も清潔な白色が際立つ店でユートを迎入れたのは白衣を纏った髪の長い女性だった。



「回復アイテムが欲しいんですけど…」

「はいはい。どっちが必要なのかな?」

「とりあえずHP用で。MPはまだそんなに使うことはないのでいいかな、と」

「ふむふむ」



 この女性はNPCではないのだろう。NPCならばこんなにまじまじと客を見てくることはないはずだと自分に言い聞かせながらもその視線にユートは僅かにたじろぐ。



「お客さん。レベルいくつ?」

「へ? レベルですか? 10になったばかりですけど……」

「それなら品質はこっちでいいね」



 そう言って店主が取り出したのは青く透き通った液体が入っている小瓶。それと、チョコレートのような色をした丸い塊が載る小皿。



「ポーションと丸薬どっちが好みかな?」

「性能に違いはあるんですか?」

「うーん。特にないかな。普通は自分が使いやすい方を選ぶんだけど」



 店主の言葉にユートはまじまじと二つを見比べた。

 液体であるポーションの使い心地は容易に想像が付いた。問題は丸薬の方。飲み込めば良いのか、あるいは噛み砕くべきなのか。そもそも味はどうなのか。様々な疑問が浮かんできたユートは丸薬の方ばかり見てしまっている。



「お客さんは初心者かな? それともセカンドキャラ?」

「どっちというわけでもないんですけど…」

「ん? どういうこと?」



 何気なく返したユートの言葉に店主は考え込む素振りを見せると、一転し納得したように頷いて、



「なるほどなるほど。君は別のゲームをやり込んでいたプレイヤーなんだね。それでこのゲームでも大丈夫って思ってるんだね」

「え、いや、そういうわけじゃ……」

「だーいじょうぶ。みなまで言うなってやつよ。この朏さんが教えてあげるから」



 カウンターを挟んだ向こうから出てくる朏は満面の笑みでユートの腕を掴み近くの椅子に座らせる。その前に座った朏は二種の回復アイテムの説明を始めた。



「さっきも言ったようにこの二つに性能の違いはあまり無いわ。精々使い心地に違いがあるくらいね。でも最近は取り回しの容易さから丸薬を使う人の方が多いかな。ポーションも使ったら空瓶が消滅するから邪魔にはならないんだけどね」

「値段はどうなんです? どっちが安いとかあるんですか?」

「無いわね。作り方が違うだけで使う材料は同じだから」

「成る程」

「他に聞きたいことは?」

「味とかはどうなっているんです?」

「あくまで私のトコで取り扱っているやつに限って言うけど、いい?」

「ええ」

「ポーションの味はジャスミンティーみたいな感じね。丸薬は薄いミント味のタブレット菓子みたいな感じかな。試しに使ってみる?」

「いいんですか?」

「いいのいいの。はい、試供品」



 朏がテーブルに置かれているポーションと丸薬をそのまま差し出した。

 少しだけ躊躇いながらもユートは朏の笑顔に促されポーションの蓋を外す。そのまま飲んでみると口の中に爽やかなジャスミンのような香りが広がった。



「どう?」

「飲みやすい、です」

「でしょー。こっちも使ってみて」

「あ、はい」



 言われるままに丸薬を一つ摘まみ口の中に放り込んだ。



「丸薬は噛み砕けば効果を発揮するからね」



 丸薬を口に含んだまま頷くユート。

 奥歯で噛み砕くと今度はミントの清涼感が口いっぱいに広がる。



「ミント味が苦手な人もいるんだけど、お客さんは平気みたいだね」

「まあ、このくらいなら」

「あ、ちなみに、回復量はどっちも一定だけど、ここじゃ確認出来ないんだ。でも効果は私がちゃんと保証するよ」



 町で店を構えるのに必要なのは物資と店舗、そして資金。けれど店を続けるのには信用も必要となってくる。内装も建物も綺麗に保たれているがそれなりに年季の入った老舗の雰囲気を漂わせている『朏の薬屋』だからこその信用と安心があるのだろう。

 すぐに納得したユートはすかさず、



「では、こっちの丸薬の方を十個買います」

「まいどっ。『HP回復の丸薬』が十個で3000Cだね。値段は市場と同じだからね」

「わかっていますよ」

「そう? 初心者の人だと偶にプレイヤーショップだからNPCショップよりも安く売っていて普通って言う人がいるのよね。ショップを始めたばかりの人ならまだしも、ある程度長く続けてる人なら市場を健全に保つためにもNPCショップと同額にしてるのにね」

「そうなんですか?」

「まあねえ。でもプレイヤーショップだって売れなきゃどうしようもないんだから多少の割り引きはしてるのよ。私は纏めて買う場合の割り引きかしらね。といっても最初の回復アイテムなんかは元が殆ど原価に近いから安くしようがないんだけど」

「それなら取り扱わない方が儲かるんじゃないんですか?」

「そうなんだけどね。でもお客さんみたいに買いに来る人もいるし、その度にNPCショップを進めてると私の店に来なくなりそうじゃない。あの店は対応が悪かったって思われたりもするし」

「はあ、そんなもんですか」

「そんなもんなのよ。うーん、やっぱり他のゲームでも最近は似たような感じなのかな?」

「や、だから俺は……」

「って、個人のことを聞くのはマナー違反よね。ごめんごめん。気にしなくていいから。それよりも商品を取ってくるから少し待ってて」

「あの……」



 言うだけ言って朏は店の奥にある棚から『HP回復の丸薬』を取りに行ってしまう。

 残されたユートは誤解を解く機会を失ってしまったことに肩を落としながらも、気持ちを切り替えるように息を吐き出して店内の陳列棚を見渡した。

 『朏の薬屋』の店内に陳列されているアイテムの多くは回復薬。HPやMPといったものを回復するもの以外にも状態異常を解除するために用いられるものまで、基本的に回復薬と称されているアイテムは殆どの種類が売られているようだ。とはいえここにないものもある。その中で代表的なのは『蘇生薬』だろうか。元々かなり高価なアイテムとされていることに加えコブ・ソエル付近で使うのは費用対効果からみてもあからさまに悪い。これが必要となってくるのはもっと先のことだと店主の朏も理解しているのか最初から置くつもりもないのか、それを置く棚も存在していない。



「お待たせしました。こちらが『HP回復の丸薬』十個になります」



 どこぞの服屋の売り子のような口調でアイテムを持ってきた朏に虚を突かれ固まったユートを見て、



「コホン。このケース一つに十個綴りになってるから」

「あ、わかりました」



 素材を売った時と同じようにコンソールを呼び出してそこで売買を成立させる。

 ユートの所持金から3000Cが消え、代わりにテーブルの上に置かれた『HP回復の丸薬』がストレージに収まった。



「あれ? もしかして、アイテム袋のクエストまだなの?」

「ええ。もう少し自分を、っていうか武器を強くしてから受けようかなって思ってたんですけど……」

「うーん、他人のプレイスタイルに口を出すのもどうかと思うんだけどね。私は先にクエスト受けた方がいいと思うの。アイテム袋の利点って戦闘中にもすぐにアイテムを使えるようになることだから。強くなりたいのなら後回しにしないほうがいいと思うの。それにクエスト自体そこまで難しくないし」

「そうなんですか?」

「まあね」

「ちなみにどんなクエストなのか聞いても?」

「別に良いわよ。そもそも攻略サイトには載っていることだから。アイテム袋のクエストの内容は付近に出現したモンスターの討伐ね。モンスターって言っても小型のトレントだから動きも遅いし、攻撃も範囲が決まってるの。何でもその木材を使用して特殊な加工を施すっていう設定なのよね」

「木材で袋を作るんですか」

「まあその辺はファンタジーってことで良いじゃない。アイテム袋の形状は好きなのが選べるし、容量も別のクエストをクリアすることで増やせるから。レベル10になっているんだったらささっとクリアすることをオススメするわ」



 はっきりと断言されたユートは少し迷う素振りを見せた後に小さく頷き、



「そうですね。先人のアドバイスは素直に受けた方がいいでしょうから、そうします」

「先人なんてそんな立派なものじゃないわよ」

「それじゃあ、俺はこれで」

「あ、お客さん。名前教えてくれる? そして常連さんになってくれると嬉しいかな。もちろん別の町に行くときに引き留めたりはしないから」

「ははは。まだ名乗ってなかったでしたっけ、俺の名前はユート。そうですね、上級以上の回復アイテムも売ってるみたいですし、ちょくちょく拠らせて貰いますよ」

「うん。ありがとうね。ユートさん。待ってるよ-」



 笑って手を振った朏に見送られるようにして別れたユートは再びクランを目指して歩き出した。

 助言を受けて新しい目標となったクエストを受けるために。




いつもありがとうございます。

とりあえず準備回はここまで。次回はまた町の外へと向かいます。


ここで作者からのお願いです。

本作がちょっとでも気に止まったのなら、評価・ブックマークをどうか一つ。ポイントが増えれば作者が大変喜び、創作の活力になるようです。


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