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ep.77 『反転・攻勢』


 ビルの間に吹く突風のように、強烈な一陣の風を全身で受ける。

 竜化を解いて剥き出しになった素肌はそれまで感じなかった冷たさに体を震わせていた。

 さらに鼻腔を擽るのはこの場所に漂う独特な臭いだ。雨上がりのコンクリートのようなそれに僅かに混じる錆びた鉄のような臭い。

 左右から迫るザ・ビーストの腕。薙ぎ払うためか、あるいは掴み潰すためか、開いたままの手のひらにはどす黒いオーラのようなものが纏わり付いている。



「くっ、本命はこっちか!」



 両腕を振り回すだけの大振りな攻撃は簡単に避けられる。後ろに下がったり、その射程の外に出るかすればいいからだ。

 けれど、目の前にいるザ・ビーストの攻撃がそんな単調なものであるはずがない。しっかりと腕を回避しつつもその挙動を注意深く観察し続けた。

 迫る巨大な腕の奥。一瞬煌めいたその光は七つ。虹のようにそれぞれ違う色の光がより強烈な光源となり、次の瞬間に光線となった。


 七方向に広がる七色の光線が天井や壁、そして床を焦がしながらクリスタルに当たり乱反射する光の如く駆け巡った。

 四方八方、360度からの攻撃はガン・ブレイズの射撃で迎撃することなど不可能に近い。かといって剣形態でどうにか出来るかと言われるとそれもまた難しい。そう判断して素早く視線を周囲に巡らせる。真っ先に目に付いたのはたった今光線を受け砕け散らばった壁や床の欠片。拳ほどの大きさの瓦礫となり転がっているその一つの傍まで駆け寄り思いっきり蹴り飛ばす。

 ゲームのキャラクターとして育て上げられた『ユウ』の身体。現実ではあり得ないほど強力なキックがプロのサッカー選手顔負けな軌道を瓦礫に与えた。

 放物線を描き光線の一つに命中した瓦礫は瞬く間に爆散してしまう。それでも命中した光線はその場で勢いを減衰させて当初の方向とは違う別の方向へと飛んでいったのだ。



「よしっ。貫通してこないのならば――」



 次々と向かってくる光線に目掛けて瓦礫を蹴飛ばしていく。その中にはガン・ブレイズによる射撃も織り交ぜたが、より効果を発揮したのは残念なことに蹴り飛ばしぶつけた瓦礫の方だった。とはいえ何回か瓦礫を命中させて威力を減衰させた後ならば射撃でもその向きを変えさせることができた。

 どれくらいそれを繰り返しただろう。

 蹴って、

 撃って、

 蹴って、

 蹴って、

 撃って、

 最後にまた撃って。

 ようやく光線のうちの一つを消滅させたことに喜色を浮かべたその時、連鎖して残る光線もか細くなって掻き消えていった。



「今だッ」



 攻撃が止んだこの瞬間こそ好機と捉え、素早く攻勢に出る。

 最初に狙ったのは両腕の接続部となっている魔法陣。

 ダンッダンッと二回、素早い射撃音が轟く。狙いと違わない場所に命中した攻撃だったが魔法陣そのものには損傷を与えることはなかった。自分の体を抱きかかえるように防御したザ・ビーストの両腕が直撃を防いでみせたのだ。

 鎧のような腕には傷一つ付いていない。とはいえ確実に命中したはずで、実際着弾したその瞬間には小さな円形の焼け跡が付いていたのを見逃しはしなかった。つまり、一瞬にして回復、あるいは再生したということだろう。



「腕を狙ってもダメージに繋がるわけじゃないってことか」



 腕への攻撃は意味が無いと即座に割り切って照準をザ・ビースト本体へと向ける。そのまま引き金を引くことでMPが変換された弾丸が撃ち出される。

 身を守るように組まれた腕を避けて七つの頭部の付け根を狙った射撃は少ないダメージをザ・ビーストに与えることに成功していた。

 小さなダメージ程度など気にするまでもないとザ・ビーストはその巨大化した両翼を広げ高度を上げた。



「拙い、これ以上高く飛ばれると届くか怪しいぞ」



 自分が使っている武器だからこそその射程はほぼ完璧といえるくらいに理解している。竜化して武器の能力までも底上げできている状態ならばまだしも今は通常状態だ。アーツを発動させれば射程が伸びることは間違い無いが、それもMPの消費量を鑑みれば現実的ではないのは言うまでも無い。

 通常攻撃の効果が薄いのはボス戦ならば常。割り切ってアーツを発動させるかどうか迷っていると、突然ザ・ビーストの七つの頭の一部が自分とは違う方向を向いたのだ。


 釣られるようにそちらに視線を向けると横たわっていたムラマサがゆっくりと身を起こそうとしているのが窺えた。

 ムラマサが今の状況を理解しているのかどうか解らない、現状ではそちらにザ・ビーストの攻撃の矛先を向かせるわけにはいかない。



「こっちを見てろッ」



 向きを変えた頭部目掛けて引き金を引く。

 顔や首、頭の甲殻などに命中した程度では気を引くことは叶わなかったみたいだが、その瞳に命中したやつだけは俺の方へとその視線を向けてきた。



「なるほど。目はそこまで硬くないってか。まあ、当たり前だがな」



 狙うべき場所が解ればそこに攻撃を集中させることができる。それがどんなに狙いづらい場所であろうともこれまでに培った技術があれば至難の業とまではいかないだろう。

 未だにムラマサに牙を向ける頭を狙い、正確にはその開かれた瞳を狙い引き金を引く。タイミングを同じくして瞳に命中したことで残る頭部の注意も此方に向けることができた。



「柔らかい場所に当ててもこの程度か。全く、HPの総量が多いのか、それとも防御力が圧倒的に高いのか、どっちなんだろうな」



 問い掛けるように独り言ちながら七つの頭が揃って自分に照準を定め口を開くのが見えた。

 七色の光が宿り、七つの光線が放たれる。それは先程と同じ。違うのはそれが拡散するように放たれたのではなく、一ヶ所に収束させるべく集中して放たれたこと。

 光線が空中でぶつかると巨大な七色が混ざり合うように輝く光球が完成した。

 一拍の間を置いて光球が弾け飛ぶ。

 夜空に打ち上げられた花火の如く広がった。



「うおっ」



 光球の色をそのままに降り注ぐ光線はそれぞれがザ・ビーストの口から放たれた光線と同等の威力を持っているらしい。

 必死になってその光を避けながらザ・ビーストに銃口を向ける。そして今度は焦燥感に駆られるように、



「<インパクト・ブラスト>」



 威力特化の射撃アーツを発動させていた。

 ザ・ビーストの口から直接放たれていた先程の光線とは違い、弾けた光球の光は意思を持たない。重力に従い周囲に降り注ぐだけであるからこそ反対に避けにくい攻撃になっているそれの合間を縫って放たれた光弾がザ・ビーストの頭部の一つに命中する。

 アーツという威力を向上させた攻撃は着弾と同時にノックバックを引き起こしたようでザ・ビーストは頭の一つを仰け反らせた。



「やっぱりアーツなら効くのか」



 自分の攻撃が通じないなんてことにならなかったことに安心すると同時に、ストレージに残るMP回復用ポーションの残数を記憶を頼りに数えてみる。

 効果が中程度のものも合わせて数え間違いでなければ残り僅か十個。それが十分な数なのかどうかは解らないが、使い切ることを前提にすれば今のところMPを考えずとも攻撃が出来るのは間違いなさそうだと判断して、そこから攻撃の多くをアーツを伴ったものに移行することにした。

 竜化という強化を失った反面、即座に回復アイテムを使える利点を十全に活かして戦っていく。

 不思議なことにザ・ビーストの反撃の殆どは口から吐き出される光線か、それを収束して放たれる光球の爆発ばかり。時折腕を振り回して薙ぎ払おうとするもそれ自体はもはや攻撃などではなく、純粋な動作の一つとなってしまっていて、大した脅威を感じることはなくなっていた。


 意識してかしらずか緊張感が薄れていっているのを俺はまだ気付いてはいなかった。

 油断していたなんてこともあるわけがないと言いたいが、若干単調になりかけている戦闘に慣れを感じていたのは事実だ。

 だからだろうか。

 ザ・ビーストが空中に光線を集めたとき、対処法を無意識のうちにそれまでと同じように動いてしまっていた。それも光球が弾ける前からそれまで安全だと判断していた立ち位置を狙い移動していたのだ。

 だからこそ気付かなかった。それが誘導されていたものだということに。


 光球は確かに弾けた。

 ただ、その光は花火のようにではなく、滝のように、安全圏に向けて移動していた俺を狙い撃つようにして。



「うっ、ぐぅッ」



 全身を打ち付ける光がみるみるHPを削っていく。

 俺がザ・ビーストにアーツを命中させて削ったHPなど比較にもならないくらいに。

 光を受けつつも強引に手を動かしてストレージからHP回復用のポーションを取り出す。降り注ぐ光の圧力を堪えながらも身を屈め、乱暴に開けられたポーションを煽るように飲み干した。

 ダメージを受けて減少したかと思えば次の瞬間にはポーションの効果によって回復するHP。回復と消耗を瞬時に繰り返す現状に奥歯を噛んで堪えながら光が途切れるのを待ち続ける。

 生憎と手は動かせても足は動かせない。逃げだそうと体勢を変えるとそのまま光の圧力に負けて地面に叩きつけられる未来しか見えないのだ。そしてそうなった俺を狙うようにザ・ビーストの骨格翼が大きく開かれている。

 光越しに見るザ・ビーストは全身が巨大な手のように見えた。



「――あっ」



 突然背中を強く押された。

 転ぶように前に出た俺は何故か光の圧力から逃れることが出来ていた。

 疑問符を浮かべつつ、それまで自分が居た場所を見るとそこには、声も出さず、光の圧力に屈して這い蹲るグリモアの叔父が操る能面のような顔をしたキャラクターがいた。



「な、なんで……」



 一切答えることをせずに光のなかにいるキャラクターは潰されて消えていった。

 表情などないはずの彼の顔からは「任せた」という思いが伝えられた気がする。

 気持ちを切り替えてザ・ビーストに向き合ったその瞬間、ザ・ビーストは骨格翼を六連の槍のようにして突き出してきた。



「当たるかァ」



 後ろに下がるのではなく、前に出て躱していく。

 骨格翼を回避しながらザ・ビーストの背後に回った所で、



「<インパクト・ブラスト>」



 全身全霊の気合いを込めて叫び、引き金を引いた。




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