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ep.62 『再会』


 音。

 聞き慣れた音がする。

 キンキンッと金属同士がぶつかり合う音だ。

 ドカンッと一際大きな爆発音も。

 目に見えない透明な膜越しに聞こえるようなくぐもっていた音が徐々にクリアになっていく。それと同時に感じられるようになる空気にゆっくり瞳を開けるとぼんやりとした景色が見えてきた。


 一体の巨大なモンスターに立ち向かっている三人のプレイヤー。それは姿を消してしまっていた仲間たちだった。



「気が付いたッスか?」



 件のモンスター、それは紛れもなく今の今まで戦っていたディギュリスそのものだ。ただ、ディギュリスの様子が少し違っているように見える。具体的に言えばその胴体中心部にある結晶体だろうか。内部で炎が揺らめいているのは同じでも、その色がより暗く黒に近しい炎に変質していたのだ。


 炎を注視していた俺の近くにディギュリスよって吹き飛ばされたリントが器用にも空中で回転して着地すると何気ない口調で声を掛けてきた。



「リント。無事だったのか? それに、ここは?」



 ディギュリスがいるということは戦闘は継続中ということなのだろう。しかし、どう考えても先程とは違う状況にいることは確か。

 ムラマサたちはいないし、足元も結晶化した海面などではなく比較的浅瀬の水面が続いているだけ。

 水飛沫を上げながらリントは体勢を整えると槍を振り回しいつもの構えを取る。



「ここがどこかは自分も知らないッス。ただ、ここで自分たちはあのディギュリスとずっと戦っていたんッスよ」



 リントはディギュリスから視線を外さずにそう告げる。

 ハッと気付いたように視界の左端にあるHPゲージを見る。勿論自分のではなく再会を果たしたリントたちのものだ。

 固定化されているかの如く変化の無かったそれが、今では回復を果たしアイテムを消費してまで回復する必要の無いと判断したダメージが残るだけとなっていた。

 その代りとでもいうべきか。ここにはいないムラマサたちのHPゲージは俺がここに来る直前までの数値から微動だにしていない。



「それよりも他の皆はどこッスか? 自分たちを助けに来てくれたって感じじゃないっぽいッスね」

「まあな。ここに俺が来たのも偶然みたいなものだったし」

「そうなんッスね。でもユウさんが来てくれたのは心強いッス」



 そう言い残し駆け出していったリントの後に続く。

 先んじてディギュリスと戦っていたライラに槍が振り下ろされようとする寸前、リントが自身の槍で攻撃を受け止めていた。

 ならばと突き出された大剣がフーカに迫る。軽装で防御よりも回避を主にしているフーカにはその一撃すら大ダメージを与えるだろう。

 だからこそ俺は前に出る。



「オオオッ」



 ガン・ブレイズを剣形態に変え、迫る大剣を強引に上から叩きつけた。



「ユウさんっ!?」

「無事か?」

「はいっ」

「だったら…行けッ、フーカ」

「はいっっ」



 地面に叩きつけられた大剣がフーカの進む道となる。

 硬い金属製の靴底がカンカンカンと規則的な音が響く。

 ディギュリスは向かってくるフーカを払い除けようと大剣を動かそうとするも、俺は威力特化の斬撃アーツを攻撃のためではなくただ大剣を地面に縫い付けるために発動し続けた。



「いっけぇえええええっ。<ライトニング・スラッシュ>」



 フーカはディギュリスの眼前まで辿り着き、刹那、光の斬撃を放つ。

 兜上の頭部に無数の切り傷が刻まれるのと同時に仰け反った瞬間に俺は大剣から離れ距離を取る。

 すると一連の攻撃に小休止が生まれるのを事前に知っていたかのように、周囲の温度が急激に下がった。



「<アイス・ピラー>」



 響き渡る宣誓。

 出現した巨大な氷の柱が吸血鬼にとどめを指すための杭の如くディギュリスの胴体を貫いた。

 胸を打ち背中から地面に突き刺さる氷の柱。

 ライラが発動させた高威力の魔法アーツの直撃を受けたディギュリスの胴体中心部にある結晶体が爆弾のように爆発し、その衝撃波と煌めく黒色の靄が空一面に広がった。



「まだッス」

「まだよ」



 リントとライラの声が重なる。

 安堵というよりも奇妙な手応えのなさに怪訝な視線を向けていた俺は、



「こっちっ」



 とフーカに手を引かれ、さらにディギュリスから離れて行ったのだ。



「どうしたんだ?」

「近くにいると危ないのっ」

「何が…」



 俺が問い掛けた途端、空に広がっていた黒い靄が渦を描き空洞になっていたディギュリスの胴体に吸い込まれ始めた。

 その後、炎が灯り、それを包み込むようにして結晶体が生成される。

 再生した結晶体の周りには水に使っていた四肢が浮かび繋がると、最後に頭部がゆらりと元の定位置に戻ったのだ。



「どうなってる?」

「その様子だと始めて見るみたいね」

「ああ。俺が戦っていたディギュリスはあんなに簡単に攻撃が当たらなかったし、結晶体だって爆発なんかしなかった。皆も知っているだろ。素の能力値が高いディギュリス、最初に戦った時と大差ない状態だったよ」

「戦ってた?」

「そうだ。三人が姿を消した後……って、そういう三人だってここで戦っていたってのか? ずっと?」

「そうだよっ。わたしたちが結晶に包まれたのは見てたよねっ」



 肉体の再生ならぬ再構成を続けるディギュリスから視線を外さずに問い掛けてくるフーカに俺は「見ていた」と肯定の意を込めて頷いた。



「その後にわたしたちがいたのはこの場所なのっ」

「ここにはディギュリスがいたッスから、てっきり自分たちが拘束されている間に皆が何処かに送られたのかも…って最初は考えていたんッスけど、もしかするといなくなっていたのは自分たちかもしれないって思ったんッス。ユウさんの様子から察すると正解だったみたいッスね」

「まあ…な。気付いているかもしれないけど、ここにいないムラマサたちのHPも変動してないみたいにリントたちのHPも動いていなかったから無事だと思ってたんだ。無事……だよな?」

「そうねえ。今のところはって感じだけどね」



 苦笑交じりにそう答えたライラに俺はよくわからないと首を傾げてみせる。



「今みたいにディギュリスの胸の結晶の破壊は何度もやったんッス。でも……」

「その度に復活してしまうのよ」

「ダメージは?」

「リセットされてはいないみたいなんだけど……」



 そう言って見たディギュリスの頭上に浮かぶHPゲージは、



「なんだ…あれ……」



 一言でいって壊れてる。

 最早ゲージとしての形すら保てていないそれは、三つに割れ、色も赤、青、黄と混ざり合ったり明滅したりを繰り返していた。



「はっきり言ってどうすれば倒せるのか分からないんッス」



 お手上げというように槍を持たない手を上げるリントに続いてフーカが落胆したように肩を落とした。



「結晶の破壊は出来るの。でもすぐに復活もするし、何か堪えたような素振りも見せないからどこまで効いているのか確信が持てない」

「つまり、倒し方が分からない?」

「端的に言えばその通りッス」



 モンスターの攻略法探し。それは当たり前のようで、先程までは必要の無かったもの。



「試したことは?」

「魔法、斬撃、打撃、アーツ発動から通常攻撃まで、武器を使わないパンチやキック、ついでに自分は尻尾でも殴ってやったッス」

「けれど効果は無かったってことか」

「その結果私たちは一番効果がありそうだった結晶体の破壊を繰り返すことにしたの。その方がこちらの被害も少なくてすみそうだったからね」

「それでも根本的な解決にはならないッス。だからユウさんが来てくれたのは嬉しかったんッスよ」

「でも俺が出来る攻撃なんて皆とそう大差ないぞ。違うのはこれ…くらいか」



 ガン・ブレイズを銃形態に変えていう。

 リントたちが持っていない攻撃方法となればそれしか思いつかないが、それが突破口となり得るとは到底思えなかった。



「違うッスよ。ユウさんが出来るのは――」

「あの変身だねっ」



 キラキラした目をフーカが向けてくる。



「あのね。正直、それくらいしか思いつかなかったの。私たちはユウ君みたいな急激な強化方法は持っていないから」

「でもそれだったら、俺じゃなくても…ムラマサとかハルでもよかったってこと?」

「ダメだよっ。ユウさんじゃなきゃ」

「え?」

「えっと……そんなトクベツっぽいのユウさんの変身だけだもんっ」

「そんなことないと思うけど……」

「とにかく。ここにいるのはユウさんだけッスから、お願いしたいんッス」



 この状況、自分だけと言われれば納得できるといえばできる。

 それだけに俺はここで本日二度目となる≪ソウル・ブースト≫を発動させた。




五月になりましたね。

まだまだ我慢の日々が続きます。自分に何が出来ると言うわけでもありませんが、この事態が一刻も早く収束することを祈って、外出を控えた毎日を送ってます。


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