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ep.51 『デミ・ブル、デミ・ブル、デミ・ブル、デミ・ブル、デミ・ブル、デミ・ブル、デミ・ブル』


 痛みよりも衝撃に耐えながらも俺はそれから目を外さなかった。

 受けたダメージも一撃でHPを全損させるほどではない。それでも最大値から現在値を比べれば弱い一撃だなどとは到底言えない。

 押し込まれていた壁から離れ即座にポーションを取り出して使用した。空になった瓶を投げ捨てたその時、俺の眼前にも粘土細工みたいな牛のモンスターが出現した。さらにその奥にいる二足歩行を開始したマグナ・ブルと目が合った、気がした。

 全身が毛羽立つような悪寒。

 即座に外されたマグナ・ブルの目線が移ったその先にいるのは突然出現した粘土細工の牛モンスターと対峙しているライラがいた。魔法をメインで使っているとはいっても現在のレベルにまでなれば自分に合った近接戦闘術を身に付けているものだ。だからこそ普段なら安心していられるのだが、今回は別。人化したマグナ・ブルの一撃は先程の巨大な雄牛の時よりも脅威度は増しているのは間違い無い。

 手早く銃形態のガン・ブレイズの銃口を自身の前に出現したモンスターに向けた。浮かぶ名称は『デミ・ブル』。HPゲージは一本。一見するとただの雑魚モンスターだとしてもこの状況で出現した以上は油断などできるはずもない。


「くっ、回復は出来たけど……」


 目の前に立ち塞がるデミ・ブルに文句を言いつつも視線はその奥へと向け続けた。


「<風華(ふうか)一閃(いっせん)>」

「――っ!?」


 俺とデミ・ブルとの間に描かれた境界に怯えるようにデミ・ブルが一歩下がる。

 それでもモンスターの矜持というべきか、あるいは怯えさせられたことに対して怒ったのかデミ・ブルがロデオのように暴れ狂う。


「ユウ! 行くんだっ」

「えっ!?」


 ムラマサが暴れるデミ・ブルの背に乗り携えていた刀を突き立てる。ブモォっと牛の悲鳴が響き渡る。そしてその悲鳴に引き寄せられるようにして元々戦っていた別のデミ・ブルがデミ・ブルの背に立つムラマサに襲いかかってきた。


「<氷華(ひょうか)・硬ノ(こうのはしら)>」


 すかさずもう一振りの刀を片手のみで抜き下から上へ素早く振り上げた。この動作がアーツの発動を補助する類のモノなのは言うまでも無く、最初に切っ先を向けた場所を起点とし、振り上げた刀の切っ先が示す地点を終点として氷の柱が生成された。

 氷柱に激突しデミ・ブルは安代ふらつかせる。


「今だ!」

「え、ああ」

「この一体もオレが受け持つ。だから、マグナ・ブルは任せるよ。君ならやれるはずさ」

「任された」


 おそらくムラマサがこの判断を下した理由は直感によるもののはず。とはいえ信頼されて任されたのだ。一人で討伐できるとまでは豪語する自信は無いが、少なくとも仲間の誰かがデミ・ブルを倒すまでの時間は耐えてみせる。そんな気概を持ちつつも今まさにライラに攻撃を加えようとしているマグナ・ブルと、装備している長杖を棒術のようにしてデミ・ブルと戦っているライラの間に割り込むべく強く一歩を踏み出した。

 二刀一対で振り上げられた大剣がまるで断頭台の刃のように凄まじい勢いで振り下ろされる未来が脳裏を過ぎる。背後からの不意打ち、意識外に繰り出される一撃は回避はおろか防御すらも難しい。

 僅か数秒後に現実化してしまう未来を防ぐためにも自分の身を盾として差し出す。


「――ぐっ、重ッ」


 銃形態のままマグナ・ブルの大剣を受け止める。


「ユウ君!?」

「ライラはそのまま。目の前のアイツを倒してくれ」

「でも……」

「んで、出来ればその後に手を貸してくれるうと助かるんだけど」


 両足が地面にめり込んでいるような気がしてくる。それに二刀を一度に受け止めているとはいえ、いつまで耐えられるかは分からない。

 そんな危惧を抱いていることをさとられたのか、マグナ・ブルが牛頭で嗤ったように見えた。

 ガン・ブレイズ越しに感じていた圧力が僅かに軽減されたその事実に俺は当初思い描いていたのとは違う別の危機感を抱かせた。


「まさか――っ」


 無意識に出てきた言葉を証明するかのように、右から迫ってくる剣を見た。

 狙いは俺の首。

 文字通り斬首の一撃。

 俺がそれを防ぐには先程のようにガン・ブレイズで受けるか魔導手甲で受け止めるかしなければならない。だが、ガン・ブレイズは現在進行形でマグナ・ブルの剣を受けているし、魔導手甲を付けているのは左手だ。右側からの攻撃を防ぐには体の向きを変える必要がある。


――どうする?


 思考を巡らせるのに使える時間はあまりにも少ない。

 だとすれば俺に出来ることは、


「自分の防御力を限界まで高めるだけだッ。≪ブースト・ハート≫」


 浮かび広がる魔方陣が俺を飲み込んでいく。

 瞬間、生成されていく鎧。ハルのように重厚感漂う全身鎧とは違う。肌にぴったりと沿い形成されるそれが俺の姿を変えた。


「――ふっ」


 短く息を吐き全身を強張らせる。

 そうした次の瞬間、マグナ・ブルが横に振り抜いた剣が俺の腹部を火花を散らしながら削り滑っていった。


「よしっ、なんとかなったぁ」


 歓喜のあまり叫んでいた。

 思えばこの竜化があるという事実がムラマサがマグナ・ブルを俺に当てた最大の理由なのかもしれない。

 一方の剣の攻撃をいなされてバランスを崩したことでガン・ブレイズにのしかかる重圧がもう一段階軽減される。


「はあっ」


 大剣を受け止めているガン・ブレイズの角度を変えて、その銃身を滑らせるようにしてマグナ・ブルが持つ左の大剣を受け流すと、素早く前に跳ぶ。無防備になるマグナ・ブルの身体を壁にして後転するとその勢いを利用して蹴りを放つ。

 現実では出来ない動きだが、仮想空間なら、竜化という人外の身体能力を得られている状態でならば可能なそれは俺とマグナ・ブルの間に十分な距離を作り出した。


 華麗に着地した俺は雑に狙いをつけて引き金を引いていた。

 撃ち出される弾丸が乱雑にマグナ・ブルを穿とうとするも、身体を仰け反らせて後退しただけですぐに体勢を戻したマグナ・ブルが振り回す一対の大剣によって払われてしまう。

 威力が低いなどとは思わないが、アーツを伴っていない攻撃はマグナ・ブルからすれば御しやすい飛礫(つぶて)も同然なのだろう。

 一発足りとて本体には命中しなかった弾丸は弾かれあらぬ方向へと飛んでいった。


「こっちがだめでも――ッ」


 跳弾した弾丸が仲間に当たっては目も当てられない。そうでなくとも想定外の方向からの一撃は自分が思っているよりも気力を削いでしまう。それならばと俺が取る手段は一つ。ガン・ブレイズを剣形態に変えての接近戦。

 振り回される大剣を避けながら最接近してガン・ブレイズを振るう。

 一撃の重さ、威力では負けていても速度は負けていない。武器の重さという違いも関係しているだろうが、何よりそれぞれの戦い方に沿って伸ばしてきた能力値の違いこそが最たる理由だ。

 左右別々に振るわれる大剣による攻撃の中の一回。片方の攻撃だけに注目してマグナ・ブルの大剣が振り下ろされるまでの間に複数回その刀身を、剣を持つ手を、その奥の身体を切り付ける。


 自分の直ぐ横に振り下ろされる大剣を魔導手甲を装備した左手で殴りつけ弾き飛ばすことで出来た隙を目掛けて回転斬りの範囲攻撃アーツ<サークル・スラスト>を放つ。

 通常攻撃とは比べものにならない威力の攻撃を受けてマグナ・ブルはより一層苦痛に染まった声を上げた。


『ブモォォォ』


 それでも痛みを無視して繰り出される攻撃は追撃という選択肢を消してくる。

 確かなダメージを与えられたと手応えを感じても、それが勝利に直結していない、不思議な感覚。それが意味するものは何なのか。

 マグナ・ブルは左の剣で斬るのではなくバットでボールを打ち返すように剣を立てて薙ぎ払う。

 ゴオッっという風の音が俺の体を吹き飛ばす。

 直撃を免れているためにダメージらしいダメージは受けていないが、この攻撃によって戦闘はまたしても仕切り直しされてしまう。


「また傷が消えた、か。ダメージは回復していないとはいえ、これでマグナ・ブルは常に万全の状態を維持し続けていられるってわけか」


 あまりの速度を有する自己修復能力に驚嘆の声をあげる。

 与えた傷が回復するその度に赤い煙が立ち上がるのをみるとどんなに大きな傷を付けても瞬時に回復されることは容易に想像できた。


「皆の様子は――」


 魔導手甲を付けた左手を前に、ガン・ブレイズの切っ先を下げて体を少しだけ前屈みにするという俺独特の構えを保ちつつ、素早く視線を周囲に巡らせる。

 視界の左端に見える仲間たちのHPゲージがあることからも倒された人はいないようだが、誰一人として加勢に来る気配がない。何故と思い見てみるとどうやら今の俺と似たような状況に追い込まれているようだ。

 デミ・ブルもマグナ・ブルと同様に与えた傷をその場で瞬間的に回復しているみたいだった。そして当然マグナ・ブルとの違いもあるようで、ハルやリントが戦っているデミ・ブルのHPゲージが最大値に近いことからもとある嫌な事実が想像できてしまった。

 マグナ・ブルの変貌から発生したモンスターであるデミ・ブルはマグナ・ブルを倒すまで延々と復活するのではないか。

 それを実証するかのように、フーカが対峙しているデミ・ブルが力なくその場で崩れ去った。フーカが勝ったのだと思うよりも早く、物言わぬ土塊と化したデミ・ブルが消え、その消失地点からモコッと土の塊が生まれ、その中から別のデミ・ブルが現われ、フーカとの戦闘を継続したのだ。


「マジか……」


 自分がマグナ・ブルを倒すまで皆が無事でいることを願いつつ、俺は再び目の前のマグナ・ブルへと視線を向けた。するとそこでは通常攻撃、アーツ攻撃その両方を合わせて幾度となく攻撃をしていたことによる変化が起こっていた。

 これまで生身の肉体が剥き出しだったマグナ・ブルの身体に初心者が装備しているかのような軽鎧が備わっていたのだ。

 運良く発生した瞬間を見たからこそわかる。

 マグナ・ブルの鎧を形成しているもの。それはマグナ・ブルが自身の傷を修復したときに発生していたあの赤色をした煙だ。



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