ep.19 『竜と鬼と巨人』
バルーンの核が起こした爆発は、周囲に広大なクレーターを作り出していた。
当然、爆心地はバルーンがいた場所。それはすなわち俺たちがいた場所でもある。
「……う…あ……」
現実の数分の一とはいえ実際にフィードバックされた痛みが全身に迸った。
うつ伏せで倒れたまま、直ぐに起き上がろうとしても、俺の体は意思通りには動かない。体を起こしたつもりが荒野の砂を撫でるだけで終わってしまう。
左手を覆っている魔道手甲も、右手が掴んでいるガン・ブレイズさえも、今の俺はそれぞれの感触が実感できない。
一時的だとは思うが、爆発による閃光に視界を奪われてしまい、周囲の状況はおろか自分のHPゲージすらも確認することができなかった。
キーンっという止まない耳鳴りが音で探ることを邪魔してくる。
時間の感覚が失われなかったのが幸いだったとは思えなかった。聞こえてはいないはずの自分の心臓が早鐘を打つ音が鳴り止まずに、いつトドメを刺されるか分からない戦々恐々とした時間が永遠のように感じられた。
それが長かったのか、それとも短かったのか。
耳鳴りが止み、ぼやけながらも視界が確保されたその瞬間に、俺は痛みを無視して強引に立ち上がった。
「みんなは?」
自身の回復よりもまずは二人の安否の確認だ。
僅かな動きですら痛みを伴う。苦痛に表情を歪めながらも必死に二人を探した。
「ハル!?」
最初に見つけたのは全身鎧が大きく歪んでしまっているハル。
より爆心地から近かったのか左右で歪みの程度は違うが、輝きを放っていた鎧がくすんでしまい見るも無惨な状態になってしまっていた。
爆風によって兜は吹き飛ばされており、近くには見当たらない。
「あ……」
気を失っているのか目を閉じ動かないハルの元へ駆け寄って行こうとするも、その奥にあったもう一つの人影を見つけた。
一振りの刀を地面に突き立てて爆風を避けようとして屈んだ格好のまま動かない。
「ムラマサっ!?」
鎧を纏っているハルよりも爆心地に近い場所にいたムラマサの現状はより酷い。
和服風の防具は破れたり燃えたりしてしまっていて、下に着ているインナーが剥き出しになっている。さらには両腕と顔が最も酷く、次に上半身と両足の前面に至るまで無数の裂傷や熱傷が付けられていた。
現実ならば、いや、このゲーム世界においても直ちに治療が必要な状態であることは間違い無い。
今すぐにも回復アイテムを使わせるべきだが、俺の体はまだそこまで思い通りに動いてはくれなかった。
「――っ……くそっ! 動け!」
自分を叱咤しても意味は無い。
デジタルなダメージは精神でどうにかできる代物では無いのだ。
「動けよォ! 俺ぇ!」
懇願と共に叫ぶ。
すると俺の右手からガン・ブレイズが落ち、代わりに右手の感覚が戻ってきた。
「回復を!」
人を助けるにはまず自分が武器で無ければどうにもならない。
ぎこちない動きでストレージから回復量の高い上級ポーションを取り出すと乱暴に栓を外し噛みつくように咥え勢いを付けて上を向く。
がぼッっとポーションの瓶の中に空気の泡が入り、その代わりというように液体が口の中に流れ込んできた。
むせそうになるのを必死に堪え、俺は口の中に流れてくる液体を飲み込む。
「――っ!」
上級ポーションが正しく機能したのか、体に出来ていた傷という傷から煙が立ちこめたかと思えば、瞬時に治ってしまっていたのだ。
空瓶をストレージに戻し、ガン・ブレイズを拾う。
「こんな性能だったか?」
自分で作ったポーションだとはいえ、むしろだからこそこのような急速な傷の治癒は想定していない。せいぜい回復量がいつも以上に高くなるように素材を厳選し、より濃度の高い原液より高い割合で調薬しただけだ。
疑問を感じるほどの回復に戸惑いながらも、今はその疑問を解消するよりもその回復力を歓迎するべきだと割り切ることにした。
より大きなダメージを受けているのはあからさまにムラマサの方。
傷が消え、徐々にではあるがHPが回復していったことで動きに精彩さが戻っていた。
素早く駆け寄り自分に使ったのと同じ上級ポーションをムラマサの口に宛がう。
「目を覚ましていないと飲めないか。なら……」
ポーションというのは魔法薬である。使い方は飲むことが一般的だが、振りかけても多少は効果はある。等級が低ければ飲んだときに比べて振りかけたときでは効果の減衰率は高いが、上級ポーションともなれば減衰率は低い。
最初により傷の具合が酷い顔、次に両腕、それから体全体へと行き渡るように瓶が空になるまで全て振りかける。
自分の時と同じくシュウゥゥっと煙が立ちこめるとムラマサの体にあった傷の殆どが消えていた。
「――っ!? ユウ…か?」
「ああ。そうだ。ようやく目を覚ましたみたいだな」
「すまない。回復してくれたのか。って、バルーンは!?」
ハッと目を開けてムラマサは爆発を引き起こしたモンスターであるバルーンを探していた。
「そこだ」
と俺が指差したのは爆心地から垂直に上に向かった虚空。
不規則に景色が歪むそこには時折バルーンの巨体が覗き込んでいた。
「あれは?」
「さっきの爆発はバルーン自身にもダメージを与えるものだったらしい。今は歪みに身を隠して再生してるってところだな」
「なんだって!? それだと先程与えたダメージが消えてしまうのか」
「いや、完全に回復するってわけじゃないみたいだ。見てみてくれ。俺たちが砕いた球体は修復されているけど、爆発直前まで与えていたダメージは回復していないだろ」
歪みの中心に浮かぶバルーンのHPゲージはある一定の地点で動かない。
自ら引き起こした爆発による自傷ダメージはきれいさっぱり消えてしまっているが、それ以外は残ったまま。
「体の修復が終わるまでこっちに手を出してくることは無さそうだけど」
「んー、そう悠長に構えていられないってことか」
ムラマサが自分のストレージから新しいポーションを取り出し使用する。
体に残った微妙な傷はそのままでもHPは大きく回復を果たしていたことで冷静さも取り戻したようで、抜き身の刀を持ったままゆっくりと自分の体に異常が残っていないか確かめていた。
「なあ、俺にも…その傷を消すポーション分けてくれ」
後ろからハルが声を掛けてきた。
俺がムラマサにポーションを使っている間に気付いたようで自らポーションを使いダメージを回復していたみたいだが、俺が持っている上級ポーションではないからだろうか。鎧の端々から覗く素肌や剥き出しの顔には今も痛々しい傷が残されていた。
その傷が動きを阻害しているようで、ハルの歩き方はどこかぎこちない。
「あ、ああ。勿論だ。使ってくれ」
「サンキュ」
取り出したポーションをハルに渡す。
躊躇うこと無くそれを一気に飲み干したハルの体から煙が立ちこめる。鎧と地肌の隙間から煙が立ちこめるその様子はさながらオーバーヒート寸前の機械を見ているかのようだった。
「にしても、これが上級ポーションねぇ」
兜を失し剥き出しになったハルの顔ににやけた笑みが浮かぶ。
視線で目配せをするようにムラマサと顔を見合わせたハルは大げさに肩を竦めてみせた。
「ムラマサにも使ったんだろ」
「ああ。自分にも使ったぞ」
「変だと思わなかったのか?」
「何が」
「んー、あの回復量、っていうか回復効果だね」
ムラマサがそうしたように自分の体の調子を確かめるように手首や足首を回すハルに並んでいった。
「ユウにはいうまでも無いけど、ポーションの等級ってのは純粋に回復量の違いを指すのさ。だからさっきみたいな傷の回復は本来HPポーションの性能ではないはずだ」
「っても俺はギルドの倉庫にあった薬草を使っただけだぞ」
「んー、それは普通の薬草じゃないかもしれないね」
「へ?」
「名称は便宜上『薬草』にしてたけど、ギルドの倉庫にあるなかにはギルドで品種改良したものも保管されているからさ」
「それをユウは知らぬ間に使っていた、と」
「≪調薬≫のスキルレベルが足りなければ失敗することもあるらしいが」
「確かに何回か失敗したな。てっきりブランクがあったからだとばかり思っていたけど」
「素材のせいだったかもしれないね」
全員が回復を終えたのを見計らったように、空中にある歪みが大きくなっていく。
空が割れ大口を開けた闇のなかから全身を修復したバルーンが現われた。
「さて、攻略方法は分かっているにしてもだ」
「そうだね。あの爆発を再び受ければこっちが全滅するかもしれない。さっき全員が生き残ったのは防具を犠牲にしたという以上に運が良かったと言うしか無い」
「なら、一気に攻勢に出てみよう」
二人に向けて提案する。
「俺たちには奥の手がある。回復するのもさっきの爆発を受けなければそれほど急を要するってわけでもない。なら――」
「与えるダメージを増やそうってわけだね」
「ああ。どうだ? 乗るか?」
言葉の後に続いて視線で問い掛ける。
すると、ハルとムラマサは力強く頷き、
「勿論だとも」
「どのみち次の爆発を受けるわけにはいかないからな。俺もユウの意見には賛成だ」
「よしっ。なら行くぞ!」
バルーンが両手を大きく広げ、その場で回転してみせる。
初めて見る挙動でもそれが戦闘準備を終えた証であると瞬時に理解できた。
動きだそうとするバルーンを前にして身構える。
ガン・ブレイズを持つ手に力を込めるのと同時に左手を僅かに開き告げる。技から能力へと変化したその言葉を。
「≪ソウル・ブースト≫」
正面に浮かぶ魔方陣が一際強い輝きを放ち、俺の体を通り過ぎる。
そして火花のように魔方陣と同じ真紅の粒子が舞い上がった。
魔方陣の中から現われた俺は全身を赤と黒の鎧に包んだ人型の竜へと姿を変えていた。これが『竜化』と称している姿。
「<鬼化術・吹雪鬼>」
俺が竜化を行っている横でムラマサが発動させたのもまた自身を変化させるものだった。
火花を撒き散らした俺とは違い、ムラマサが纏っていくのは極寒の冷気。大気をも凍らせていくその冷気が実態を獲得し、ムラマサが纏う純白の着物へと変化していく。
爆発を受けてボロボロになった装備を上書きするように纏った着物を翻し、颯爽と立つムラマサの額には先端に向かうにつれて白く、根元は青色の二本角。
「って、そう言えばハルは?」
思い起こせば俺が知る自身を変化させることのできるプレイヤーのなかにはハルは含まれていない。
しかし、先程奥の手を提案した時、ハルは賛同してみせていた。
変化を果たした俺とムラマサの視線を受けながらもハルは自信たっぷりに頷き返してきた。
「心配すんな。これが俺の奥の手ってヤツさ。<ティーターン>」
その言葉は咆吼と共に。
アーツを宣言した途端、ハルが装備していた鎧はフレームだけを残し半透明になっていた。さらにはソノシタの体が鎧を突き破るほど膨張を繰り返し、一瞬の後にはまさに巨人といった風貌になったハルがそこに立っていた。
「どうだ? これで俺も変身出来ただろう?」
「あ、ああ」
「みたいだね」
ゆらりゆらり揺れ始めたバルーンを前に、姿を変えた俺たちが立つ。
一人は鎧を纏い、竜となり。
一人は冷気を着物に代え、鬼と化す。
そして一人は自らを変質させて、巨人へと変わった。
「ここで決めきるぞ!」
まず最初に地を駆ける氷の牙がバルーンの両腕を貫いた。
アーツでもスキルでも無いその一撃は鬼となっている状態でのみ併発する氷の剣閃。素早く二度、右の刀を振り上げたその延長線上を捉えたその一撃は戦いの再開を告げる号砲となり得る。
「うおおおおおおおっ」
両手で持っていた戦斧を今は片手斧のように持ち駆けていくハルは一歩足を踏み出す度に巨大なモンスターのような足音が鳴り響く。
氷によって腕を捉えられているバルーンに向かって走る勢いをそのままに戦斧を振り抜いた。
「さすが」
巨大なバルーンをその戦斧で斬るのではなく、殴り飛ばしていた。
バランスを崩し倒れるバルーンは二人の攻撃によってその両腕と足の片方を失ったが、それだけで倒せるわけではないのは先程の戦闘で理解している。
むしろ最初の戦闘の時に比べ再生速度を増しているバルーンはまず始めに氷によって貫かれた両腕を修復し、次にハルによって打ち砕かれていた片足が完全な状態へと戻っていた。
「んー、困ったね。ダメージも思ったよりは通っていないみたいだ。さて、どうする?」
「どうするも何も攻撃し続けるしかないだろ」
「その状態だとハルの声はゴツくなるんだな」
「そうなのか? 自分では分からんが」
巨人と化した自らの首に触れつつ首を傾げるハルは起き上がり脳天から三角錐を引き抜くバルーンを睨み付けている。
「あれは、最初の攻撃と同じヤツか」
「いや、少し違うらしい」
バルーンが三角錐を掲げたその瞬間、俺たちを狙い澄ましたように、それぞれの足元に自分たちを覆い尽くすくらいの大きさをしたターゲットサークルが浮かび上がった。
「皆、避けるんだ」
ムラマサの号令を合図に俺たちはバラバラになって駆け出した。
足元に出現したターゲットサークルから逃れるべく、それでいながら攻撃をしている為に動きを止めたバルーンに近づくことを目的として。
「なにっ、追ってくるのか!?」
巨人の歩幅で悠々とターゲットサークルから逃れられると思っていたのか、ハルが驚愕し叫んでいた。その声につられ首だけで振り返った俺は自分を追って荒れ果てた大地を移動する様を目撃したのだ。
(何処まで追いかけてくる?)
声に出さず胸の中だけに浮かべた疑問に対する答えは不明のまま。
攻撃による硬直という絶好の好機を前にしているにもかかわらず、俺たちは手を出せずにいた。
出現したターゲットサークルから逃れるべく移動した最初の頃こそガン・ブレイズを銃形態にして攻撃しようと考えていたが、その移動速度が想定以上に速く射撃する余裕がなかった。
竜化してスピードもそれなりに上昇しているはずだが、どういうわけか今にも追いつかれそうになってしまう。全力で走ってなんとか逃れられてる現実といつ終わるか分からないマラソンを強いられているような状況であっても俺たちはただ走り続けるしかなかった。
「あっ――」
走るコースが被らないように注意しながら駆け回っていると突然ムラマサが叫んだ。慌ててそちらを見ると何かに躓きバランスを崩していた。
しかし、何をきっかけにして事態が動くは分からない。
ムラマサが躓き蹴り飛ばした拳ほどの大きさをした石ころが、ムラマサを追いかけているターゲットサークルの上に転がったのだ。
するとターゲットサークルと同じ直径の螺旋を描く炎の柱が聳え立った。
天高く先の見えないほどの炎の柱はその場から動かない。つまりターゲットサークルは一度発動さえしてしまえば位置を固定することができるらしい。
「ユウ! サークルを撃つんだ!」
「そうかっ!」
自分を追いかけてくるターゲットサークル目掛けて引き金を引く。撃ち出された弾丸が地面に命中すると一気に炎の柱が立ち上った。
「こっちも頼む!」
「分かってる」
逃げる必要が無くなったと判断して即座にハルを追いかけているターゲットサークルを狙い撃つ。三度立ち上がる炎の柱が轟々と燃え盛るも俺たちはそれを無視してバルーンへと接近していった。
いつまで経っても消えない炎の柱は戦場においてプレイヤーの動きを阻害する障害物となってしまう。
炎の柱を避けながら走る俺とムラマサに反してハルはその少しくらい触れてダメージを受けても構わないと言うように、真っ直ぐバルーンへと近づいていく。
「オラァァアアア!」
斧の使い方としては間違っていると言わざるを得ない攻撃をハルが繰り出す。
片手斧のように持つ戦斧を投げ槍の如く投擲して見せたのだ。
風を切り真っ直ぐ飛んでいく戦斧がバルーンの胸を穿つ。
痛みなど感じていないような顔でバルーンが戦斧の命中による衝撃に体を揺らしていた。
「アーツを使うまでもないってことか?」
ハルにしては乱暴な攻撃に違和感を感じてしまう。
なにせ戦斧を投擲したかと思えば次に大きく跳躍してバルーンを力任せに抑え付けているのだから。
「そのまま捕まえていてくれよ」
「分かったあぁぁ!」
「いくぞ。<極鬼術・散氷華>」
ハルが抑え付けているバルーンの背後から純白の花が一輪咲き誇った。
「今だ! ハル、下がれ!」
ムラマサの声を受けて飛び退いたハルの眼下でバルーンを飲み込んだ純白の花弁が舞い散る。
一枚一枚の花びらの大きさはそれほどではないが、ムラマサのアーツによって生み出されたそれは一枚一枚がよく斬れる刀のようでもある。
風に乗って重力に逆らい動き回る花びらがバルーンの体を切り刻んだ。
再び剥き出しになるバルーンの核。
それを見た瞬間、俺はガン・ブレイズの引き金に指を掛けていた。
「――っ、また爆発でもしたら……」
「うらあぁっ」
自分たちが耐えられるかどうか分からない。そんな考えが浮かび一瞬体が固まってしまった俺の目の前で大きくなったハルの拳が核を殴り飛ばしたのだ。
「え、ええっ!?」
顔を覆い隠している兜がなければ、この時の俺の顔は驚きに満ちていたものだっただろう。
動きを止めてしまっている俺の目の前でくるくると回転しながら天高く打ち上がったバルーンの核が周囲の光を吸収し始めた。
それが爆発に至る兆候であることを俺たちは知っている。
距離を取って逃げ出すべきか、それともこのばで最もダメージを減らせそうな選択を取るべきか。逡巡する俺を呼び止めたのは核が剥き出しになったことで周囲の炎の柱が次々と爆発していったという事実。
炎の柱が消えて見晴らしが良くなった戦場で、ムラマサが冷静な表情をしてその手に持たれた刀を二本とも腰の鞘に戻し走っていた。
「二度も同じミスは犯さない! <極鬼術・重風華>!」
二刀による同時居合い斬りという現実離れした業を繰り出す。
青と白。二色の剣閃がバルーンの核を捉えた。本来ならば切断するための一撃だったはず。しかし、常識外の硬度を誇るバルーンの核には傷一つ付けられない。その代わりとでもいえばいいのか、剣閃が命中した場所から核全体へと瞬く間に凍結が広がったのだ。
核が氷で覆われたことにより光の収縮は収まった。だが重力に従い落下する核が地面と激突すれば核を覆っている氷など簡単に砕かれてしまう。そうなれば再び光が収縮し始めるか、肉体の再生が始まるかのどっちかだ。
「ユウ! 一気にトドメを!」
ムラマサの声が響く。
そしてそれを合図にハルが助走をとり、大きく跳び上がった。
「オオォおおおおおっっ! 俺が先だぁあ! フゥンッ!」
バルーンの核より遙かに高く跳んだ巨人と化しているハルは両手を組み大きく振り下ろした。
ハンマーのように両手を上から叩きつける一撃はバルーンの核に命中すると一気に落下させていく。
「<極鬼術・月華嶺斬>」
落下してくるバルーンの核目掛けてムラマサが右手の刀で綺麗な弧を描く。
まるで空に浮かぶ三日月のような軌跡を残して放たれたそれはバルーンの核に大きな亀裂を刻み付けていた。
「――っ!?」
咄嗟に俺は銃形態のガン・ブレイズを構える。
必殺技を使おうにも、威力は十分と言えるまで蓄積されていない。それならば、いや、だからこそ俺は威力に長けたアーツを発動させることを選んだ。
「<インパクト・ブラスト>!」
通常の銃撃とは違う光線がムラマサが描いた三日月に一筋の流星を加えたのだ。
赤い閃光がバルーンの核に生じた亀裂を正確に射貫く。
そして一拍の静寂が訪れ、次の瞬間に光だけではない、大気も大地も何もかもを飲み込んでしまうかのような引力がバルーンの核から発生した。
「う、おおおお」
「くっ。これは、キツいね」
「俺の戦斧が飲み込まれるっ!?」
バルーンの核に吸い込まれる戦斧を追ってハルが自らその引力へと飛び込んでいく。
「おいっ!?」
「無茶するな!」
慌てて俺たちはハルの足を掴んでいた。
「よっしゃ、捕まえた!」
嬉々として叫んだハルに俺たちは何心呆れつつ、全力で堪えた。
それぞれ片足を掴む両手に力を込めると、体重を後ろに掛け、重心を下に下に腰を下ろす。
引力が消えたその時、俺とムラマサは疲労困憊の有様だった。
何に対して疲れたのかはハルには言えなかった。




