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ep.17 『インターバル・次の戦場へ』


「実は状況が変わったんです」


 そう前置きをしてグリモアが口を開いたのはいつものギルドホームのリビング。

 ギルド黒い梟サイドには俺とハル、それからムラマサがいる。反対側にはグリモアを中心に左側に例の少女、右側には猫の人が座っている。


「まず、皆さんが知っているのはこのゲーム世界のフィールド、ダンジョンに異変が生じ、その調査、解決のためにプレイヤーに力を借りている」

「ああ、そうだな。その際、俺たちは一般のプレイヤーとは異なる立場になることも受け入れているぞ」

「承知しています」


 ハルの言葉にグリモアが頷く。


「ですが、現状はそこと少しだけ異なっているのです」

「どういうことだい?」

「簡単に言えば皆さんが倒したスクエアというモンスター。あれは仕様外のイレギュラーなんです」

「それは猫の彼から聞いているから分かっているよ。だが、殊更状況が変わったということが疑問なんだがね」


 考える素振りをするムラマサが鋭い視線で問い掛ける。


「それは、あのシルマというNPCが原因なのか?」


 グリモアが告げた変化に対して思い当たるのはその一点だけ。

 廃墟で戦ったアブナザックたちが何か誤解をしていて俺たちと戦うことになったのだとしても、あそこまで会話が通じないのは普通では無い。まるで最初から自分たちの言うことだけが正しく、俺の言うことは全て間違いであることを微塵も疑っていなかったような雰囲気だった。

 これがストーリーの決められたゲームならばまだ分かる。

 自分たちの行動で変えられるのは僅かであり、根本となる物語には干渉できないようになっていることが常だからだ。

 あの時のアブナザックの言動には思い込みが強いなどという一言で済まされるような感じではなかった。


「正確にはそのNPCだけじゃないんです」

「というと、そこの彼女も原因の一つだというのかい?」

「見方によれば、という感じですけどね」


 苦笑というよりは困惑といった表情を浮かべるグリモアはそっと隣の椅子に座る少女の頭に手を置いた。


「どういう意味だ?」

「まず、端的にいうのならば今回の件に関わっているNPCという意味では確かにこの娘も原因の一つ、と言えるかもしれません」


 含みを持たせた口振りに俺は訝しむ視線をグリモアへと向けた。


「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。僕は一応こちらの味方のつもりですから」

「味方、ね。グリモア。お前は一体何者なんだ?」

「皆さんと最初に出会った時は僕も普通のプレイヤーでしたよ。ただ、その後にマカベさんのいる企業に技術顧問として雇われたんです。それからは今回のような事変に対する修正を任されているんです」

「えっと、君は確か、あのアラドの弟だったよね」

「はいっ」

「明らかに俺よりも年下だよな」

「そうですね。今十六ですから、年下だと思いますよ」

「成る程。その年齢でその立場とは、凄いものだね」

「そんなことありませんよ。特にこの会社は僕みたいな若い人材は豊富ですから」

「…とはいってもグリモア君ほど若い人は稀なのだけどね」


 猫の人が身を乗り出して付けたす。

 それから本物の猫のように髭をピクピクと動かしながら鼻先で何かを操作すると、俺たちの中心にホログラムのモニターが浮かび上がった。


「見てくれるかい? これはグリモア君の推測なのだけどね」


 表示されているのはどこかの家系図に似たもの。

 たった一つから派生して無数に広がっているそれは、ぱっと見て大地深く根を這わせた巨木を連想させた。


「これは、現在のNPC達の系譜を推測して図に表わしたものです。ここで一つ奇妙なことに気付きませんか?」

「奇妙なこと?」

「ああ。それは最初、この場合は祖先かな。それがたった一体であること、かな?」

「ええ。本来このゲームに出現するモンスター以外の生物には現実のそれを模して作られています。NPCの場合は人間になりますね。人間を模して作られたオブジェクトであるNPCが増える経緯は実際の人間と変わりません。といっても、実際には両親が居てそこから生まれるという過程を踏んでいるに過ぎないんですけどね」

「けど、最初は運営の人が設置したんだろ?」

「それが一体、ということはあり得ないと思いませんか?」

「だね。町にしろ村にしろ普通ならばある程度の数を設置するはずだからね」

「ムラマサさんの言うとおりです」

「だけど、NPCが作られたのと設置が同じタイミングであるはずがないだろ。言い方は悪いけどさ、試作段階のNPCだって存在するだろうし」

「その疑問も尤もだと思います。しかし、僕がどんなに調べても試作段階のNPCというものは存在していないんです」

「存在してない?」

「はい。それが作られていた、という記録すらも残されていないんです。これではまるで最初から完成したNPCがそこにあったみたいで」


 納得できないと技術者の顔で呟くグリモアにムラマサと互いの顔を見合わせていた。


「当時の運営に関わっていた人に聞いてみれば良いんじゃないか?」

「そうしたいのは山々なのですけどね。一年前にこのゲームの運営体制が変わったのは知っての通りだと思いますが、それから直ぐ後に当時の運営会社は解体。そして当時の事情を知るであろう上層部は全員が雲隠れしてしまっているのです」

「良くそれでこのゲームを続けようってなったな」

「一般には知られてはいませんが、その時点で現在のようなVR空間になることが計画されていたらしいのです。現実の企業を巻き込み、政府からも認知を得たことで途中で頓挫するわけにはいかなかったのでしょう。何より、狙ってか偶然か、公的には責任を取るべき人達は全員が揃って辞任していますからね。責任の有無すら有耶無耶になったまま事業だけが進められました。その後は皆さんもご存じの通りです。ゲームは複数の企業が共同で運営することになったのです」


 猫の人が話す内容に俺は、俺たちは複雑な表情を浮かべていた。

 自分たちが立っている足場の下に隠された真実。それはまるでどこかの陰謀論のようであり、到底現実味のないものでしかない。けれど、それが真実と信じている人が目の前に居ることがそのほんの僅かな現実感を引き上げていた。


「別のVRゲームに変えるって話は出なかったのか?」

「ユウさんの疑問は尤もだと思います。ですがそれは不可能でした」

「何故?」

「皆さんはこのゲームに現在ログインしている人がどの位いると思いますか?」

「え?」

「数百、数千という規模ではありません。毎時数万といった人数がログインしているのです。加えて決められた範囲とはいえ自立稼働するNPCや各エリアに出現するモンスターなど、常時サーバ内で行われている処理は想像を絶するものです。今では各大陸にあるセントラルエリアにある現実企業のテナントに対する保証も同時に行われています。これだけの処理が行えるサーバはこのゲームを置いて他にはありません。そして、ここからが問題だと僕は思っているのですが、このサーバがどこにあるのか不明なのです」


 話す意味が分からないというように首を傾げる俺たちにグリモアが慌てて訂正を加えてきた。


「勿論、ビルのフロアを複数貫いてサーバが置かれているのを見たことがあります。ですが僕にはそれが本物だとは思えなかった」

「っつても昔だってかなりの数のVRゲームは存在してただろ? それこそ、このゲームよりもプレイ人数が多いゲームだってあったはずだろ」

「そうですね。あの時点でも最低五つは存在していたと認知してます」

「だったら別のゲームを基盤にすることだって」

「それは無理でした」

「どうして?」

「先程話したサーバが問題だったのです。あの時点では問題が無くとも将来的に何倍にも膨れ上がるログイン人数を処理できるサーバを有していたのはこの【ARMS・ONLINE】というタイトルだけでした。実際、ラグの発生も処理落ちすらも起きてないでしょう」

「そういえば、そうだな」


 現実的な問題で変えられなかったと納得した俺は目の前の系譜図に視線を向ける。


「ゴホン。グリモア君の疑問はさておいて、話を先に進めようか」


 猫がわざとらしい咳払いをするという奇妙な光景を眺めつつ、俺たちはグリモアが残した疑問を頭の片隅に追いやった。


「今回問題なのはこの系譜図が本当だと仮定したことから浮かび上がったのです」

「僕が作ったこの図では祖先は僅か一体のNPCだということになる。けれどそれはあり得ない。それは先程の話しで理解して貰えたと思います。となれば何故NPCは増えていけたのか、僕が出したその疑問に対する答えはこれです」


 グリモアが浮かんでいるモニターに触れるとその後ろからもう一つ別の系譜図が現われた。


「こちらが隠された系譜図。そしてこの二つを合わせたものこそが、本当の系譜図だと考えます」


 映像を縦に並べるようにして二つの図が再び重ねられる。

 後ろが透過しているその図が合わさることである意味で正しい系譜図が描かれた。


「祖は二体、か」

「はい。それでいつしか片方が隠れてしまった。今回、現われたシルマというNPCはこの隠れた系譜に属するものと推測されます」

「目的は?」

「それは今まではっきりとしませんでしたが、今回のユウさん達の話で多少の憶測は立ちました。憶測(それ)でも良ければ話しますが」

「頼む」

「では、僕はその隠れたNPCの目的をこの世界の防衛にあると考えています」

「世界の防衛だって? それなら俺達と戦う必要なんてないはずだろ」

「いいえ、一概にそうは言えないと思います。僕達、この場合は協力頂いているプレイヤーの方々とは目的が異なっているかもしれないのですから」


 一泊息を呑み、それからゆっくりと言葉を続ける。


「かのNPCの目的は文字通り世界の防衛だけ。それに対して僕達はこの世界で活動する人の安全を確保することも目的の一つとして掲げられている。この僅かな差異が大きな隔たりとなっているのです」

「そうか、あの人達が俺達を排除することになんの躊躇も無かったのはそれが理由か」

「ちょっと待て、彼らも貴方たちのように雇われたプレイヤーではないのですか?」

「その件は私から話しましょう」


 猫の人が「失礼」と言ってモニターの浮かぶテーブルの上に上った。


「彼らは私共が協力を求めたプレイヤーであることは間違いありません。ですが、こちらが接触するよりも早く何者かが接触していたという懸念はありました。ただ、それもこちらの提案を快く受け入れてくれたことにより杞憂とされていましたが」

「そうじゃなかったってわけか」

「しかも立場上はこちら側でも個人としてはあちら側という、ね」


 俺とムラマサはその一言で納得してしまっていた。


「強引な手になるけどさ、あの人達のアカウントを停止するとかは出来なかったのか? 規約違反をしたわけじゃないのは分かるけどさ、俺達の立場ってのはそういうものを逸脱した所にあるんだろ。正直、そっちの意向に沿わないからってだけでアカウント止められることだってあるかもって覚悟してたんだぞ」

「その意見も出たのは事実です。ですが……」

「構いません。この方達に話してください」

「分かりました。具体的に誰がとは言えませんが、この申し出を受けたプレイヤーの中にはアカウントを保護されている人達がいるのです」

「オレたちもかい?」


 答えずにグリモアは笑って返した。

 そしてあの時、相まみえたという事実がアブナザックたちもまたアカウントが保護されている人の中に含まれているということらしい。


「ま、そういう事情なのは分かった。それで何故今になって俺達にその話をしたんだ?」

「皆さんがスクエアを倒したからです」

「その際に起こったエリアの崩壊と消滅はご存じですね」


 猫の人とグリモアが交互に話すそれに俺たちは揃って頷いて答えた。


「例のエリアは現在再現され復旧されています。しかし、皆さんが経験した通りだとすればその崩壊こそが皆さんを敵として認識させた原因のはずです」

「誤解だと証明できないのか?」

「無理だと思います」

「何故、と聞いても?」

「これから先も皆さんにはエリアの崩壊に繋がるかもしれないことをしてもらう必要がありますからね」


 表情の読めない猫の人の一言に俺たちは言葉を失くしてしまっていた。


「皆さんには本来の協力依頼とは別にスクエアのような仕様外のイレギュラーモンスターの討伐をお願いしたいのです」

「どうして俺たちに?」

「実力重視と言っておきましょう。それに…」

「誰がNPC側なのか判明していないってことか」

「ええ。その点、皆さんは問題無いと思っています。何せ崩壊させる者として狙われたのですからね。こちら側で実力が確認されているのは貴重ですよ」


 断ることも選択肢にはあったが、俺たちはその申し出を受けた。

 自分が戦う理由を明白にしたいということもあるが、どうせそのような事態に巻き込まれていくのだろうという予感もあったからだ。

 事実、話が終わったのを見計らったように耳慣れないアラーム音が鳴り響いた。

 音の出所がテーブルの上に浮かぶモニターからだと気付き視線を向けると、別の映像が映し出されていた。


「これは――」


 映像の中に居るのは名も知らぬプレイヤーたち。

 装備の充実度や立ち回りからも自分と同じ境遇の人たちであることは疑いようがない。けれどその彼らは満身創痍といった様相で必死に逃げ出そうとしてもがいているようにも見えた。


「陸地のはずだろ?」


 その場所は荒野の真っ只中。

 なのに海の中で溺れているような素振りをしていることが不思議でならない。


「何かいるぞ!」


 映像がプレイヤーからその何かに切り替わる。

 大小様々な無数の球体がまるで巨人のようにして佇んでいる。

 間接のない球体だけの腕で掲げるのは細長い三角錐の杖。


「皆さん! 急いであそこに向かってください」

「え?」

「あれはおそらくスクエアと同種のモンスターです! 彼らの救援が間に合うかは微妙ですが。ここで逃してしまえば被害は広がってしまします。だから!」

「分かった!」


 ムラマサに腕を掴まれ俺とハルが立ち上がる。


「あの場所まではこれを使えばポータルで一気に行けます」


 グリモアが取り出した水晶体を受け取り俺たちはギルドポータルへと駆けていく。

 そしてその水晶体を掲げて即座に転送したのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「性格が悪いですね。マカベさんも」

「仕方ないでしょう。本当に彼らに賭けていいのかどうかはこの戦いの結果が教えてくれますよ。それよりもお兄さんはどうですか?」

「まだ、連絡は取れていません。けど、あの兄ですから無事だとは思いますよ」

「もし、お兄さんが居ればどちらについたと思いますか?」

「それはもちろん。より面白そうな相手がいる方、ですよ」


 ユウたちが居なくなった黒い梟のギルドホームの一室でそう話すグリモアとマカベを隣の少女が虚ろげな目で見つめていた。




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