ep.05 『試練・突破』
お待たせしました。今週の更新です。
全身に光の刃を出現させた漆黒の竜と俺の戦いはモンスター対プレイヤーという特色がより強く表れていた。
漆黒の竜の攻撃は基本的に近接攻撃。竜型のモンスター特有の息吹を放つことなく、むしろそのエネルギーの全てを光の刃に変換しているかのようにさえ感じられた。俺の倍近い体格であるにもかかわらず、長い腕や尾、刃を携えた翼を用いて繰り出す軽やかな攻撃は常に複数の剣を以て攻めてくるかのよう。
防御しようにも一本の武器であるガン・ブレイズで防げるのは精々二つがいいとこで、竜化して一際硬くなった魔道手甲でも身を守るという意味合いではこと漆黒の竜が相手では文字通り手が足りない状況になってしまっていた。
こうなると漆黒の竜の攻撃に合わせて的確に防御できるかどうかという問題は残るが<シールド>が消えてしまったことが悔やまれる。上手く使えないにしても漆黒の竜の攻撃の一つや二つぐらいならば防げていたはずなのだ。
地面に足を着けることなく、またその翼を羽ばたかせることもなく不可思議な原理で浮かびながらこちらに攻撃を仕掛けて来ているために、地面に足を着けて踏ん張りながら攻撃を受け流している俺は完全に防戦一方になってしまっていた。
(銃形態…は無理、いや、意味が無いか。ってもこのままじゃジリ貧だ)
全身を覆う竜化の鎧の奥で俺は眉間にしわを寄せながら思考を巡らせた。
漆黒の竜の攻撃は今のところそこまで決定打となるものでは無い。当然油断してまともに攻撃を受けたりすればその限りではないだろうが、それでもまだ大丈夫だと考えられる。
俺が漆黒の竜の決定的な攻撃に対して一種の忌避感を抱いているのは、その威力によってHPが全損するという可能性の他に、この日の竜化可能数がゼロになってしまっている現実があったからだ。
曲がりなりにも俺が漆黒の竜とやり合えているのはこの竜化による能力の底上げによるもの。明確な数字として現れるATKやDEFなどのパラメータ以外にもキャラクターとしての自分が通常時よりもあからさまに高い反応速度を出せているのは自覚している。だからなのだろう。俺はおそらく、それが無ければ俺は漆黒の竜が繰り出す攻撃の半分も知覚出来ていないだろう。その予感は漆黒の竜の全身に光の刃が発生して以降より強く実感していた。
「――っ!!」
額に浮かぶ冷や汗を拭うことすら忘れて集中している俺の前で宙に浮かんだまま前転しその先に光の刃がある尻尾を叩きつけてきた。
尻尾の先にある光の刃は実際の武器に当てはめればそこまで大きな武器とはいえない。プレイヤーが持つ武器で例えるならばせいぜい太刀や基本的な両手用の直剣といった所だろうか。仮に大きな武器というならばその翼にある光の刃や両腕の肘にある光の刃がそれに当たる。その場合だと大剣や大太刀なんかになるのだろう。
どちらにしてもこの場合、問題となるのは漆黒の竜の尻尾本体の方。プレイヤーの腕など比べものにならないくらい太いそれは、おおよそプレイヤーが持つような武器種には該当するものはない。だが、それを無理矢理に当てはめるのならば一番近いのは鞭になるだろうか。それでも襲い来るそれの太さは大樹の幹と枝ほどの差があるのだが。
「このっ」
バチンッと地面を強く叩きつける音が響く。
しなり跳ね返るその尻尾が戻る前に俺は剣形態のガン・ブレイズで切り付けた。
血は出ずに代わりに舞ったのは光の粒子。それは漆黒の竜の尻尾の先にある光の刃を形作っていたものだ。
「まずは一つ! んで、こっちも一つか」
尻尾を切り付けたことで消失した光の刃はそれ以上復活する気配はなかった。
だとすれば他の場所も同じはず。そう考えて俺は手が届く範囲の全ての刃を消すことを心に決めた。そうすることがこの戦闘に勝利をもたらす最も適した方法だと考えたからだ。
<パリィ>
相手の攻撃をいなす時の成功率が上昇し反撃に繋がりやすくするスキル≪ガントレット≫にあるアーツであり、MP消費もなく常に自動発動しているアーツが消えた。
これで≪ガントレット≫に残るアーツは残り<ブロウ>という拳打の威力上昇の自動発動のみとなってしまった。このアーツが消えないのは今回の戦闘でガン・ブレイズを使わない攻撃を行っていないからだろう。
その場合、何故<インパクト・ブラスト>等のアーツが消えないのか疑問になるが、消えないことが不満というわけでもなく、寧ろそのお陰で助かっている部分も数多くあるわけで。今のところ消えたアーツは普段使っているもの半分、使わないもの半分というのが現状だった。
幸か不幸か、俺はまだ戦えるだけの手札が残されているというわけだ。
「ダメージもそこまで大きくは無い。まだやれる」
右手のガン・ブレイズを持つ手に力が入る。
同時に半分無意識で魔道手甲を着けた左手でも拳を握っていた。
「来いっ」
俺の言葉が届いたのかどうか分からないが、漆黒の竜はその翼を翻し急降下してきた。
頭を下に、尻尾をピンッと伸ばし上にして向かってくるその様は全身が鏃になっているかのよう。それを見た俺はまず最初に防御することを諦め、回避することに専念した。不格好と言われても良い。そんなことよりも生き残る方が大事だ。
(右!? いや、左か!? ――っ、駄目だ、追いかけてくるのかよ!)
視線や体の向きだけを変えて回避する方向を選択するが、鏃となっている漆黒の竜の先がそれを追うように動いた。
この時になってようやく攻撃態勢をとっていながらも漆黒の竜が自在に動けることを理解したのだ。とはいえ防御してどうにかできるような攻撃で無いことは明らか。その場合俺に残された選択肢ただ一つ、迎撃することだけだった。
「<インパクト・ブラスト>!」
切り付けることは出来そうも無い。それ故にガン・ブレイズを銃形態に変え、直ぐに威力特化の射撃アーツを使う。
どれだけ効果があるのか分からない。けれど、一度はこれで攻撃軌道を逸らすことができたのだ。今回も出来ると信じるしかない。撃ち出された一発の光弾では威力が足りない。だからこそ俺は二回三回、四回五回と繰り返し撃ち続ける。
引き金を引くこと計七回。それだけの攻撃を与えることでようやく鏃の先が漆黒の竜の意図しない方へと向いた。
「うぉおお!」
俺の真横を漆黒の竜が通り過ぎ、直ぐさま急上昇する。
衝撃波が襲い俺の体を吹き飛ばす。ダメージは少なく、あの直撃を受けたときのことを鑑みれば無傷に近いくらいだ。
「<アクセル・ブラスト>!」
奇しくも距離が生まれたことで数回射撃アーツを発動させる。
狙いはその足。光の刃と化した爪。
速度特化というだけあって、漆黒の竜が体勢を整える前にその光の刃となっている爪を砕くことができた。それも鏃の状態を迎撃したときよりも少ない数でだ。
(もしかしてこちらの攻撃の威力は関係ないのか? だとすれば回数の方が大事なのかも……)
浮かんだ可能性を光明にして俺は攻撃を続けた。
もう片方の足の爪を砕けられれば、次いで狙うは腕だ。
手を軽く開いたまま切り裂こうとする漆黒の竜の攻撃をくぐり抜けながら射撃を行い、懐に入れば即座に剣形態へと変えて切り付ける。
その中で俺がダメージを負うことが珍しいわけではない。けれどその分、漆黒の竜の持つ光の刃が砕かれた場所も増えていった。
「やはり……」
この一連の戦闘の最中検証したのは二種の射撃アーツによる差異があるかどうか。
本来ならばあって然るべきだ。なにせ使ったのが威力特化と速度特化という二種なのだ。与えられるダメージに違いがあり、それがこの二つを使い分ける理由なのだから。
しかし、こと今回に限ってしまえばその違いは意味を成していないらしい。
相手にダメージを与えるというよりは相手の武装を破壊する目的のために必要なのは威力ではなく回数のようだ。
検証の結果に納得したその刹那、危惧していた事態が起こった。
<インパクト・ブラスト>と<アクセル・ブラスト>という二種のアーツが眼前に出現し、それにノイズのようなものが走ったのだ。
今、この二つを失うわけにはいかない。例えそれがいくつかある攻撃手段の一つだとしても。
「ん?」
これまでと同じ結果になる。そんな覚悟をした俺を現実が裏切った。良い意味で。
徐々にノイズが酷くなるが何故か二種のアーツが消える気配はない。それはまるでその二種のアーツが何かによって保護されているかのようだった。
「消えないのなら――! <アクセル・ブラスト>」
残すもう片方の腕にある光の刃を砕くために連続して速度特化のアーツを放つ。それにより残るは頭部にある角から生えた光の刃と最初から一番の武器として振るわれていた翼にある光の刃だけ。
だか、こうなるとこのまま速度特化の攻撃を続けて良いかどうかに迷いが生じてしまう。光の刃を破壊することにこの速度特化の攻撃は有効だった。しかし、漆黒の竜を倒すにはそれではいけない、気がする。
眼前に出現し続けているアーツにどれだけノイズが入ろうとも消えないことで現象が収まった。それまでのよう崩れ消えるのではなく、すうっと虚空に吸い込まれるように消えていった。
戦闘のまっただ中にアーツが実際に消えていないかどうかの確認をコンソールで行うことは出来ない。けれど変わらずに<アクセル・ブラスト>が使用出来ている限りは消えてはいないはずだ。
「頭は狙いづらいな」
速度特化の銃弾が空を切る。
漆黒の竜は翼を広げ、さらに全身に光の刃を携えていたために大きく感じるが、実際は頭が小さい。東洋の龍ではなく西洋の竜、それもお伽噺に出てくるようなものではなく、昨今の漫画やアニメによく見られるようなデザインだといえば解りやすいだろうか。
鎧のような鱗も、逞しい両腕も、翼も尻尾も何もかもが洗練されており、それは先程まで対峙していた真紅の竜も同じだった。
正面から突っ込んでくるのを迎撃するのならばまだしも、宙に浮かび時折旋回しながら頭を高く威嚇している状態では正確な狙いを付けることは難しかった。それならばと翼を狙ったが、そこだけは他の場所とは違い速度特化の攻撃では光の刃を砕くことが出来なかった。
弾速の速い<アクセル・ブラスト>だからこそ連続して狙撃することが出来たのだ。通常の弾速しかない威力特化では確実に避けられてしまう。
「さて、どうするか?」
正直ここまでくれば光の刃を破壊して漆黒の竜の攻撃力を削ぐ必要は無いのだろう。つまり漆黒の竜を倒すために行動する時が来たというわけだ。
となれば狙うは勿論必殺の一撃、必殺技となる。
幸いにも俺は竜化時と通常時に使える二種の必殺技がある。真紅の竜を倒したのはその中でも通常時に使える<シフト・ブレイク>という必殺技だった。あの時は考えもしなかったが今にして思い返せばどうやらそれも竜化状態で使えたらしい。それが消えてしまった今どうでもいい話なのだが。
「ま、腹を括るしかないわな」
まともな攻撃を受けていないにもかかわらず、いつの間にか俺のHPも半分近くになっていた。MPの減少はそれよりも多い。あれだけ速度特化や威力特化の射撃アーツを使っていれば当然と言えば当然だ。しかし裏を返せば残る一つの必殺技の威力がかなり高まっているのも同然だった。
「後は何処を狙うか、というよりも外さずに命中させられるかだな」
漆黒の竜といえども生物である限り頭を吹き飛ばしてしまえば勝負は着く。とはいえ必ず命中させられるかどうか正直に言えば自信がない。多少のダメージ覚悟で突っ込んだとしても変わらないだろうことも容易に想像できた。
「確実に当てるためには近づくしかないっ!」
多少のダメージどころか敗北一歩手前までのダメージを覚悟して駆け出した。
そんな俺に引き寄せられるように漆黒の竜はこちらに向かい突撃してきた。
「<アクセル・ブラスト>」
それを牽制のための射撃だと漆黒の竜は判断したのか、俺の攻撃を回避することもなくその翼の刃で切り払いながら進む。
エネルギー状の弾丸はそれにより霧散し消えていくが、俺は構わず走りながら撃ち続けた。
狙いはダメージを与えることでも光の刃を壊すことでも無い。無意味にも思えるアーツの使用を繰り返すことだ。
必殺技の一撃の威力は俺がMPを消費してアーツを放つ度に上がっていく。それでも解る。これではまだ漆黒の竜を倒すには至らないと。
「もっと、もっと、もっと……」
何かに追い立てられるかの如く繰り返し引き金を引く。
漆黒の竜が近寄ってくる羽虫を払うように弾丸を雑にはね除けるとそのまま翼の刃で切り付けてきた。それはプレイヤーが行う剣を横に構えての攻撃のようでもあり、巨大な剣が自ら動き切り付けてくるかのようでもあった。
「まだ、まだ足りない――<アクセル・スラスト>」
光の刃をもつ翼を避けるべく屈み、ガン・ブレイズを剣形態へと変えた。そしてそのまま速度特化の斬撃アーツを放つ。
頭上を通過することで無防備を晒した腹部を切り付ける。
血の代わりの粒子が降り注ぎ、漆黒の竜が苦痛に呻く。
しかし、それでも翼を羽ばたかせ急上昇すると今度こそ俺を倒すべく二度目の急降下を行った。
「迎え撃つは今。勝てるチャンスも今しか無い!」
心に決めた一瞬を逃さないように再びガン・ブレイズを銃形態にする。
そして自分と縦に直線上にいる漆黒の竜に照準を定め、意を決す。
「<ブレイキング・バースト>!!」
狙撃ではなく砲撃。
一瞬浮かんだ光輪の中を通り放たれる極大の閃光が駆け抜け、漆黒の竜が白い閃光に飲み込まれた。
砲撃の反動を抑えるべく両手でガン・ブレイズを持つ俺は<ブレイキング・バースト>が消える最後の一瞬まで閃光の中の漆黒を捉え続ける。
瞬きもせず、ただひたすらに、閃光の果てを見る。
そしてその光が途切れたのは俺の持つ最後の必殺技<ブレイキング・バースト>と漆黒の竜が消えたのと同時だった。
試練回はここまで。次回は試練のリザルト回の予定です。
あれ? それも含めて試練回?
えっと、次回もよろしくです。




