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ep.01 『終わりを告げる訪れ』

今回から新章突入です。


 拠点を手に入れ装備を調えた次の日。俺はキョウコさんと一緒にギルド『黒い梟』のギルドホームへとやってきていた。

 この場には『黒い梟』のギルドメンバーが勢揃いしている。

 昨日も会ったリントとその姉であるアイリ。この二人と共に加入し現ギルドマスターであるボルテック。現実でも友達のハルとその仲間として行動しギルドに加入することになったライラとフーカ。

 それから俺がこのゲームにおいて長い期間パーティを組んでいたヒカルとセッカ、そしてムラマサだ。

 彼らは皆――と言ってもリントは見たことがあるが――装備を一新しているようだった。専用武器も多少の変化が見られ防具も俺が知っているのとは大きく違っている。

 ともあれ高性能であることは間違い無さそうだが。


「それで、何故私まで呼ばれたんです?」


 キャラクターの外見は総じて若いものが多い。現実の年齢に問わずデフォルトがそれなりの若さなのだから仕方ない。年老いて見えるキャラクターを作る場合もあるが、割合としてはやはり若い方が多かった。

 それに加えてリントやアイリのように魔人族、なかでもモンスターハーフと呼ばれるモンスターの特徴を持つ種族を選んでいる人も居る。

 獣人族という動物の特徴を持つ種族でもそう。

 自分の自由に作れるキャラクターだからこそキョウコさんは目の前に座るボルテックにちゃんとした言葉遣いで問い掛けたようだ。


「生憎とそれに答えるのは私じゃ無いのですよ」

「どういうことだ?」


 胡散臭い笑顔で答えたボルテックに俺はつい聞き返していた。


「お二人、いえ。皆さんをお呼びしたのは自分です」


 そう言いながらギルドホームの奥から現れたのは茶色の虎模様をした猫を抱えた子供。聞こえてきたのはこの子供の声なのだろう。

 驚くほど無表情な子供は真っ赤な着物を身に纏い、誰か一人に向けられている訳でもない視線を送っている。


「この子供は誰?」


 と言ったのはハルだった。その様子を見る限りハルも事情は説明されていないらしい。


「ん? ハルも知らないのか」


 念のためにと問い掛けるとハルは静かに頷き、それに続くように他のギルドメンバーも首を縦に振った。


「ってことは事情を知るのはボルテックだけ、なのか?」

「残念ながら私も詳しくは知らないのですよ。何を隠そうこの方に会ったのは私も今朝が初めてでしたので」

「だから、どういうことなんだそれは」


 初めて会ったばかりの子供をギルドホームに招待したというのだろうか。それは俺と一緒に行動しているからという理由だけでキョウコさんにギルドのゲストパスを渡したよりも問題がある気がする。


「というか、私はこの人にゲストパスを渡してはいませんよ」

「は?」

「詳しいことは自分から話しましょう」


 そう言いながら俺たちの中心に降り立ったのは一匹の猫。

 先ほどから聞こえてきた子供の声だと思っていたそれは子供に抱きかかえられていた猫から聞こえてくる。何よりも猫は無表情な子供とは対照的に表情豊かに口を動かしている。そう、それはまるでこの猫が流暢に言葉を発しているかのように。


「自分個人のことは言えませんが、自分の立場を申し上げるのなら、自分はこの世界を運営しているものの一人です」

「運営、だと?」

「はい」


 驚いたのは俺だけじゃない。

 一緒にここに招かれたキョウコさんも、他のギルドメンバーも同様に驚きの表情を浮かべている。


「それで自分がここに来た理由ですが」

「ちょっと待ってくれ」

「何でしょうか?」

「あんたが運営の人ってことはまあ、信じるとしてだ。その子供は一体誰なんです」


 運営の一人と自称する猫は本物だとしても、だ。その人を抱きかかえて現れた子供が何なのか分からない。同じ運営の人なのだろうか。俺にはそうは見えないのだが。


「そうですね。その説明も必要でしょう。ですが、まずは自分の話を聞いて頂きたいのです」


 猫がテーブルに座り真剣な眼差しを向けてくる。

 俺たちは皆が神妙な面持ちで頷き猫が告げる次の言葉を待った。


「では、自分がボルテックさんに頼み貴方がたを集めた理由(ワケ)ですが、単純に貴方がたが自分達が定める基準を満たし、条件をクリアしているプレイヤー、いえ、ギルドだったからです」

「基準って何です?」

「純粋に強さです」

「強さ?」

「はい。このゲーム的に言うのならば、レベルやランク。装備やスキルでしょうか。ここに居る皆さんはその基準を満たして――」

「一つ良いですか?」


 と片手を上げて問い掛けたのはキョウコさんだ。


「私はこの通り初心者です。貴方が言うところの力を有しているユウくんならともかく、私が強さの基準というものを満たしているとは思えないのですが」

「そうですね。未だランクを上げずにレベルのみを上げている私もここに居る仲間達に比べると些か力不足と言わざるを得ないですね」


 キョウコさんに賛同したボルテックが徐に口を開いた。


「なあ、ちょっといいか?」


 声を潜め隣に座っているムラマサに尋ねる。


「何だい?」

「ボルテックが言ってたのは本当なのか?」

「それはランクに関してかな」

「ああ。多分だけどムラマサたちは俺の知る頃よりもランクを上げてるんだろ」

「んー、オレたちにはユウがプレイしていなかった一年という時間があったからね。オレはランク5になっているよ」

「ランク5か。凄いな。他の皆は?」

「んー、それは自分で聞いてみればいいさ。そうだろ」

「そうだな」


 小声で話す俺とムラマサとは別に猫とキョウコさんとボルテックが言葉を交わしていた。

 困ったことに俺は猫たちの話の冒頭を聞き逃してしまい、俺が聞けたのはその締めの一言だけだった。


「――というわけで、貴方達は直接的な力というよりもその資質が大事なのです」

「そ、そう。それなら、まあ、私でもやれそう、かな」

「私も同意しますね」


 何やら納得している二人とどうにか納得して貰えたと安堵している猫がいた。

 人を相手に必死になって説得している猫という奇妙な光景はまだ続く。


「話を続けましょう。他にもいくつかありますが、基準というものの一つが貴方がたの強さだということは納得して貰えたみたいなので、次は条件について話しましょう」

「あ、はい」

「その条件というのは『雨』です」

「雨?」

「はい。皆さん心当たりがあると思いますが、現在噂になっている例の『赤い雨』です」


 赤い雨と言われて思い出すのが昨日のこと。

 俺とキョウコさんは拠点の庭でその雨に打たれたのだ。


「昨日も合わせて7日間。場所は様々ですがどれも等しく時間にして5分間、それがこの赤い雨が降った時間です」

「んー、その雨と貴方の話は繋がっていないように思うんだけどね」

「いえ。この赤い雨を浴びることこそが条件なのです」

「へ? ということは俺たち全員がその雨にうたれたってこと?」

「はい。その通りです」


 至極当然だというように肯定する猫を前に、俺たちは揃って互いの顔を見合わせる。

 日時は違えど皆が同じ体験をしていたことに驚いたが、何よりもそのことに意味があることに対しても驚きだった。


「それで、あんたが言う基準と条件を満たした俺たちを集めて何をしたい――いや、何をさせたいんですか?」


 運営がただのプレイヤーでしかない俺たちを呼び集めた。その事実を踏まえ猫の話を聞いていてどうにも腑に落ちないものがある。

 目的が分からないのだ。

 理由というのもあくまで俺たちだった理由を話しているだけで、そもそも俺たちを集めなければならなくなった理由を話してはいない。

 これからその理由を話すのだとしても猫がそれを後回しにしたこと自体に疑問が残る。


「そうですね。自分達は確かに貴方がたにやって頂きたい事があります。ですが、それは強制でもありませんし、当然断っても構いません。その際貴方がたに不利益が生じないようにするということも約束しましょう」


 すらすらと言葉を並べる猫に俺はますます不信感を募らせていた。

 今、猫が言っていることは全て自分は事前に断っても構わないと前置きをしたという事実を作るという目的だけで並べられたように感じたからだ。

 俺たちに対する配慮ではなく、自分の保身。

 猫という外見に反してこの猫の中にいる人物は存外喰えない性格をしているのかもしれない。


「んー、回りくどい感じがするね。結局あなたは何が言いたいんだい?」


 ムラマサも俺と同じように感じてるのか腕を組み疑いの目で猫を見た。


「貴方がたはこの世界に異常が起きていることに気付いていますか?」


 前置きはしたと言わんばかりに猫が突然問い掛けてきた。

 俺たちは全員が全員思い当たる節は無いと首を横に振るかと思えば、一人だけ。普段ハルと一緒に行動しているプレイヤーであるライラだけが何か考え込むような仕草をみせた。


「何か心当たりがあるみたいですね」


 猫がテーブルの上を歩きライラの前に座る。

 自然と俺たちの視線もそれに続き、全員の注意がライラへと集まった。


「心当たりってわけじゃないのよ。ただ、わたしの知り合いがね、普段狩り場にしているエリアに入れなかった事があったの」

「それは今もですか?」

「いいえ。今は以前と変わらずそのエリアに行けているみたいだけど、ちょっと気になることを言っていたのよね」

「それを伺っても」

「ええ。何でも自分の知るエリアとは何かが違う、だそうよ」

「なるほど」

「何か知っているのかしら?」

「運営ですからね。多少は。ですが――」

「分かっているわ。ただのプレイヤーに話させないってことね」

「はい」


 俯くように頭を下げる猫にライラは何処か微妙な顔をして仕方ないと一息吐いていた。


「ですので、どうです? 皆さん。ただのプレイヤーでは無くなりませんか?」


 頭を上げ振り返りながら猫が告げる。


「どういう意味ですか?」

「言葉通りの意味です。貴方がたにお願いしたいことはまさに彼女が言ったようなことに関係していることなのですよ」


 意味が分からないと戸惑う俺たちに今度こそはっきりと猫が告げる。


「皆さんにはこちら側に来て頂きたいのです」


 こちら側というのは何処なのだろう。そんな風に考えている俺に猫は言葉を続けた。


「ただ、よく考えて頂きたい。こちら側に来ると言うことは遊びの時間が終わるということなのですから」


 猫の言葉の意味が分からない。

 この時抱いた俺の感想はただそれだけだった。




本章からは少しだけゲームという枠組みを超えようかと思っています。

これまでゲームだから出来ないこと、有り得ないことというジレンマが作者の中で生じていましたが、ある意味それを突破するための方法の模索の一つだと思って頂ければいいかと。

ですが、突然異世界に行ったり、チートを手にしたりすることは無いのであしからず。

密かなコンセプトである非チートは変わらないと思うので、チート無双を期待されると困るのですが。

作者の本章のイメージとしてはオンラインゲームにあるストーリーパートでしょうか。ある意味主人公が主人公をすることを目標にこの章からは続いていくと思うのでどうぞよろしくお願いします。


ちょっとは主人公補正を掛けてあげられれば良いのですけど、どうなることやら。

基本は自ら培った力が大事だと思うのですよね。


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