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ガン・ブレイズ-ARMS・ONLINE-  作者: いつみ
第十三章  【revision:2】
320/683

ep.04 『散策』

お待たせしました。今週の更新です。

 夏音(かのん)さん改めキョウコさんの出で立ちは俺にとっては幾分か懐かしいものがあった。

 能力値などまるで無く、加えて言えばデザインも似たり寄ったり。ゲームに慣れ親しんだプレイヤーたちが身に纏っているのがデザイナーズブランドだとすれば、初心者装備はどこにでもあるような既製服。

 ノービスたちが着ているのとも違う。彼らは現実にあるブランドやショップが販売している服装が大半であり、実際のお金を全く使わない所謂(いわゆる)「無課金勢」と呼ばれている人たちであっても一律にどこかの学校や仕事場の制服のような服装の中から好みの物を選ぶことになっている、らしい。尤も俺は未だにノービスも活動できる【リング】へと足を踏み入れたことは無いために噂話の範疇を出ないのだが。


「何? 何か変なとことかあるかしら?」


 小首を傾げるキョウコさんが自分の体を触りながら服や武器を確かめている。


「あ、いえ。別におかしな所は無いですよ。それよりもチュートリアルは終わったんですよね?」

「勿論。武器の使い方からスキルの習得まで一通りねって、ユウくんもやったことがあるんじゃないの? そりゃあ随分と昔の話になると思うけどさ」


 当たり前のように問い掛けてくるキョウコさんに俺は自分が初めてゲームにログインしたときのことを思い出していた。

 あの時の俺はキョウコさんとは違う行動をした。理由も確かにあったが、その結果として俺はチュートリアルを受けることは無かったのだ。だから俺はチュートリアルがどのようなものなのかは知らない。自分も同じようにしたのだろうと言われても返答に困る。だから、


「多分、同じだと思いますけど」


 小さく肯定する俺を変わらずキョウコさんは不思議そうな表情で見てきた。そして続けざまに足下から頭の天辺まで視線を巡らせる。


「けっこう私とは違うのね」

「ん? 何が……って、ああ。これですか」


 腕を組みつつも興味深そうに俺を見ているキョウコさんの視線を追うことで俺はその視線の意味を理解した。


「一年以上休止していたとはいってもこれでも結構やり込んでいましたからね。いくら何でも初期装備と比べられても」

「困る?」

「まあ」


 苦笑混じりに頷く。

 先程自分のステータスを確認してはっきりした。装備がもたらすパラメータ補正は以前よりも大きい。それは武器も同様。これならばおそらくこの先に自分が強化を施した時に上昇する値も変わるはず。


「武器は……それって弓ですか?」


 初期装備のキョウコさんの背に収まっている長弓はこれまた自動生成がされてから一度も人の手が加わっていないまっさらな状態だ。


「そうよ。直接剣を振って戦うよりも安全そうじゃない? って、あれ? どうしたの? そんな微妙そうな顔して」

「あ、いえ、何でも無いです」


 不思議と過去(むかし)の自分を思い出す。

 剣銃という武器種を選んだときに見せたハルの反応が今の俺と似ているような気がする。

 相手を不憫に思うと言えばいいのか、それとも何故最初に相談してくれなかったと憤ればいいのか、どちらにしても何故という疑問符が頭上に浮かぶ。


「知ってるよ。弓とか銃って昔は使えない武器って言われてたんだよね」

「いや、その、使いにくいってだけで使えないってわけでは」

「でも今は違うでしょう」

「そう、ですね」


 自信あり気なキョウコさんが言うように今となっては弓も銃もその他の武器種に比べも遜色の無いものになっているはず。でなければ、一年という長い時間がもたらしたのはより大きな差異かそれとも全てにおける平等化か。


「だから(これ)でいいのよ。それで、これからどうするの?」

「そうですね。キョウコさんはどうしたいですか」

「私? 私としてはユウくんにこの世界をエスコートして欲しいんだけどな」


 エスコート役となればこれまた現在(いま)の俺は過去のハルと同じ立ち位置になったというわけだ。違うのはあの時のハルと俺と今のキョウコさんと俺とでは素の能力に差が生じていることくらい。

 それならばと考える。

 戦いに出ることも悪くない。今の俺ならキョウコさんに適したモンスターを選ぶことも出来るだろうし、少しくらい危なくなったとしても問題なく対処できるだろう。

 けれどそれがキョウコさんが望んでいることかと問われれば、違う気がする。


「だったらまずは町の案内か?」

「うん。それでいいよ」

「声に出てましたか?」

「ばっちり」

「…そうですか。でしたらどうですか? 町に行ってみませんか?」

「いいよ。ユウくんも昔の友達と会いたいだろうからね」

「友達、ですか」

「違うの?」

「そうですね。どちらかと言えば仲間って呼んだ方がいい気がします」


 思い出すのは様々な人の顔。彼らは皆ともに遊んだ仲間たち。それを友達と呼ぶのならばそうなのだろう。けれどやはり俺にとって皆は仲間と呼んだ方が相応しい。


「では、行きましょうか。そうですね。まずは何か食べてみますか? 現実にはないゲームの中だけにある何か、を」

「何かなの?」

「俺の知る町並み通りのままなら露店はたくさんあるはずですから、見て気になったものを買って食べればいいですから」

「でも私、そんなにお金ないよ」

「知ってます。でもここでの俺は現実よりも余裕がありますから。今日の分くらいなら奢りますよ」

「いいの?」

「ですから最初に配られる資金は弓に必要な物を買うことに使いましょう」

「必要な物?」

「弓といえば勿論、矢ですよ」


 そっと手を差し出して歩き出す。

 神殿の門戸を抜けた先に広がるのは懐かしくも新しい町並み。

 活気に溢れ、町を行き交う人の姿は多種多様。現実の姿と変わらぬ人もいれば大きく違う人もいる。

 思えばキョウコさんも人族だ。俺の時とは違い今のキャラクタークリエイトでは種族の選択とその種族時の容姿までも設定できると聞く。

 なればあの多種族入り交じる光景も想像の範疇か……いや、


「面白いですか?」

「そうね。現実には見られない光景ですもの」

「なるほど」


 露店で購入した何かの飲み物が入った瓶を手渡しつつ、その視線の先を追った。

 人、獣、魔。ありとあらゆる顔や体、一部分であり大部分を占める人ならざる部位を持つその姿はこの世界においては通常であり日常。

 平穏な光景を目の当たりにしつつ、俺はここまでの間に口にした食べ物の数々を思い出していた。最初に購入したのは露店で売られている串焼き。何かの動物の肉であることは明らかだが、何の肉なのかまでは分からない。それでも肉とタレが焼かれる音と匂いは多くの人の食指を動かし、その例に漏れず俺とキョウコさんも食べてみることにしたのだ。

 串焼きの味は上々。肉に掛かっているタレも現実の焼き肉のタレを模したもののようでプレイヤーにとっては慣れ親しんだ味というものになっているようだ。

 次に買ったのは大きなチョリソーが挟まったホットドッグ。これも何の肉なのか不明だったが結局買って食べた。そして美味かった。

 その次はドーナツ。さらにその次、と所持金に関してはかなり余裕があることを理由に思うがままに買い食いをしていった。

 幸運なのか不運なのか、ゲームという仮想世界では実際に満腹になることは無い。味や食感、香り等を楽しむ、ある意味では本当の食い道楽に長い時間を使ってしまっていたというわけだ。

 自分の行動に自嘲気味な笑いが零れてくる。

 一口、瓶に口をつける。爽やかな花の香りが鼻腔を突き抜けた。


「あ、美味しい」


 町の道路脇に置かれたベンチに座りそう呟くキョウコさんを前に、俺は僅かに顔を顰めた。

 ハーブティーが嫌いだという自覚は無かったが、この匂いと味は些か苦手のようだ。


「この後は武器屋に行ってみましょう」

「矢を買うのよね」

「ええ。ですがプレイヤーの店ではなくNPCの店になると思いますが」

「そうなの?」

「まあ、品質が一定なのは確約されてますし、最初ならそっちの方が安く済みます。それに矢ならそれなりの数を買わないといけませんから」


 仮想だと、本物の飲み物ではないと割り切り無理矢理に飲み干し、キョウコさんが先に飲み干して空になっていた瓶を受け取り自分の分の瓶と共に近くのゴミ箱へと捨てる。

 この町にある武器屋の数は多い。それはプレイヤーが開いている店の他にも多くのNPCの店がある。プレイヤーたちはその中から自分の好みに合う、あるいは自分の武器に適した店を選ぶことができるようになっている。それは今も昔も変わらない。

 弓が得意な店は剣が得意な店とはなり得ない。現実ならばそうだろう。しかし、ここならばスキルさえあればある程度までなら武器を作り出すことはできる。そこから先は各々の資質と持ち得る素材が物を言う。結果として各店舗によって得意不得意が現れるのだ。

 だが、NPCにはそれがない。

 良くも悪くも全てにおいて一定なのだ。あとは精々値段に違いがある程度。しかしそれもほんの僅かな差でしかなく、どこで買っても一緒というのが俺がプレイしていた時からの常識なのだ。


「この近くにもNPCの武器屋はあったはずです。そこに入ってみましょう」


 そうして俺たちは路地に並ぶ店舗の中にある武器屋へと入っていく。

 ファンタジー系のゲームにありがちな盾と剣が描かれた看板が武器屋の証。それを探すことで割と簡単に目的の店舗を見つけ出すことができた。

 ドアを開け店舗の中へと入っていく。

 昼だというのに薄暗い店の壁には所狭しと剣や槍、斧や弦の張られていない弓が飾られ、小さなナイフなんかは纏めて横の棚に置かれている。


「…らっしゃい」


 俺の腰ほどの高さの棚から頭だけが覗く。

 彫りが深く、たっぷりと髭が蓄えられている小柄な男。


「ドワーフ?」


 と声に出したのはキョウコさん。

 俺としても初めて見た。どうやらこの一年の間に追加された種族というよりは種族の中の一つのようだ。


「あん? なんか文句あんのか」

「いえ」

「それよりも矢を見せて貰えませんか?」

「矢、だと?」

「俺のではなく、彼女の分なんですけど」

「ほぅ」


 ドワーフが俺の腰のホルダーの中にあるガン・ブレイズを一瞥し、次いでキョウコさんが背負う弓を見た。


「確かにお前さんのソレに儂の武器は必要ないらしい」

「悪いな」

「構わんさ。元々儂の客層とお前さんはあっておらん」

「…みたいですね」


 さっと店の中を見渡した限り、出来が良いのは剣などでは無く弓ばかり。NPCの作る武器に出来の善し悪しなどないとばかり思っていたが、どうやら違ったらしい。

 いつからそうなったのだろうと疑問に感じれば、それは俺がプレイしていない間だと答えるしかない。


「矢はその棚だ」


 ドワーフが指差す先には綺麗なガラスのショーケースがあり、そこには規則正しく並ぶ無数の矢がある。

 鏃も矢羽根も特徴的なものから、尤も一般的なシンプルな形をしたものまで。多種多様、ありとあらゆる矢がそこにあった。


「どれを選べばいいのかしら?」

「えっと、今更ですが俺は弓に対してあまり詳しくないんです。これまでも殆ど扱ってはいませんから。ですから好きなようにというのが本音なんですけど、まあ、最初ですしクセのないものを選べばいいんじゃないかと」

「それなら儂が選んでやろうか」

「ドワーフさんがですか?」

「ドワーフじゃない。ガンゾだ」

「えっと、それじゃガンゾさん。頼めますか?」

「任せろ。その嬢ちゃんの弓に合う矢を選んでやる。ほら」

「え?」

「一度じっくりとお嬢ちゃんの弓を見せてみろ。話はそれからだ」

「わかりました」


 背負っていた弓を下ろしガンゾへと手渡す。そしてそのままガンゾはカウンターの横にある簡素な作業机の上に置く。

 ガンゾがまじまじと弓を見定めるその横で俺もキョウコさんの弓を観察する。

 武器に対し多少の心得があるからこそキョウコさんの弓の性能の予測ができる。最初期の専用武器であるこの弓は一見すると何の変哲も無いように思える。しかし、俺のガン・ブレイズに魔力銃といった特性があったように、何らかの付加効果があってもおかしくはない。


「ふむふむ。これならそこの矢だな」

「え!? もう分かったんですか?」

「当たり前だ。儂が何年この仕事をしていると思ってる」


 NPCが口にする何年という言葉に実際の年月の重さなどない、そんな風に思っていたわけではないとしても実際にその様子を目にしてしまうと、なんとも言い難い。


「これですか?」


 ガンゾが棚から出してきた矢をまじまじと眺めるキョウコさんに混ざり俺も件の矢を見つめた。


「なんて言うか、普通ですね。せいぜい命中精度に補正が加わる程度みたいですし」

「ほぅ、よく分かってるじゃないか。そのお嬢ちゃんの弓は新品も新品、誰の手も加わってはおらん、そうだろ」

「ええ」

「まあ、始めたばかりですから」

「だからこそ、この矢なんだ。まぁ使ってみて思うことがあればまた来れば良い」

「わかりました。ではこの矢を四十本頂けますか?」

「なにぃ!?」

「いや、これからキョウコさんの弓の練習に少しばかり戦ってみようと思いまして」

「む、むぅ、それなら後でまた儂のとこに来い。いいな」

「分かりました」

「そこの嬢ちゃんもだ」

「はい」


 差し出された矢をそのまま購入し、俺たちはガンゾの店を後にする。

 先程、店の中で話したように戦ってみるためだ。その前に、俺は買い忘れたポーション類を買うために手頃な店を探し歩く。

 そして暫く歩いた後、見つけた一つの店舗。そこに掲げられた看板にはフラスコとビーカーという薬品類を示す絵。


「ん?」


 不意に内側から扉が開く。

 そして、


「良かった、やっと見つけたッス。探してたッスよ、ユウさん」


 一人の男が姿を現わしたのだ。


「えっと、誰?」


 知らない顔をした男が。




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[気になる点] 魔道手甲の時にチュートリアル受けてるので どのようなものか知らないは違うと思います
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