秘鍵が封じるモノ ♯.16『鼓舞』
お待たせしました。今週分の更新です。
ほんと台風は嫌です。強い雨も、強い風も。
何事も程々がいいですね。雨も風も。
倒しても倒してもキリがないとしても俺たちはパペット・キング以外のパペットモンスターを倒し続けた。
残念なことにどれだけ倒しても現時点で手に入るものは何一つないのだが、それでも倒さないという選択肢は俺たちにはない。倒さなければ圧倒的に数が劣る俺たちはいとも容易くその波に飲まれてしまうのだから。
各々の武器を振るい、それぞれが習得したスキルやアーツを駆使し戦っている仲間たちはまさに一騎当千の猛者を彷彿とさせる活躍を見せていた。
勿論、戦っているパペットモンスターが単体では弱いということもその光景を作り出す一つの要因となっていることは言わずもがな。だがやはり自分たちの力が上がっていることのほうが大きな理由である気がして、俺は一人、久々に目の当たりにしたギルドメンバーたちの奮闘ぶりに感心していたのだった。
「<アクセル・スラスト>」
目の前のパペット・ポーンを貫くべく、速度特化の斬撃アーツを発動させる。
ガン・ブレイズの刃に貫かれ弾け消えるパペット・ポーンを一瞥し、俺はすかさず範囲攻撃のアーツ<サークル・スラスト>を発動させた。
二回分のアーツ発動によって定められたMPが消費する。竜化している状態で消費したMPはこの状態ではければ発動できない必殺技の威力として加算されるために無駄にはならない。そう思いはしても、結局復活してくるパペットモンスターを相手にしていては些か徒労感が拭えない。
「また復活するのか……」
目の前のパペットモンスターが目に見えて減った矢先パペット・キングが杖を掲げるとまたしても一瞬にして復活した。
「チィッ、面倒クセェなッ」
「アラド無事か? ――って聞くまでもないみたいだな」
「あア? ンな雑魚相手にダメージ負うわけねェだろうが」
「頼もしいな」
表情を覆い隠す竜の頭の奥でアラドが呆れたように言い放ち、仮面のような兜の奥で俺も笑って見せた。
「他の皆も無事みたいだけど、MPはそれなりに消耗している、か」
視界の端に浮かぶギルドメンバーたちの簡易HPバーとMPバーに視線を送り呟く。
HPが大きく減っている人はいない代わりにMPだけは皆似たような割合で減っている。これは自分たちが攻撃を受ける前にアーツを発動させてパペットモンスターを倒そうとしていたからに他ならない。
これが普通の戦闘、普通のボス戦ならばそれでも問題ない。むしろ当然の選択肢であり戦術のように思える。
だが、今回は違う。
相手は一定の数以下になる度に王によって蘇生される無限の軍隊なのだ。だからHPもMPも一ポイントたりとも無駄には出来ない。
「オマエじゃねェンだから問題ねェだろ」
少しばかり呆れたように言い放ったアラドに俺は頷いた。
竜化した俺たちが持つ数少ないデメリットの一つ。アイテムの使用不可。以前の出来事で多少なりとも緩和されたアラドとは違い、俺は今もなお使用不可の制約が続いている。
それでも、と俺は攻撃の手を緩めない。勿論アーツを使っての攻撃だ。
瞬く間に屠られていく蘇生したパペットモンスターに若干辟易しながらも隣に立つアラドにも視線を送る。
荒れ狂う竜のような戦い方をすることすらあるアラドだが、今の戦い方は冷静そのもの。獣のように爪を振るい、長い尻尾を鞭のように撓らせ近くに居るパペットモンスターを葬っていってもなお、俺が受けた印象は冷静だった。
「全員聞けっ!」
激しい戦闘音をかき消すような声が響く。
凜としたムラマサの声に続き天に向かって伸びた氷の柱が一瞬の静寂を作りだした。
「一旦引いて体制を整えるべきだ。この柱を目印に集まってくれ!」
負けているわけじゃない。ただ、勝てていないだけ。
しかし、この状況がいつまでも続くかと問われればそうじゃないと答えるだろう。
ならば何かしらの打開策を講じるべきだが、それにはこの場にいる仲間たちと話す必要がある。誰かが何かを思いついたとしてもそれを伝えなければ意味は無いのだ。
「行くぞ」
「いいのか? アラドなら一人でも強引に戦うって言いそうな気がしたんだけど」
「今やってンのはソロじゃねェだろうが」
「ま、それもそうだな」
短く言葉を交わし、近くのパペットモンスターを倒しながら氷の柱がある場所を目指す。
広いとはいえど元々湖が大半を占めるこの戦場では氷の柱には容易く辿り着くことが出来る。実際俺とアラドは五分と経たずに柱の元へと辿り着いていた。
「来たね」
「ムラマサたちも無事みたいだな」
「……ん。無事」
「でも、何度も復活されるのは面倒です」
などと話していると俺とアラドから少しだけ遅れて他のメンバーが集合してきた。
「戦い方を変える必要があるみたいだな」
とハルが真っ先に言うと、
「でも俺たちは王さまと戦えるほど強くないッスよ」
リントがストレージから取り出したポーションを使用しながら答えた。
「解っているとも」
頷くムラマサが言うようにここ最近リント、アイリ、ボルテックの三人にはギルドの運営を任せていた。特にボルテックが乗り気だったことに加え、それを手伝うと申し出ていたアイリがリアルで忙しくなったということもあってそれに付き合うリントもログインしていない時間が増えていたのだが、久しぶりにイベントに参加出来るということで今回のイベントではオルクス大陸での秘鍵の捜索をお願いしたのだ。
そして塔内で起こった特殊ボスモンスターとの戦闘というイベント内の戦闘にも参加してくれるということになったわけだが、積極的にゲームをプレイしていた俺たちとは多少のレベルの差が生じてきていた。
俺はそれに関してはギルドマスターとしても同じパーティとしても何も言うつもりはなく、それはそれぞれが自分のペースでゲームを遊べば良いと思っているからだ。
特殊ボスモンスターのレベルを参照にしたこちら側の最大レベルのプレイヤーがボルテックになったのもランクを上げること無くレベルがリセットされていなかったからこそ。
「だからこそパーティを組み直そうと思う」
そう言ったムラマサは二振りの刀をを使い近づいて来るパペットモンスターを氷を使ってなぎ払った。
総数十一人ものプレイヤーを囲むように現われた氷はパペットモンスターをなぎ払う役割を果たすと一瞬で砕け散り、消えた。
「まずユウとアラドは引き続きパーティを組んで欲しい。けど蘇生することも出来るパペット・キングだ。回復手段を持っていないとは限らないだろう。回復魔法を使えるセッカも一緒に行ってくれ。セッカの護衛も誰かに頼みたいんだけど……」
「それなら俺が」
手を上げたハルだ。
「分かった。セッカもそれで良いかい?」
「……ん。問題ない」
「次にボルテック、リント、アイリにはオレと一緒にパペット・キング以外のモンスターを倒そう」
「了解ッス」
三人を代表して承諾したリントにムラマサは頷くと、
「残りの三人もオレたちと同じように露払いだ」
「良いわよ」
「任せてくださいっ」
ムラマサの提案をライラとヒカルはすんなりと受け入れていた。
素早く立ち位置を変え四つから三つのパーティへとなった俺たちは再びパペットモンスターへと向き直った。
「さあ、仕切り直しだ」
俺とアラド以外の九人はそれぞれポーションを使いHPとMPを回復させる。
「後ろは気にするな。オレたちが辿り着くべき場所は前だけだ」
全員を鼓舞するようにムラマサが叫ぶ。
「ユウとアラド、それとセッカとハルはオレたちのことは気にするな。王へと続くまでの道はオレたちが作り出そう!」
ざっと俺たちより前に出たムラマサに続くように、他の六人も続く。
「いいか! オレたちの役割は四人が万全の状態で王と戦えるようにすること。そのためにもオレたちは誰一人として死んではならない」
静かに、そして深く六人が頷く。
「では、行くぞ!」
ムラマサの一言を切っ掛けに目の前のパペットモンスターに攻撃が放たれた。




