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三つ巴の争奪戦 ♯.32『討伐』

お待たせしました。今週分の更新です。

 上空を悠々と飛び回るヴェノム・キメラ・ヴァンパイアの頭上に浮かぶHPバーの異変を端的に言い表すのならばHPバーの増加だろうか。

 勿論その現象の全てを刺した言葉ではない。

 表面的な変化はHPバーに纏わり付く鎖。それがヴェノム・キメラ・ヴァンパイアのHPバーを保護しているかのようだった。

 俺が放った強化された銃撃アーツ<インパクト・ブラスト・バースト>が命中したその時、俺が抱いた

直感が正しいものだったと知った。

 それまでは僅かながらも正しくダメージを与えていた攻撃がHPを減らすことなく、その代わりにHPバーに巻き付いていた鎖の端を削ったのだ。

 火花を撒き散らしながらも削れた鎖の欠片は実体化すること無く消えた。


「先に鎖を壊さないとこれ以上はダメージを与えることは出来なさそうだな」

『そうなんですか?』

「ああ、多分な」

『えぇ!? 多分なんですか』

「何だ、気になるのか」

『別にそういう訳じゃないんですけど……』

「だったら気にするな。こういう変化は大抵は似た感じになるんだよ」

『似た感じ、ですか?』


 傍から見れば独り言を繰り返しているかのように喋る俺は頭の中に聞こえてくるフラッフの声に応える。


「まあな。多分だが、HPバーに重なる鎖はあの空飛ぶ蛇のような姿になったことで現れた変化の一つだろうさ」

『ということは他にも変化があると』

「どうだかな。外見以外はまだ解らんさ」


 正直なところ、それが今の俺の本心だった。

 空飛ぶ蛇となった毒の吸血候に攻撃をしてみてもHPバーに巻き付いている鎖を僅かに削っただけに終わり、それに加えて不自然なことに反撃してくるような素振りもない。

 視線の先にいるヴェノム・キメラ・ヴァンパイアは地面にいる俺たちを狩りの獲物のように品定めしているかのようにすら見えた。


「それならば、とりあえずはあの鎖を破壊することから始めようか」


 自分と頭の中にするフラッフに言い聞かすように呟くと俺はガン・ブレイズをヴェノム・キメラ・ヴァンパイアに向けた。

 先ほど鎖を削った一撃を鑑みるにアレを削るには生半可な攻撃では意味を成さない。それこそ強化された攻撃用のアーツくらいでなければだ。


『どうするんですか?』

「実際このままアーツを使い続けるのも限界がある。時間的にもMP的にもな」

『ですよね』

「だからこそ回復したかったんだけど、まあ、いい。出来ないとなれば他の方法を模索するだけだ。それに……」

『それに?』

「俺の仲間が手を拱いて待っているだけだと思うか?」

『なるほど』


 アーツを使わなくとも俺が使う銃撃はMPを消費する。

 だとすれば当然のようにMPを消費しない戦い方に切り替えるべきなのだが、生憎と剣形態ではヴェノム・キメラ・ヴァンパイアに対して有効なダメージを与えられる気がしない。というよりもあの高度に到達する方法が解らない。

 俺はムラマサのように風を操り身軽に振る舞うことも、アラドのように尻尾を使い跳び回ることもできない。それはシシガミも同じなのだろうが、彼ならば自力でどうとでもしてしまうだろう。

 実際この予想は正しく的中し、俺が見ている先でアラドが自身の尾を華麗に操り目を見張る跳躍を見せた。

 黒光りするゴムのような体をしたヴェノム・キメラ・ヴァンパイアにアラドは竜化した両手の爪を突き立てる。そして、その行動を見透かしていたかのようにムラマサが風を伴う斬撃をヴェノム・キメラ・ヴァンパイアの頭や背にある翼に向けた。

 羽毛を有する鳥とは違い、皮膜で風を受ける蝙蝠のような翼はムラマサの放った斬撃を受けても羽根を撒き散らすことは無い。攻撃の威力の方が高ければ両断できたのかもしれないが、残念なことにヴェノム・キメラ・ヴァンパイアの翼は健在。

 幸いだったのはHPバーに巻き付いている鎖の一部が削れたことだろうか。


「二人でも大きなダメージは与えられないのか」


 驚き半分、納得半分に呟いた。

 予想していなかったと言えば嘘になる。だが変わらずヴェノム・キメラ・ヴァンパイアは反撃の素振りを見せない。

 納得できいないという表情を浮かべながら刀を抜いたままムラマサが近付いてきた。


「ユウも手を貸してくれないかな?」

「分かってる。けどな、いまいち良い手が浮かばないんだよ。このままじゃ無駄に攻撃することになりそうでさ。それだとMPが心許ない」

「んー、アラドは平気そうだけど?」

『アラド様はMPを消費する攻撃を使っていませんので問題無いかと』

「どういう意味だ?」

『マスターのアイテム使用制限が解除されていないように、アラド様のアーツの使用制限は解除されていないはずです』

「なるほどな。ムラマサ、どうやらそういう訳らしいぞ」

「んー、残念だけどオレにフラッフの声は聞こえないんだ」


 困ったように肩を竦め言うムラマサに俺はたった今フラッフから聞いた話をそのまま伝えた。


「なるほどね。つまりユウは本気で戦うことが出来ない、と」

「正確には回数が制限されているってだけで、こっちなら問題無いさ」


 慣れた手付きでガン・ブレイズを剣形態にして軽く掲げて見せる。


「まあ、届かないってのが問題と言えば問題なんだけど」

「んー、だったら足場を作れば良いんじゃないかな」

「足場?」

「そう。アラドのように跳び回ることも、シシガミのように無理矢理手を届かせるようなことも、リンドウたちのように魔法を放つこともできないのならば、それしか方法はないだろうさ。幸いここには無数の石が転がっていることだしね」


 そう言いながらムラマサが刀の先で指したのは三十センチ以上に大きさを残した砕けた地面の欠片。

 確かにそれを用いれば足場にすることもできないことでは無いのだろうが、そもそもどうやってそれを空中で停止させるというのだろうか。


「どうやってこんなのを使うんだよ?」

「んー、誤解しているみたいだけど、別にこの石を使うわけじゃないさ。簡単に言えば強引に足場を作ってしまおうっていう話さ」

「足場を……」

『作る?』


 ムラマサに聞こえていないにもかかわらずフラッフは俺の頭の中で俺の言葉を続けた。


「どうやって?」

『どうやってですか?』

「簡単さ。先程の戦闘で地面が砕けこれだけの石が転がっているのならば、先程とは違う威力の攻撃を地面に向かって放てばいい。こういう風にね――」


 刀を地面に突き刺し、そこから緑色をした風が天高く巻き上がる。

 一瞬、ヴェノム・キメラ・ヴァンパイアがこちらを見た気がするが、そこは当然のように隙を見つけたアラドがその竜爪を振り下ろし攻撃を繰り出していた。


「<鬼術(きじゅつ)緑旋華(りょくせんか)>。本来は辺り一面の敵を吹き飛ばす範囲攻撃のアーツだけどね、使い方を変えればこの通りさ」


 地面から刀を抜き、刀身に付いた土埃を払うかの如く振るとムラマサは自慢げに告げた。


「どうだい? これなら剣を使っても何とか届きそうじゃないかな?」

「あ、ああ。そうだな」

『わー、すごいですー』


 どこかの渓谷のように見事に隆起した地面は広く、俺たちを囲む形で闘技場を形作っていた。

 突如出現した舞台に驚いた素振りを見せることなく戦っているアラドやシシガミに反して僅かながらも驚愕の表情を浮かべるリンドウたちがいた。


『もしかして、何も言わずに使ったんでしょうか?』

「あー、多分そうじゃないか。そう言うところ意外とアバウトだし」

「ん? 何か言ったかい?」


 自身の足で隆起した地面を踏み、その強度を確かめていたムラマサが振り返る。


「何でもない。それよりも…折角の足場だ有難く使わせて貰うよ」

「ん。好きに使ってくれて構わないさ」


 心許なくなってきたMPを節約できるとなればなにより。戦闘中にその方法を問う必要はない。


「では、オレは先に行くよ」


 またしても風を纏い颯爽と隆起した地面を駆け上っていくムラマサを見送る。

 見れば驚きから脱したリンドウたちも魔法による攻撃を再開しているようだ。


「じゃあ、俺も行くか」

『その前に一ついいですか?』

「何だ?」

『もう一つお伝えしておくことがありまして』


 ムラマサのように隆起した地面を駆けあがるべく手頃な道筋を探している最中、自分の意思とは関係なくコンソールが出現した。


「フラッフが呼び出したのか?」

『見て欲しいのはこの<必殺技(エスペシャル・アーツ)>の項目です』


 フラッフに促されコンソールに視線を落とすとそこには竜化する前に使用できる必殺技と竜化後に使える必殺技が並んでいた。

 竜化後に使える必殺技が<バースト・ブレイク>から<ブレイキング・バースト>に変化しているのはフラッフがクロスケやノワルと同化した時に現れた画面で確認した時に把握済みだ。


「これがどうかしたのか?」

『分かりませんか? 今のマスターなら竜化前の必殺技も使えるんですよ』

「は?」


 思わず自分の前にある画面に注目してしまう。

 フラッフに言われたように、以前は灰色になって使用不可を示されていたそれが今は白く明るい文字になっていた。


『発動方法も効果も変わらないはずです。基本的に一回の発動しかできませんが、それでも今のマスターなら』

「ああ。MPの消費を気にしないで使えるこれは有り難い。助かるよ」


 無論、この一回の必殺技でヴェノム・キメラ・ヴァンパイアを倒すことが出来るとまではいわない。それでも通常のアーツより強力なそれが全くの無意味というはずがなかった。

 ガン・ブレイズの引き金に指をかけ<チャージ・リロード>を発動させる。このアーツは同じMPを消費させるにしても攻撃アーツの発動に比べて数回分の差が生まれる。通常時の必殺技が使えるとなればこの数回分の差は決して無視できる数字ではないはずだ。


「みんなの攻撃は効いている。けど、俺たちの中でもより強力な攻撃力を持つシシガミの攻撃があまり届いていないのが問題か。となれば……」


 急いでシシガミを探す。

 十秒にも満たない時間の中で見つけたシシガミは空にいるヴェノム・キメラ・ヴァンパイアに向かいその肥大した拳を突き出そうと身構えた瞬間だった。


「シシガミィッ! そのまま動くなッ!」


 咄嗟に叫んだ俺の声に目を丸くしたリンドウたちの前でシシガミが唸りを上げてこちらを見た――気がした。


「俺たちがヴェノム・キメラ・ヴァンパイアを叩き落とす! だからシシガミは地面に落ちたアイツに全力の攻撃を頼むッ!」


 俺の声が届いたのか、シシガミは攻撃しようとしていた拳を再び下げ、突進前の猪の如くその手と足で強く大地を掴み力を溜める。


「アラド! ムラマサ! 聞こえてるよな。俺にタイミングを合わせてくれ」


 隆起した地面を駆け上がりながら叫ぶ。

 言葉による返事は無かったが、纏う雰囲気に僅かな変化が現れた。ムラマサは纏う風の勢いが増し、アラドは両手を覆う影の色が濃くなった。


「<チャージ・リロード>……<チャージ・リロード>………<チャージ・リロード>」


 徐々に延びていくリキャストタイムを的確に捉えながらアーツを唱え、放つ必殺技の威力を蓄積していく。

 上空にいるヴェノム・キメラ・ヴァンパイアはそのHPバーに巻き付いている鎖が削られていく毎に素早い動作を取り戻していった。それでもプレイヤーの機動には未だ対応しきれていないのか無防備を晒している瞬間も少なくないみたいだが、時折その巨体をくねらせるような動きや全身を使った突進などを繰り出すようになっていた。


 偶然なのか必然なのか、跳び回り攻撃を繰り出す二人はムラマサが作り出した舞台を足場に使っている。

 ヴェノム・キメラ・ヴァンパイアは突進を受け流されたことで隆起した地面に激突し折角の舞台を破壊することがあっても、舞台はその役割を維持し続けていた。


「来るぞっ」


 隆起した地面から地面に飛び移りながら徐々に高度を上げていく最中ムラマサが叫ぶ。

 するとそこには大口を開けて突っ込んでくるヴェノム・キメラ・ヴァンパイアの姿があった。

 人一人軽く飲み込んでしまうほどの大口には普通の蛇とは違う形で牙が生えていた。小さな歯は無数。見るからに毒液が滴る大きな牙は重なるように二つづつ、上下に生え揃っている。


『危ないですよ、マスター。回避を』

「いや、好都合だ」

『えぇ!?』

「今のアイツの軌道は解りやすく直線。これなら外さないッ」


 ガン・ブレイズを握る手に力が入る。

 俺はヴェノム・キメラ・ヴァンパイアの正面になる場所で止まり、腰を低く構えた。

 巨大な口、巨大な牙が迫る。だが、不思議とこの時の俺に恐怖は無かった。

 見据えるのは一点、前のみ。


「――ッ!」


 風を切る音が止んだその刹那、ヴェノム・キメラ・ヴァンパイアに飲み込まれ俺が立っていた地面が消えた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「捉えたっ。<極鬼術(きわみきじゅつ)千華裂閃(せんかれっせん)>!」


 ガラガラと崩れ、黙々と立ち込める土埃の中にあるヴェノム・キメラ・ヴァンパイアの体をムラマサが放つ無数の風の刃が斬り裂いていく。

 風の煽られ土埃が消え現れたヴェノム・キメラ・ヴァンパイアの体にはいくつもの斬撃の痕がいくつも残されている。

 HPバーに巻き付いている鎖もこの斬撃で大きく削られ、元のHPバーがより広く剥き出しになっていた。


「ここまで、か」


 小さく呟くとムラマサの額にあった一本角が砕け消えた。それに伴い、全身を覆っていた風も消えているみたいだった。

 重力に従い落下するムラマサに代わるようにヴェノム・キメラ・ヴァンパイアに飛び掛かるのは竜化したアラド。

 風の刃のダメージから復帰したヴェノム・キメラ・ヴァンパイアは体にある六翼を使って強引に体を曲げ、牙を剥けた。


「遅せェンだよッ!」


 空中で体を回し、その背にある尾を使いヴェノム・キメラ・ヴァンパイアの顔を打ち払う。

 ゴォンっと大きな鐘を打ち付けた時のような音がした後、その頭が空を向いた。

 無理矢理仰向けにさせられながらも明確な敵意には敏感なのか、鼠の尾を併せ持つその尻尾をアラドへと振り回す。

 どれだけ細い鼠の尾のようだと言っても元々の体が巨大となれば自然とその尾も巨大になる。

 プレイヤーの一人くらい軽く振り払えるサイズがあるその尾の一撃をアラドは一瞬だけ尻尾を掴むことで跳び箱のようにして器用に避けたのだ。


「――チィッ」


 攻撃を回避したのは見事と言えても、その逃げた方向が悪かったのか、ムラマサの必殺技によって地上に追い込んでいたヴェノム・キメラ・ヴァンパイアは登り竜の如く空へと飛び立った。

 巻き起こる風は自身を守る天然の障壁にもなり得る。

 このまま空高く逃げられれば作戦が水泡に帰すだろう。

 ムラマサの鬼化(きか)が解けてしまったのは痛手だが、作戦を立てなおすしかないかと誰もが危惧したその刹那、アラドが獣のような咆哮を上げた。


「逃がすかァァァァッッ!!」


 一段と肥大した影を纏う竜の手で空へと逃げるヴェノム・キメラ・ヴァンパイアの尻尾の端を掴む。

 そこから強引にヴェノム・キメラ・ヴァンパイアを引き寄せるとほんの僅かな抵抗を示した後、空を泳ぐ巨大な蛇の体が下の方へと引き摺られ始めた。


キシャアァァァァァァァッァァァ!!!!!!!!!!


 獣のようであり蛇のようでもあるヴェノム・キメラ・ヴァンパイアの絶叫が響き渡る。

 それはまるで無理矢理死地に招き入れられた哀れな存在が漏らす叫びのようだ。


「ハッ、落してやンぜ、デカヘビィ!」


 その存在を嘲笑うように告げるアラドは誰の目からも圧倒的優位に立つ捕食者のように映っていたことだろう。ヴェノム・キメラ・ヴァンパイアがこれまで自分たちを追い込んできた毒の吸血候のそのものだというのに。

 竜の手は逃げるヴェノム・キメラ・ヴァンパイアを捕えている。それでもどうにか逃げ出すべくして、空中で体をくねらせアラドを振り払おうとするヴェノム・キメラ・ヴァンパイアにアラドは敢えて逆らわず手を放した。

 突如自由になり込めていた自身の力を制御しきれず無秩序に宙を舞うヴェノム・キメラ・ヴァンパイアの上でアラドはその竜と化した顔で笑ってみせた。

 まるでその行動の全てが予想通りだと言わんばかりに。


「<デモリッシュ・オーバー・ジ・エンド>」


 より暗く、より深く、色を変えた影の竜爪がヴェノム・キメラ・ヴァンパイアの背に突き刺さる。

 そして次の瞬間に起きたのは漆黒の波紋を伴う絶大な衝撃波。

 背中のアラドを起点とし尾の先から鼻の先に至るまで、ヴェノム・キメラ・ヴァンパイアの全てを飲み込む衝撃は繰り返し繰り返し、その全てを破壊するまで続く。

 一度の衝撃波を受ける度にヴェノム・キメラ・ヴァンパイアのHPバーに巻き付いている鎖が砕けていく。


 連続する衝撃波が途絶え、暫し訪れた静寂もヴェノム・キメラ・ヴァンパイアの絶叫が打ち破った。


「チィ、やっぱ足りねェか」


 おそらくそんな予感があったのだろう。竜化してから与えたダメージによって威力を増していくアラドの必殺技<デモリッシュ・オーバー>も<デモリッシュ・オーバー・ジ・エンド>へと進化を果たしたとはいえその本質は変わらない。

 与えたダメージというのはそのまま減らした相手のHPと同義であり、通常のレイドボスモンスターのように一体で複数のHPバーを有しているならまだしも、毒の吸血候は僅かに一本。その一本の総量が他のモンスターよりも多いかもしれないとはいえ、今は巻き付いている鎖によってHPにダメージを与えることは叶わない状況にある。

 どれだけ攻撃を加えようとも威力を増加させることが出来ない技でヴェノム・キメラ・ヴァンパイアを倒しきることが出来ないのは当然とも言えた。


「だが……」


 とアラドは目を細める。

 威力が足りないのは百も承知。それでもこのタイミングで必殺技を使用したのは共に戦う仲間の声を信じたから。

 自分の後に続くものがあると、知っているからだ。

 落下するヴェノム・キメラ・ヴァンパイアを追い越し一つの影が跳び上がった。

 巨体を誇るヴェノム・キメラ・ヴァンパイアに比べれば小さく、細いその影を見紛う人はこの場にはいない。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 剣形態のガン・ブレイズを構え隆起した地面を駆け上がっていく俺の眼下にいるヴェノム・キメラ・ヴァンパイアは全身から黒い煙を立ち上がらせてせている。


『はー、びっくりしましたー』


 頭の中に呑気な声がする。


「あんな攻撃、当たるわけないの知ってるだろ?」

『それはそうですけど、びっくりしたものはびっくりしたんですよ』

「まあ、いいけどさ」

『それにしても、さっきのムラマサ様とアラド様の攻撃で倒したと思ったんですけどねー』

「いや、それは無茶だろ」


 いくら必殺技だとしてもHPバーに巻き付いている鎖がある状態で倒しきれるわけが無い。それはムラマサやアラドだけは無しではなく俺自身にも言えることだ。

 一人では、一発だけでは足りないからこそ、連続して攻撃することを選んだのだ。


「けど、二人のお陰で鎖は殆ど消えた。残る鎖は俺が消す!」


 一際、反り立っている隆起の一つを駆け上り、跳ぶ。

 眼下で蠢くヴェノム・キメラ・ヴァンパイアが最後の力を振り絞り飛び上がろうと翼を動かすその刹那、俺の持つガン・ブレイズの刀身に光が宿る。


「<シフト・ブレイク>!!」


 黒い斬撃が放たれた。

 この一撃の威力はそれまでに蓄積した<チャージ・リロード>の回数分だけ増加する。そしてそれは斬撃の大きさとして表さられる。

 四回に及ぶ<チャージ・リロード>を経て増大した斬撃は蠢くヴェノム・キメラ・ヴァンパイアを飲み込んでいく。

 黒い斬撃に飲み込まれHPバーに巻き付く鎖の全てが消し飛んだ。

 剥き出しになったヴェノム・キメラ・ヴァンパイアのHPバーの残量は三割程度。本来ならばここからそれを削ることを始めなければならない。しかし、それは既に始まっているのだ。


「シシガミッ、今だっ!」


 待機を頼んでいたシシガミが遂にその力を解放する。

 既に十分に砕けている地面にもかかわらずシシガミが構えるその足元には更なる亀裂が生じていく。

 シシガミの肥大した体の周りには陽炎のようなものが漂い周囲の景色を歪めている。


「<極限(きょくげん)猛化(もうか)焔猪(ほむらじし)>」


 シシガミの頭上にあるHPバーが燃え出した途端、体の周囲に漂う陽炎が実体化し炎となる。

 大気を焦がし、大地を焦がし、命を燃やす炎を纏うシシガミは沈むヴェノム・キメラ・ヴァンパイアを打ち砕く。

 シシガミの拳や蹴りを受ける度にヴェノム・キメラ・ヴァンパイアのゴム質の体表は瞬く間に劣化し罅割れていく。


『うわぁ、凄い』


 感心した声を上げるフラッフの言葉の通り、シシガミの必殺技はその外見もさることながら繰り出される攻撃の威力も凄まじい。


「まだ来るみたいだぞ」


 みるみるうちに減っていくヴェノム・キメラ・ヴァンパイアのHPを見守る中、彼方から三種類の強大な魔法が降り注ぐ。

 天を裂く雷。

 閃光迸る絶対零度の氷槍。

 硬く鋭い金剛石の剣。

 それらの魔法がヴェノム・キメラ・ヴァンパイアの体を穿ちその巨体を地面に縫い付けていた。


『うそぉ、まだ足りないんですか』


 フラッフが驚くのも無理はない。

 俺たち全員の最大の攻撃を受けてもなお、ヴェノム・キメラ・ヴァンパイアは健在。その体の大半に尋常ならざる傷を受けながらも消滅することはなく、ヘビ独特の細長い瞳でこちらを睨みつけている。


「大丈夫。これで終わらせる」


 鬼化を解除してしまったムラマサ。

 竜化して使える必殺技を使用し終えたアラド。

 命をも燃やす炎を宿したシシガミ。

 持ち得る最大にして最強の魔法を放ったリンドウ、餡子、ボールスの三人。

 この状況でヴェノム・キメラ・ヴァンパイアを倒しきるだけの攻撃手段を残しているのは俺だけだ。


 銃形態にしたガン・ブレイズを構える。

 銃口の先に二重三重に出現した光輪が七色に輝く。

 この一撃の威力を決めるは、竜化してから消費したMPの総量に比例する。

 自動消費が無くなった分、威力を溜めるにはアーツを使う以外には銃形態で攻撃するしかない。これまでとは違い攻撃に専念して潤沢に使用できる俺のMPは既に残り僅か。

 この一撃の威力としては申し分ない。


 後は引き金を引くだけだ。


「これで決める。<ブレイキング・バースト>!!」


 三重の光輪を潜り、光線が放たれた。

 アラドとムラマサによって鎖を壊され、シシガミやリンドウたちによって動きを封じられたヴェノム・キメラ・ヴァンパイアは光の中に消えた。




とりあえず、これで毒の吸血候との戦闘は終わりました。

次回は予定ではリザルト回になるはずです。

もしかするとネタバレかもしれませんが、この毒の吸血候との戦闘はこれ以上の引き延ばしは無いのであしからず。


では、いつものように謝辞から。

いつも本作を読んで下さりありがとうございます。

宜しければ評価、ブックマークをしていただければ幸いです。


それでは次回の更新も金曜日になります。


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