三つ巴の争奪戦 ♯.18
お待たせしました。
今週分の更新です。
(何か起こったのか)
一瞬にして俺は意識を切り替えていた。
それはまさに急遽戦闘に突入したかの如く。さらにムラマサも同じようで目の前にいるリタが突然纏う雰囲気を一変させた俺たちを見て戸惑ったように俺とムラマサの顔を見てきた。
「どうしたの?」
「わからない。……けど、アラドの身に何か起きたと考えて間違いなさそうだ」
「……ああ」
今もレッドラインに突入したままであるアラドのHPバーを注視しながら答える。
はっきりとしない物言いになったのはアラドの今の状況が解らないから。そして同時に大きな疑問を抱いていた。
(どうして回復しない?)
通常、プレイヤーである俺たちはダメージを受けたなら即座に回復するだろう。その方法が回復アイテムであれ何らかの回復魔法であれ、その目的は同じ。それは大きなダメージを受けたのならば尚更だと思う。しかし、今のアラドのHPバーは減らされた状態で停止している。そのままゼロになっていないことは幸いだが、何時ゼロになってもおかしくない状況では安心することなどできやしない。
「まずはアラドとの合流だな」
「そうだね」
相談するまでも無く俺とムラマサの意見は一致した。
「アラドの身に何が起こったのかは解らないが、無視できない状況になったことは間違いなさそうだ。リタには防具を修復して貰ったばっかりで悪いけど、オレたちは行くことにするよ」
「気にしないで。それよりもサラナの町に戻るのなら私も同行するわ。アラドくんの防具の修理はまだしていないんだから」
「いいのか? 町の状況が悪化しているかもしれないんだぞ」
「それは大丈夫だと思うの。サラナの町に居るギルドの人からは何の連絡もないし、それにHPが減る状況って言うのなら町の外での出来事のはずでしょ」
「…そう、だよな」
「そうよ。だからこそ急いで町に戻るの」
全ての町の中が戦闘不可領域に指定されている以上、リタの言うことは尤もだ。だが、それはあくまでも平時の話。例えば突発的なクエストやイベントが開催された利した場合、その内容次第によってはその限りではない。
とはいえ、リタの元に連絡がないということはその可能性は限りなく低いと考えて差し支えないだろう。
だとすれば問題が起こったのはアラド個人の身にだけ。
そうなるとサラナの町にアラドがいない可能性の方が高くなるのだが。
「ねえ、ユウくんたちはアラドくんに連絡はつかないの?」
クロウ島にはギルド内で使用するものと誰でも使用できるものという二機の転送ポータルが設置されている。
今、俺たちが向かっているのは誰でも使用できる転送ポータルの方。ギルド用のポータルは他のギルドに属しているリタは使用できないからだ。
転送ポータルが設置されている場所への移動の最中、リタから投げ掛けられた質問にムラマサが渋い顔をして首を横に振っていた。
同時に二人フレンド通信を入れても無意味だとアラドへの連絡を買って出てくれたムラマサだったが、結果は芳しくないようだ。
「戦闘中か、それとも別のフレンド通信に出ることが出来ない状況なのか」
何気なく口にした言葉によってムラマサの表情が陰ってしまった。
その後ろではリタが心配そうな顔をしている。
「まあ、アラドなら大丈夫だと思うぞ。なんだかんだ言って強いからさ」
二人を安心させるべく俺は出来るだけ明るい口調で告げた。
HPを減らしたまま回復できていないことは未だ心配ではあるのだが、本質的な部分ではあまり心配していない。
ゲームというあらゆることが数値化された世界においてアラドが有する能力値はかなりのものになっているはず。
裏を返せばそれでもなお危機的な状況に陥ってしまったということではあるのだが、それはここで口にしなくとも皆が理解していることだ。
一つしかない転送ポータルだとしてもプレイヤーがその場に居る時間は僅か。
次々と転送されていく他のプレイヤーに続き俺たちもサラナの町へと戻って行った。
一瞬にして転送された俺たちを迎え入れたのは先程と寸分違わない町並み。
異常なことなど微塵も感じさせない光景に呆気に取られてしまうのと同時に、またしてもアラドの身に何が起こったのだろうと首を傾げた。
「やはり町中で何かが起きた訳じゃないみたいだね」
途絶えない人の流れを眺めつつムラマサが安心したように呟く。
「リタは商会ギルド人と会いに行くんだろ?」
「そのつもりよ。アラドくんのみに何か起きたのは間違いないと思うし、町の中で何が起きたのかどうか確認したいから」
「わかった。オレたちはこのまま町を出てアラドを捜すことにするよ」
「当てはあるの?」
首を横に振るムラマサに続き、俺は肩を竦める。
「とりあえず、この近くで戦闘が可能な場所とか騒ぎになっている場所を探してみることにするつもりだ」
「そう。私の方でも何か解ったら連絡するわね」
「頼むよ。俺たちの方でも何かあったら連絡するから」
「ええ、任せて」
力強く頷き去って行くリタを見送り俺は手元にマップを出現させた。
自分たちがいるサラナの町が写し出されているマップを拡大することによってこの付近のマップが表示される。しかし、表示されるマップは大雑把なものであり、漠然とこの辺りに何があるのか記されているだけ。何処に誰がいるのかまでは知ることの出来ないマップだった。
「アラドが行くならどっち方面だと思う? これまでに行ったことのあるエリアに戦いに行ったか、未知のエリアに向かったか」
「サラナに来た道の北側とまだ行ったことの無い南側か、だね」
「ああ」
「それならアラドの性格からしてより強いモンスターがいる方だろうけど…」
「その情報をアラドが知っていたかどうかだよな」
サラナの町にいるプレイヤーやNPCに聞いて回ればある程度は知ることの出来る情報だと思うが、そんな地道な作業をアラドが好き好んでするとは思えない。となれば、考え得るのは強敵と戦ってきたと思わしきプレイヤーが来た道を辿るくらいだが。
「あー、今更探すとなれば結構難しそうだよな」
「確かに」
「当然、戦闘の痕跡なんかが残っているはずもないし……」
どうするか、そう言いかけた瞬間、視界に映るアラドのHPバーが僅かに動き出した。
少しづつではあるものの確実に増加していくそれを見てほっと胸を撫で下ろしていると、不意に町の中心部が騒がしくなった。
「何か起こったのか?」
移動するつもりで町外れにまで来ていた俺たちからは騒ぎの中心は窺い知れない。
HPが回復している以上、アラドの危機は脱したと判断して町の騒ぎを除きに行こうかという誘惑に駆られた俺だったが、それは先程別れたリタから入ったフレンド通信によって阻まれた。
『ユウくん無事? 大丈夫!?』
「どうかしたのか? そんなに慌てて」
『もしかしてもう町の外に出たりしてた?』
「いや、一応まだ町の外れに居るけど」
『町の外れ? まだそこは無事なのね。だったらそこに避難を――』
「避難だって? リタ、もう一度聞くよ。町の中で何か起こったのか?」
切羽詰まったような声に避難という言葉。
俺の脳裏にはアラドのHPが減った時以上の警鐘が鳴り響いていた。
『ねえ、ユウくん。いきなりで悪いけど少し手を貸してくれないかしら』
突発的な申し出の返答に困っているとリタはそのまま言葉を続ける。
『ユウくんたちが早くアラドくんと合流したいってのも、アラドくんが心配なのも分かってるつもりなんだけど……』
「それよりも大変なことが起こってるってわけか」
『……うん』
俺に対するフレンド通信だったとしても同じパーティ内の仲間で俺が許可さえすればムラマサもこの話を聞くことは出来る。
会話に参加してこなかったとしても、一緒にいることは変わらない。
その為に俺とムラマサは視線だけで互いの意思の確認をした。
俺とムラマサの気持ちは一つ。
不確かながら無事だろうと思わしきアラドよりも近くで困っているリタの助けになりたい、だ。
「どこに行けばいい?」
『へっ!?』
「俺たちに何かして欲しいことがあるんだろ」
『いいの? 二人はアラドくんを探してるんだよね?』
「問題ないさ。アラドのHPが回復しているのは確認できたからな。それに、何処にいるのか解らない奴を探すよりも目の前のリタを手伝った方が確実だからな」
それに声には出していないが、サラナの町の中でどのような異常事態が起こったのか興味あるのだ。自分の興味を優先したとしてもいいだろうと割り切ってリタに言った。
『だったらまず私の居る場所に来てくれるかしら? 私は今この町で商会ギルドが借りている倉庫兼事務所にいるから。場所はメッセージで地図を送るわ』
一拍の間を置いて届いたリタからのメッセージには一つの画像が添付されていた。
画像はリタの言葉の通りこの町の地図の一部を切り取ったものであり、同じような建物が並ぶ区画にある倉庫の内の一つが赤く塗られていた。
「ここか」
送られてきた画像をムラマサに見せて互いにリタの場所を確認する。
『どう分かった?』
「ああ。後はマップを見ながらいけば着くと思う」
『ありがとう。待ってるから』
リタとのフレンド通信が切れた。
当初サラナの町に戻ってきた目的とは違うがそれはそれでいいだろう。
自分を納得させる理由を心の中で探している俺の隣でムラマサがなんとも言えない表情になっている。
「どうした?」
「あ、いや、どうしてアラドにメッセージを送るって発想にならなかったんだろうって思ってね」
「………あっ」
ムラマサに言われ気が付いた。
フレンド通信に出られないとしてもメッセージなら読む可能性が高い。むしろ落ち着いた時に見て返信があるかもしれないのだ。
バツが悪そうな笑みを向けてくるムラマサに苦笑いで返す。
「とりあえずアラドにはこの町で異常が起こっていることと、オレたちがそれに手を貸すことを送っておくよ」
「頼む」
苦笑した顔を見合わせた俺たちはどちらからという訳でもなく歩き出した。
手元に出現させたマップは町の中のみを映すように設定を変え、そこで送られてきた画像の場所を探しながらの移動は町の裏通りを進むことになった。
表通りにあった露店を出しているプレイヤーの多くが裏通りにある倉庫を借りているのだとしてもここまで大規模な倉庫街がサラナの町にあったことに驚きながらの移動の最中、俺たちはクロウ島に行く前のサラナの町と今のサラナの町にある違いに目を奪われた。
「煙?」
訝しみながら呟くムラマサが言うように、町の中心部からいくつもの黒い煙のラインが青い空に伸びているのが見えた。
「これは急いだほうが良さそうだな」
煙が上がっているということはその根元では何か火元となるようなことが起きたということ。
町の中で露店が並ぶことを考えると軽いボヤ騒ぎのようなことが起きたのかもしれないと思ったがそれだけでリタが俺たちに助けを求めてくるとは思えない。
ならばその火元となった原因が問題なのだろう。
「ユウ、止まれ!」
町の中にいるのにフィールドに出ている時のような緊張感に襲われながらも進む俺たちの前に小さな黒い影が過った。
警戒を強めていたムラマサは反射的に腰の刀の柄に手を伸ばしている。
「駄目だ。町の中での戦闘は――」
出来ない。そう言おうとする俺の前でムラマサは居合い切りのようにして黒い影を横薙ぎにしていた。
「――どういうことだ?」
「ユウ! 後ろっ」
「――ッつ!」
ムラマサの声に反応して振り返った俺へと飛び掛かってきたソレを目にして俺も反射的に腰のホルダーにある銃形態のガン・ブレイズを抜いた。そしてそのまま引き金を引くと銃口から実体の無い魔力弾が撃ち出され、襲撃者を撃ち抜いた。
飛び掛かってこようとするのを途中で遮られ急停止したそれは小型犬くらいの大きさをしたネズミ。そのネズミが一瞬の後に霧散したことからもモンスターであることは明らか。だが、あまりにも突然の襲撃であり、また同時に一撃のもとに討伐してしまったことによりその名称を確認する暇は無かったことが悔やまれる。
「大丈夫かい?」
「ああ。でも町の中でもモンスターが出てくるとはな」
信じられないという思いよりも有り得るかもしれないという感想の方が先に浮かんだ。
町の中では戦闘行為は出来ないという不文律さえいま目の前で覆ったことからも、この町で何かが起きているのは確かなようだ。
「これがリタが助けて欲しいってことなのか? それにしてはさっきのモンスターは弱すぎる気がするんだけど」
「確かに。ユウが倒したのはネズミのようなモンスターだったね」
「ああ。ムラマサは……」
「オレが倒したのは綱引きの縄くらいの太さのあるヘビだったよ。消え方から察するにモンスターだったのは間違いないと思うけど、その名称までは確認できなかった」
「俺も同じだ。名前は確認できなかった。それに、こう言ってはなんだけど銃撃一発で倒せるとは思わなかった」
「出てくるモンスターの強さは初心者エリアくらいの相手というなのかな?」
「どうだろう? リタが何か知っていてくれればいいんだけど」
「そうだね。なおさら話を聞かなくてはならなくなったというわけだ」
それまで決してゆっくり歩いていたわけではなかったが、この突然の襲撃を期に俺とムラマサは一斉に駆け出していた。
今回のサブタイトルをつけるならば町中の戦い突入、冒頭篇でしょうか。
はい、というわけで一週間ぶりです。
前回あとがきに書いた各話のサブタイトルですがもう少し時間が掛かりそうです。
それにしても今回の更新分は書き終わるまでにいつも以上の時間が掛かりました。と言ってもそれは内容で難産したというわけではなく、PCが固まり保存前の内容が消えるということを数回繰り返してしまったのが原因なのです。
本サイトのバックアップ機能を使っても書き上げる前の段階でバックアップが止まっており、細かな保存が大事だと思い知った次第です。
では次回の更新は一週間後。
ああ、もう一月最後の更新になってしまうんですね。
正月の為に一週目をお休みしたせいで今月分の更新は他の月よりも少なくなってしまいますが、今後もどうか本作をよろしくお願い致します。




