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三つ巴の争奪戦 ♯.4

お待たせしました。

10月最初の更新です。

 秘鍵を手に入れ、リリィたちが待つ場所へと戻ったら既に辺りの探索を終えていたアラドが適当に近くの石の上に座りノワルと何か話し込んでいるようだった。

 草木を掻き分け出てきた俺たちを見てアラドが訝しむ視線を向けてきた。

 今はダメージも無く、傷一つないにもかかわらず、どうしてそのような視線を向けるのだろうと密かに疑問に感じていると、俺の隣に立つムラマサが小声でさっきの戦闘でオレたちのHPが減ったのを見たのだろうと言ってきたのだ。


「遅かったじゃねェか。そっちは何かあったみてェだな。何があった」


 石の上に腰掛けたままアラドが声を掛けてくる。


「秘鍵を見つけたのさ。まあ、その時に一悶着あってね」

「アラドはどうだったんだ? 秘鍵はあったのか?」

「ああ。二つな」


 アラドがストレージから取り出した真鍮製の二つの鍵は紛れもなく俺たちが探し求めてきた秘鍵そのもの。

 しかし、俺たちはシャドウとの戦闘が発生したのに対して、アラドのHPに変動は見られなかった。つまりアラドの元にはシャドウが現れていないということになる。それはたった今アラドが俺たちに対して何があったと問いかけてきたからも確かだろう。


 椅子代わりになりそうなものが見当たらなかった為に俺は直接地面に座り、ここに戻ってくるまでに起きたシャドウとの戦闘のことを話した。


「ナルホドな。それでそのシャドウっていうモンスターの印象はどうだったンだ?」

「オレの印象だとあのモンスターは俺の戦い方、じゃないな、オレのこのムラマサというキャラクターをコピーしたモンスターだったと思う」


 ムラマサの意見に同意する俺は無言で頷いた。


「けど、こう言っては自慢のようになってしまうかもしれないけどさ、あのシャドウはオレほど強くはなかった。端的に言えば劣化コピーってやつだ」


 これにも同意する。

 あのシャドウがムラマサの能力や戦い方の何から何までを模していたのだとすれば、俺たちはあそこまで簡単に勝つことは出来なかったと思う。

 多彩な属性を伴った攻撃や、刀という武器を使ったこちらの攻撃をいなす戦い方をされては困難極まりない。


「しかし、アラドの元には現れなかったのだとすると、何か条件のようなものがあるのかな?」


 俺がシャドウとの戦闘を経験した時、このイベントで秘鍵を手に入れるにはこの戦闘で勝利を収めなければならないのだと思ったものだ。予め知らせなかったのもシャドウ自体の性能がそれほど高くなければ対処が可能であり、ちょっとしたサプライズのようなものだったのかもとすら。

 だが、俺たちよりも一本多く秘鍵を手に入れたにもかかわらずアラドの元に現れなかったということが全員の元にシャドウが出現するわけではないという証拠だ。

 俺と同じことに疑問を抱いたのだろう。ムラマサが手元に出現させたコンソールを使い、このゲームの情報をまとめているホームページで確認していた。


「どうだ。何か解ったか?」

「シャドウの目撃情報は次々とアップされているみたいだね。けど、その形状が人型であること以外は共通点が少ないね。攻撃手段もその時々で違うらしい」

「ハッ、ンなこと言っても、オマエは大体の予想はついてンだろ?」

「まあね。自分が経験したのが大きかったよ」


 ムラマサが一呼吸おいて推測を続ける。


「さっきも言ったように、オレたちが戦ったシャドウはオレの劣化コピーとでも呼ぶべきものだった。それが他のシャドウと対峙したプレイヤーにも言えるのだとすれば、基本となる形状以外が異なっていることにも納得ができるだろう。それからここにも書かれているようにシャドウの出現は必ずという訳ではないらしい。もう一つ、パーティを組んでいたとしてもシャドウの形状は最初に秘鍵に触れたプレイヤーのみを参照しているらしい」


 それが同時に戦闘を行った俺を参照したシャドウが現れなかった理由の一つ。

 根本的なことを言えば、秘鍵が一つしかなかった故に一体しか現れなかったという可能性もある。寧ろその可能性である方が高いだろう。


「シャドウの出現の目的は俺たちの秘鍵集めの邪魔をすることなのか?」


 微かに感じる違和感を拭いきれず俺は呟いていた。

 運営側からのアナウンスが無かったモンスターがただの障害としてだけ用意されているのならまだいいが、それ以上の意味があるのだとすれば、俺たちはそれを知らないまま秘鍵を集めることになってしまう。

 本当にそれでいいのだろうか。


「……まあ、今はそうするしかないんだけどな」


 まだイベントは始まったばかり。変化が起きるのだとすれば確実にこれから。


「とりあえずは手に入れた秘鍵を……って、どうすればいいんだっけ?」

「どうやらイベントが始まった時点で各大陸の各町の神殿に大きな箱が用意されているみたいだね。秘鍵はそこに収めることでパーティ毎に獲得した数が集計されるということらしいよ」

「これが、箱…か」


 ムラマサが可視化されたコンソールを俺に見せてくる。そこには秘鍵を収める箱が映った画像を表示されていた。そしてそれはダンジョンやフィールドで発見される最も一般的な木で作られた宝箱の形をしている。

 見慣れたそれが別の使い方をされていることに驚きつつも俺はムラマサの手元にある秘鍵に視線を送った。


「それで、どうするんだ? 俺たちは今、三つの秘鍵を持っている。それをこの箱に収めに行くってのも悪くないと思うけど」


 持っていたとしても悪いことが起きるわけではないだろうが、箱に秘鍵を収めたことで何が起こるのか知りたい気持ちはある。

 パーティを組んでいる以上は自分一人で決めるわけにはいかない。そう考えて二人の意思を確認しようと訊ねた。


「探すぞ」

「え?」

「俺だけまだシャドウってヤツと戦ってねェからな」


 アラドが感じている不満が一人戦闘に参加できなかったことだったとは。思ってもいなかったことを口にしたアラドを前に俺とムラマサは互いの顔を見た。


「だったらまた別の秘鍵を探すってことか」

「当たり前だ」

「ふむ、そしてその際に出現する可能性があるシャドウと戦いたい、と」

「ああ、そうだ」

「その場合、シャドウはアラドを模したものがいいのか?」

「別に誰でも構わねェよ。それにさっきオマエが言ったように、劣化コピーでしかねェンだろ? 俺が経験してェのはシャドウとの戦闘だからな。それが誰のコピーだろうが一緒だ」


 自分が戦ったシャドウの強さがムラマサを基準にしているのではないと確信している俺はアラドの言葉に頷きを返した。


「それじゃあ、ここでまた探すのかい?」


 俺とアラドに確かめるようにムラマサが問いかけてきた。

 それに対してアラドは首を横に振り、


「いや、別の場所に行くぞ」

「どうしてだい?」

「他のヤツラが多くなってきたみてェだからな」


 そう言ったアラドの言葉に合わせて、微かではあるが他のプレイヤーたちの声が聞こえてきた。


「ノワルを使ったみたいだね」


 微かに口元を歪ませたアラドを見る限り、どうやら俺たちが戻ってくるまでの間に別の目的も合わせた探索を行っていたらしい。


「他の人たちと鉢合わせする前に移動しよう。このイベントのルールでは決闘を使った秘鍵の奪い合いは認められているみたいだからね」


 PKではないが、他のプレイヤーとの無益な軋轢を避けようとすることは賛成だ。

 俺とムラマサの考えに同調したのか、それともアラドも実力が解らない相手との接触を避けたかったのか。特段異議を申し立てることは無く、この場から移動することが決まった。


 となれば次に決めるべきは何処に向かうのか、だ。


「このまま真っすぐ行けば森の奥のようだね」


 コンソール上に表示されているミニマップを操作しながらムラマサが次の目的地の候補を上げていく。


「そしてここから右に進めば山があるし、左は市街地の近くにある高原だ。町に戻ってから別の場所に向かうという選択肢もあるが…」

「右だな」

「奇遇だな、アラドもか。ムラマサはどうなんだ? 俺は山の方に行くのに賛成なんだけど」


 一瞬も迷うことなく決めたアラドの選択が自分と同じだったことにさして驚きは無かった。

 山という場所がこれまでの経験から幾つもの表情があるのを知っていたからだ。今の季節、雪山である可能性は低いが、岩山や緑生い茂る深き山である可能性は決して低くない。そのどちらが秘鍵の探索に適しているかまでは解らないが、他の場所に比べて幾許かアイテムの探索場所としての選択肢を有しているのは事実だ。


「二人の意見が同じならオレも賛同するさ」


 短い相談を経て移動を開始した俺たちは来た道とは違う道に出る。

 この道の先に微かに姿を覗かせる山は岩山などではなく、緑溢れる野山だった。

 案の定というべきか、来た道を戻っていた道中、最初に俺たちが秘鍵を見つけたこの場所に来た時よりも多いプレイヤーとすれ違っていた。だが、俺がイベント開始の頃よりも多いと感じたプレイヤーの数もムラマサには些か不審だったようで、すれ違ったプレイヤーを目線で追っているのが窺えた。


「どうかしたか?」

「え、ああ。あの人たちがそれ程このイベントに必死になっているようには見えなくてね」

「まだ初日なんだし、普通なんじゃないのか? 例えば秘鍵の探し方が解らない、とか。どのくらい集めるのが普通なのか探っている途中だとかさ」


 他者より頑張ろうとする人もいれば他者と同じくらいの頑張りで良いと割り切る人もいる。あるいは全く自分の力を浪費せずに報酬だけを手に入れる心積もりの人も。

 個人の成績ではなく、自分が選択した勢力の順位によって報酬が決まるイベントではこれらのプレイスタイルの違いが如実に現れたりする。どれが良いとか悪い等という話ではなく、そういうものなのだというだけなのだ。


「そうだね。確かにまだ初日だから様子見をしているのかもしれないね」


 顎に手をやり何やら思案顔で呟くムラマサにアラドが「どうだろうな」と否定の意思を伝えた。


「このイベントの報酬を憶えてるか?」

「ああ。勿論さ」

「それについてオマエはどう思ったンだ?」

「オレか? そうだね、不思議に思ったと言えばそうだろうね」

「不思議って何が?」


 と、俺はムラマサに訊ねた。


「ああ。あの報酬で一番万人受けするのは何位の報酬だと思う……って、ああ、そういうことか」


 自身が口に出した言葉でムラマサはアラドが言った否定の意味を理解したようだ。


「オマエは解ったみてェだな」

「ああ。このイベントに積極的に参加しているのは一位を目指しているプレイヤーだけのようだね」


 頷いて納得し合う二人に遅れて俺もアラドの言いたい事が理解できた。


「種族に関する変化を欲していないプレイヤーにとっては二位の報酬が最も魅力的な報酬ってわけか」

「そういうことだ。まあ実際に二位を目指すというのは一位を目指すよりも難しいとオレは思うんだけどね。どちらにしても二位を目指そうとするなら初日は手を抜くか、他の勢力がどの程度の力を入れてイベントを進行しているかを先に知ろうとするはずなのさ。何せ、二位になるには一位よりも三位の動向を注意するべきなのだからね」


 一位になるには他の勢力よりも多く秘鍵を集めるだけでいい。それに対して二位は、一位よりも少なく三位よりも多いというある意味最も難しい調整をする必要があるのだ。最も報酬の少ない三位になることを目指すとは思えないことからも、やはり最も競争率が高く困難なのは二位ということになるのだろう。


「何というか、全員が全力で挑まないイベントっていうのも珍しいな」


 これまでに開催されたイベントと比べたのだろう。ムラマサが複雑そうな表情を浮かべて呟いていた。


「個人報酬が明言されてねェンだから仕方ねェってことなンだろ」


 自分に直接返ってくる報酬はそれだけでプレイヤーのモチベーションアップに繋がっていたということのようだ。


「まあ、俺たちもアイリたちが一位の種族の報酬に興味を持っていなかったら二位を目指していたかもしれないもんな」


 仲間が望んでいなかった場合のことを考えてみた場合、俺たちが目指したのは最も報酬が多くなる二位だったと思う。

 そんな風に考えながら俺は歩みを進める。

 いまいちやる気を出しているのかどうかわからないプレイヤーとすれ違いながら移動する俺たちが辿り着いたのは山の麓であり、登山道の入り口となる場所だった。


「これは…鳥居か? なんかグラゴニス大陸っていうよりはジェイル大陸って感じだよな、まだ行ったことは無いけどさ」


 登山道の入り口に前にある真紅の建造物は日本人に親しみ深い物だ。しかし、西洋風の街並みがあるグラゴニス大陸には相応しくない。

 そのアンバランス加減が製作者のミスなのか、それとも狙ったものなのかを俺たちが知る術はないが、俺たちが立つ場所とこの先を隔てる役割を持っていることだけは明らかだった。


「ここから先に行くんだろ」

「他の入り口を探すって手もあるけど、オレはここから入りたいと思う」

「それはやっぱり鳥居があったからか?」

「簡単に言えばそうだね。この大陸に相応しくない鳥居が置かれた山に入るにはやはりここからが一番だと思うからね」

「アラドもそうなのか?」

「ここが普通の山なら別にどこから入っても同じって言うだろうケドよ、ここまであからさまな門があるならここから入るのが正解じゃねェか」


 普通の山じゃないと暗に告げてくるアラドは睨みつけるように鳥居の奥を見ている。


「それじゃ行くか」


 意を決し、俺たちは山に足を踏み入れた。



今月も週一更新になるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

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