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Re:スタート ♯.19

お待たせしました。前回の続きです。

 アーツの発動は常に何かしらの光を伴う。

 それが攻撃であれ、魔法であれだ。

 俺が使う強化はよりその意匠が強く表れているように思える。

 通常のアーツに比べると俺の背後に魔方陣が浮かび上がるという点に違いがあり、その魔方陣の紋様に強化の内容が現れているのだ。


 俺が使っている強化の種類。それは攻撃とスピードを上昇させた〈ブースト・ウォリアー〉と防御能力を総じて上昇させる〈ブースト・ディフェンダー〉。前者は剣を構える騎士の姿を模した紋様が、後者は盾そのものの紋様が記されている魔方陣が俺を通り過ぎることでその効力を俺の体に宿らせる。


 今回新しく使えるようになった〈ブースト・ハート〉も同じ。何かに特出しているはずのそれは炎に飲み込まれる刹那、浮かび上がった魔方陣に初めて目にする紋様が記されていた。

 幾重にも重なった幾何学模様の中、偶然なのか意図的なのか、見えてきた形はドラゴンの全身を横から写したものに見える。


 最初に相見えた時はその炎に成す術もなく倒され、二度目は空気の盾を出現させる防御アーツを使うことで耐えきった。

 そして三度目。

 動き出した時間の中、俺とアラドを飲み込んだ炎はその本来の威力を全く発揮させることが出来ないまま火の粉を撒き散らしながら消え去っていた。


「ダメージも覚悟したほどじゃないみたいだな」


 視界の端に浮かぶ自身のHPバーを見ると確かにダメージを受けて減少しているものの、その値は僅かに一割未満に収まっていた。

 防御力を上げた強化でもそこまでの減少率は無かったことからも、現状より高い防御力があることを感じられていた。


「アラドも無事みたいだ……な?」


 隣に立つアラドのHPも俺のHPバーの下に小さく表示されている為に俺と同じくらいのダメージしか受けていないことは知りつつも、何か別の異常を受けている可能性を考慮して視線を横に向けると、そこに立っていたのは俺が知るアラドでは無かった。


 全身に深い青色の光が流れる鎧を着込み、手に付けていた手甲があからさまに大きくなっている。顔までも覆うそれは傍から見れば文字通り竜のよう。

 何より異質なのは持っていたはずの大剣が首の下、肩甲骨の中心部辺り伸びる蛇腹状の尻尾の先に取り付けられていること。

 黒い大剣を先に付けた尻尾が動物のそれのように自由自在に動き回っている。


「何が起きた?」


 当然の疑問を口にするとアラドは鎧竜の顔をこちらに向けてその咢を開いた。


「オマエだって似たようなもンじゃねェか」

「俺もだって?」


 人が喋る時はその言葉に応じて動かすことになるはずの口が鎧竜とかしたアラドは単純に開閉するだけで言葉を発することができるようだ。


 アラドに俺もと言われたその刹那、何かのイメージが俺の頭に飛び込んできた。

 白い素体の上に赤い装甲。白い素体の上には黒い光が体全体にまで及ぶ模様を刻んでいる鎧を着た人物。

 この人物は鎧を着ているとは思えないくらいの痩身であり、その姿は騎士、といよりも何かの特撮番組に出てくるヒーローのよう。


 まさかと思い自分の手を、足を、体を見てみるとこれまで人族のそれだった右手も藍色の服という防具を纏っている身体も全てが見慣れないものになっていた。

 魔導手甲の形も変わり、自分の姿は紛うこと無きイメージの中にあった全身鎧のヒーローになっているのだ。


『聞こえるかい? その姿について説明するよ』


 炎が消えた後、平然と立つ俺とアラドを目撃し驚いたように動きを止めていたドラゴ・エスク・マキナが咆哮する。

 腹部の結晶体を失ったことで生じた変化は俺たちにとって必ずしも好ましいものでは無かったらしい。

 しかし、予想するにそれまでの絶対的な攻撃力は無くなったのだろう。だが腹部の重りが無くなったことでそれまでの鈍重な動きとは打って変わり、機敏とまではいかないものの素早い動きをみせるようになった。


『ねえ。聞こえてるよねぇ?』

「…この声、フラッフか!?」


 突然聞こえてきた声に反応しながら、ドラゴ・エスク・マキナの攻撃にも対応する。

 俺とアラドを一度に薙ぎ払おうとして振り抜かれた尻尾を軽く跳び上がって回避するとそのまま落下の勢いを利用してガン・ブレイズで斬り裂いた。


 アラドは背中から伸びる尻尾を地面に打ち付けるとその反動を利用して急激な加速を生み出し、ドラゴ・エスク・マキナの尻尾をくぐり抜けて前へと出ている。

 結晶体が失われ出来た窪みがある腹部をアラドは強靭な爪を持つ腕へと変化した手甲を使い引き裂いていた。


 俺とアラドの攻撃によってガクッと減少したドラゴ・エスク・マキナのHPバーはあと少しで残り二本になるまで追い詰めていた。

 ならば、と俺は着地したその場所で僅かに怯み蠢いた尻尾を横一文字に斬り付ける。


『あのぅ。聞いて欲しいんですけど』

「悪いけど、そんな余裕はないっ」


 結晶体を外す時に起こした爆発の連続はドラゴ・エスク・マキナのHPを大きく削ることができていたらしく現在のHPの残量は確実に時間が停止する前よりも少なかった。

 そのことに気付くよりも早くドラゴ・エスク・マキナの攻撃が襲ってきて今に至るというわけだ。


 それにしてもと考える。今の俺の状態は想像以上に強くなっているみたいだ。

 たった一度の攻撃で与えることの出来るダメージはそれまでの何倍にもなり、先程の跳躍力だって元の状態とは比べるまでも無い。


 強化の程度はアラドも同じなのだろう。大剣が備わった尻尾の打ち付けによる反動を活かした突進も、鋭く発達したその両手の手甲による切り裂きも、以前よりも何倍も強力だ。鎧竜となったことによりこちらが圧倒的に優勢になって事が順調に運ぶと思っていた俺の目に不自然な形で動きを止めるアラドの姿が入ってきた。


「何が起きた?」

『だから話を聞いて欲しいって言ってたんですよぉ』


 涙声になる姿なきフラッフの声に意識を向けたのだろう。僅かにアラドが顔を何もない天井に向けたていた。


『ああ。やっと聞いてくれる気になったんですねぇ』


 俺に聞こえているのはフラッフの声だけ。会話をしているであろうアラドの声はドラゴ・エスク・マキナの攻撃とそれによって引き起こされる轟音によって掻き消されてしまっていた。


『こほんっ。では説明します。アラドさまのその姿がもたらすのは強靭な体と強大な生命力と精神力。代償は技、それから道具です』


 フラッフの抽象的な言葉を聞きながら俺は不思議なことにその意味を理解していた。


 強靭な体とは文字通り鎧竜となったことによる飛躍的な能力値の上昇。強大な生命力というのも最大値を伸ばしたHPのことだろう。代償と言われた技というのがアーツが使えなくなったことであり、道具というのは言わずもがな。アイテム使用不可という状態を指し示しているのだろう。

 これは似たような状態異常があると聞いたことがあるおかげで一番分かりやすかった。


『そしてマスターのその姿がもたらすのは強き体と強き技。代償は精神力と道具です』


 これまた分かりやすいと思う。

 強き体はこうして実際に戦っているからこそ正に手に取るように分かるというものだ。強き技、というのも心当たりがないわけではない。

 今は使っていないから確証を得ているわけではないが、おそらく俺が使う攻撃アーツ。剣形態ならば〈スラスト〉が付き、銃形態ならば〈ブラスト〉が付けられているそれらの技の威力は全て等しく上昇していることだろう。


 代償にある道具は今の自分の姿を思えばそうおかしな話ではない。

 喋る度に口が開閉するアラドならばまだしも、俺の顔は完全に鎧兜で覆われていて何かを食べることはおろか、飲むことすらできない。

 かといって鏡面などというわけでもなく、実際に目がある部分には光を抱く相貌があり、口はそれこそどこぞの特撮ヒーローのような造形が施されている。


 完全に顔が隠されているというのにもかかわらず、息苦しさを感じることは無い。ここが仮想世界であることを差し引いてもこれはその形状から考えれば尋常ならざることだと思ってしまう。


 まあ、戦ってて息苦しさを感じてしまう兜や仮面など願い下げなのだが。


 ポーション等のアイテムは飲むことで使用することができる。だからそれができない恰好では使用不可ということなるのだろう。

 他の使い方をするアイテムまでも使えないのだとしても今更驚くことではないのだろう。


 最後にして唯一の懸念材料。それが精神力、つまりMPだ。


 今、この瞬間にも、アーツを使わない攻撃すら行わず、数瞬ではあるが期を見て完全に停止することを試しているにも、それこそ何も行っていないにも拘らず、視界の端にあるMPバーがゆっくりと僅かではあるが確実に減少していることからも明らか。


「フラッフ。このままMPが無くなると俺はどうなる?」


 アラドと俺でドラゴ・エスク・マキナを中心にした挟撃を行いながら、この場に居ないフラッフならば何か知っているだろうと、確信にも似た予測だけで誰もいない虚空に問いかけていた。


『マスターはMPが無くなれば元の姿に戻ってしまいます』

「…それで?」

『マスターの変身は一日に一回しか出来ません』

「それは現実の時間でか?」

『はい。マスターの世界の時間で『一日』です』


 地面に向かって吐き出される炎をアラドがその両手を強く地面に叩きつけて生み出した衝撃で打ち消した。

 隆起する床が即座に砕け、舞い上がる床の欠片と火の粉の間を俺は駆け抜ける。


 時間がないなどと焦らなければならない程俺のMPは少なくはないが、それでも無意識のうちに攻撃を急いてしまっているみたいだ。

 そうなのだとしても駆け出してしまった以上は止まれない。

 下を向いたままのドラゴ・エスク・マキナの顔に届かせるべくガン・ブレイズを水平に構えて突き出した。


「〈アクセル・スラスト〉!」


 ぐんっと急加速する剣撃が俺の体を想像していたよりも上へと押し上げる。


「うおぉっ、行き過ぎた」


 斬り付けようと思っていた場所よりも遥か上空に自分がいることに戸惑いながらも未だ残っている斬撃の勢いを利用して体勢を変える。するとドラゴ・エスク・マキナの頭を挟んで腹の下に潜り込んで攻撃を加えようとしたアラドと目が合った。


「へぇ。兜越しでも目線って解るもんなんだな」


 現実で兜を付けたことなど無かったために兜越しの視界などこれが初めてだが、実際にはここまでクリアに周囲を見渡せることなどはないのだろう。

 まして同様に兜を付けた相手とのアイコンタクトなど、素人がいとも容易く出来るはずが無い。


 アラドとタイミングを合わせるべく、一呼吸を置いてガン・ブレイズを構える。


「今度はこっちだ。〈インパクト・スラスト〉」


 ガン・ブレイズの刀身が発光する。それはアーツが正しく発動したことを表していた。

 狙うはドラゴ・エスク・マキナの首筋。

 真っすぐ振り下ろされた剣筋が正しくドラゴ・エスク・マキナを捉える下で、アラドが両手の爪を尻尾に備わっている大剣を縦横無尽に振り回し続けている。


 ガリガリ削れていくドラゴ・エスク・マキナのHPバーが遂に最後の一本に突入した。


「さて、何が起こるか」


 大抵のボスモンスターは複数あるHPバーが最後の一本になったことで行動や形状を変化させる場合が多い。

 例外なくドラゴ・エスク・マキナも何かしらの変化が起こると身構えたが、不思議なことにその予兆はいつまで経っても現れなかった。


「原因はフラッフがいないからかもしれない、か。それならこのまま押し切る!」


 仮に今が変化が起こる前なのだとしても、それはそのままチャンスであることは変わらない。

 普通は攻撃がヒットした後に消えるはずの〈インパクト・スラスト〉を発動させたことによる光が未だ消えないままなのだ。それは即ち今もアーツが発動しているということに他ならない。攻撃をする度に等間隔で減少するMPはこの姿になってから自動的に減っているMPをより加速させていたことからも確かだろう。


 タイムリミットが早まると理解しても俺は攻撃の手を休めるつもりは微塵もない。

 ガン・ブレイズの刀身の光が消えたのは最初の一撃を含めて五回、俺の攻撃がドラゴ・エスク・マキナに当たった後だった。それからもう一度同じアーツを発動させると今度も最初と同じ回数だけ効果が発揮され続け、減少する自身のMPと引き換えにドラゴ・エスク・マキナのHPを削ることに成功していた。


「残り半分。一気に攻め落とすぞ」


 俺の声がアラドに届いたのかどうか分からないが、アラドの攻撃のスピードが増して両腕と尻尾を器用に操り、絶え間ない攻撃を繰り出し始めた。

 またもガリガリと削れていくドラゴ・エスク・マキナのHPだったが、元の量が多いボスモンスター。総量を等分されて表示されているはずのHPバーが最後の一本、それもその半分を超えたあたりから異様な程に減少幅が少なくなっていた。


 こうなれば最後のHPバーのHPの量が多いというよりは目に見えない防御力が増したと考えるべきだろう。

 俺たちの攻撃力の増加も合わせて考えるとその防御力の上昇はそれまでに類を見ない上昇値だと言わざるを得ない。


「せめて必殺技(エスペシャル・アーツ)が使えればな」


 今更になってさっき使ってしまったことが悔やまれる。

 一撃の威力を飛躍的に上昇させた攻撃を放つことのできるそれは現在俺たちが繰り出している攻撃よりも何倍も強力なものになるはずなのだから。

 尤もこの状況を引き出すためにあの時に使わざる得なかったのだから仕方ないと言えば仕方ないことなのだが。


 通常のアーツを発動させた攻撃の連続は俺のMPを著しいスピードで削っていってしまう。それではこの変身が解除されてしまうのも時間の問題。またもドラゴ・エスク・マキナと俺の根競べが始まってしまったらしい。


 短くも長い攻防の末、遂にドラゴ・エスク・マキナの残存HPが三割を切った。

 そしてこの時を境にドラゴ・エスク・マキナの防御力はさらに上昇したように思える。俺のアーツを発動させた攻撃もアラドの絶え間ない連続攻撃もそのHPを僅かにしか削ることができなくなったのがその証。


 目に見える変化ならまだしも目に見えない変化ではさすがに対処が遅れてしまう。


 一度距離を取るべきタイミングを見誤ってしまった俺たちにドラゴ・エスク・マキナの炎が迫る。


 今の自分の状態ならば炎を避けることができるし、今のアラドならば炎を耐えきることができる。現に俺は咄嗟に大きく後ろに下がることで炎を避け、アラドは炎の中で両腕を盾のように構えることで生き残っていた。


「ガアッ!」


 アラドが両腕を勢いよく横に振り、自身の周囲の炎を散らす。

 炎の中から現れたアラドにドラゴ・エスク・マキナが憎々しげに咆哮を上げた。


「…どうする?」


 やはりどうしても決定打に欠ける。

 アーツが使えないアラドもアーツを使ってもなお決定的なダメージを当たることのできない俺もすぐに負けるとは思わないが、この瞬間に必ず勝てると言い切れる保証がない。


 この瞬間(とき)、俺が欲するのは強力無比な一撃。

 そんな俺の思いが通じたのかまたしてもフラッフの声が聞こえてきた。


『そろそろです』


 俺にだけ聞こえる声でないことは先程のアラドの様子からも明らか。ならばこの一言は俺だけに向けられたものじゃないはずだ。


『アラドさまとマスターにはその姿の時にのみ使える必殺技があるのです』

「何ッ?」


 思わず聞き返した俺と同じようにアラドもフラッフの声に問いかけているのだろう。

 鎧竜と化した頭部が宙を見てその声の主の姿を探すように微かに動いたのが見えた。


『今から説明します。

 アラドさまの必殺技は変身後に与えたダメージの総量に倍率が加えられてたものが必殺技の威力になります。この数値は一度使用されるごとにリセットされますので決して外すことの無いように。

 マスターの必殺技は変身後に消費したMPの総量に倍率が加えられたものが必殺技の威力となります。ただしこれも一度使用することでその数値はリセットされます』


 フラッフの説明が終わるのと同時に浮かんでくる自分が放つ必殺技のイメージ。そのイメージの中にある俺が使う必殺技は剣撃ではなく銃撃。それ故に俺は即座にガン・ブレイズを銃形態に変形させていた。


「まさしく一発限りの弾丸ってわけだな」


 フラッフの声が聞こえなくなった後、俺は必殺技ではない普通の銃撃を放ちながら同様にそれまでと変わらぬ攻撃を繰り出すアラドを見た。


 俺の必殺技は自分のMPという自己の限界が存在する。その為に残り四割程度になってしまったMPでは同程度の威力を持つ二度目の必殺技の使用なんてことは不可能だ。

 それならばアラドはどうなのだろう。

 与えたダメージによって倍率が加わるということならば二回目の必殺技の使用も可能のように思えるが、実際にはそうではないことに気付いてしまった。


 与えたダメージといってもそれは対峙しているモンスターが同じである必要があるように思えたからだ。

 HP総量という制限が自分ではなく、相手にはあるという云わば対外の限界を課せられた形になったアラドは戦闘を続けるだけ、攻撃を加えるだけ、自分の必殺技の威力が上がり、同時に再び発動させようとした場合に威力が落ちてしまうというもののようだった。


 一度しか放てない攻撃を外すわけにはいかない。

 回避と射撃を繰り返す俺も、攻撃と防御を繰り返すアラドも千載一遇のチャンスを待ち続けていた。


「まだ…」


 引き金を引く度に減少するMPはアーツを使用していないために微々たるもの。だが、それでも俺の必殺技の威力を上げることには繋がっているはず。


「まだだ……」


 アラドが大剣が備わった尻尾と両手での攻撃の手を緩めないのも、間違いない。俺と同じ考えを持っているからだろう。


 防御力を上昇させこちらの攻撃が通り難くなったことで機械の竜であるドラゴ・エスク・マキナは僅かな油断をした、かのように感じた。

 攻撃は大振りになり、吐き出される炎は誰を狙うでもない大雑把なものになっている。


 対峙している者以外はその様を見てドラゴ・エスク・マキナが疲弊し始めたと思うのかもしれない。

 だが、実際に対峙している俺には傍から見る程余裕はなく、雑になった攻撃も裏を返せば自分を狙わない為に予期し辛いものでしかない。

 それ故にこれまで以上に周囲を警戒しなければならず、必殺技を最も効果的なタイミングと場所に使うことが求められている現状、集中力を削がれてしまうのは避けるべき事態だった。


 振り回されるドラゴ・エスク・マキナの両腕。

 眼前に迫る炎と尻尾。

 確実な回避と防御を繰り返すことでこちらのダメージは最小に抑えることができているが、それはそのまま俺たちの攻撃で与えることのできるダメージも最小であることを示していた。


「まだ………といってもそろそろ限界か」


 減り続ける自分のMPを確認して呟く。

 先ほどまで残り四割近くあったそれが今や二割を切ってしまっている。

 その分威力が高まったと思えば悪くはないことだとはいっても、二度目は無いという現実がより確実なものになったとも言える。


「何かきっかけになるようなものがあればな…」


 俺の攻撃でもなく、アラドの攻撃でもない。

 もっと別の何かが起こればいい。そう思う俺の願いが通じたのか。それともこれまでの戦闘で摩耗したのか、この一室の壁から極々小さな石が転げ落ちた。


「あれは――」


 偶然にして奇跡と呼ぶべきことが起きた。

 ガラガラと大きな音を立てて壁が振り回していたドラゴ・エスク・マキナの左腕を巻き込んで崩れてきたのだ。


「――今ッ」


 ドラゴ・エスク・マキナほどの巨体と腕力があれば瓦礫の中から自身の左腕を引き出すことくらい訳ないだろう。

 だが、直ぐにそれができるかどうかとなれば話は別。

 少なくとも数瞬、多ければ数秒の硬直が現れる。


 ドラゴ・エスク・マキナと距離を保ちガン・ブレイズを構える俺の視線に纏う雰囲気を一変させたアラドが入った。

 全身から漲らせているのは圧倒的なまでの威圧感。

 蛇腹状の尻尾はその全ての関節部にある鎧状の装甲が展開し、鋭く変化した手甲の腕を覆っている部分が開くと内部にある光を纏った内部装甲を露出させている。


 鎧竜の口が開き、人のものとは思えない獣のような咆哮が轟く。

 それがアラドの口から発せられたものなのか、あるいはアラドの纏う雰囲気が変貌したことに戦慄を覚えたドラゴ・エスク・マキナが発したものなのか分からない。

 だが、これもきっかけになったことは間違いなかった。


 鋼鉄の体が誇る防御力をも上回る初撃はアラドの手甲にある鋭い五指の爪による刺突。

 ガンッと鉄を穿つ音と共に減り込む両腕が制止すると同時にアラドはぐぐっと自身の体を前に押し出している。


「〈デモリッシュ・オーバー〉」


 俺が初めて耳にした単語はアラドの放つ新たな必殺技の名。

 全身から漲る赤黒い光はそれら全てがそのまま攻撃に転じたかのようにアラドの手甲に吸い込まれ、それらは深々と突き刺さっている五指を通じてドラゴ・エスク・マキナへと流れ込んでいく。


 変化が訪れたのは次の瞬間。

 ドラゴ・エスク・マキナの胴体、腕、尻尾から頭まで。それこそ全身に至るまで余すこと無い亀裂が生じたその刹那、アラドが全身に纏っている赤黒い光と同じ光が亀裂の中から漏れ始めた。



グガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!



 苦痛に呻く悲鳴であり、眼前にいるアラドに向けた敵意そのものであるかのような叫び声が轟く。

 そして、赤黒い光が強まったかのように見えるその瞬間、ドラゴ・エスク・マキナは内部からの圧力に耐え切れなくなったと言わんばかりの爆発を伴って、全身の装甲を吹き飛ばしていた。


「ユウッ!!! 行けェ!」


 爆発の中心から聞こえてきた声が俺を呼ぶ。


「弱点が丸見えだ」


 自然な動きで左手を横に、ガン・ブレイズを構える右手をその上に乗せて固定する。


「〈バースト・ブレイク〉」


 新たに獲得した必殺技の名を叫んだ。

 ガン・ブレイズの銃口を中心にして現れる二つ重なった円形の光。俺の目にはその光は虹のように見えていた。

 二重の円形の光の中心を穿ち放たれたのは弾丸などではなく、それこそ光線としか言い表せない一撃。


 素体を露わにしたドラゴ・エスク・マキナの急所とでも呼ぶべきそれは人間で言う所の心臓がある場所に存在する。

 ドラゴ・エスク・マキナの心臓は生物的なそれではなく、幾つもの怪しい輝きを内包する宝珠。

 フラッフを捕らえていた結晶体と似ているようであり、全くの別ものに見えるそれをガン・ブレイズから放たれる光線が飲み込んでいく。


 その間、僅か数秒。


 撃ち出された光が消えた後には何も残ってはおらず、巨体の中に巨大な空洞を作り出した素体姿のドラゴ・エスク・マキナだけが物言わぬ彫像のように鎮座している。


 尻尾を地面に打ち付けて急激な移動をするという独特な方法を用いるアラドがドラゴ・エスク・マキナの下から飛び出してきた。

 展開していた尻尾と手甲は元の状態に戻っている。

 鎧竜となっているアラドが俺の隣に着地したその瞬間、ドラゴ・エスク・マキナは胸に出来た空洞を起点に眩い閃光が全身に迸り、最後の抵抗だというように体を僅かに振るわせた。


 巻き起こるは爆発。それもこの一室に万遍なく広がるのではなく竜巻のように上へと巻き上がるものだった。炎の竜巻は天井にぶつかって散り散りになると花火のような火花を撒き散らしながら徐々にその勢いを失っていく。


「勝った、みたいだな」

「ああ」


 自らを焼き尽くす炎の竜巻は遂にドラゴ・エスク・マキナを消失させた。

 ドラゴ・エスク・マキナがいた形跡は崩れた壁と焦げたような臭いだけ。体を構成していた機械片も装甲の欠片すら残されてはいない。


 自動的に現れるコンソールに戦闘が終了したことを示すリザルト画面が表示されている。

 ボスモンスターの討伐によって得た経験値が俺のレベルを上げてくれたみたいだが、今はそれよりも聞こえてくるミシミシという不穏な音が気になっていた。


 まだ何か起こるというのか?


 変身したまま俺はキョロキョロと辺りを見渡した。

 再び壁が崩れてくるのだろうか。何せ一度崩された壁だ。また崩れてきてもおかしくはない。

 それとも天井が崩れてくるというのだろうか。ドラゴ・エスク・マキナを完全に消失させるほどの炎が当たっていた天井だ。壁のように崩れてきても変な話ではないのだろう。


 だが、現実は俺の予想を裏切る。

 軋みを上げていたのは壁でも天井でもなく、今この瞬間にも足を付けている地面の方だった。


「拙い――ッ」


 崩壊が始まる。

 咄嗟に回避しようとも、飛ぶことのできない俺とアラドはそれから逃れられるわけもなく、崩壊に巻き込まれるようにして更なる下層へと落下していったのだった。



戦闘が無事?に終わりました。

それでもまだ章が終わっていない理由は、何となく察しがいい人は気付いているのでしょうが、まだ終わっていないことがあるからです。それはまた次回になると思いますが。


今回いきなりユウとアラドが変身したことに対して「えっ!?」と思う人がいるかも知れませんね。

作者としては一度はやってみたかった特撮ヒーローが出来て満足なのですが、ぶっちゃけるとこの第二シリーズになって前シリーズと差別化をする必要があると考えた時に変身ならば戦闘だけでも違いが出るのではないかと思ったんです。


まあそれに至るまで長い時間が掛かってしまったのは相も変わらず反省でしかないのですけど。


この変身が主人公のみに与えられたチートではないということはこの章が終わった後の幕間にて語られるはずです。


では、また次回の更新で。

次回は第十章の締めになる予定です。


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