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町を作ろう ♯.15

「ふぃ」


 思わず息を吐き出した俺は地面に突き刺さている自分の剣銃を引き抜いた。


「無事か?」

「ああ。俺はな」


 微妙に声のトーンを落として返事をした俺の手にあるのは所々黒く変色してしまっていた剣銃。その原因が今回の戦闘において最後の攻撃の切っ掛けとなったハルの放つアーツ。

 だからなのだろう。

 ハルが心底悪びれた様子で頭を下げた。


「……悪い」

「気にするなって。武器が使えなくなったのは俺だけじゃないんだからさ」


 そう言いながら俺はハルの手にあるハルバードに注目した。

 ≪鍛冶≫スキル持ちの視点からハルバードを見ればそれがいつもの状態ではないことがはっきりとわかる。

 刃毀れ起こしていないが、その代りに刀身も石突きも歪んでしまっていた。

 全く使えなくなったとまではいかないものの、このままではハルの攻撃力が半減しているも同然だった。


「二人はどうだ? 全く無事ってわけではないんだろうけどさ」

「ハルさんやユウさんと同じだよっ。体は平気だけど、武器がこんな感じになっちゃった」


 フーカが見せた直剣はハルの持つハルバードとは真逆の状態だった。

 刀身に歪みこそないものの、刀身のいたる箇所に刃毀れが目立つ。


「オレの刀も似たようなモノさ」

「何処がだ?」


 唯一ムラマサの持つ大太刀だけが綺麗な状態を保っているように見える。それ故にハルがじっと大太刀を見つめ問い返していた。


「ハルたちじゃ、見ただけじゃ解らないかもな」

「どういう意味なのっ?」

「ムラマサの刀は俺たちの武器とは違って損傷を受けたというよりも劣化したと言った方が、状態としては近いんじゃないか?」

「流石。よく分かったね」

「こう見えて生産職もやってるからな」


 俺とムラマサの間で解り切っていることを敢えて問い、敢えて答える。

 一種の会話の中の遊びのようなものだったが、楽しげに笑い合う俺たちを見てフーカは不思議そうな眼差しを向けてきた。


「これからどうするのっ?」

「俺としたらこんな状態の武器をそのままにしていたくはないんだけど」

「同感だ。仮にだけどね。サハギン・キングと同じような相手と戦う可能性を考えると今すぐに修理をしたほうがいいと思うよ」

「ハルはどうだ? まだここでやり残したことはあるか?」

「やり残したことか。それならさっきの戦闘で得たアイテムの変換かな」


 忘れてたと言わんばかりに俺は自分のコンソールを出現させた。

 戦闘の疲れと勝利したことに対する安心感のせいで大してリザルト画面を確認しないままドロップした全ての素材アイテムをストレージに送っていた。

 普段の戦闘の癖とでも言うべきか、それとも俺がまだこのシステムに慣れていないだけのことか。

 どちらにしても俺のストレージにはサハギン種のモンスター各種との戦闘で獲得した素材アイテムが驚くほどの数、眠っていた。


「だったら海岸から離れた方がいいかもね。さっきの平原区画にならアクティブなモンスターはいなかったはずだ」

「サハギン連中が復活するってのか?」

「ボスはどうか解らないけど、雑魚の連中は復活するんじゃないのかな」


 決してあり得ない話ではないと俺たちは他のモンスターに出会わないように慎重に移動を始める。

 平原区画にまで戻った時点でそれぞれ地面の上に腰を下ろし、各自コンソールを出現させて自分のストレージにある先程入手した素材アイテムの確認作業に入った。


「どうやらサハギン・キングの素材だけは変換効率が違うみたいだね」


 ポツリと呟いたムラマサの一言を確かめるように、俺はサハギン・キングから入手した素材アイテムを町を作るための端末操作ポイントに変換する。

 雑魚の変換効率が素材アイテムを十個まとめて10ポイントだったのに対して、サハギン・キングの変換効率は素材アイテム一つにつき10ポイントだった。


「ボスモンスターばかり倒していければ結構貯まるんじゃないか?」

「現実的じゃないけどね」


 ハルの軽口にムラマサは肩を竦めながら答えた。

 確かにボスモンスターから入手できる素材アイテムの変換効率はそれ以外のモンスターの素材アイテムに比べて良過ぎるとすら思える。しかしだからこそ、たった一度の戦闘があれほど大変だったのだろう。

 消極的に取られるかもしれないが、俺はそんな戦闘を何度も連続して繰り返したいとは到底思えなかった。


「そうか? 俺は楽しいと思うんだけど」

「そんなのはハルさんだけだよ。あたしたちはさっきの戦闘でヘトヘトになったんだかねっ」


 戦い足りないとでも言わんばかりのハルをフーカが諫める。

 俺はストレージ内のある今回の戦闘で得られた素材アイテムを軒並みポイントに変換させると余ったのは数が足りずに残った雑魚モンスターの素材の端数分だけとなった。


「とりあえずはここまでだな」


 コンソールを消して告げる。

 頷くムラマサとフーカに比べ些か不満を残しているハルもパーティの半数以上が撤退を決めた以上は同じように行動するしかない。


「アイテムの変換が終わったなら武器の修理をしたいんだけど」

「そうだね。ユウ、オレの刀も一緒に頼めるかい?」

「ああ。任せろ」


 いつもの調子で引き受けた俺を見てフーカが小首を傾げていた。


「フーカに言ってないのか?」

「そういえば、言ってなかったかな」


 俺が自分の武器だけではなくギルドメンバーの武器の強化や修理もするようになっていたことを知っているはずのハルに問いかけた。

 忘れていたと言って説明することを俺に任したという素振りをしたハルにワザとらしい溜め息を見せてからフーカに向き合う。


「えっと、フーカは俺が≪鍛冶≫スキルを持っているのは知ってたっけ?」

「うーん、自分で強化できるようになりたいって言ってたのは覚えてるけど」

「まあ、元はそれが理由だったんだけどさ。今じゃギルドメンバーの武器のメンテナンスも俺がさせてもらっているんだ」


 詳しい説明は省き、自分がしていることだけを告げる。


「二人の武器はどうしているんだ?」

「いつもは町の鍛冶屋にお願いしてるんだけど」

「ああ。そういうことか」


 俺のギルド所有の島には当然のように他のプレイヤーの鍛冶屋もNPCの鍛冶屋も無い。いずれは自分たちの島に作った町に出来ればいいと思っているが、それは今直ぐの話ではない。

 つまりはこの島の中で鍛冶を行えるのは俺一人ということと同意だった。


「どうする? 二人が良いなら俺が修理してもいいんだけど」


 他に選択肢がないとはいえ、それはあくまでも島の中での話だ。

 島外に出てグラゴニス大陸の町に戻りさえすれば鍛冶屋など数え切れないほど存在している。無理に島の中に引き留めておくつもりはないので、自由に行き来してくれて構わないと告げるとハルが少しだけ考える素振りを見せてから言ってきた。


「頼めるか? 勿論使う素材は俺が渡すから」

「それならいいぞ」


 問題に思っていたのは適性の修理素材を俺が持っているかどうか。

 しかし、それを自分で用意するというのならばこれ以上は俺には言うことは無いということだった。


「フーカは?」

「あたしもいいの?」

「素材さえあれば、だけどな。俺が持っているならそれを使うんだけど、何か特別な素材がいるならフーカが用意してくれると助かるな」

「別に特別な素材何て使ってないはずだよっ。それにあたしだって自分が使う分の素材くらいは持ってるんだから、ユウさんのアイテムを使う必要なんて無いんだよっ」


 普通のプレイヤーが開いている鍛冶屋やNPCの鍛冶屋では追加料金を払うことで自分で素材を用意する必要はない。もちろん自分で素材を持ち込んだ場合の方が値段が安くなるし、強化や修理の際の成功率も高くなるからと、そうするプレイヤーの方が多いのも事実だ。

 ハルとフーカが自分の使う分の素材アイテムをそういう事情がある故にだろう。


「わかった。それなら早く戻った方が良いだろうな」

「走るのっ?」

「いや。それよりも、もっと早く戻れる方法があるのさ」


 俺は自分の腕に嵌められている『黒翼の腕輪』を空に掲げる。

 独特な紋様の魔方陣が頭上に浮かび、その中から一羽の小さな黒いフクロウ――クロスケが姿を現した。

 俺の肩に止まったクロスケの頭を慣れた様子で撫でているムラマサが聞いてくる。


「全員を乗せて飛ぶことができるのかい?」

「ああ。前にクロスケも一緒に戦闘に参加していたこともあってさ、その時にレベルアップしたんだよ。で、レベルが上がったクロスケはサイズが一回り大きくなって、背中に乗せて飛べる人数も増えたっていうことさ」

「へえ。凄いじゃないか」


 褒めながらクロスケを撫でるムラマサの手が余程気持ちいのかクロスケは目を細め、されるがまま。


「あのっ、ホントにその子に乗るつもりなの?」

「そうだけど……って、ああ! 違う違う。俺たちを乗せて飛ぶのは元の姿に戻ったクロスケだよ」

「元の姿って?」

「これさ。〈解放(リリース)〉!」


 クロスケの体を魔方陣が包む。

 そして翼を羽ばたかせ飛び上がったクロスケは元の姿であるダーク・オウルというモンスターの姿になって俺たちの近くに降り立った。


「どうだ? これなら心配無いだろ?」

「……うん。そうだねっ」


 クロスケを見上げながらフーカが言う。


「これなら早く戻れそうだな」


 全身鎧を纏って同じようにクロスケを見上げているハルが納得できたと頷いている。


「んんー?」

「どうかしたのかい?」


 そんな様子の二人を見つめ唸っている俺にムラマサが訪ねてきた。


「あ、いや。ちょっと気になることがあってさ」

「気になること?」

「なあ、ハル。ちょっとこっちに来てムラマサと並んでくれないか?」

「へ? まあ、別にいいけど」

「ムラマサも頼めるか?」

「構わないよ」


 そう言って横に並ぶ二人を見比べる。

 全身鎧を纏ったハルと和服のような防具を纏ったムラマサ。

 この二人のシルエットを見比べたことで俺の疑念はより一層強くなっていた。


「…ハル」

「何だよ、深刻そうな顔をしてさ」

「お前……今すぐその鎧を脱げ」


 真面目な顔をして告げた俺にハルが全身全霊、全力を以って拒否反応を露わにして後ずさっていた。


「……何だよ?」


 俺はハルのその反応の意味が解らずに腰に手を当てて呟いていた。




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