町を作ろう ♯.12
近くのサハギン・メイジから仕留めていく。
どこかに隠れているだろうサハギン・クレリックを炙り出す時間が残されていないからだ。
それでも、いずれはサハギン・クレリックも倒さなければならない。寧ろ先んじて倒すべきはそっちのほうなのだというのに。
「何処だ?」
銃撃アーツを発動させてサハギン・メイジを葬った最中、俺はどこかに隠れているサハギン・クレリックを探した。
ダメージを受けたサハギン・メイジを回復させる時に発せられる光を頼りにと思ったが、やはり倒してしまうとその光を見つけることは出来なかった。
「このままじゃ効率が悪いな」
迫り来るサハギン・メイジを一瞥し呟いた。
「とはいえ他に作戦なんかは思いつかないし。やっぱり今は掃討するのが先、か!」
即座に自分の問いに対して答えを出して、俺は引き金を引いた。
弾丸を受けてよろめくサハギン・メイジを助けようとする個体は最早いない。どうやら俺を倒すことを優先したらしい。
「〈インパクト・ブラスト〉」
その身に大きな穴を空けたサハギン・メイジが砕け消える。
これでサハギン・メイジは残すところ四体になった。
「チッ、これじゃやっぱり、クレリックを炙り出す前に倒しきってしまいそうだな」
やはり隠れたままでいるサハギン・クレリックを捜し出さなければいけないというのに、攻撃役となっているサハギン・メイジを全て討伐してしまうと回復役はもっと厳重に隠れてしまいかねない。
それでは駄目だ。
ボスサハギンを回復させる可能性がある相手をここで取り逃すのは明らかな悪手。
「炙り出すための他の手段となると…」
放たれるサハギン・メイジの魔法を避けながら俺は考えを巡らせた。
回復する時のライトエフェクトを目印にして探すのは最早望めないだろう。それは回復する相手を見捨てたというよりも自分の身を守ることを優先させたとも見える。
「せめて広範囲の攻撃手段があればな」
先ほど俺が喰らった巨大な水柱の魔法のような攻撃が出来れば、と無いものねだりをしてしまう。
自分の使える攻撃方法を思い浮かべるが、生憎と俺にそんな攻撃手段は無い。最も攻撃範囲の広い攻撃だって自分の周囲を一度に斬り裂く剣形態の〈サークル・スラスト〉というアーツがあるだけなのだ。
銃撃アーツは縦に長い攻撃。
これも広範囲と言えばその通りなのだろうが、俺が望んでいる類のものとはちょっと違う。
「仕方ない。倒せるものからやるしかないか」
杖を掲げるサハギン・メイジ目掛けて引き金を引く。
衝撃を受けて落としてしまった杖を拾う前に俺は連続して威力強化の銃撃アーツを放つ。
「後、二体!」
叫ぶ俺の声に慄いたのか僅かに後方にいたサハギン・メイジが後ずさった。
「逃がすかよッ!」
敵わぬと見て逃走を計るサハギン・メイジを追いかける俺はこの戦闘が始まって初めて剣銃を銃形態へと変形させた。
「〈ブースト・アタッカー〉」
背後に浮かぶ赤い魔方陣。
近接戦闘に特化した強化が施された俺はその走る速度を速め、逃げるサハギン・メイジを追い抜いていた。
「一気に行くぞ! 〈サークル・スラスト〉!!」
居合い斬りのように刀身を横に寝かして放つ回転斬りは簡単に追い抜いた俺を見て驚き動きを止めたサハギン・メイジ二体を同時に上半身と下半身に別つことができた。
「この状態なら見えるかな?」
光の粒子となって消えるサハギン・メイジ越しに辺りを見渡して、目的のサハギン・クレリックの残り三体を探した。
今の俺は近接戦闘に特化した強化を施している状態だ。
ATKとDEF、それにSPEED。同時に上昇している目立ったパラメータはこれだけだが、最近、この≪強化術式≫というスキルのレベルを上げたことによって身に付いた〈ブースト・アタッカー〉と〈ブースト・ブラスター〉の強化の副次効果。
前者は対峙している相手の動きを見極めるためなのか動体視力が上がっている気がする。そして後者の場合は視力自体が上昇しているようなのだ。
隠れているサハギン・クレリックを探すのならば視力が上がっている状態の方が適してそうなものだが、これまでに見つけられていないことからも違うらしい。
見える範囲が多少狭まろうとも隠れている場所を見つけられることが求められている状況のようだ。
「これじゃあ洞察力って言うか、看破力って感じだよな」
隠れている相手、あるいは見え辛い相手に対する能力と思えば純粋に動体視力が上がったというよりも看破するための力が上がったという感じなのだろう。
何よりもこの副次効果が嬉しかったのは俺が≪看破≫スキルを覚えていなかったからだ。
身を隠して行動したり、相手から隠れたりするスキル≪隠蔽≫を見破るにはいずれと思っていたからこそこの副次効果は喜んだというわけだ。
「あの辺り…かな?」
それでもぼんやりとあの辺りにいるという程度しか解らなかった。
余程サハギン・クレリックの隠蔽能力が高いのか、それとも回復を諦めて隠蔽効果をもたらす魔法を使っているのか。
「どちらかと言えば後者だろうな」
元から高い隠蔽能力を有しているのならば、サハギン・メイジに対する回復を中断する必要性はないのだから。
俺がその方向を見ていることに勘付いたのか、カランっと音を立てて海岸にある大きな石から小さな石粒が剥がれ落ちて地面を転がる。
さらには風も無いのに海岸に生えた草木が揺れた。
「逃げるつもりか?」
足音を殺し近付こうとする俺を見て百八十度回転して逃げ出したサハギン・クレリックを追いかける。
魔法を使う種、それも攻撃魔法では無く回復魔法を使う種だからなのだろう。通常のサハギン種に比べて足の遅いそれを捉えるのに対して時間は必要なかった。
「残念。オマエはここまでだっ! 〈インパクト・スラスト〉!!」
逃げるサハギン・クレリックに足を掛けて転ばすとそのまま威力強化の斬撃アーツを放つ。
脳天から背中に至るまで真一文字に斬り裂かれたサハギン・クレリックがそれ以外と同様に光の粒子となって消える。
残すサハギン・クレリックは二体。
「隠れることも無駄だと理解したみたいだな」
たった一撃のもとに倒されてしまった同胞を見てその感じていた恐怖は限界を超えてしまったのだろう。
魔法を使うための媒体である杖すら投げ出して逃走を図る二体のサハギン・クレリックは面倒なことに左右に別れて走り出していた。
「あっちは…まあ、後でいいか」
二体のうちの一体がムラマサたちがボスサハギンと戦っている渦中へと進むのが見え、俺は残る一体の方へと狙いを定める。
そして今にも戦闘区域から脱しようとする相手を追いかけた。
サハギン・クレリックが逃げ出した場所は元から隠れていた場所。
それは俺が剣銃を振るっていた場所よりも離れた所だ。
「追いつく!」
自分に言い聞かせるように宣言して走る。
程なくして追いついた俺はまずアーツを発動させずに攻撃を加えた。
数回斬り付けられて足を止めたサハギン・クレリックが逃げている勢いも相まってその場で転んでしまった。
それでもまだどうにか逃げたいと考えて行動しているのか、即座に起き上がり駆け出そうとするサハギン・クレリックに威力強化の斬撃アーツを放つ。
ビクビクと体を痙攣させて消滅するサハギン・クレリックを以って、俺が担当しているサハギン種のモンスターは逃げ出した一体以外全て討伐出来たということだ。
「これで安心するワケにはいかないよな」
自分の担当の殆どが終わったとはいえ、この戦闘が終わった訳ではない。
というよりもあのボスサハギンが現れてからというもの、戦闘の本番はこれからだというのがずっと頭の片隅に残り続けていた。
ストレージからMPポーションを取り出し使う。
剣形態での連続したアーツ使用は俺のMPを著しく消費してしまう。それでもある程度簡単にサハギン・メイジとサハギン・クレリックを討伐することができたのだから良しとすべきなのだろう。
ボスサハギンに助けを乞うように駆け寄っていく杖を放棄したサハギン・クレリックがムラマサたちの戦闘に合流する前に倒すべく、俺はMPポーションを咥えたまま走り出した。
残念ながらたった一本のMPポーションでは自分のMPバーが全快することはない。それでも効果の高いものを使ったからこそ、全体の八割近くまで回復していた。
「ここまで近づいたなら、届くッ! 〈アクセル・スラスト〉!!」
剣銃の刀身にアーツ発動時のライトエフェクトが宿る。
速度強化の斬撃アーツを突進攻撃の推進力に使い、爆発的な加速を促す。
突き出された切っ先がサハギン・クレリックを捉えたその刹那、別方向からの一撃がサハギン・クレリックを遥か彼方へと吹き飛ばしていた。
「何が起きた!?」
突然目の前から姿を消したサハギン・クレリックを追って視線を空へ向ける。
体をくの字に曲げて宙を漂うその姿を目撃したその時、今度は俺にサハギン・クレリックを吹き飛ばした攻撃が迫ってきた。
「護れ、氷よ」
俺の前に壁のように立ち塞がる厚い氷が出現する。
それがムラマサの使う攻撃の一つであることを知る俺は急いで氷の壁から離れるべく、慌てて後方に大きく跳んだ。
攻撃を受け砕け散る氷の壁の欠片が砂浜に突き刺さる。
陽の光を反射して輝くそれに映り込むボスサハギンと周囲の仲間たちを見て既に自分がボスサハギンとの戦場に入ってしまっていたことを理解した。
「ユウ。そっちは終わったのか?」
ハルバードを構える重戦士ハルが俺のもとへと駆け寄ってきて問いかける。
「なんとかな。ハルたちはどうなんだ? 倒しきれてはいなさそうだけど」
「ボスモンスターが相手なんだ。そう簡単に勝てるとは思ってないのだろう?」
「まあな」
ボスサハギンを取り囲むように氷の壁を発生させたムラマサが話しに加わった。
「ダメージはあまり受けてないみたいだな」
視界の端にある全員分のHPバーを確認しつつ問いかける。それに三人は揃って首を縦に振った。
「ならここからは四人全員で戦おうよっ」
「ああ」
フーカの提案を受けた俺はようやく落ち着いて目の前のボスサハギンを観察することにした。
体躯は通常種の何倍もある。
使用している武器も質の悪い三又の矛なのではなく、しっかりとしたトライデントのようだ。
確認したわけではないが、この三人を相手にして未だHPの多くを残しているということは何らかの面倒な能力を有していると考えたほうが良さそうだ。
その名を『サハギン・キング』
魚頭人体の怪物の王だ。
「来るぞ」
極僅かな攻撃モーションの予備動作を見極めたハルが叫ぶ。
次の瞬間にはサハギン・キングがその手にあるトライデントを突き出していた。
俺たち全員はハルの号令のお陰で皆が安全な距離にまで移動することができ、ダメージは微塵もない。
砂浜には大きく穿たれた跡が残り、周囲に残っていた氷の欠片が全て消えている。
それだけでも十分な威力だと見て取れたわけだが、問題は氷の欠片とは別の物が砂浜のあちらこちらに残されていた。
緑色を基調にし、七色に輝く楕円形の物体。
「ダメだっ。離れるんだ!」
「へ?」
この物体の正体が解らず近付いて確かめようとした俺を止めるハルの声がする。
そして…その声を掻き消すかのような爆発が起こった。




