輝きを求めて ♯.22
氷山鉱から出たその瞬間、俺の目の前に一つのシステムメッセージが表示された。
『クエストクリア 氷山鉱からの脱出』
それは俺が待ち望んでいたものであり、リントが先に目にしたものでもあった。
「それで、報酬はっと…」
コンソールに表示されているシステムメッセージを本を捲るように次のページへと送りながら目的の項目を捜す。
しかし、そこに記されていたのは『26/100』という数字。
クエストクリアの報酬として氷山鉱手でに入る素材とレッド・ムシャを討伐して手に入る素材がいくつか記されており、それらはシステムメッセージから受け取ることがことが出来た。
「モンスタードロップ系の武器とかはないんッスね」
「おや? リント君もなのかい? 僕も手に入ったのは素材ばかりだったんだけどね」
「俺も同じッスよ」
「でもさ、これだと生産職以外にとってはあまり嬉しい報酬じゃないわよね」
「売ればいいんじゃないか?」
「無理みたいッス」
使わない素材は売りお金に換えてそれぞれの活動資金に充てる。それがこのゲームの常だ。だから生産職以外のプレイヤーは手に入れた素材アイテムをそのままプレイヤーショップなりNPCショップなりに持っていく。
そんなことは常識であるはずだが、どういう訳かリントはそれが出来ないと思っているようだ。
「見てくださいッス」
リントが見せてきたのは俺も手に入れた氷山鉱内で採れる鉱石の一つ『氷山結晶』それの詳細が記されている画面だった。
そこにある一文を見て俺は戸惑いの声を漏らした。
「売却不可?」
「一時的なもののようだけどね」
「どういう意味なのよ」
「さっきの数字を思い出して欲しいんだけどね。どうやらあの数が満たされないとこのロックは外れないみたいなんだ」
ボルテックの解説を聞きながら俺もコンソールに浮かべたクエストクリアの画面を調べていく。
そこにあったのはボルテックの言葉の通りに氷山鉱で手に入れたアイテムを売ることが出来るようになる方法、それと例の『26/100』という数字の意味が記されていた。
この数字は簡単に言えばこのクエストをクリアしたパーティ数。
俺たちが『26/100』なのだから先にクリア認定されたリントはおそらく『25/100』のはず。実際にリントに確認してみると俺の予想通りの数字が記されているようだった。
「この数字はクエストに挑める上限なんかじゃなく、クエストクリアの規定数に至るまでの数字のようだね」
「つまり俺たちの他にも24人がここのクエストをクリアしたってことッスか?」
「正確には24組だね。でなければ僕達がクリアした段階でこの数字はリントの時から三つ加算されているはずだからね」
「だからこんなに少ないのね」
納得出来たというようにアイリが呟いていた。
この数が多いと見るか少ないと見るか。クエストの内容が一定ではないことと、先んじて挑んだ以前の大型パーティが壊滅したことを考えれば多いような気がする。とはいえ氷山鉱というエリアが公開されてからの日数を考えるとはっきり多いと断言できないのも仕方のないことだろう。
そして氷山鉱の内部やクエストで手に入れたアイテムを売りに出せないということが想定以上のマイナス効果をもたらしていたということに他ならない。
本来ならば新たなエリアで手に入れた新たな素材アイテムは挙って生産職が求めそれを用いた新たなアイテムへと姿を変えその有用性を戦闘職のプレイヤーの手によって検証され、それらのアイテムが有用だと広まることで新たな需要を生み出していく。
しかし根本たる素材アイテムが市場に出回らないのならばそれが成されることはない。
有用かどうかも分からないアイテムがあるだけのエリアへ行くのは素材アイテムを手に入れる以外の目的がある人か、よっぽどの好事家くらいのものだ。
生産職のプレイヤーも使えるかどうかわからないアイテムを手に入れる為に人を雇おうなどとするはずもなく、その結果こうして氷山鉱の攻略が停滞しているということのようだ。
「それじゃ、今日はこのくらいで解散にしようじゃないか」
クエストクリアの画面を隅から隅まで確認していたボルテックが突然告げた。
「街まで戻らないのか?」
「この辺りにもセーフティゾーンはあるからね。そこで僕は落ちることにするよ」
「そうか。なら俺はどうするかな」
街に戻るにしてもログアウトするにしても、ここに留まっていては何にもならない。ログアウトすると言って先に行ってしまったボルテックを見送りながら俺は自分のこれからを考えていた。
正直、氷山鉱で俺がしたいことはもう何もない。だから再び氷山鉱の中に入ろうとも思えないし、そうするにしてもまずは今回のクエストで手に入れた素材アイテムの使い道を模索してからの話だ。
残る二人はどうするのだろうと思ってじっとその顔を見てしまっていたのだろう。俺が問いかけるよりも早くリントが言ってきた。
「俺たちは街に戻ってからログアウトするつもりッス」
「あー、それじゃ俺も街まで一緒に行ってもいいか」
「別にいいわよ。ってか何か他人行儀ね」
「いや、二人っきりがいいかと思って」
「な、な、な、なに言ってるのよ」
慌てるアイリを見て俺とリントは堪えきれないというように笑いだした。
それから街に戻るまでアイリの文句に付き合って俺たちは和やかに進んだのだった。
◇
「結局、なんだかんだ言って悠斗は生産してからログアウトしたんだな」
昼休憩の教室で春樹が弁当を食べながら聞いてくる。
氷山鉱のクエストを終えた翌日である今日、俺はオルクス大陸での出来事を春樹に話していた。
「まあな。手に入れた素材アイテムの使い道はこれまでの他の鍛冶系の素材アイテムと大差なかったな。何に使うのか解らないやつはまだ手を付けてないから不明のままだ」
「ふーん。だったらそのクエストクリアの規定人数に到達するまで時間が掛かりそうってわけか」
「だな」
たった一日で劇的な変化があるとは思っていなかったが春樹の口振りではそれが確信に変わった。
「それよりも知ってるか? 他の大陸でも同じような感じみたいだぞ」
「やっぱりそうなんだな?」
春樹の言うことを想像していなかったかと言えば嘘になる。
氷山鉱という名のエリアがオルクス大陸だけにあるのだとしても、それに相当した場所が他の大陸にないはずがない。
仕様まで全く同じ場所が存在しているとまでは思っていなかった。
「ああ。悠斗が進めたクエストと同じようにクエストクリアの数が一定にならないとロックが外れないという場所なら今かなり噂になっているよ」
「へえ。どんな噂なんだ?」
「大概が難易度に比べて報酬がしょぼいクエストだというものばっかりだよ」
何となくだが、それも予測がついた。ついてしまったからこそ俺は深くため息を吐くのだった。
「それじゃあ、制限が解除されるのが何時になるか分かったもんじゃないな」
「どうだろうな。ぶっちゃけた話、既定の数っていうのは少ないと俺は思ってるんだ」
「少ない? どうしてそう思うのさ」
「よく考えてもみろよ。いくら高難度だといっても既定の数は百。全体のプレイヤーの人数とその中でクエストをクリアできるだけの実力を持つプレイヤーの数、且つ全部の大陸に同様のクエストが存在しているとしてもだ、百という数字が決して多くないのは明白だろ」
「だから時間の問題だって言いたいのか?」
「まあな」
ニヤリと笑う春樹が制服のポケットから自分の携帯を取り出して俺にその画面を見せてきた。
「これは……」
画面に出ているのは攻略掲示板の一つ。そこにあったのは氷山鉱と同様のエリアの攻略に乗り出そうという話だった。
「悠斗がクリアしたっていう氷山鉱、だっけ。そこでも以前に同じようなのが組まれたみたいだけど」
「ああ、その時は失敗したって話だったな」
「けれどその時からは時間も経ったし悠斗たちみたいにクリアした人も現れ始めた。そのおかげで十分な情報も集まったということさ」
「一応クエストの内容はランダムに決まるはずなんだけどな」
「それすら考慮してもクリアできると判断した人が大勢いたということなんだろ」
「春樹は参加するつもりあるのか?」
「んー、今のところ微妙だな。やってみたい気もするんだけど、なんていうか、全くの初対面の人と巧く戦える気がしない」
一撃必殺の威力を持つボスレイドモンスターと戦うことがある可能性も考慮すると春樹が渋る気持ちも良く解る。
そもそも俺だってアイリたちと挑むことにならなければ、自分から好き好んでこのクエストをやろうとは思わないのだ。
「だから今回はちょっと勿体ない気がするけど見送るかな」
少しも残念がるそぶりを見せずにそういう春樹は回数が定められたクエストの攻略という機会よりも、知らない人とパーティを組むことを避けたように思える。
それが悪いとも良いとも言えない俺は曖昧にそうかと頷くだけ。
そうして俺と春樹は昼食を終えて昼休憩が終わるまで他愛ない談笑をして過ごした。
この日から一週間後。
氷山鉱のクエストクリアの人数が規定の数に至った。
他の大陸で発生している同種のクエストに比べて一日早い到達となったその日以降、氷山鉱には大勢のプレイヤーが足を踏み入れることとなった。
理由としては氷山鉱で採れる素材アイテムから作れる防具には『防寒』と『耐氷属性』の付加効果がデフォルトで付くことが判明したり、ついでに氷山鉱で採れる鉱石類がNPCショップで売った場合はプレイヤーショップよりも高い金額で売ることができるということも判明したことで金策の為に強力なボスモンスターを気軽に討伐することの出来ない中堅のプレイヤーの新たな金策として活用できると広まったからだ。
オルクス大陸の街の外れにあるボルテックの店の奥で集まった俺とリントとアイリは自分たちの生産に使うことのない氷山鉱で手に入れた素材アイテムを売りその懐具合を潤していた。
「さて、今日はどうするかな」
なし崩し的にパーティを組み続けている二人に問いかける。
答えが返ってくる前に店の奥の部屋の扉を開けてボルテックが琥珀色のお茶を淹れたポットと人数分のカップを持って現れた。
甘い匂いに誘われ勝手に現れたリリィとクロスケがボルテックの周りを飛ぶ。
どうやら今日もまた平穏な時間が流れていくらしい。




