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キソウチカラ ♯.29

 爆発による熱風と爆音に苛まれるなか、俺は必死に仲間の安否を確認した。

 まだ死んでいないのは視界に映る俺を含め四本のHPバーが消えていないのだから確定しているとはいええる。しかし実際にその姿を確認するまで安心できないのは仕方のないことだろう。

 白煙立ち込める戦闘場の上で一際強い光が空へと放たれる。

 光の正体が近くにいる仲間の誰かがしたことならば良かったのだが、光の正体と推測される結界のなかに佇んでいるのは魔導書を持ったホワイトホール。

 傷一つ負うことなく、それまでと変わらない歪んだ笑みを浮かべた顔でこちらを見てきているのだった。


「おいっ、あぶネーだろうが」


 結界の中にいるホワイトホールに文句を言いながら姿を現したのはフリック。彼もまたホワイトホールと同じようにダメージらしいダメージを負っている様子はない。

 それでもホワイトホールと違っているのはその爆発の影響を全く受けた訳ではないのではなく、その大剣を盾の代わりにして防いだに過ぎない。その証拠に大剣の表面の銀色は余すことなく剥がれ落ち、素体の鈍色の刀身が露わになっている。

 切るための能力が落ちたのは間違いないだろうが、それでも自重で叩き潰すという攻撃方法なら全く問題無さそうだが。


「怪我一つ無いのだから文句はないでしょう?」

「お前のせいでコレだぞ」

「丁度良かったんじゃないですか? その剣、趣味が悪いと思っていたのですよ」

「なっ!」

「それに……いえ、これは失敗だったかもしれませんね」


 ホワイトホールが向ける視線の先にいるのは俺。そして俺の全身が突然光に包まれたのだ。


(これは――セッカの魔法か)


 ≪ブースト・アタッカー≫の効果に加えセッカの回復魔法。俺のHPが見る見るうちに回復していった。

 ほぼ全快状態になったHPよりもこの魔法を発動させたという事実に俺は安心感を得ていた。それは即ちセッカが無事だったということ。そして一緒に戦っていたヒカルも多分無事なはずだ。

 そうなると残るはムラマサだけだが、俺と同様にHPを回復させた今、ヤバい事態に陥っている可能性は低い。何よりムラマサと戦っていたフリックがここに居るのだ。直接的な危険性は最も低いと見ていいのかもしれない。


「ユウ、無事かい?」

「ムラマサか。そっちこそ、大したダメージは受けていないみたいだな」

「そうでもないさ。こうして平気なのはセッカのお陰さ」


 よく見れば防具にいくつかの焼けた跡と小さな切り傷が見受けられた。

 この傷は装備品の耐久度の減少が表面化したもので注意深く見なければ解らない程度だが、それでもダメージを受けた形跡であることには間違いない。

 それに反してHPは七割近く回復していたのは確実にセッカの回復魔法の恩恵であることは間違いないのだが。


「それにしてもむこうは回復している様子はないというのに、全くと言っていいほどダメージを受けているようには思えないね」

「でもないみたいだけどな」

「ほう?」

「フリックとかいうやつの大剣はあの通り。それに、多分だけどホワイトホールも防御策をとらなかったら全くの無傷という訳にはいかなかったらしい」


 事実を反対に取るならば、あの爆発を無傷にやり過ごせるだけの能力を有しているということ。それは単純に俺の攻撃を無傷でどうにかできる可能性があるということに他ならない。

 無論、全ての攻撃で同じことが言えるとは限らないが、少なくとも何も考えずに繰り出した攻撃は簡単に防がれてしまうと考えた方がよさそうだ。


「ヒカルたちはどうしているんだい?」

「無事なのは間違いないと思うけど。そうだな、アピスも近付いてくる気配はないから今も戦っているんじゃないか」

「かもしれないな」


 気になるのは戦闘の音が聞こえてこないことだ。

 剣と鎧がぶつかる音や魔法が放たれる音。

 その全てが少しも聞こえてこないのだ。


「とはいえ、今はこちらに集中しようではないか」


 ムラマサが言うように俺たちは俺たちの相手と向き合うべきだろう。

 目の前に立つフリックとホワイトホールは紛うこと無き強者なのだから。


「いつまでそうしているつもりなんだヨ」

「いつまで、か。そうですね。その言葉は貴方にも返させて貰いますよ。貴方こそいつまでそんな物を使うつもりなのですか?」


 ホワイトホールの目線が向けられた先はフリックの持つ大剣。


「いい加減、本来の武器を使っても良い頃合いでしょう。何より、この戦い私達は負けることは赦されないのですから」


 そう告げるホワイトホールの周囲に浮かんでいる結界が消えた。


「ハッ、俺はそれでも別にいいけどヨ。ホントにいいのかヨ」


 醜く歪んだ笑顔を浮かべるフリックが持っていた大剣をまるで興味を失ったこどものおもちゃのように投げ棄てた。

 地面にぶつかり破片となって消える大剣は既に誰の視界にも入っていない。

 そして、どこからか二つの武器が飛来してきた。


「む、こっちはもう限界のようですね」


 ホワイトホールの手に収まった二つの武器。それは先程ヘリオスとザムルズが使っていた武器だった。そのうちの一つザムルズが使っていた直剣をフリックと同じように投げ棄てると、それもまた破片となって消えた。

 残るは大鎌だけだが、それもホワイトホールは大して興味がなさそうに適当に持っているまま。


「使いますか?」

「オウ。貸せ」

「どうぞ」


 フリックの手に移った大鎌はまるで本来の持ち主の手に渡ったと言わんばかりに震えている。そして、


「さて、こんなモンか」


 フリックはストレージから取り出していた。

 キャラクタークリエイトの際に選んだであろう本来の武器。ホワイトホールの手から渡った大鎌と対になるようなもう一つの大鎌を。

 両の手にそれぞれ持たれる大鎌。

 その姿はさしずめ巨大なカマキリを彷彿とさせた。


「異様だな」


 両手に一本づつ。二本の大鎌を持つフリックを見てムラマサは思わずというように呟いていた。

 昔から二刀流というものはプレイヤーの夢のようなところがあるのだろう。その為かこのゲームでも二刀流を行っているプレイヤーの数は少なくない。実際には最初に手にすることになる武器は一つだけ。だがゲーム内で手に入る武器を用いればそれも可能ということになるという話だ。

 最近のアップデートで二刀流に対応したスキルも派生したという噂も耳にする。

 しかし、二刀流というのは文字通り、二つの剣で繰り出されるものだ。

 違いがあったとしても剣と短剣、あるいは二本の刀といった具合に。

 だからこそ二本の大鎌を用いた二刀流というものには驚愕させられたし、異様だというムラマサの言葉を否定することができなかった。

 けれど、そう、けれどなのだ。

 フリックが両手に大鎌を持つその姿はこれまでの大剣を持っていた姿よりも確実に様になっている。


「行くゼ。せっかくこれを使うんだ、簡単に殺られてくれるなヨ」


 フリックの動きの基本は一言でいうのなら回転。

 左右の大鎌を縦横無尽に振るう攻撃は一目見ただけでは対処することができなかっただろう。少なくとも俺には、だが。


「いいね、いいねっ。その調子だっ」

「クッ、さっきの方が戦いやすいとはね」

「驚いたかヨ」

「そうだな、随分と驚かされたよ」


 ムラマサが真剣な面持ちでフリックの大鎌をいなしていく。

 後に聞いた話では先の戦いで曲刀を相手にしていなければ難しかったらしい。一度は圧倒されたという経験も直ぐに自分の力に変えることができなければ不可能なことだと思う。それができるのだからムラマサは流石の才能と、それに見合う努力だと感心しりきだった。


「私達も再開するとしましょうか」

「アンデッドはもういいのか?」

「あれは、そうですね。余興だったということで」


 ニコニコと笑いはしているがその目の奥は微塵も笑ってなどいない。

 魔導書を手に取り表紙を開くホワイトホールはふとページを捲る手を止めそのまま翳して見せる。

 それがホワイトホールの攻撃の予兆なのだと知るからこそ俺はその一言を言い終える前に動き出すことができていた。


「≪アーク・スパーク・スピア≫」


 どこからともなく振りよせる雷が、それまで俺の立っていた場所を焦がした。


「≪アーク・ストーン・スピア≫」


 今度は土で作られた槍が雨の様に降り注ぐ。


「≪アーク・アイス・スピア≫」


 更には氷の槍の雨。

 ムラマサに負けず劣らず多種多様な同系統の魔法が俺に襲い掛かった。


「避けるのは上手みたいですね」

「当たるのは痛そうなんでな」

「そうですか。なら……≪アース・アイス・ランス≫」


 ホワイトホールの口から出る言葉が変わった。

 別種の魔法を使ったのだと気付いたその刹那、足元の温度が急激に下がった。そして、次の瞬間、地表から氷の槍が次々と出現したのだ。それまで空ばかりに注意を向けていた、いや、向けられていたせいで足元からの攻撃に対処が送れてしまった。

 頬を掠め、腕を切りつける氷の槍をやり過ごすことができたのは≪ブースト・アタッカー≫にあるSPEED強化の賜物だ。


「上下だけってことはないんだろうな」

「ええ、勿論です。受けてみますか? ≪パラレル・スト-ン・ジャベリン≫」


 ホワイトホールの言葉通りに地面と平行して石の槍が出現し、それが俺を狙い一斉に押し寄せて来る。


「このっ!」


 今度はあらかじめ宣言していた方向からの攻撃であるからか、それともこの魔法がホワイトホールが一番使い慣れているからなのか、石の槍が狙っている場所が手に取るように分かる。石の槍は的確に俺の胴体を貫こうとしている。

 しかしながら、的確であるがゆえに回避だけに集中していなくても対処することができる。その思いを証明するかのように、俺は回避だけではなく剣銃で石の槍を打ち落としていった。

 俺から逸れ地面に落ちた石の槍と俺が打ち落としていった石の槍がそれぞれ粉々になって砕け散る。

 何とか全てを打ち落とすことができたがこれからはホワイトホールの攻撃を全方位で注意しなければならなくなった。

 気を取り直して剣銃を握り直した俺は今ここで仲間の無事は信じることにして、敢えて意識から外した。

 目の前の相手だけに集中するために。

 ここで意識すべきはホワイトホールが放ってくる魔法の予兆。

 それがどのような属性の魔法で、どこから、どこを狙って放ってくるのか。

 おそらくホワイトホールが魔法の名を口にした時では……遅い。それでは俺に出来ることが回避と防御に限られてしまう。

 攻撃、あるいは反撃をしようとするならば魔法の発動前に動き出さなければならないのだ。

 だから、きっかけを掴むためにも、今は回避に専念する。時折剣銃を振るおうともそれは迫る魔法の槍を打ち落とすためだ。

 いったいどのくらいの時間俺はこうしているのだろう。

 何本、何千本の魔法の槍を避け、打ち落としてきただろう。

 集中している俺の目に映るホワイトホールはここに至ってようやく表情を微かに動かしていた。それが、俺を仕留めきれないことに対する苛立ちなのだとすると愉快なことこの上ないが、多分、違う。

 これから先。俺を仕留めるためにより強い魔法の使用を思案している顔のように見えるのだ。


(さらに別種の魔法を織り交ぜられると対処が難しくなる、か。それに…そろそろ慣れてきた頃だろう? なあ、俺っ!)


 魔法の発動の予兆というものは意外なことにホワイトホールに集中し始めた当初から気付いていた。寧ろ最初の頃はそれの確認の為に回避していた節もある。

 けれど、確認できたとしてそこを糸口にして突破口を見つけられずにいたのも事実。

 明確な突破口などなくてもここまで魔法に向き合っていれば自然と相手の動きに対して慣れが出てくる。その慣れが悪い方向に転換する前に動き出さなければならないのも事実だった。


「隙間が出来始まているぞ!」


 魔法の使用にはMPが必要。大なり小なりそれが不文律だ。その為に魔法を連発していれば自然とMPは枯渇してしまう。

 ホワイトホールの放つ魔法にそれまでにない間隔が生じ始めてきたのがその証拠だろう。仮に作為的にその間隔を作り出しているのだとしたら罠以外の何物でもないのだが、そんなこと言いだしていたらキリがない。

 今はそれがワザとではないと信じて突っ込むしかないのだ。

 属性の違う槍と槍の合間を縫って駆ける。

 目標はただ一つ。ホワイトホールに勝つこと。


「近付けさせると思いますか」

「いや、近づかせてもらうさ」


 一歩一歩確実に近づいていく俺にホワイトホールは魔法の発動と次の魔法の発動までの間隔を短くして迎撃を行う。

 魔法の種類は変わらず槍に限られているのは俺が攻撃転じた結果だと思っていいはずだ。

 俺を仕留めるために別種の魔法を使おうと考えていたのだとすれば俺は上手くそれを回避することができたのだと思う。


「ここだっ!」


 剣銃を勢い良く突き出す。

 近付きさえすればホワイトホールは魔法を思うように使えないはず。空から降り注いでくるものも、地面から突き出してくるやつも、空中から狙ってくるやつも、ある程度距離が無ければ十分な効果が発揮されない。自分を巻き込んでしまう恐れがあるからに他ならないと確信できるのは、先程の爆発を結界を作って防御していたからだ。

 自分が発動させた魔法だから自分には効果がないのだとしても、その魔法による攻撃が生み出す二次的な被害に対しては同様ではない。


「くっ、これは少々想定外でしたね」


 この試合が始まって初めて俺の攻撃がホワイトホール当たった。


「このまま押し切らせてもらうぞ」


 希望が見えた。

 ホワイトホールのHPが俺が想像していたよりも大きく減少したのだ。

 おそらくMP特化のパラメータをしているのだろう。だからこそあれだけの魔法を平然と連発出来ていたのにも納得できる。

 遠距離と中距離の魔法に通じているのもそれが理由か。

 俺が想定したよりもホワイトホールは近接戦というものに対して不得手なのかもしれない。



「ええいっ! 何をしておるのだっ」



 その声はこの場所で戦っている誰のものでもない。

 戦闘場の外、云わば外野からの声だ。

 集中が強制的に途切れたためにそれまで耳に入ってこなかった周りの音が聞こえだした。

 喧騒と戦闘音。次に静寂。

 そして明らかなほど不快感を露わにして顔を歪めているホワイトホール。


「あれは……確か……」


 声のした方に目を向けるとそこには顔を真っ赤にして貴賓席から身を乗り出しているシストバーンが居た。



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