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未知への旅路 ♯.7

 翌日。

 学校が終わり、夕方にログインしてきた俺を待っていたのは先にインしていたヒカルとセッカとリリィとの話し声だった。


「何を話しているんだ?」


 俺はドアを開け部屋の中に入ると同時に問いかけていた。


「ユウ! やっと来たんですね」

「……昨日ぶり」

「あのねー、これを見せてたんだよー」


 椅子に座ったままの二人から離れ俺のもとへ飛んでくるリリィが嬉しそうに自分の腕輪を見せてきた。

 あれは昨日、俺がログアウトする前に作ったものだ。だから二人はその存在を知らない。だから気になったのだろう。誰が作り、何時どこで手に入れたのか。

 リリィもまた誰かに腕輪を披露したくて堪らなかったのだろう。二人の質問に対しても素直に答えていたに違いない。


「その腕輪、すっごく綺麗ですよね」

「へへっ、でしょーいいでしょー」


 ヒカルに褒められたことが余程嬉しかったのか、リリィは顔がにやけたままの様子で俺の頭の上を飛び回っている。


「……ねぇ、今日はどうするの?」


 俺の頭の上ではしゃぐリリィをぼんやりと眺めながらセッカが聞いてきた。


「あ、そうだ。それも皆に聞きたかったんだけどさ。まずはこれを聞かなきゃな。二人は今日どれくらい時間あるんだ?」


 探索に使える時間こそが、どの辺りまで行くのか決める基準になる。

 短ければ当然現在地から近くを探すことになるし、長ければその分遠くまで行くことができる。

 俺はこの後の夕食まで。時間でいえば二時間から三時間といったところか。それを長いと取るか短いと取るかは個人の感覚次第だが、行く場所すら決まっていない現状ではどちらとも言えないのが俺の正直な感想だった。


「……たぶん、七時まで」

「あ、私も大体そのくらいです」

「ってことは、二時間ちょいか」


 最近より感じるようになったのだが、この二人のリアルの年齢は案外俺と同じくらいなのかもしれない。

 もっといえば最初に親しみ易いと感じたのもそれが理由なのかもしれない。


「ヒカルの分の輝石の効果を探すには短いかもな」


 昨日リリィの案内のもと俺とセッカの輝石には効果が宿った。まだ俺たちが行っていない場所もあるのだろう。だから今日はそこに行ってみるかと考えていた矢先だ。ヒカルの口から思いがけない言葉が発せられたのは。


「あのう。私の輝石なんですけど。当分このままでいいかなっと」

「え?」

「セッカちゃんとも話したんですけど、もう少し情報が出揃ってから決めたほうがいいんじゃないかなって」

「いいのか?」

「はい。そのほうが無駄に時間を使わなくてもいいと思いますし」

「そっか」


 きっぱりと言い切ったヒカルの決意はかなり堅いようだ。


「その代わりといってはなんですけど、ここに行ってみませんか?」


 そう言ってヒカルが取り出したのは一枚の羊皮紙。

 そこに書かれているのはこのゲーム世界の文字と何やら大型船らしき船の絵だった。


「これは?」


 いつもはこういう類いのものには何らかの注釈が用意されているはずだ。でなければ俺たちプレイヤーはこれを読むことが出来ないのだから。読み物、あるいは何らかの資料としてのアイテムとして存在しているのならばこの状態は本末転倒だとも言える。


「ここにはこう書かれているんです『今宵、未知なる大陸への旅に出かけよう!』」

「……要約すると今夜出港するの」

「はあ」

「あってる? リリィちゃん」

「たぶんねー。私もそれは読めないけど、そう言ってたのを聞いたよ」

「聞いたって、誰が言ってたんだ?」

「知らない人」

「はあ?」

「……街でそんな話し声を聞いたみたい」

「街って、リリィはいつも一人でそんなとこ行ってるのか?」

「んー、いつもじゃないよ。暇なときに、たまに」


 平然と答えるリリィには驚きしかない。

 妖精が街の中を普通に飛び回る光景など俺は一度として見た事がないのだ。


「よく見つからなかったな」


 俺の呟きにリリィが分からないというように首を傾げる。

 よほど隠密性が高いのか、それとも偶然にも空を見上げてる人がいなかったのか、はたまた単純に運が良かっただけなのか。

 そもそも妖精が空を飛んでいても何も異常ではない世界観なのは間違いないが。


「それで、その、どうですか?」

「どうって、ヒカルはそこに行ってみたいんだろ」

「……というよりは乗ってみたいんだよね?」

「うん」

「乗る? その船にか?」


 神妙な面持ちで頷くヒカルはその意味を理解しているのだろう。そしてそれに反対しないセッカも。


「はぁ。それで、その船を使ってまで行きたいのはどこなんだ?」

「いいの?」

「良いも悪いも、俺に止める権利は無いさ。まあ、どこか遠出するのならその前にギルドポータルは買っておきたかったけど、まだ貯まって無いしな」


 あれから何一つ金策を講じられていないのだから仕方ないことだ。ヒカルたちに任せていたいらないアクセサリの売却もおそらくまだ完了していないはずだ。


「で、もう一回聞くけど、その船はどこに行くんだ?」

「……ヴォルフ」

「それって確か、獣人族が最初に選択できるもう一つのスタート地点だっていう大陸だよな」

「そうです」


 いま俺たちがいる中央の大陸『グラゴニス』の他にも、人族である俺やセッカは『ジェイル』、魔人族に種族を変えたヒカルは『オルクス』を最初のスタート地点に設定することが出来た。既にゲームを始めていた俺たちはこの大陸から変更することを選ばなかった。だから別の大陸のことは全くと言っていいくらい知らない。

 言うなればそこは俺たちにとっては未開の地だ。


「そこに行こうっていうんだな」

「……うん」

「まあ、それに関してはこの際、気にしないことにするけどさ。何をしに行くんだ?」

「これですっ!」


 ヒカルが目を輝かせながら見せてきたのは受注済みのクエスト一覧。

 そこに最近受注したばかりと思わせる真新しいクエストが一件、ラインナップの一番上に記されていた。『獣たちの郷愁』と銘を打たれたそのクエストの内容は先程の船をヴォルフまで護衛することとなっている。


「護衛、か。なんだか珍しいな」


 このゲームにおけるクエストの殆どはモンスターの討伐とNPCからの依頼に分けられている。モンスター討伐は文字通りだがNPCからの依頼クエストは多岐に渡り、アイテムの納品から手紙を届けるというおつかいのようなものまで存在した。

 しかし護衛という内容のクエストは、俺に限ったことかもしれないが未だかつて目にしたことはない。プレイヤーを守る護衛などは必要が無いように感じられるし、NPCも自衛の為にプレイヤーを雇うなどと聞いたことが無い。


「大事なのはこっちです!」


 とヒカルが指差したのはクエストの詳細の一番下にある報酬の欄。そこに記されていた賞金の額が普通のクエストの報酬の金額から大きく逸脱しているのだ。


「何だ? この金額?」

「これだけあればギルドポータルを買うのにずっと近づけますよね」

「確かに。ギルドポータルの値段の半額分だからな」


 そうなのだ。記されていたゼロの数が七つ。その頭に一の数字。つまり、一千万。


「やってみる価値はある、でしょ?」

「だな」


 決まりだ。俺たちの今日の目的はそのクエストの完遂。受注は済ませているから次は最初のタスクの更新と言ったところか。


「……問題が一つある」


 さっそくクエストに取り掛かろうと立ち上がったその時だ。まるで俺の行動を諌めるかのようにセッカが言ってきた。


「……船の出港時間まであと二十分しかない」

「はあ!?」

「急ぎましょう!」


 俺を呼び止めながら、俺よりも先に部屋から出て行った二人を追いかけるように止めていた足を動かした。

 開かれたままのドアを閉めようとしてふと問い掛けた。


「リリィも来るか?」


 別の大陸に行くのならばいつこのギルドホームに戻れるか分からない。ならばここにいるリリィとクロスケとは暫らく会えなくなる可能性が高い。


「いいのっ?」

「良いんじゃないか? リリィも俺の仲間だろ」

「行くっ!!」

「あ、でもあまり騒ぎは起こすなよ」


 リリィが部屋から飛び出して来たのを確認し、俺は静かにドアを閉める。

 二人が待つギルドホームの外に出ると、もう一人、このギルドの仲間の姿を探した。


「クロスケも来るだろ?」


 精霊樹の何処かにいるクロスケに向けて叫んだ。

 すると精霊樹の枝葉の中から黒い塊が飛来してきた。俺の肩に停まるとホウッと現実のフクロウの声と同じ声で鳴いた。

 これがクロスケの返事だった。飼い主の親馬鹿なのかもしれないが、同じような鳴き声でも最近はそこにある感情が解るようになってきた。まして頭上を飛ぶリリィがクロスケに抱きつき、満面の笑みを見せているのだ。先程の鳴き声が「行く」という意思表示であることは間違いないはずだ。

 とはいえだ。俺のこの出で立ちは如何なものか。

 肩にフクロウを乗せ、頭の上には妖精。

 普段あまり目立つことをしたくないと思っていたとしてもだ、これで目立つなという方が無理な気がしてきた。


「そういえば、港があるのはどこの町なんだ?」

「名前は確か――」

「……港町コラト」

「そう、それそれ」


 セッカの口から出た町の名前をマップで探した。

 港町というからには海、もしくは大きな川の近くだろう。

 何度か画面をスクロールしていくうちに目的の町を見つけた。それは王都よりは小さいが確かに一つの拠点としての体を成しているように思える。

 問題なのはその町が俺たちのいる場所からかなり遠いことだ。

 あいにく俺はその町に行ったことが無い。それではクロスケを使って時間短縮することができず、クエストの開始時刻に間に合うはずがない。


「そんな顔をしなくても大丈夫です」

「え?」

「……心配しなくても街にあるポータルが使えるから」

「実は私たちギルドホームに行く前にその町に行ってきたんです。だからポータルで転送することが出来るんです」

「……私かヒカルちゃんのパーティに入ればだけど」

「どっちにします?」

「別にどっちでもいいけど」


 パーティを組んでいる場合、ポータルを使った移動の際に行ける場所というのはパーティリーダーに準拠される。その意味合いも兼ねて普通は一番行動範囲が広い人がその役目を担うことが多い。

 また現状パーティリーダーのみが出来る事としては実際そのくらいしかないために、誰がリーダーとなるかということに対する重要度がそれほど高くないのだ。

 期待を込められた目を向けられても、正直決めかねる。

 優柔不断と言われようが、どちらでもいいことには変わらないというのが俺の正直な感想だった。


「……なら、今日はヒカルちゃんがリーダーで」

「いいの!?」

「……ん。次は私ね」

「もちろんだよ。約束だからね」


 きゃっきゃっうふふと一通りはしゃいで、


「ユウもいいですよね」

「あ、ああ」


 と、頷き俺はヒカルのパーティに加入した。

 視界の左に追加されるHPバーの様子はいつもと同じ。どうやら誰がパーティリーダーになろうと一番上に来るのは自分であるようだ。

 そのまま早足で歩き最寄りの街に着いた俺たちはそのまま転送ポータルを使い港町コラトへと移動した。

 転送の光に包まれて出た先は仄かな潮の香りがする町の外れに出た。


「さて、クエストにある船を探そうか」


 港に停められている船のうち、俺たちが用があるのは一隻だけ。

 時間的にも別々に分かれて探すことは出来ないだろうから、なるべく早くその船を見つけ出さなければならない。

 まずは一番近くの船から当たってみることだ。



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